歴史的な接戦になるとの予想に反し、大勝したトランプ前大統領。アメリカの黄金時代の到来を力強く宣言した。
【写真を見る】トランプ氏勝利 市場はトランプトレード進行 ダウ平均株価は史上最高値を更新/FRB 2会合連続で利下げ パウエル議長と関係悪化トランプ氏の「介入」懸念 舵取りに注目【Bizスクエア】
大統領選トランプ氏圧勝 「トリプルレッド」濃厚か
トランプ前大統領:
「国境を守りたい」「安全保障を確立したい」「安全で住みよく、教育の高い国にしたい」
「我々は我が国を歴史にないほど良い国にする」
トランプ氏は11月6日未明、支持者を前に勝利を宣言。「アメリカの真の黄金時代がやってくる」と何度も強調した。
一方、ハリス副大統領は「私たちはこの選挙の結果を受け入れなければなりません」とした。
トランプ氏に電話で勝利の祝意を伝えたバイデン大統領は…
バイデン大統領:
勝った時だけ国を愛せるというのは間違い。意見が合う時だけ隣人を愛せるというのも間違いだ。
大統領選と同時に行われた議会選挙でも、共和党は上院多数派を4年ぶりに奪還。開票作業が続く会員でも共和党が大きくリードしており、「大統領」だけでなく、「上院」と「下院」でも主導権を握る共和党の「トリプルレッド」が間近に迫っている。トランプ氏は「我々は再び米国第一を推進する。米国を第一にせねばならない。立て直さねばならない」と発言した。
大統領選トランプ氏圧勝 「トランプトレード」進行
トランプ氏の勝利を受け、11月6日、金融市場ではトランプトレードが進行した。トランプ氏が掲げる減税政策などでインフレ圧力が高まるとの見方が広がり、長期金利が上昇。
日米の金利差が意識され、円売りドル買いが優勢となり、一時1ドル154円台後半まで円安が進んだ。
また、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は前日と比べて1508ドル高い4万3729ドルで取引を終え、史上最高値を更新した。トランプ氏は「我々には新しいスターがいる。スターが誕生した。イーロンだ」と発言。行政改革の要職にテスラCEOのイーロン・マスク氏を起用することを示唆。テスラの株価も、前日より15%近く上昇した。
トランプ氏は早速人事に着手し、政権の要となる大統領首席補佐官にスーザン・ワイルズ氏を起用すると明らかにした。ワイルズ氏が就任すればアメリカ史上初めての女性の首席補佐官となる。
歴史的な接戦になるとの予想を覆し、早々と決着した大統領選。トランプ氏の圧倒的な強さの秘密は何だったのか?
大統領選 米国は変わった? トランプ氏圧勝 現地の受け止めは…
1年間現場で取材を続けたワシントン支局の涌井記者に話を聞いた。
――今回の結果と現場で感じたことと、一致していたか。
ワシントン支局 涌井記者:
結果を予想するのは難しかったが、激戦州を取材してきた中で、インフレや不法移民の問題の対応についてはトランプ氏への支持が強かったと感じることは多かった。9月にペンシルベニア州でヒスパニック系の住民が多い地域を取材したが、その際人々が口々に「トランプ政権のとき、インフレはなかった。いま何も高すぎ何もかもが高すぎる」「不法移民が多すぎて、我々合法的な移民まで問題があるかのように捉えられる」と話していた。本来民主党の支持層と見られていたヒスパニック系の人々の間でも、トランプ氏への支持が広がっていると実感した。
――「トランプ完勝」「ハリス完敗」という結果。アメリカ国内の受け止め方は?
ワシントン支局 涌井記者:
選挙翌日の「ニューヨーク・タイムズ」の記事。地図上で赤いところ目立つが、共和党が前回の選挙に比べて支持を伸ばしたという地域。民主党の牙城であるニューヨークでさえ、共和党が票を増やした。ニューヨーク・タイムズは社説で「民主党が採用していた進歩主義的な政策の大部分が忠実な有権者を遠ざけているのに気づくのに時間がかかりすぎた」と指摘したが、私も同じ印象を持っていた。具体的に言うと、「多様性の重視」「性的少数派の権利の保護」「気候変動対策」といった民主党が打ち出してきた政策がインフレや不法移民の問題など、目の前の暮らしを「何とかしてほしい」と感じている有権者にとっては「浮世離れした贅沢な悩み」というふうに見られ、民主党から有権者が離れていったのではないかと感じた。
――第2次トランプ政権の人事。既に首席補佐官には女性のワイルズ氏が決まった。ほかにはどんなポストが決まりそうか?
ワシントン支局 涌井記者:
通商代表ポストには第一次政権からの再登板となる対外強硬派のライトハイザー氏。エネルギーの規制緩和を進める要職に一時トランプの副大統領候補に取り沙汰されたノースダコタ州のダグ・バーナム知事を起用かといった報道が出ている。また、実業家のイーロン・マスク氏がトランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領の電話会談に同席したという報道も出ていて、何らかの重要ポストにつくのではないかという憶測が広がっている。
大統領選 トランプ氏が圧勝 大差がついた要因は
この結果について、元ワシントン支局長で、現在は共同通信客員論説委員の杉田弘毅氏に話を聞いた。
――1年間大統領選挙について伝えてきたが、予想以上に「トランプ完勝」「ハリス完敗」という結果だったか?
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
ここまで差が開くとは予想していなかった。
トランプ氏は選挙人の獲得数でいうと300に乗った。激戦州7州を見ても、結局一つもハリス氏が取れなかった。「ブルーウォール」を3つ取れば勝てる、という戦略を語っていたが、ここも1つも取れなかった。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
2020年の大統領選はバイデン氏が勝利したが、その前の2016年よりも負けた。つまりヒラリー・クリントン氏が負けたときよりも負けて「完敗」。
次に総得票数を見ると、トランプ氏の方が400万票近く多かった。実は共和党の候補が民主党の候補を総得票で上回ったのは2004年以来20年ぶり。前回勝ったトランプ氏がヒラリー氏に勝ったときは、総得票数が少なかった。
――かなり大きなアメリカ政治の地殻変動が起きたとみるべきか?
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
「トリプルレッド」になりそうだ。大統領選のハリス氏とトランプ氏の対決だけではなく、民主党が今回の選挙で出しているメッセージやこれまでの民主党の政策に対して大勢のアメリカ国民が「ノー」と言った。
――インフレが、人の心を大きく左右したのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
2022年から食料価格が20%ぐらい上がった。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
家賃も相当上がっていて、住宅価格は30%ぐらい。明らかに生活が苦しくなっていて、低所得・中所得者の人がトランプ氏の方に支持を高めた。それから「法人税率を下げて欲しい」という企業の人たちも多いので、そこの支持があった。それから減税によって自社株買いが進み、株価が上がっていくのでウォール・ストリートの支持があったので、全体的にトランプ氏の勝利に繋がったと思う。
――「トランプ・トレード」がたくさんあったということか。インフレは世界的に見ても、現在のバイデン政権にはアゲインストになるのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
直接的な原因は現政権の責任ではないが、人々はその時の政権のせいにする。前回のトランプ氏の時は低インフレでいかに2%の物価を引き上げるかということで悩んでいて、量的緩和もしてきたが、今は逆だ。
――次は、具体的に出口調査からわかることを杉田氏に分析してもらう。まず男女の比率でいうと、女性が思ったほどハリス氏に流れていない。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
ハリス氏の敗北の極めて象徴的な例。ハリス氏は中絶問題を主要な政策として戦ってきたが、それに対して女性があまり反応していない。やはり経済問題がより重要で、移民がより身近な問題だった。国民がそれらを意識していたのに、ハリス氏が抽象的な価値観でそういう問題についてはあまり響かなかった。
――次に、人種別の支持率・得票率を見ていく。言われている通り白人はトランプ氏が強く、黒人・ヒスパニックはハリス氏が強いが、これはどう評価すべきか。ヒスパニックは思ったほど取れなかったと見るべきか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
もちろんそうだ。ヒスパニックはいつも6割から7割は民主党候補が取ってきたので、それに比べると大きく減った。ヒスパニックというと黒人と同じような考え方、同じような境遇の人々、つまり少数派と考えて「民主党(支持)だろう」と思ってしまうが、実はヒスパニックの人はもう多様化していて、トランプ氏が唱えるような保守主義の考え方に惹きつけられてる人もたくさんいる。ヒスパニックを少数派だと捉えてしまうと多様性を重視するという政策がアピールするはずだが、実はそうではなくなっていることが、アメリカ政治にとても大きな地殻変動が起きつつあるということだと思う。
――なぜこんなに民主党が負けたのか。掲げた政策は本当に「浮世離れした贅沢な悩み」なのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
もちろんそれはあると思う。経済面に絞った具体的なわかりやすいメッセージをハリス氏が出せなかったということだと思う。もう一つ感じるのはハリス氏の資質、あるいは力不足を大いに感じている。やはりアメリカ大統領選は一騎打ちになるので、基本的にはアメリカ人は「どちらの人が、自分たちの生活、安全を守ってくれるか」を託せるかどうかで決める。ところがハリス氏の場合は民主党の予備選もやっていない。(ハリス氏が)果たしてどのくらいの人かわからない。選挙直前の世論調査でも3割ぐらいが「わからない」と答えている。一方トランプ氏の場合は1度、4年間やっている。かなり混乱をしたが、それでもとりあえず戦ってくれる。要するにプロレスでどっちが強いかということになってくると思う。その分ハリス氏という「訳のわからない」「正体がまだわからない人」よりは「トランプ氏に賭けたい」ということになる。
――夏にハリス氏が登場したとき、新生の星が出てきたということで一旦はブームになり、「ハリス氏は本当にどんな人なのか」が見たいと思っていたが、なかなか見えないということがあった。アメリカ人たちはもっとそういうことを感じていたのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
ハリス氏の一番の敗因は「自信がなかった」ということだと思う。つまりハリス氏は予備選を戦ってきてないから、「正当な民主党の候補」という確信が心の中にないまま、いろんな情勢でそういうことになってしまった。党内に対してもハリス氏に異論を言う人に対して「何を言ってるのか。私は民主党の予備選を戦って勝ち抜いたんだからあなたにそんなことを言う資格はありませんよ」と強いメッセージは出せなかった。共和党のトランプ氏にしても「私は民主党というアメリカでの半分の人々が支持する政党の正々堂々としたれっきとした代表なのでそんなこと言われる筋合いはありません」ということをハリス氏は言えたのに、強く言えなかった。
――だからあれだけインタビューをやっても想定問答やプロンプターの世界から出られなかったという弱さに繋がったのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
もう一つ付け加えると、ハリス氏は、バイデン氏が撤退して支持してくれた。バイデン氏から副大統領に任命してもらったおかげで全米的な政治家になったので、バイデン氏を裏切るようなことは絶対できない。だから経済政策がうまくいってないとバイデン氏を否定しなくてはならないが、踏み込めない。そうすると中途半端な政治家で抽象的な「新しいページをめくろう」とか「未来を向けて頑張ろう」など、そういう響かないメッセージで終わってしまった感じがする。
――大統領選挙だけではなく、議会選挙でも民主党は負けて、共和党が「上院」「下院」ともに過半数になり「トリプルレッド」となりそうだが、もうやりたいことは何でもできることになるのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
結論としてはそうなる。トランプ氏は第1期目で、政権内で足を引っ張る人がたくさんいたのでできなかったと。これを残り4年間で貫通するということになると思う。やはりトランプ氏は熱狂的なファンがいるのでよく言われる「レームダック(任期中だが影響力を失った政治家)」に必ずしもならないのではないかと思う。その求心力を持ってきて、いろんな論争不要の政策もやっていくと思う。
次は、今打ち出しているトランプ政権の経済政策の公約の内容を見てみる。まず税金では、所得税などの「トランプ減税恒久化」、そして法人税は15%への引き下げとなっている。またエネルギーでは国内の石油や天然ガスを増産し、コスト削減。そして関税を中国に60%、他の国には10%から20%を課すなどとしている。
――かなりの政策だ。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
今回は相当な関税率を引き上げる。これは間違いなくインフレにする。その効果が出てきたときに、果たして今回トランプ氏を支持した人たち、低所得・中所得者の人たちがどういう反応をするかを見る必要がある。一番そこに注目している。
11月7日、会合を開いたFRB(連邦準備制度理事会)は前回の9月に続き2会合連続で利下げに踏み切った。
トランプ氏勝利 金融政策に影響は? FRBへの「介入」懸念も…
FRBパウエル議長:
我々は、適切な政策スタンスの修正が、引き続き、景気と労働市場の強さと、インフレ率を持続的に2%に低下させると確信している。
FRBは11月7日。政策金利を0.25%引き下げて、現在5%を上限としている政策金利の誘導目標を4.5%から4.75%の間に引き下げることを決めた。前回9月の0.5%に続き、2会合連続の利下げの背景にあるのは、「インフレ抑制」への自信。
FRBパウエル議長:
勝利宣言をするわけではないが、今後数年間、インフレ率は上下しながらも、2%前後で落ち着くというストーリーは非常に理にかなっていると感じている。(今後の利下げの可能性については)私たちはあらかじめ決められたコースにいるわけではない。会合ごとに判断を下していく。
また、トランプ氏が選挙公約で掲げた追加関税や減税などの政策がインフレを再び加速させるのではとの見方が広がるなか、金融政策への影響については「短期的に、選挙は政策決定に一切の影響を与えない」とした。その一方で…
FRBパウエル議長:
政権や議会によって決められた政策が、長期的にFRBの目標達成に影響する経済的な「効果」をもたらす可能性はある。
他にも記者からの「トランプ氏から辞任を求められたら?」という質問に対して、「いいえ」と答え「大統領による解任・降格は法律上認められていない」として、辞任を否定した。パウエル氏はトランプ氏が大統領だった2017年にFRB議長に指名されたが、金融政策をめぐって意見が対立し、関係が悪化したままになっている。
2024年8月、トランプ氏は「金融政策運営について大統領は少なくとも発言権を持つべきだ」とし、「私は大金を稼いで大成功した。FRBの議長より私の方が優れた直感を持っていると思う」と発言。トランプ氏の金融政策への介入が懸念される中、FRBの今後のかじ取りが注目される。
今週11月7日にFOMCが行われ、予定通り0.25の引き下げということで2回連続の利下げとなった。
パウエル議長は「インフレ率は2年で大幅に緩和した。2%の目標に大きく近づいた」ということ、「そして当面、短期的には選挙が我々の判断に影響することはない」ということと「利下げには会合ごとに判断する」ということ、そして辞任について聞かれたが、「NO」と答えた。
トランプ政権の経済政策 FRBへの「介入」はあるのか?
――0.25の利下げは予定通りか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
12月もまた0.25%下げて、4.25から4.5%にすると思う。みんなが注目しているのは来年の利下げペースがどうなるかということ。9月にFOMCが見せた見通しでは、2025年は0.25%ずつ4回下げて、合計1%で3.25から3.5%と見ていたが、これを12月18日のFOMCの見通しがどうなるかをみんなが注目している。おそらく大減税をするので成長するので、均衡実質金利・中立利子率が上がってくる可能性があっても、市場の方では2025年は2回の利下げで4%に抑えるぐらいまでしかいかないかもしれない。
――既に足元で長期金利が上がってきている。実はもうトランプ・トレードはすでに9月から債券市場では始まっている。一気下がってきたが、FRBが利下げしてるのにどんどん長期金利が上がり始めた。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
財政赤字が大きく拡大していくことと、関税率の引き上げはインフレをすごく高める。普通に考えると長期金利が上がっていくので、もうそれはもう織り込んできたということ。もっと上がっていく可能性がある。
――短期金利は下がってるのに、直近には上がってくという変な状況が続いているのか。だから、短期金利はそんなに引き下げられなくなるという読みか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
そうだ。加えて、長期金利が上がりやすくなる。そんなに短期金利が下がらず、高止まりする。それも含めて長期金利が上がりやすくなって、ドルが全面高になりやすい、超円安が続きやすいということだ。
――インフレがどれくらい進行するかによると思うが、その背景にある財政赤字がものすごく大きくなると言われている。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
やはり一番大きいのはトランプ氏が公約したように、輸入関税率を一律に10~20%。中国に60%というのを本当に適用すると、インフレ率が平常時では2%ぐらいのところを6%ぐらいになってくる。しかも大綱的に報復関税がされると、最高で9%ぐらいのインフレになると考えられている。それに非常に赤字が拡大してく。
――10年間で7兆ドルなので、単純に割っても1年で7000億ドル以上。日本円にすると100兆円以上財政支出が増える。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
これが政府のGDP比で見た比率で見ると、今アメリカ政府の借金はGDPで100%ぐらいだが、これが大体10年ぐらいかけると140%ぐらいになる。普通に考えるとそれだけ国債を発行していくので、長期金利が上がってくる。
――そうすると直近で、FRBの利下げができなくて、下手したら利上げに転じなければいけない局面もあるかもしれない。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
そのときにトランプ氏と対峙しなければいけなくなるので、関税率が引き上げられてインフレになることを抑えるために金利を上げなければならないときに、金利を下げたいトランプ氏が反対する姿勢をしたときに、FOMCの独立性がはっきり問われる。
――FRBはインフレが落ち着いてきたから、金利を下げていこうということをやってきてソフトランディングすると思っていた。ところが、トランプ政権によってインフレが強くなってくると、逆のことをしなくてはいけなくなるのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
今アメリカのインフレ率は消費者物価で2.1%まで下がった。ハリス氏だったら予見性が非常にわかりやすので、このままどんどん金利を下げていくことができたが、トランプ氏の政策は普通に考えるとインフレ的でより財政拡張的なので、長期金利が上がりやすくなると短期金利もそんなに下げられないことになる。そうするとむしろインフレになってくる。それからアメリカの賃金上昇率は4%。さらに経済が良くなったらもっとそれが販売価格に上乗せされるので、非常にインフレ的になりやすい。
――トランプ氏は本来、金利が安くて株が高くなるのが好き。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
あと輸出競争上はドル安。反対の方に行くということになるが、どう整合性をとっていくのか。どう考えてもドル高になりやすいですし株はかなり変動すると思う。なので他の国から見るとすごく通貨が安くなるのでちょっと困った感じになる。それに対してトランプ氏は通貨が安くなった国に「けしからん」と言って、いろんな対抗措置を出すかもしれない。
トランプ政権の今後は? 気になる外交・経済政策は?
――今後の話だが、トランプ政権の2期目はかなり求心力が強くてダイナミックに政策を進めていくのか。第1期の時みたいにホワイトハウスの中でゴタゴタはあるのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
当然あると思う。エネルギーの部分。世界で戦争がいろいろ起きているが、世界で戦争が起きているが、バイデン氏のもとでは戦争が1回も終わったことない、悪化するばかりだと。ハリス氏はバイデン氏の継続をやると言っているので、戦争を終わらないと毎日たくさんの子供たちや人が死んでいく。アメリカは兵隊を送っていないが、当然ながらアメリカ人も何とかしなくではいけないとみんな思っている。トランプ氏であれば何らかのディール(取引)をして、停戦に持ち込めるのではないかという淡い期待みたいなものがある。
なのでそこがもう一つトランプ氏にプラスになったことだと思う。トランプ氏はエネルギーを掘って掘って作るんだと言っている。環境的には大変問題があるが、これはトランプ氏の大きな(外交上の)カードになっている。だから戦争でプーチン氏をテーブルに着かせるためには何がいいかというと、石油の値段。石油の化石収入で戦争を続けているだけなので石油の値段を下げることによって、プーチン氏も戦費が足りなくなって焦るのではないか。
――アメリカがたくさん掘れば原油価格が下がって、間接的にロシアにも打撃になるのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
そういう読みがある。それから中東に関してももう少し、イスラエルやパレスチナの面倒を見るという方向に持っていかなければいけない。サウジとアメリカの間での力関係をアメリカ優位に持っていくためには「エネルギーの増産」は一つの手だと思う。あとイランもだが、トランプ氏は世界の強い人々と交渉してディールすることがこよなく好きな人。いかにカードを切り出すかというところでトランプ氏が頭に描いていることなのではないかと思う。この2つの戦争は誰が見ても、もうそろそろですよねと。戦線動いてないし、中東についてはもうハマスなどめちゃくちゃ破壊されている。もうそろそろだという機運はいい。そういう中でトランプ氏がボールを投げてきた時に、それを奇禍として「もうやめますか」という話になる可能性は大いにあると思う。
――第1期のときにはとにかく減税やってもうまくいった。金利も上がらず、株価が上がって景気も良くなったと思う。今度は同じことが実現する可能性はあるのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
第1期のときは、コロナ危機が起きたのでものすごい低インフレ。0%ぐらいの低インフレになったから見えなくなった。
――元々想定インフレの時代だった上に、コロナ危機もあって需要がなくなったから減税しても心配しなくてよかった。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
はい。見えなかった。でも今回はまた本格的にさらに上乗せして輸入関税率を上げていく。それから不法移民を国外退去にすると、今でさえ賃金(上昇率)4%なのに人手不足になる。一見みんなの賃金を上げるようだが、人手不足によってアメリカの経済が停滞する可能性もある。そういうことが見えてくると、今回の4年でなので、本当の意味でトランプ氏がやりたい政策の効果がしっかり見えやすいのが今回だと思う。
――トランプ氏が「経済うまくやるんだ」と言っておきながら、逆にインフレが進んだら、あっという間に不人気になってしまうのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
だから中間選挙とかどうなるか。そこが焦点だ。
完敗した民主党の今後は、どうなる?
――最後に民主党は今回やり込められた。党内で責任追及が始まっているようだが、この後、どう変わっていくのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
民主党は「バイデン氏の撤退表明が遅すぎた」と。バイデン氏の政策、特に経済政策をはじめ、何もやっていなかった」とバイデン氏をA級戦犯的にして仲間割れを防ごうということだが、やはり政策的には、価値観とか多様性などを重視してきた「民主党の左派リベラル」の人たちの主張がグループの中でしかおさまっておらず、アメリカ人はそこに呼応してこなかったことが今回の選挙で非常に明らかになった。そうすると民主党の保守派・中道派が力を増していくことになると思う。ただこの価値観を信じきっていている層がいて、票もある程度持っている。ここを説得していくためには予想しづらいが、あと1、2回選挙で負けて、大きな揺れ戻し、地殻変動が起きていく必要があるかもしれない。
――そうすると民主党の退潮は、少し長い期間で起きるということか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
トランプ政権の経済がうまくいかないと、次の2028年の大統領選で経済問題・政策についてより人々にアピールできて、しかも信用できるような政策を出せる、同時に信用できるといった候補者の人が出てきて、魅力的なメッセージも出せたら、今回共和党が取った若者含めた票田がごっそりと民主党に行く可能性もある。
(BS-TBS『Bizスクエア』 11月9日放送より)