イランがイスラエルに対し180発以上の弾道ミサイルを発射しました。支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者らが殺害されたことへの報復だとしています。
【写真を見る】イランがイスラエルに弾道ミサイル 180発以上…記者の上空で閃光、イスラエルの反撃は? 原油・物流はどうなる?【Nスタ解説】
イランがイスラエルに弾道ミサイル 180発以上
記者
「今サイレンですね。大きなサイレン」
鳴り響くサイレン。そして…
記者
「おお、あっちあっちあっち」
上空を通過する閃光。イスラエル中部で撮影した、イランが発射したミサイルです。
記者
「何発も何発も上空にミサイルが飛んでいるのがわかります。いまあそこ、イスラエル軍の迎撃ミサイルがイランから発射されたミサイルを迎撃しています」
「上空で大きな爆発音がしました。着弾か迎撃か分かりませんが、大きな爆発音がありました」
イスラエル軍は日本時間午前1時半頃、イランからミサイルが発射されたと発表しました。ミサイルは180発以上で、大半を迎撃したとしていますが、イスラエルの中部と南部で着弾が確認されたということです。
映像では中部テルアビブ近郊で爆発が起きた様子が確認できます。
イスラエルメディアは、テルアビブで2人が軽傷を負ったと伝えています。
今回の攻撃についてイランの革命防衛隊は、支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者らがイスラエル軍の攻撃で殺害されたことに対する報復だと主張。イスラエルの3つの軍事施設を狙ったもので、極超音速ミサイルを使用したとしています。
ロイター通信はイラン高官の話として、ミサイル発射の命令は最高指導者ハメネイ師が出したものだと報じています。
イランのペゼシュキアン大統領は…
イラン ペゼシュキアン大統領
「イランは好戦的な国ではないが、いかなる脅威にも断固として対抗する」
一方、アラグチ外相は「イスラエルが更なるエスカレーションを招かない限り、我々の行動は終了する」としました。
ただ、イスラエルのネタニヤフ首相は…
イスラエル ネタニヤフ首相
「イランは今夜、大きな過ちを犯した。代償を払うことになるだろう」
このように述べ、反撃する姿勢を強調しています。
また、今回の攻撃を受け、アメリカのバイデン大統領はイスラエル支持の姿勢を改めて示しました。
アメリカ バイデン大統領
「現在わかっている範囲では、攻撃は失敗し効果もなかったようだ。イスラエル軍とアメリカ軍の軍事力の証だ。間違えてはいけない。アメリカはイスラエルを完全に、完全に、完全に支持している」
サリバン大統領補佐官は、アメリカ海軍の駆逐艦がイスラエル軍とともにイランのミサイル攻撃を迎撃したと明らかにしています。
イスラエル軍がヒズボラが拠点とするレバノンへ地上侵攻した、直後に行われた今回の攻撃。
国連のグテーレス事務総長は、「中東の紛争の拡大と激化につぐ激化を非難する」とのコメントを発表。安全保障理事会は2日に緊急会合を開くことを決めました。
一方、イスラエル軍はこの日、レバノンの首都ベイルートやパレスチナ自治区ガザへの空爆も行っていて、中東の戦闘は激化の一途をたどっています。
イスラエル国内「良い」10日間で8ポイント増
熊崎風斗キャスター:
中東を取り巻く状況について見ていきます。
イスラエル軍は、180発以上の弾道ミサイルがイランによって発射されたと発表しました。
イランの革命防衛隊によると「イスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者がイスラエル軍の攻撃により、殺害されたことに対する報復だ」としています。
9月17日、レバノンでヒズボラの戦闘員らのポケベル型の通信機器が爆発しました。9人が死亡し、2750人以上がけがをしました。
同月27日、イスラエル軍がレバノンの首都ベイルート郊外のヒズボラ本部を攻撃しました。指導者ナスララ師が殺害されました。
10月1日、イスラエル軍がヒズボラの拠点を標的に、レバノン南部への地上侵攻を開始しています。
ロイター通信によると、イスラエル国内の世論調査で、ネタニヤフ首相の戦争遂行の評価について、「良い」と回答した割合が9月19日は35%、同月29日は43%だったということです。
「何となく予想ができた動き」 “緊張の階段”どこまで上がる
井上貴博キャスター:
イスラエル国内も右派・左派がはっきりわかれているので、ネタニヤフ首相の国内基盤も弱いと言われています。
ある程度、強気に出るという国内向けのメッセージもあるんでしょうけど、出口が見えていたりするのでしょうか。
須賀川拓 前JNN中東支局長:
出口戦略は、ずっと言われていることです。ハマスとの戦争もそうですし、先週まではレバノンでの軍事侵攻が話題になっていました。
どんどん事態がエスカレートしていて、あまりにもアクターが多いんです。ハマスがいる、イランがいる、ヒズボラがいる、レバノンがいる。
すごく混乱すると思いますが、そもそもイランとイスラエルは国境を接していませんが、ずっと敵対しています。
イランは、イスラエルと国境、もしくは境界を接する、「ハマス」(ガザを実効支配)、レバノンにいる「ヒズボラ」、隣国の「シリア」などを使って、イスラエルにずっとちょっかいを出してきました。
戦火は広がっていますが、何となく予想ができた動きではあります。ただ、ここまでエスカレートすると、イスラエルはどこを出口に持っていこうとしたか、非常にわかりづらくなってきています。「緊張の階段」をどんどん上がっていって、その先がどこにあるのか見えない状態だと思います。
「イランはまだ抑制的」 背景に相次ぐ指導者殺害か
熊崎キャスター:
今回、イランがイスラエルを攻撃しましたが、攻撃に至った背景を見ていきます。
レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」、ガザのイスラム組織「ハマス」、イエメンの親イラン武装組織「フーシ派」などを、イランが軍事支援しています。
そんな中、7月、イランが支援する「ハマス」最高指導者ハニヤ氏がイランで殺害されました。
さらに、9月27日、イスラエル軍が「ヒズボラ」指導者ナスララ師を殺害しました。
こういうことがあって、今回の攻撃に至ったとみられています。
狙いについて…
中東情勢に詳しい 防衛省防衛研究所 西野正巳氏
「反撃能力があるという事を示した。ただ、イスラエルの背後にいるアメリカに勝てる可能性が低いので、全面戦争するつもりはないのでは」
ホラン千秋キャスター:
「ヒズボラ」や「ハマス」は、国ではなく、組織ですよね。その指導者が殺害されたことをきっかけに、組織がどんどん力を失っていったり、縮小していくことはないのでしょうか。
須賀川拓 前JNN中東支局長:
まさに、それがイスラエル側の狙いなんです。ただ、背後にアメリカがいます。
イランは国内経済がガタガタで、しっかりと立て直さなくてはいけないという事情があります。イスラエルは、いろいろなものの足元を見て、周りにどんどん戦争を仕掛けています。
実際に、ハマスとヒズボラはどんどん弱体化しています。イスラエルにとってみれば、一種の勝利ですが、背後にいるイランが今後どう出るかです。
1日夜には、大量の弾道ミサイルが飛んできました。映像だけ見ると、本当に軍事施設だけに当たったのか不明です。
「これは大変なことになった」と私は思いましたが、蓋を開けてみたら、イスラエル側の死者は、ほとんどゼロに等しいです。イランはまだ抑制的だということです。
イエメンのフーシ派も、イランから大量の武器支援を得ていて、弾道ミサイルや巡航ミサイルを持っています。今後、イスラエルに攻撃してくる可能性は十分あります。
敵対勢力の弱体化がイスラエル側の狙いですが、周辺の情勢がこれで安定するかと言ったら、より一層不安定化していて、安全になっていない状態です。
停戦のキーマンはアメリカか 大統領選で見過ごされる小さな戦争犯罪
ホランキャスター:
登場人物がどんどん出てきて、報復に報復をという形になっていますよね。
何をもって収束か非常に難しいと思いますが、武力攻撃みたいなものが収まっていくのでしょうか。
萩谷麻衣子弁護士:
イスラエルがガザとレバノンでやっていることは、民間人の犠牲もいとわない、国際法違反、国際人道法違反の行為だと思います。これを国際社会として、やめさせなければいけません。
しかし、アメリカは停戦を呼びかけていても、全面的にイスラエルを支持しています。イスラエルも、何をやってもアメリカは擁護するだろうとみている。なので、アメリカの停戦呼びかけには応じないと思います。
ここで停戦に持ち込むためには、どこの国がキーマンになって、どういう形なら考えられるのでしょうか。
須賀川拓 前JNN中東支局長:
やはり、キーはアメリカですよね。ただ、アメリカは、大統領選を控えているので、国内のユダヤ票にも向き合っていかなくてはいけません。
少なくとも、アメリカの国内情勢的には、イランからイスラエルへの攻撃、ヒズボラからの攻撃に対して、全面的にイスラエル側に立ってバックアップするしかない状態だと思います。
大統領選が終わった後どうなるかは、大きなポイントですが、アメリカはずっとイスラエルの後ろ盾にいたわけで、なかなか難しい状態になっています。
萩谷麻衣子弁護士:
大統領選が終わるまでの間に、イスラエルがイランに報復をかけて、大きな問題になる可能性もありますか。
須賀川拓 前JNN中東支局長:
イスラエル側は、アメリカ大統領選までにやれることを全てやりたいという思惑があると思います。
ただ、イラン、ヒズボラ、ナスララ、ハマスなどの組織の名前が出ている中で、アメリカ大統領選となっていますが、今もガザに空爆が続いていることを忘れてはいけません。先週までホットだったレバノンにも空爆が続いています。民間人の死者はどんどん増え続けている。
政治的な話題が大きくなればなるほど、小さな戦争犯罪が見過ごされてしまう状況が起きていると思います。
「こういうときに、ボタンの掛け違いが」 弾道ミサイル飛ぶ中一番怖いのは“寸止め”
熊崎キャスター:
中東情勢の日本への影響についてです。
経産省によると、8月時点で原油の中東依存度は、94.8%だということです。頼っているという状況です。
須賀川拓 前JNN中東支局長は「中東の周辺海域の緊張感が高まると、原油・ガスなどを運ぶタンカーの輸送網や物流に影響が出てくる」と指摘しています。
井上キャスター:
今年4月、イランはイスラエルにミサイル攻撃をしていますが、そのときも今回も、ある程度、イスラエルの防空システムを織り込んで攻撃していると思うんです。
だからこそ寸止めで終わる。お互い寸止めで終わっている。
でも、アメリカも含めてどこもこの状況をグリップできないとなると、誰1人として見えてないわけですよね。
須賀川拓 前JNN中東支局長:
ところが、この「寸止め」が一番怖いんです。今回、弾道ミサイルを200発近く飛ばしています。
そのうち一発がもしICチップやGPSが狂って、イスラエルの都市テルアビブに落ちたらどうなるか。一瞬にして、全面戦争になりかねません。
こういうときに、ボタンの掛け違いが起きるんです。エスカレーションしているとき、お互いコントロールしてると思っているとき、何か間違いが起きたらと思うと、とんでもない事態になっています。いま、その一歩手前の状況だと思います。
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<プロフィール>
須賀川拓
前JNN中東支局長
イスラエルなど紛争地域を取材