新たな視点と独自取材でお伝えする「eyes23」です。「闇バイト」がきっかけとなる事件が相次いでいますが、障害がある若い受刑者に特化した全国初の刑務所を取材しました。そこには、闇バイトに加担した受刑者の姿も…
障害のある若者の刑務所を初取材 “闇バイト”なぜ加担した?
教室に入ってきた青年たちは、いずれも特殊詐欺の出し子や受け子として逮捕された受刑者です。
受刑者
「1回という約束だし良いかな。仕事なくなったし、とりあえず何でもいいやみたいな」
受刑者
「楽して稼ぎたかったっていうのが条件が合っていたので」
千葉県市原市にある、市原青年矯正センター。26歳未満で、知的障害や発達障害などの障害、またはその疑いがある受刑者を受け入れています。
軽い知的障害の疑いがあるAさん(25)が特殊詐欺の受け子になったきっかけは、闇バイトでした。
Aさん
「風邪ひいちゃって、そっからもう1週間以上休み空いちゃって。『もういいや』みたいな感じになっちゃって」
「普通に闇バイトってやれば(検索すれば)出てくる」
この刑務所にいる4人に1人が闇バイトを通じて犯罪に加担した受刑者だといいます。
Aさん
「(Q.なんでそんな気持ちが湧いた?)何でって言われてもちょっと難しいですけど、なんて言うんですか、みんなやってるからばれないんじゃないかな」
詐欺に関わった当時を振り返るプログラムでは…
職員
「それぞれの時の気持ちを整理をしてもらいたいなって思います」
当時の気持ちからは、犯罪とは思わずに加担したケースが多いことが見えてきます。
受刑者
「荷物運ぶだけって言われてたのが、ちょっと違う。物が違うし、荷物じゃねえよみたいな」
市原青年矯正センター 永岡卓也 教育専門官
「本当にやるときまでは怪しいものだと思っていなかった。騙されやすさというとちょっと言葉が悪いかもしれませんけど、他の矯正施設に入っている者とうちに入ってる者との違いってあるのかなと」
さらに、実行している時の気持ちを振り返らせると…
受刑者
「見張り役がいるって聞いてたんで怖かったです。変な動きをしたら見張り役に話しかけられて、そのまま何かされちゃうんじゃないかとか」
受刑者
「指示役の人は優しい人だったんですけど、自分が駒のように扱われてるなと」
犯罪だと気づいた後も、指示役などを過剰に恐れて抜け出せないことも彼らの特徴だといいます。
永岡 教育専門官
「社会的に少し居場所がないものが多いので、指示役とかそういったものに嫌われたら居場所がなくなってしまうなとか、この人には嫌われたくないなっていう気持ちを多分に利用されてるっていう側面もある」
障害のある若者の再犯をどう防ぐ?特性に合わせ工夫
市原青年矯正センターでは、さまざまな取り組みが行われています。
職員
「ストレスにどうやって対処するかということを、考えていきたいと思います」
こちらのカリキュラムでは、ストレスが自分に与える影響を知り、どう乗り越えるかを考えさせます。
職員
「刑務所だと職員が何とかしてくれたかもしれないけど、(社会に)出たときはどうする?」
Aさん
「自分自身でどうにかするしか」
職員
「どうにかなる?」
Aさん
「なるんじゃないですか、ものによっては。社会にいれば、ストレスがあったとしてもずっと一緒に人といるわけでもないし、どうにでもできる」
受刑者
「ど共感です。終わった後に家帰って動画を見るとかでもいいですし、飲みに行くでもいいし、いろいろストレス発散方法がある」
職員
「なるほど、社会の方がまだ選択肢があるだろうと」
受刑者
「そうですね」
刑務所の構造にも工夫がこらされています。
市原青年矯正センター 久保田聖史 庶務課長
「各受刑者の個室になっております。自由に出入りすることができます」
個人の部屋に鍵はありません。規則正しい生活が送れないことから、犯罪に転落していった人も多いため、一般社会と近い環境で自ら時間の管理までさせるのです。
闇バイトから詐欺の受け子になったAさんも、自分を変えようとしていますが…
Aさん
「自分のことを少しは知れるんですけど、なんて言うんですかね。理解してそこを直そうとする。ちょっと悪い部分があったとしたら直そうと思うんですけど、ちょっと難しいなって」
こうした受刑者に向き合うために定員1000人を超える刑務所もあるのに対し、市原青年矯正センターの定員は72人。全国の刑務所で最少です。
さらに、受刑者1人に2人の担任がつき、週に1回面談を行います。
Aさん
「次掃除なんですけど、正直やったことないんで。やり方がわかんないんで」
Aさんは、他の受刑者と分担して行う掃除について不安を抱えていました。
職員
「配食とか見てても、食事の盛り付けだってみんなと協力してできてるし、息合わせてやるっていうことが大事になる」
Aさん
「協力して」
少しずつ少しずつ、特性に合わせて更生していけるよう促します。
市原青年矯正センター 福田妃里子 教育専門官
「本当に基本的なところからまず始めていって、社会に戻った時にしっかり粘り強く生活していくためには、ここで嫌なことからも逃げないで生活をしていかなきゃいけないよねっていうところを伝えていけたらいいかな」
Aさんに今の目標を聞いてみると…
Aさん
「散々いろんな人に迷惑かけてきちゃったんで、普通の生活というのは言い方がおかしいかもしれないですけど、次は裏切らないように一生懸命できたらなと思ってます」
それぞれが罪や自分と向き合った後、社会に出られるように。刑務所の模索は続きます。
「指示役」を過剰に恐れ…障害のある若者の再犯をどう防ぐ?
小川彩佳キャスター:
再犯を防ぐ試みをご覧いただきましたが、ここから見えてくるのは、決して障害のある方が犯罪に陥りやすいということではなく、そこに付け込んで利用しようとすることをどう防いでいくのかということだと思います。
データサイエンティスト 宮田裕章さん:
犯罪を計画する側も加担する側も断じて許されるものではないのですが、ネット社会をうまく利用して、何も知らない人を巻き込む手法がどんどん巧みになっています。
「闇バイト」と言いますが、実際は「少し割のいいバイト」のような形でどんどん巻き込まれて、落とし穴にはまってしまうような部分が社会のいたるところにあります。
セーフティーネットのように、巻き込まれないようにする仕組みを作っていくことが非常に重要になると思います。
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〈プロフィール〉
宮田裕章さん
データサイエンティスト
慶応大学医学部教授
科学を駆使して社会変革に挑む