愛犬の愛くるしい笑顔、癒されますよね。そんな可愛い顔に似合わない強烈な口臭はありませんか?また茶色い歯石がびっちり付着し、本来の白い歯が埋てしまっていませんか?歯は生まれてしばらくしてから亡くなるその時まで、生きるために不可欠な「食べる」ことに関わり、健康な身体づくりに重要な役割を担っています。そんな大切な歯ですが、なんと2歳以上の犬の約80%が歯周病を持っていると言われています。それは何故なのでしょうか?歯周病になってしまう理由や、予防するためには何が必要なのか、これらを学んでいただき、大切な家族の歯を健康に導いていきましょう!
犬の歯の機能
犬は生後3週間程度で乳歯が生え出し、そして3ヶ月~4ヶ月の間に永久歯が生え始めます。おおよそ、7ヶ月齢までに全ての乳歯が永久歯へと変わり、そこから一生その歯を使って生きていくことになります。
犬の歯の機能として、まずは食べ物をつかみ、切断することが一番重要な役割です。人の歯と異なり、犬の歯は食べ物を細かく咀嚼する「咬合面」がほとんど存在せず、飲み込める大きさに切断するとそのまま飲み込んでいます。そのため、はじめから飲み込める程度の大きさの食餌であれば噛み砕くことなく飲み込み、歯がなくても食べることが可能です。
またグルーミングや防衛にも歯は関わっています。
歯の疾患は全身疾患に関わる?!
犬で特に多い歯科疾患は歯周病です。口腔内の汚れ=歯垢は細菌の塊であり、これが病原性を発揮します。
また犬の口腔環境は我々人間と異なりアルカリ性であり、そのため歯石の形成が人よりはるかに早く、約3日程度で汚れは歯石化していきます。歯石は一般的なホームケアでの除去は困難となり、歯垢の段階で取り除かなければなりません。
歯周病の定義が厚生労働省のHPにこのように記載されています。
「歯と歯茎(歯肉)の隙間(歯周ポケット)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こした状態(歯肉炎)、それに加えて歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてグラグラにさせてしまう状態(歯周炎)を合わせて歯周病という」
このように歯周病は歯周病菌によって顎の骨を溶かしてしまう恐ろしい病気となります。
また歯周病が進行することにより顎顔面疾患、心臓疾患、肝臓疾患、腎臓疾患などの全身性疾患を引き起こす引き金にもなり得ます。
そのため歯周病を引き起こさないようにするためには
- 細菌が関与するため犬の免疫能を低下させない
- 歯面に歯垢、歯石を付着させない
この二点が重要になってきます。
歯周病の予防や進行を防ぐために
前述の通り、歯周病は細菌が関わる疾患です。そのため細菌の除去、つまり歯垢の除去が何よりも大切となってきます。
汚れに対するアプローチは大きく分けて二つです。
- 飼い主によるホームケア
- 獣医師によるプロケア
ホームケアはご自宅で飼い主様によって行われる口腔内ケアのことになります。様々なデンタルグッズがありますが、それらをうまく使用して汚れを除去していきます。
歯ブラシ
ホームケアの中で一番効率よく歯垢除去が可能です。ブラシが歯面だけでなく歯周ポケットにもアプローチすることで歯肉炎の予防も期待できます。ただ異物感が強いため、歯ブラシを口にれることを嫌がる子もいます。また噛む事で歯ブラシが折れてしまったり、誤食しないよう注意が必要です。
歯磨きシート
シート状で指に巻きつけるタイプ、指サックタイプなど様々な商品が展開されています。いずれも指に近い形状となり、受け入れらる子が多くいます。ただし指が当てれる範囲のみの清掃となり、歯周ポケットや歯のくぼみなどにはアプローチが困難であるため、歯ブラシの前の練習として使用するのがいいでしょう。
歯磨きガム
凹凸がついているもの、弾力があり歯が食い込むものなどがあります。歯の表面の汚れをとることができ、また噛むことを繰り返すことで唾液の分泌も促され、汚れの付着を防ぎます。ただワンちゃんの噛み癖次第では左右の偏りが生じること、あまり噛まず大きいままで飲み込んでしまい喉に詰まらせてしまうなどの問題もあります。
歯磨きジェル、ペースト
様々な味があり、犬が口へ物を受け入れやすくするのに役立ちます。口臭軽減などの効果がありますが、これを塗るだけでは汚れは除去できないことを理解しておく必要があり、歯磨きシートや歯ブラシと組み合わせて使用します。
水に入れるデンタルケア商品
飲み水に入れることで口臭軽減の効果が期待できます。飲水することで口の汚れを洗い流すことも可能です。
デンタルサプリメント
口腔内の環境を整え、歯周病菌の抑制する効果があります。歯周病菌数の減少によって口臭も軽減します。
理想は歯ブラシを使用しケアをすることですが、歯ブラシを許容できるようになるためには訓練が必要です。子犬のうちに口周りを触ることに慣れさせておきましょう。
歯ブラシ許容までのトレーニングは以下の段階を踏むと比較的スムーズに行えます。
①口の周りを触る練習
②唇をめくり、歯や歯茎を触らせる練習
③指にデンタルジェルをつけ、歯や歯茎に塗りつける練習
④歯磨きシート(場合によってはデンタルジェルも併用)し、歯を磨く練習
⑤歯磨き(水で濡らす、もしくはデンタルジェルを使用)し、歯を磨く練習
歯ブラシは乾いた状態であると刺激があり、嫌がる可能性があります。そのため、必ず濡らしてから使用するか、デンタルジェルなどを塗布して使用してください。
動物病院で行うプロのケア
歯の汚れが歯石まで成長してしまった場合、残念ながらホームケアでの除去は困難です。この場合は動物病院で処置を受ける必要があります。
主に動物病院での歯科処置はスケーリングと言って超音波スケーラーを使用し、歯石を破折、除去する処置です。これには動物の不動化が必須であり、全身麻酔下で行う必要があります。
無麻酔歯石取りという言葉を聞いたことがあるでしょうか?トリミングサロンや一部の動物病院で行ってるようですが、著者はこれらの処置は推奨いたしません。
麻酔を施す理由としてはもちろん不動化し口腔内をくまなく清掃することを目的としていますが、それ以上に動物に対して恐怖や痛みを与えないということも考えられています。またスケーラーは先端が尖っており、誤って動物を傷つけてしまう可能性や、嫌がり暴れることによって進行した歯周病の犬であれば顎骨折を引き起こす可能性もあります。
また歯周ポケットにはアプローチできず、歯茎の中には汚れが残っているため、歯周病の治療にはなりません。目で見える歯だけが白いという審美目的の処置となります。
人間と一緒、歯科検診を受けよう!
厚生労働省は2025年に人間の歯科検診の義務化を検討しているということはご存知でしょうか?また現在は1歳半と3歳半の歯科検診及び、小学生から高校生までの歯科検診は義務化されています。このように歯の健康を維持するためには、自分自身でのケアのみではなく、専門医に診てもらう必要があることがわかります。そのため、特に自分で歯を磨くことができない動物に関しては飼い主と獣医師が一緒になって愛犬の歯の健康を守ってあげる必要がありますよね。是非半年に一回程度は健康診断とともに口腔内もチェックしてもらうのがいいでしょう。
愛犬をかかりつけの動物病院へ連れて行き、主治医に口腔内を診察してもらいましょう。獣医師が観察している項目は、歯石の付着の程度、歯肉の赤み、口臭、失われている歯はないか、折れている歯、欠けている歯はないかです。また歯周病菌の量を間接的に測定する試験や、ブラックライトを使用して歯垢の付着をよりわかりやすく可視化し、飼い主と歯の汚れの程度を共有します。またデンタルケアに対するアドバイスや全身麻酔下での歯科処置の提案なども行います。
猫や小型犬は年に1回、中型犬、大型犬は2年に1回の全身麻酔下の歯科処置を推奨している論文もあり、それは結果健康寿命を延ばす役割を果たしていると言われています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。歯周病は飼い主の意識次第では予防や進行を食い止めることができる病気であり、また様々な臓器への影響もあるというわけですから、ケアしないわけにはいきませんよね。
「子犬の頃から練習していないし、この子はもう老犬だから難しいかな」
何歳からでも始めれるのがデンタルケアです。中年齢以上のワンちゃんが歯磨きを嫌がる要因として、すでに何らかの歯の痛みを抱えているからかもしれません。その場合はしっかりプロのケアを行い、痛みを取り除いてあげてから一緒に楽しく、コミュニケーションを取りながらデンタルケアを行なってみましょう。
愛犬の健康のため、飼い主として獣医歯科に関して知っておくべきこと、できることを紹介いたしました。ワンちゃんと笑顔で過ごせる時間が少しでも長続く手助けになれば幸いです。
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