世界と日本の平均気温上昇は2024年に過去最高を記録した。これから四半世紀後、2050年の世界と日本の気候変動をめぐる状況はどうなるのだろうか。「シリーズSDGsの実践者たち」の第40回。(サムネイル画像は温暖化による水没の危機を訴えるツバルの外務大臣、2021年)
【写真を見る】日本は大丈夫なのか?気候変動をめぐる2050年の状況は?<シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】
世界と日本の平均気温は急上昇
年間の平均気温の上昇が続いている。気象庁によると、2024年に観測された世界の年平均気温偏差は速報値で+0.62℃。統計を開始した1891年以降、これまで最も高かった2023年の+0.54℃を上回り、最も高い値となった。
さらに、日本は世界平均を大きく上回っている。日本の年平均気温偏差は同じく速報値で+1.64℃。過去最高だった2023年の+1.29℃よりも高くなった。また、季節平均気温も各地で歴代最高を記録している。全国153の気象台などのうち、夏は1位タイの20地点を含む80地点が、秋は1位タイの4地点を含む120地点が歴代1位の高温となった。
2015年に締結されたパリ協定では、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求することが掲げられている。しかし、この2年間の大幅な気温上昇によって、世界の平均気温は2024年の時点で産業革命前に比べて1.5℃以上高くなったと見られていて、気候変動をめぐる状況は深刻になっている。
2050年に国土の大半が水没するツバルは「デジタル国家」へ
このまま気温の上昇が続くとどうなるのか。この連載の第4回『ツバル外相がスーツ姿で海中から訴えた危機』で触れた南太平洋の島国ツバルは、平均標高が海抜2メートルしかない。この30年間で海面が15センチ上昇していて、今後について悲観的な予測が出ている。
ツバルの住民の約60%が生活しているのがフナフティ環礁。アメリカ航空宇宙局(NASA)の科学者は、2050年にはこの環礁の半分が毎日満潮時に海面下に沈むと予想している。また、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2050年までに海面が30〜50センチ上昇する可能性があると報告していて、ツバルの多くの島が水没する可能性がある。
ツバルは2030年までに電力を100%再生可能エネルギーにする目標を掲げているほか、海岸の侵食を防ぐための防波堤や植林活動、土地の人工的な「かさ上げ」などを行っている。それ以外に注目を集めているのが、「デジタルツバル」計画だ。
この計画は物理的な国土が失われる最悪のシナリオに備えて、国土や文化、国家の主権をデジタル空間に保存し、再現するもの。ツバルは2022年11月の国連第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で世界初のデジタル国家を目指すことを表明し、世界各国に理解を求めた。すでに国土の3Dスキャンを終えていて、今後は仮想3D空間のメタバース上にツバルの島々を再現するほか、電子政府化やデジタルパススポートの開発なども進めている。
SDGs達成度ランキング1位のフィンランドの2050年は
気候変動の脅威を感じているのは海洋国家だけではない。SDGs達成度世界ランキング「Sustainable development Report」で2021年から3年連続で1位を獲得している北欧の国フィンランドも、北部での降雪量の減少や、北極海の急速な温暖化によって氷床が溶けるなどの変化に直面している。
フィンランドの取り組みは、この連載で2回(第2回・第3回)にわたって取材した。その後も気候変動対策について、意欲的な目標を表明している。
温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラルについては、日本が2050年の達成を目指しているのに対し、フィンランドでは2035年までに達成する方針だ。2050年までには温室効果ガスの排出量を1990年に比べて少なくとも90%、できれば95%を削減することを目指す。
また、2035年までに循環経済に移行し、廃棄物を削減するとともにリサイクル率を上げていく。消費者は再利用できるように設計された製品を活用し、地域で生産された気候に強い作物を適正な価格に入手できるようになる。フィンランド政府は2050年までに最先端のグリーンテクノロジーと持続可能な生活習慣を融合して、気候変動問題に直面しても回復力があり、繁栄をもたらす生活モデルの確立を目指している。
日本の2050年の姿は
では、2050年の日本はどのようになっているのだろうか。その姿を垣間見ることができるのが、4月に開幕する大阪・関西万博だろう。SDGs達成への貢献を掲げた万博は、SDGsの目標を2030年までに達成するためのプラットフォームになることを目指している。
国内パビリオンの目玉の一つが、関西に集積するライフサイエンスやバイオメディカルなどの分野。「大阪ヘルスケアパビリオン」では、自らの健康情報をもとに2050年頃の自分の姿が映し出されて、未来のフードやヘルスケアを体験することができる。医療分野の技術革新によって、2050年には今以上の長寿社会になっていることが予想される。
また「未来社会ショーケース」では、カーボンニュートラルが実現された未来社会の姿を描き出す。国内初の水素と電気のハイブリッドで航行する水素燃料電池船、一定の条件が揃った際にドライバーを必要としない無人走行ができるレベル4相当の自動運転EVバス、空飛ぶクルマなどのスマートモビリティが会場に揃う予定だ。
しかし、日本の気候変動対策は十分とは言えない。国連加盟国は2025年2月までに、2035年度までの温室効果ガス削減目標を提出することになっている。日本は2013年度に比べて60%削減する方針を2024年12月末に固め、2025年1月26日までパブリックコメントを募集しているものの、この削減目標はパリ協定が目指す水準を満たしていないと指摘されている。
平均気温が大幅に上昇したことによって、2024年はコメが不作となり、生産量や在庫が減少した。海水温の上昇によって漁獲量や海産物の養殖にも影響が出ている。2025年は大阪・関西万博などを通して2050年の姿をイメージすることで、気候変動対策について考えを新たにする起点になるかもしれない。(「調査情報デジタル」編集部)
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。