“偽家族”に魅了された「西園寺さん」~2024年7月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

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2024-10-26 08:30
“偽家族”に魅了された「西園寺さん」~2024年7月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

2024年7月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が語る。

「虎に翼」の後半は消化不良だった⁉

田幸 まず「虎に翼」(NHK)について。私は脚本の吉田恵里香さんと、実質、原作者に近いぐらいの形で取材や遺族への確認・交渉をやられたNHK解説委員の清永聡さんにお話を伺いましたが、何て大変なドラマだったのかと思います。

視聴者の意見は、前半の絶賛から、中盤以降賛否が分かれました。私もすごくわかります。第1章が完結する河原の場面で日本国憲法を読む。そこまでの完成度が絶賛されるのは当然ですが、以降、扱う差別の問題がどんどん見えにくく、難しいものになっていき、その届き方で賛否が分かれたんだと思います。スタッフもそれは意識していて、現在もまだ続き、解決されていない差別を描く以上、覚悟の上だったと思います。

差別問題はまだ山ほどあって、このドラマにも、一つ一つの差別だけでワンシーズンのドラマが作れるぐらい膨大に入っています。なので「せりふで言うだけ」「何でもかんでも取り上げればいいと思っている」といった消化不良だという指摘もあるわけです。しかし私は、半年という膨大な朝ドラの枠を使って、あらゆる差別、透明化されている人たちを全部書こうという制作者の覚悟に心打たれました。

あと、原爆裁判を扱ったことが大きい。原爆裁判は知らない人がほとんどで、忘れられています。その裁判の判決文を朝ドラで読んだというのは大きな一歩だと思いました。

倉田 私の周りでも、後半ちょっと説教くさいとか、LGBTQや男性同士の同性愛を取り上げたとき、戦後間もない時期に、大っぴらに同性愛者だと公言する人はいないとか、女性同士の同性愛についてほとんど描かれなかったとか、いろいろ個人の思いがあるゆえに、批判的に捉える面もありました。私は、それでも取り上げないよりはいいじゃんと思いましたが。

もっと深く描くこともできたと思いますが、時間の制約がある中で、様々な差別を少しでも示し、視聴者に気づいてほしいという意図が強く感じられました。差別をめぐる問題は、50年、60年たったからといって解決するものじゃない、この先も考え続けていきましょうというメッセージが伝わってきました。

影山 視聴率で言えば、飛びっ切り高い数字を獲得したわけではありません。しかし、今のドラマの作り手が学ぶべき点は、視聴者におもねるだけでなく、それが傲慢になってはいけないけれど、こういう作品、メッセージを伝えたいという思いを届けている、そこがすばらしい。

田幸 伊藤沙莉さんは、今期ナンバーワンですね。役者個人としてだけでなく、座長としての力がすごい。スタッフの方の取材などもしましたが、彼女がエンジンになって他の出演者を引っ張り、現場を動かしているところが相当あったと思います。

どの朝ドラでも言えることですが、後半になるとスケジュールがきつくなります。特に「虎に翼」は後半になって新たなセットが必要になったり、売れっ子の役者さんが多かったりで、非常に厳しいスケジュールだったそうです。

それでもチームが乱れないのは、何といっても伊藤さんがすごいと。あれだけのセリフ量をすぐに覚えて完璧にやる。疲れた顔も一切しない。彼女があれだけやるのだから、我々もといった雰囲気が現場全体にあったと思います。

「西園寺さん」三人目の存在感

影山「西園寺さんは家事をしない」(TBS)がよかったです。松本若菜さんが花開いたという部分もありますし。

倉田 番組のホームページに「幸せって何?家族って何?」という問いかけが載っていて、そういうことも考えさせられるんですが、純粋に楽しくワクワクしながら見られました。

松本さん演じる主人公が、偽家族と暮らしていくお話です。この偽家族という考え方自体に、ちょっと憧れますね。

家族のことを考えると、ついつい責任などを重たく考えてしまうことがあります。もちろん、一緒に暮らしたり、子どもを育てる上で、責任を持ち続けるのが大切なのは当たり前ですけれど、もうちょっと気楽に、一人ではさみしいけれど、そこまで重い責任を負いたくない気持ちのときに、この偽家族はぴったりだと思いました。

あと、西園寺さんの恋愛事情でいうと、最終的にYouTuberの男性から、松村北斗さん演じる楠見君に気持ちが移っていく。その過程も、彼女の移り気に批判が起こるかと思ったのですが、心の揺れが自然に感じられて、移り気な感じが全くしませんでした。YouTuberにいったんは魅かれたけれど、自分の本当に欲しいものはやはり偽家族だったというのがきちんと伝わる丁寧な描き方でした。

田幸 松村さんのお子さんが、西園寺さんと父親の楽しげなやりとりを見て、さみしそうに西園寺さんに「パパのこと好きにならないで」と言う。あのセリフにみんなが泣かされたと思うのですが、そういった思いを大事にしているからこそ「西園寺さん」は本当にいい。

影山 最初は、松本さんと松村さんの何とも言えない微妙な距離感がよくて、そこに超魅力的な俳優である津田健次郎さんがYouTuberとしてパッと登場した時は、いやいやもう津田さんはいいでしょう、松村&松本でやり切ってほしいと思ったんです。もちろんその後は、三人の関係性がより面白くなったんですけれど、正直、松本&松村だけで見たかったとも思うんですが、どうですか。

倉田 私は、津田さんが偽家族のあり方を考えるスパイスになった気がします。偽家族を続行するのか、西園寺さんに別に恋人ができて分裂するのか、想像が広がって、逆に津田さんの存在はウェルカムで楽しみました。

田幸 私は津田さんがよ過ぎて……。本来は三人が家族になるスパイスでしょうけど、津田さんがよ過ぎて、自分の中の偽家族観が広くなってしまって「もうみんなで一緒に住んだらよくない?だって、みんな一緒にいるのが幸せじゃんね」(笑)と、ちょっと違う方向に行きそうなぐらい、みんな大好きでした。

「笑うマトリョーシカ」に現実が重なる

田幸 「笑うマトリョーシカ」(TBS)がおもしろかったんですが、意外と話題にならなくて「あれ?」と思っていました。

櫻井翔さんの育ちの良さそうなところと、空虚さと、何だかわからない存在感。まさにキャスティングの妙で、櫻井さんがこの役を受けたこともすばらしいと思います。

櫻井さん演じる主人公には、政治家としての器の大きさなどまったくなくて、中が空っぽだからこそ、何でも入れられるし、何色にも染められる。そういう政治家がどんどんのし上がっていく薄気味悪さと、その背景がよくできていました。

影山 櫻井さんに関しては、こんなハマり役というか、こういう活路を見出したかという形でしたね。

倉田 櫻井さんを操る、ヒトラーにおけるハヌッセンみたいな存在が誰なのか気になりましたし、中身のない政治家が、その時々でウケることだけを言ってのし上がる。まさにヒトラー誕生の過程をなぞるような描写を見ていると、あれっ、今の日本に重なるところもあるんじゃないかという恐怖が芽生えました。政治に対する関心が下がっている中で、政治家のあり方を問いかけて見事でした。

「降り積もれ孤独な死よ」のメッセージ

倉田 私は「降り積もれ孤独な死よ」(読売テレビ)を興味深く見ました。

影山 話題作でしたね。

倉田 小日向文世さん演じる灰川十三という不気味な男が、虐待された子どもを集めて面倒を見る。外形的に見ると、子どもを勝手に連れ去って、自分の家に住まわせている完全に誘拐ですよね。でも、その背景には、子どもを守ろうという気持ちがある。

その気持ちがなぜ生まれたかというと、彼自身、顔に大きな痣があり、幼い頃から親に家から出してもらえず、隠された存在でした。その中である男性に出会い、優しくされて救われた。虐待された子どもが、その連鎖を断ち切ろうと、年下の虐待されている子どもの力になろうとするところに感心しました。

現実の世界でこんなことが起きたら、誘拐だということで、行政や警察が介入して、子どもは施設に入るか、親元に返されるという流れになるんでしょうが、そこはドラマの世界だから、疑似お父さんと子どもたちの温かい家庭が一瞬でも経験できたんだねという、温かい気持ちになりました。

最終回で、犯人が吉川愛さん演じる女性を殺そうとするんですけれど、成田凌さん演じる主人公がとめに入って「暴力の連鎖をとめよう」と言う。当たり前といえば当たり前ですが、そういう当たり前のことをストレートに言えるのもドラマのよさかと思います。

新聞や報道によって伝えることも大事ですが、報道に触れない人、ニュースを見ない人もいるわけで、そういうメッセージをストレートにドラマを通して伝えるのもありだと思います。

大笑いした「クラスメイトの女子」

田幸 私の中では「クラスメイトの女子、全員好きでした」(読売テレビ)がダークホースで、まさかの一番好きな作品になりました。あっ、こういう子って、中学の同級生にいたねみたいな、あるあるエピソードを魅力的に描いていました。

主人公は、子どもの頃に自分の愚痴を書いたノートをタイムカプセルに入れたんですが、その後カプセルを開いた時に、自分のではない別のノートが誤って送られてくるんです。そのノートに書かれていた小説がめちゃくちゃ面白かったので、もともと小説家志望だった彼は自分の作品として発表して大きな賞を取ってしまう。

主人公は盗作という秘密を抱えていられず、編集者に謝罪して、一緒に元ネタの作者を探していく。そういう縦に一本続くストーリーがあるので、スリルも出てきて、ゲラゲラ笑って楽しめました。

この作品のポイントは、主人公が好きだった人に、それぞれ変なところがあるんですね。すぐゲロ吐いちゃうとか、プロレスが得意とか。イジリや、ともすればいじめにつながる可能性すらある個性なのに、その多様性、人と違う異質な部分を全肯定する主人公がすばらしい。こういう人がいるところではいじめが起こらないと思うぐらいでした。

あと、回想シーンで主人公の中学時代を演じた及川桃利さんがとてつもなく魅力的でした。オーディションで選ばれてドラマ初出演ですが、初演技とは思えない将来性を感じました。

影山「GO HOME」(日本テレビ)はいかがでした?

倉田 身元のわからないご遺体を、家族のもとに返したいという気持ちは誰もが共感するでしょうし、一つ一つのエピソードに泣ける話もありました。でも、全体的なつながりが欲しかった。

影山 かつては、引っ張り、つながりのある連続ドラマは嫌われる、みんな忙しくて毎週見ていられないから1話完結がいいと言われてきました。でもここのところ魅力のあるドラマで、引っ張って引っ張ってのほうが、視聴者の琴線に触れるような気もしますね。

田幸 あと、全体にお話はいいのに、ちょっと軽い印象がありました。

山田太一と宮藤官九郎の深い関係性

影山 山田太一さん原作で、宮藤官九郎さんが脚本を書いた「終りに見た街」(テレビ朝日)について語りたいです。宮藤さんは山田さんを敬愛してやまないんです。2015年に山田さんが書かれたエッセー本の解説文を宮藤さんが担当していて「ウエイター役でいいから山田先生の作品に僕を出して下さい。それが僕の想い出づくりです」と書いています。

山田さんも亡くなっており、本来はかなわぬことですが、かなわぬどころか、山田さんが原作とともに過去2回脚本を書いた作品を、クドカンの世界観も入れながら、山田さんへのオマージュもありながらという形で放送した。そしてもちろん反戦ドラマとしても大いに評価すべきです。

最近、反戦物が地上波のテレビでなかなか流れなくなっています。イデオロギーという大層なものでなくても、重いものは視聴者に敬遠されるということもあるでしょう。ちょっと重かったらプイッとしちゃう視聴者との闘いの中で、この作品を民放が放送したことには心意気を感じますね。

田幸 ここのところクドカンさんは、意欲的にたくさんドラマを書いておられます。それがクドカンさんの作家性だと思うんですが、得手不得手が意外とはっきりしているのを近年感じています。

評判の良かった「不適切にもほどがある!」(TBS・2024)は、私はちょっと入り込めなかったんですが「季節のない街」(テレビ東京・2024)はすごくよかった。この「終りに見た街」もいい。今の彼のベストな答えはこれなんだと思いました。クドカンさんは、取り上げる題材によって愛着の持ち方、理解の深さにバラつきがあって、その中で反戦や震災を描くとすごく温かい、いいものを書かれると思います。

反戦ドラマで言うと、終戦の日に放送された「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」(NHK)がすばらしかった。戦争の語り部がいなくなる中、その語り部を演じた岸部一徳さんがとてもよかった。

実際に年齢も経験も重ねられた今の岸部さんだからこそ持っている説得力があって、こういうしっかりキャリアを積んで、ご高齢になった役者さんをメインに置くドラマをもっと見たいと思いました。

「この感覚はすごくわかる」と思ったのが、この作品の中で岸部さん演じる田中さんの話を聞いて「戦争なんて知ってるよ」という軽口をきく子がいることです。これはこの子が特殊なのではなく、今の若い人や、どうかすると私たち世代も含めて、この感覚があると思うんです。戦争があったのは知ってるし、恐ろしくて、してはいけないのも知ってると言う。しかし果たして本当に実感として知っているのか、響いているのかを問うドラマは、ずっとやったほうがいいと感じました。

倉田 それに関して言うと「終りに見た街」で一番怖いと思ったのが、主人公の子どもたちが戦中にタイムスリップした後の心の変化です。現代っ子で「戦争、ふーん」みたいなクールな感じかと思っていたら、結局、戦中の空気や周りの言動に触れていくうちに、完全に軍国少年・少女になっていくんです。

だから、今戦争のない日本で、戦争は怖い、だめだ、知ってる、とどれだけ言っても、本当にそのさなかに置かれたとき、どんな気持ちになるのか、ちゃんと考えなければいけない。知識として知っているだけでなく、ちゃんと考えろと強く言われた気がしました。

影山 あと「田中さん」に出ていた中須翔真さんがすごくいい俳優で、今後に期待したいですね。

「新宿野戦病院」はまさにクドカンワールド

影山 クドカンドラマの流れで「新宿野戦病院」(フジ)。僕は大絶賛です。

歌舞伎町が舞台でクドカン脚本。小池栄子が海外での医師免許は持っているけれど、日本では無免許、その医師が歌舞伎町の野戦病院と言われる病院にやってくる話です。彼女がブロークンな英語と、お母さんとのつながりで岡山弁を駆使する。僕は生まれ育ちが岡山ですが、彼女の岡山弁はすばらしいネイティブ岡山弁でした。

クドカンは命の尊さをとりあげて、命に軽重はないというメッセージを、特に最終回に結集させました。エンディングの持っていき方がすばらしく、彼だからこそ書けたドラマです。

田幸 命は平等と言っても、実は全然平等じゃないというのが、ドラマを見ていくとわかるわけです。富裕層は戦争に行かずに済んだり、コロナになっても優先的に診てもらえたり、命は全然平等ではない。

倉田 ある医療機器が1台しかない状況で、ホームレスのシゲさんと防衛副大臣が運ばれてくる。先に運ばれてきたのはシゲさんなのに、機器は政治家に使われちゃって、シゲさんは助からない。命は平等じゃないという現実から目をそらしてはいけないと言われたように感じました。

ホームレスやオーバーステイの外国人といった方々の存在が、深掘りするわけではなく<雑に>描かれて、その人たちの命を全員<雑に>助けていく。その展開に最初は抵抗がありましたが、命は平等に<雑に>助けるという医師の信念がだんだんわかってきて、あっ、そうか、目の前に命の危険がある人がいたら、誰彼構わずとにかく助ける、それが医療の基本だと、こちらも受け入れ態勢が整ってきた感じがありました。

ドラマの中では、コロナ後にまた新たなウイルスが登場して、コロナのときと同じ問題が起きます。結局同じことを繰り返すわけです。前例から学ばないということが現実世界ではたくさんあるので、そういった点もシビアに描いていました。

「海のはじまり」でちょっと気になったこと

影山 続いて「海のはじまり」(フジ)です。この作品で僕が一番評価すべきだと思う点は、目黒蓮さんがダウンしたときに、ラインナップに入っていない特別編を放送したところです。普通は総集編でお茶を濁すところを、古川琴音と池松壮亮を主役にした、恋物語未満というところを描いた。僕は実は全話のうちでこの話が一番よかったんです。

田幸 私もそう思いました。

影山 これぞテレビだと思いました。予定調和的にずっと行くのもいいですが、急遽そうならなくなったとき、もちろんならない方がいいんですが、ここで新しい1本を作ろうとチャレンジして、サイドストーリーを超えた、本編にも勝るぐらいのものをつくり上げた。ここを大いに評価したい。

倉田 ドラマ全体もすごくよかったです。いきなり自分に6歳の娘がいることがわかり、それをどう受け入れるかを演じるのは、すごく難しいと思うんです。目黒さん演じる主人公は、自分の意思をはっきり持っているわけでもなく、見ていていら立たしい面もあるんですが、娘に対する気持ちの揺れや葛藤をすごく絶妙に表現していて、今期よかった俳優さんの一人でした。

古川さんが彼氏の子どもを妊娠し、彼とは別れて黙って産む決断をします。結局、最終的に産む産まないを決めるのは女性です。男性は「産んでくれ」とか「おろしてくれ」とか言うけれど、最終決定権は女性にあるわけです。産むという決断に対して、それは誰から批判されるものでもないし、彼女自身の決断として応援したいと思いました。

主人公は、娘がいるとわかってから、大竹しのぶさんや池松さん、いろいろな人からすごく辛辣なことを言われます。確かに言葉だけを切り取るとひどい言葉ですが、それは娘がこの先幸せに生きていけるようにと思いやった結果のきつい言葉なわけです。結局、優しい大人たちがいる世界だと、ほっこりした気持ちにもなりました。

田幸 脚本の生方美久さんは、人のざらついた感情を言語化するのがすごくうまい。苦手なこと、ひっかかることをすくい上げるのがすごく上手なんです。きつい言葉も、あっ、こんなふうに表現するんだと。感受性の豊かな作家さんだと感じます。

影山 ネットのファンから、大竹さんがえらく悪口を言われていました(笑)。今はそんな時代なんやなと思いました。

田幸 私は、子どもと子育ての描写にリアリティーを感じられないところがちょこちょこひっかかってしまいました。

葬儀の場面で、6歳の子どもを一人にしておくのは、今はあり得ないです。ファミレスですら子どもを一人でトイレに行かせる親はほとんどいません。絶対に大人が誰かついている。一人で隅に座ってお絵かきしている子どもを見たところから、私はこのドラマのそういった部分が心配でした。

それでいて、死の捉え方については、実は小さい子でも死のにおいには敏感で、大人が隠そうとしてもわかってしまうことが結構あるのに、すごく幼い子みたいなことを言う。一方で、お母さんと前に来たことがあるからといって、一人でお父さんのところに来られてしまったり。

影山 あれは話題になりましたね。

田幸 そこへ行くと「あの子の子ども」(カンテレ)は、すごく丁寧に妊娠・出産を描いていました。脚本の蛭田直美さんが、人の心理や日常を本当に丁寧に描いている。妊娠・出産は、本人だけの問題ではなく、いろいろな人を巻き込んで、想定外のこともこんなに起こるということをしっかり描いた、いい作品でした。中高生に学校で見せればいいのにと思ったぐらいです。 

その街で暮らしている気になる「錦糸町パラダイス」

影山 歌舞伎町と並んでディープなまちということで「錦糸町パラダイス」(テレビ東京)が好きでした。柄本時生さんがプロデューサーも兼ねています。

三人の男が錦糸町でお掃除屋をやる。お掃除というのは、実際の店舗や家屋だけでなく、その人のメンタルな部分も踏まえてお掃除するんです。テンポ感、余韻感がとても好きで、しゃれたドラマでした。

田幸 一つの特徴として「引き」の絵が多いんです。わかりやすくズームしないので、自分自身が錦糸町の住人になって、彼らと同じ空気を吸い、同じ風景を見ている感じになる。この作り方もおもしろかったです。

倉田 登場人物が非常に多く、人間関係が次々に連なっていくので、全体を見ないとわからないドラマというか、全体を見るからこそ楽しめるドラマでした。

それぞれにいろいろな人間関係があって、一つのまちの中で生きる人たちは、こうやってつながり合っているんだ、現実でも人は一人では生きられないという当たり前のことだけれど、そういったメッセージ性も感じました。

勉強にもなった「しょせん他人事ですから」

影山 「しょせん他人事ですから」(テレビ東京)。中島健人さんがぶっ飛んだ弁護士役で、ネット問題に特化して解決していく。「他人事ですから」とか言いながら冷たいわけではなく、ちゃんと思いがあり、それを口癖のようにして解決に進んでいく。タイムリーというか、テレビ的でよかったです。

田幸 私も勉強になるなと思いながら見ました。

倉田 ネット上で様々な問題が起きている今、自分が加害者にならないためにとか、被害者になったときにどうすべきかなど、すごく学べるドラマでした。

中島さん演じる主人公がちょっとエキセントリックだけれど、何となくチャーミングで、嫌いになれない、その辺のさじかげんがすごくよかったです。

河合優実の抜群な表現力

田幸 「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(NHK)、これはすばらしかった。障がいのある当事者をドラマに起用する流れが出てきたのは、この作品がきっかけぐらいの感じですね。

そして一見悲惨な話を、そう見せないユーモアたっぷりの河合優実さんはやはり上手です。どこか遠くから見るような俯瞰した感情表現がすばらしく、河合さんじゃなかったら、こんな明るく楽しいドラマになるのは、難しかったんじゃないかという気がします。当事者俳優で出ている吉田葵さんもチャーミングで、作品の中の大きな光になっていると思いました。

倉田 吉田さんですが、当事者が演じるのがどんどん当たり前になればいいと思いつつ、演技力も当然求められるわけで、吉田さんにはその演技力がしっかりあります。別の作品でも見てみたいと思いました。

医療関係者に見てほしい「Shrink」

影山 「Shrink-精神科医ヨワイ-」は、中村倫也さんが好演でした。心の琴線の細やかなところを演じるのがうまいですね。

田幸 「Shrink」を見ていると、単に医者にかかるだけでは解決しない問題があることが分かります。私は医療ライターもやっていて、医療現場の取材をすることもあるのですが、このドラマで描かれたように、患者の顔もろくにも見ず、ルーティンで投薬するだけという例もあると思います。自殺大国といわれる日本では、精神医療につながるまでのハードルがすごく高いという問題もあります。

影山 その話もドラマの中に出ていました。このドラマには受診のハードルを下げるという意味もあるわけですね。

田幸 精神医療にかかるハードルを下げたいということと、医師の患者との向き合い方を考えるために、医療関係の方にも「Shrink」を見てほしいと思いました。

土屋太鳳さんと中村さんのコンビネーションが意外とよかったです。土屋さんは体も心も丈夫なので、あまり奥行きのあるイメージがなかったのですが、このコンビネーションで言うと、繊細な繊細な先生に、素直で優しくて健全な人がついている感じがすごくいいと思いました。

影山 「団地のふたり」(NHK BS)について短く。小泉今日子さんと小林聡美さんが、団地住まいの親友で、幼なじみもいいものだというのを改めて感じました。

それから、これはエンターテインメントあるあるですけれど、教え子が「団地に住みたくなりました」なんて言うんです。それがまた現実をつくる。「北の国から」に触発された北海道移住のように、団地が見直されたりしているんですね。

<この座談会は2024年10月7日に行われたものです>

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)

同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職
朝日放送ラジオ番組審議会委員長
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など

田幸 和歌子(たこう・わかこ)

1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)

2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。

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