イスラエルで大規模な抗議デモが続いています。1日には去年10月の戦闘開始以来、最大規模となる50万人が参加し、政府に停戦を求めました。こうした中、国連はポリオ感染拡大を防ぐために子どもたちへのワクチン接種を進めています。そこで活動を行っているUNRWA・保健局長の清田明宏さんに話を聞きます。
【写真を見る】「何とかしてくれ…」戦闘長期化するガザから日本人医師が報告…国連ワクチン接種で一部で戦闘停止も その先の停戦は…【news23】
イスラエルで最大規模のデモ 人質6人死亡で怒り頂点に…
大勢の人々が囲むのはイスラム組織ハマスに拘束され、遺体で発見されたアメリカ人のゴールドバーグ・ポリンさん(23)のお墓です。
ゴールドバーグ・ポリンさんの母親
「愛しい息子よ。あなたの旅に出よう。やっと、やっと、やっと、やっと、あなたは自由になったんだよ」
ハマスに拘束され、ガザ南部ラファの地下トンネルで見つかった人質6人の遺体。
イスラエル国民の怒りの矛先は政権に向かいました。大規模なデモは2日も続き、テルアビブでも…
デモ参加者
「私たちがここにいるのは、人質6人が優柔不断な政府のせいで命を落としたからだ」
残された人質101人の解放のため、国民の要求は一つ、「今すぐ停戦に合意しろ」。
これに対し、ネタニヤフ首相は…
ネタニヤフ首相
「イスラエルはこの虐殺を見過ごすわけにはいかない。ハマスはこれに対して、非常に高い代償を払うことになるだろう」
姿勢を変えないネタニヤフ首相に、アメリカのバイデン大統領も不満を隠せない様子です。
――(ネタニヤフ首相は)十分な行動をとっていると思いますか?
アメリカ バイデン大統領
「No」
イスラエル軍とハマスとの大規模衝突は11か月に及んでいます。その間にガザの衛生環境は著しく悪化。特にいま、ポリオの感染拡大が懸念されています。
ポリオは、特に5歳以下の子どもがかかることが多く、感染すると手足や呼吸する筋肉の麻痺などを起こすことがあります。
1日から国連の指導で、10歳未満の子ども64万人を対象にしたワクチン接種が進められています。
ガザ市民
「今日はポリオの予防接種に来ました。これで子どもたちが守られることを願っています」
接種が行われている地域での戦闘は停止されることになっていますが、これについてネタニヤフ首相はこう強調していました。
ネタニヤフ首相(イスラエルメディア 28日付)
「医療関係者の安全な通行を許可するだけで、停戦ではない」
実際、ワクチン接種が行われた2日もイスラエル軍による攻撃が確認されています。
国連によりますと、現時点で接種は「順調に進んでいる」ということです。
国連の日本人医師がガザから生出演 “ガザの今”
藤森祥平キャスター:
25年ぶりにポリオの感染拡大の可能性があり、国連によるワクチン接種が進められているところです。こうしたことで今、イスラエルとハマスは限定的に戦闘が休止されている状況です。
今はイスラエルからの攻撃はない状況なんでしょうか?
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長 清田明宏さん:
ワクチン接種を朝6時から夕方2時までやっているので、その間はこの地域では戦闘行為はないです。ただ、その時間が終われば爆撃音などが聞こえてくるので、戦闘行為自体は続いています。
小川彩佳キャスター:
休戦とも言われていますが、本当に一部での休戦ということですね。
ワクチン接種が行われているということですが、ガザの衛生状況は今どういった状態なんでしょうか?
清田さん:
衛生状況はものすごく悪いです。ガザというのは元々40キロかける10キロの長方形のところなんですが、今までで避難勧告が出ていないところはもう10%ぐらいしかありません。
なので、そこに多くの人が住んでおり、テントが大量にあります。その狭い地域に多くの人が来ると、上下水道が完全に機能しなくなるので、街を見ると下水道が溜まっていたり、道の両側に山のようにゴミがあるなどの状態が続いています。
小川キャスター:
現地の方々からはどんな声が聞かれますか?
清田さん:
「もう疲れた」「早く終わってくれ」「なんでこんなに1年間も(戦闘が続くのか)」というような声がものすごく強く、「もう何とかしてくれ」という状況を通り越していると思います。
藤森キャスター:
戦闘が始まって1年近くになりますが、犠牲者の数も4万人を超えているという話もあります。避難する人も増え、医療施設もダメージを受けていっている。皆さん一日一日をどのような気持ちで対応されていますか。
清田さん:
「とにかく今日のことしか考えられない」「明日のことは考えられないと」と我々の同僚は話しています。
戦闘が始まってから、昨日より今日が悪くなって、今日より明日が悪くなってという循環がずっと続いています。
例えば、「明日になったら希望がある」などという状態は全くなくて、とにかく今日のことで精いっぱいというのが現地の人の正直な感想です。
「ガザの人々をポリオから守るというのはものすごく重要なこと」
小説家 真山仁さん:
確かにワクチンは大事だと思いますが、公衆衛生上から言うと、優先順位が本当にワクチンが一番なのかなと思いました。
人間が生きていくためにもっと先にやらなければいけないことが、山のようにある感じがするんですが、それはどう思われますか?
清田さん:
おっしゃる通りです。ですが、「とにかく今は我々ができることをきちんとやる」というのが今一番大事なことなんです。
ポリオというのは世界的に根絶状態にあり、その中でガザの人々をポリオから守るというのはものすごく重要なことです。
過去2日間で大体15万人がワクチン接種にきましたので、そういう意味では、「その人たちの子どもを守る」ということと「戦争だけど、うちの子どもが麻痺しないように守る」という親御さんの思いに我々は答える必要があると思ってます。
小川キャスター:
できることからということなのかもしれないですね。
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者:
ポリオのワクチンを提供している間というのは当然、限定的に戦闘が休止されていますが、ポリオのワクチンの配布が終わった後はどうなってしまうのかというのが気になるのですが。
清田さん:
本当におっしゃる通りです。ただ、まだ最初の3日間プラス4日の中部が明日で終われば、明後日からは南部で3日間プラス1日、そして北部で3日間が始まるので、わたしたちがやることはまだまだ非常に多いので、その準備に追われています。
ただそれが全て終わった後に、本当に早く停戦になってほしいなと思っています。
今回、ワクチン接種をやっているところで戦闘が休止になっているので、ワクチンを接種しに人が結構来ます。
家族連れで子どもが着飾って来ている人が非常に多く、「なんで(着飾っているの)?」と聞いたら、「家族全体でこんなに安心して外に出られることが今までなかった」と言って笑っていたので、ぜひその思いが続けばと思ってます。
なぜ、今までにない大規模デモに?「今、子どもたちに一番必要なワクチンは和平」
小川キャスター:
戦闘が始まってからまもなく1年となりますが、イスラエルで今までにない大規模なデモが起きている。これはどういうことなのでしょう?
須賀川記者:
実はこの戦闘、いま大きな局面を迎えていると私は感じています。特に今回続いたデモですが、上空からドローンで撮っても先が見えないくらい人で埋め尽くされたわけです。
この抗議デモは拡大していて、50万人が集まったとも言われていますが、これはイスラエル国民の20人に1人くらいが参加したと言ってもいいほどです。
今回、人質を殺害したのはハマスなので、本来であればハマスが糾弾されるはずなのに、国内で政権への批判がこれだけ高まっているというのは、何らかの理由があるんじゃないかというのを考えなくてはいけないなと思います。
アメリカが提案した仲裁停戦案で、イスラエル軍がエジプトとの境界線から撤退することが大きな焦点でしたが、今回、イスラエルはそれを拒否しました。それで、人質6人がハマスによって殺害されてしまったということなんです。
さらに、殺害された6人の内3人は解放リストに名前があり、この停戦案が合意に至っていれば、解放される可能性がありました。
なのでイスラエル国内では、この停戦の交渉に一切応じなかったネタニヤフ首相が、人質を殺したに等しいということで、批判の声が広がっているわけです。
真山さん:
デモが起きたことで「イスラエル人はまだ冷静なんだ」と少しほっとしています。ですが、デモが起きても政治的に大きな変動にはならないイメージがあります。このままデモが続いても、結局「明日が見えない状態」というものが日本では想像ができません。
須賀川記者:
清田さんがガザに行く直前に話をしましたが、そのときに「やっぱりこのワクチンはとても大事だ」と話していました。
ですが、「今、子どもたちに一番必要なワクチンは和平なんだ」「それがないと未来はない」ということをすごく力強く話していたので、一刻も早い人質の全員解放とイスラエル側の撤退、これをセットで今すぐにでもやらないと、子どもたちの未来はどんどんなくなっていくんじゃないかなというふうに思います。
『ガザでの戦闘』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『ガザでの戦闘』について「みんなの声」を募集しました。
Q.ガザでの戦闘 いつ終結すると思う?
「1か月以内」…1.1%
「年内」…8.8%
「来年中」…6.4%
「2~3年以内」…11.4%
「終わりは見えない」…62.2%
「その他・わからない」…10.0%
※9月3日午後11時27分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは4日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
清田明宏
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長
現在ガザでポリオ予防接種活動