400mとの出会いはまさかの”選択ミス” 陸上・佐藤風雅、世界で戦える選手へ開花した28歳の遅咲きスプリンター

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2024-10-21 06:02
400mとの出会いはまさかの”選択ミス” 陸上・佐藤風雅、世界で戦える選手へ開花した28歳の遅咲きスプリンター

2024年夏、歓喜に湧いたパリオリンピック™。そして、陸上選手にとって次の大舞台は東京だ。2025年9月に行われる東京世界陸上に向け、各選手が再び走り始める中、陸上400m代表の佐藤風雅(28、ミズノ)も、休むことなく次に向かっている。

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佐藤は、パリオリンピック™で男子400mと男子4×400mリレー(マイルリレー)に出場。個人では、予選敗退。同種目日本勢初のメダルが期待されたリレーでは20年ぶりとなる決勝進出を果たしアジア新記録をマークしたが、結果は6位とメダルには届かなかった。

帰国後、悔しさをにじませながらも、佐藤はさらなる高みを目指し闘志を燃やしていた。

「海外選手にボコボコにされたなと個人でもマイルでも思っている。どうやってあそこの差を埋めていこうかなとモチベーションが非常に高く、いろんなアイディアが湧いてきて早く練習したいなという気持ちがあります」

2023年の世界陸上ブダペスト大会で44秒88と日本歴代3位の記録を出し、28歳で初のオリンピック出場を果たした”遅咲きのスプリンター”。茨城県出身で、中学時代は野球部に所属、校内で行われていた陸上大会で400mを走ったのが、400mとの出会いだった。

佐藤は、「中学1年生、2年生の時は高跳びを選択していたが、中学3年生の時になぜか400mを選んでしまった。グラウンド1周なんて大したことないだろうと、あの頃は正直400mをなめていた」と、当時を振り返り、陸上大会での種目選択ミスが自身を”世界の舞台へ導く競技”との出会いだったこと明かした。

いざ、400mを走ると野球とは比較にならない辛さを味わった。しかし同時に、同種目で1位になったことで”スポーツで1番になる喜び”も得た。これが佐藤が400mを始めたきっかけとなったと言う。


記録を出す陸上から趣味としての陸上へ

佐藤は、県内の高校進学と同時に陸上部に入部。冬場は駅伝に取り組むなど持久力をあげ、入学当初は54秒台だったタイムも高校3年時には49秒台と成績も右肩上がり。栃木の作新学院大学に進学後も陸上を続け、毎年自己ベストを出していた。記録を出し続けていた理由を聞くと、迷うことなく答えが返ってきた。

「結構負けず嫌い。自分より速い選手が出てきた時や、自己ベストを抜かれた時に、くそ!悔しいなって思う気持ちはある」

ここまで聞くと順風満帆な陸上人生を歩んできたかと思うが、そうではない。大学4年時に今まで出ていた自己ベストがぱたりと出なくなり、その頃から”記録を出す”ということも含め陸上が嫌になっていた。

「陸上を辞めようか‥続けようか‥」そう悩んでいるうちに社会人となり陸上部がない会社に入社。佐藤は、個人で陸上を続けることを選択した。

「フルタイムで仕事をし、午後5時、6時頃から母校(作新学院大学)や、作新学院高校で練習を続けていた。その感覚が高校生の時に授業が終わって部活に行くような感じで。それがいい意味で記録を出すためにやっていた競技が、”趣味”のような楽しんでやる陸上に戻れた感覚があった」。

楽しく陸上をやりたい気持ちや陸上ができる素晴らしさを、再認識したことが陸上人生の転機となったと話す。

”風雅流トレーニング” 飛躍のウラにある恩師との絆

佐藤の練習方法は、全て”自己流”。毎日付きっ切りの専属コーチやトレーナーは存在しないため、教わったメニューなどを自分で組み立て実践に移していく。1人で練習をすることの苦労を知った上で貪欲に陸上に向き合っている。

「人任せにしていたメニューを自分でやった時に、メニューを組む大変さを感じ、毎日出されたものを(考えずに)ただ消化していただけだなと改めて思った。自分でメニューを組んだ時に陸上って奥深い、こういうのも一つの楽しみだなと感じ、いろんな人に聞いたり、ネットで調べて吸収していくことを今でも続けている」

23年に移籍したミズノでもそのスタイルを崩さない。佐藤は練習をする時に、タイムなどを自動で測る小型の計測器を持って行く。通過した地点でセンサーが反応しスタートからのタイムを測る機械や、トレーニングマシンを使う練習の時は回数を自動で測る機械を持参する。1人で練習をしているため、タイムを測るのも、動画を撮影し分析するのも、全て自分で行う。

この練習の仕方はどこから来たのか。そのルーツは、大学時代からの恩師・相馬聡監督だ。陸上の指導歴は20年以上、佐藤とは10年ほどの付き合いとなり、双方ともに「尊敬している」というほど信頼関係が構築されている。

練習について監督は、「メニューは出さない。本人が必要な時だけチェックする」と話した。相馬監督が掲げるのは”依存型指導からの脱却”。その理由は明確だ。

「僕が1番目指しているのは自立。最後の最後で競技場に入った時は1人になって、そこからは自分のストーリー。個人競技だから自分に必要なものはそれぞれ違う。自分で考えられるようにならないと。そうすれば自分のトレーニングに責任が生まれる。彼も自分の成績に責任を持っていると思います」

あまり例を見ないやり方だが、その中で力を付けてきた佐藤。20代後半で花開いた要因がもう一つ。土のグラウンドでの練習だ。監督は、佐藤が足のケガをあまりしないことに言及した。「短距離選手の寿命はアキレス腱の消耗。毎日硬いところで反発をもらっていたら消耗する。だから彼はアキレス腱のケガが少ない。さらに、反発がない分ちゃんと正しく足を使わないと返って来ないからごまかしが効かない。佐藤の場合は土を選ぶ理由を理解している」。

実際に佐藤も、「タータン(競技場で使用される合成ゴムで出来た面)で練習した後に試合でタイムが上がらない時があった。その原因を考え、土かなと思い土での練習量を増やしたらタイムが向上した」と、土での練習が主軸になっていると話す。

”自立した練習”という恩師からの教えが、佐藤を世界の舞台へ押し上げた。次に目指すのは、東京世界陸上で男子400mで33年ぶりのファイナル進出、そしてマイルリレーで日本勢初の表彰台。東京で大輪の花を咲かすため、佐藤は挑戦をやめない。

佐藤風雅(さとう・ふうが)

茨城県出身。1996年6月1日生まれ 181cm  400m自己ベスト 44秒88
茨城県立中央高校卒業後、栃木県の作新学院大学に進学。その後も栃木県内で就職し陸上を続け、23年4月にミズノトラッククラブへ移籍。22年の日本選手権優勝を皮切りに日本選手権では3年連続表彰台にあがっている。23年世界陸上ブダペスト大会で日本歴代3位となる44秒台を出した。(2025年東京世界陸上の参加標準記録:44秒85)

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