デビュー40周年・斉藤由貴 スナックのママ役を演じる彼女が影響を受けた、樹木希林さんの一言【あのクズを殴ってやりたいんだ】

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2024-11-26 06:00
デビュー40周年・斉藤由貴 スナックのママ役を演じる彼女が影響を受けた、樹木希林さんの一言【あのクズを殴ってやりたいんだ】

10代で俳優デビュー、アイドル歌手としての経験ももつ斉藤由貴さん。現在放送中のドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』で演じる主人公の母が特異な存在感を放っている。
スナックを経営して生計を立てている佐藤明美は、付き合う男はみんなクズという人生を歩み、孫ができる年頃になっても彼氏が途切れることがない。ややもするとだらしがないと思われがちなキャラクターだが、斉藤さんが演じるととてもかわいらしく憎めない人物となるから不思議だ。それは、斉藤さん自身に歳を重ねても色褪せない魅力があるからにほかならない。
時代を経て変わってきた考え方や、自身の価値観形成に影響を与えた人との出会いなど、長いキャリアを踏まえたうえでの“演者”としての心得を話してくれた。

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“ベタであること”を受け入れるようになった

──スナックのママを演じての印象はいかがですか。

「明美」って、スナックのママとしてはこれ以上ないぐらいベタな名前ですよね(笑)。私、思うんですけど、ドラマにとって“ベタさ”ってとても重要なんじゃないかなって。キャリアを重ねていくにつれ、そのベタさを嫌ってはいけないんだなと感じるようになったんです。だから、役の名前が「明美」であること、そして、自分の娘に「ほこ美」「さや美」という名前をつけちゃうセンスがあるお母さんだということは役作りの一助になりました。

──“ベタであること”に抵抗を感じていたことがあるんですね。

私、18歳でデビューしましたけど、演劇や芸能に関わることはそのころから大好きだったんですよ。もともと、三島由紀夫の小説やルキノ・ヴィスコンティの映画を好むような中学時代を送っていたので、物語の世界に興味があったんです。でも、文学少女だったからか、分かりやすいものに対しては抵抗を感じる時期がありました。いまでも、わかりやすさを求めるがゆえにイージーになってしまうことへの危機感みたいなものは感じていて。ですから今回も、自分が物語のなかで担う分量を考えながら、「こういうスタンスを求められているんだろうな」ということを判断しながら演じることを大事にしたいと思っていました。

自分の年齢を的確に表現できる人でいたい

──演じていて特に楽しいシーンはありますか。

 スナックで歌うシーンはとても楽しいです。いま、80〜90年代の曲が“シティポップ”といわれて、若い世代が興味をもってくれてるんですよね? 私はあまり詳しくはないんですが、そういうムーブメントが日本だけじゃなく世界にも広がっているとマネージャーから聞いたんです。私が明美さんとして歌っているのは、その時代その時代ですごくヒットした曲ばかり。それを歌えるのはとても楽しい経験でした。自分の曲を歌う機会も、いま風に言えば「ワンチャンあるかな?」と思っています(笑)。

──ママのチャーミングさは斉藤さんが演じられてこそだと思いますが、若々しさやかわいらしさを保つ秘訣を教えてください。

自分が緩むとお客さんにダイレクトに伝わってしまうんですね。俳優として気を抜かないように、まず正直に言うと、太らないように気をつけてはいます。年齢的にも体質的にもわりと太りやすいので、好きなごはんやアイスクリームを我慢することもあります(笑)。それと、明るい色の服を着ること。たとえば海外の女性って、年齢を重ねると赤やピンクの服を着るんですよね。もちろんやり過ぎて不自然になってしまうのもよくないので、さじ加減が難しいんですけど、「私はもう年だから派手なものは着れないわ」とは思わず、自分を上手に表現できる人でありたいなとは思っています。

──個人的に影響を受けた方はいらっしゃいますか。

昔、朝ドラ(1986年放送NHK連続テレビ小説『はね駒』)に出演したときに、私のお母さん役が樹木希林さんだったんです。ある日リハーサルのとき、希林さんがアンティークのジャケットを着ていらして。そのジャケットの背中に大きな丸いシミがあることにビックリして、「希林さん、そのジャケット、背中にシミがありますね」って言ったんです。そうしたら希林さんは「そうなのよ。だから買ったの。かわいいでしょ?」っておっしゃった。そのときすごくハッとして、「こういうところが素敵なんだ」と思ったんです。シミがあるからダメじゃなく、これがいいと思う自分を信じて堂々と着る。この出来事は、いまでも自分にとっての一つの指針になっています。希林さんにはこういう個性的なエピソードがたくさんあるからこそ、いまでも伝説になっているのかな。そこまでいったら勝ちだなって思うんですよ。

いまの時代に必要なのは“鈍感力”

──心が折れそうになったときはどう乗り越えていますか。

デビュー当時を思い返すと、地獄のように(笑)忙しかったんですね。当時はそれが当たり前で、対応できなければ失格、みたいな風潮がありました。それを乗り越えられたのは、1週間に一度ぐらい思い切り泣く日を作ったから。最初のころは母がすごく驚いていましたけど、夜、クタクタになって帰ってきてからワーッと泣いてスッキリする。それがデトックスでしたね。いまでいうと、鈍感であることでしょうか。私、スマホが好きでいろいろ活用していますが、SNSは一切やっていないんです。自分から発信することも、人が発信した言葉を見ることもない。無理に人の言葉を必死に追いかけて、自分の中に取り込まなくてもいいと思うんですよ。明美さんもそうなんじゃないかな。スナックでママをやっていると、酔っ払いの相手もしなくちゃいけないし、強さと鈍感力をもってこそ前に進めているんだと思います。

──劇中、明美ママは、プロボクサーを目指す娘に対し、応援したいけれど心配だという気持ちで揺らいでいます。そんな母親の心境をどう思いますか。

「やりたいことをやりなさい」と言ってあげたいけれど、ケガを負うことも少なくないスポーツだから、親なら不安になるのは当然。ドラマの後半で明美さんが自分の気持ちを娘に伝えるシーンがいくつか出てきますけど、最終的には何があろうと娘の人生、娘の選択だから、是非に関わらずに受け入れるしかないと思うようになっていくんです。でも、押し付けがましく受け入れるわけじゃないのが明美さんらしい。「よくわからないけどそういうことなんだよね」と、ふっと受け入れる。彼女にはそういう天性の対応力があるんじゃないかな。

自分の殻をぶち破り変わっていく娘の姿に注目したい

──斉藤さんご自身にもお子さんがいらっしゃいますが、どんな親子関係ですか。

長女(水嶋凜)は私と同じ仕事をしているので、私を母親としてだけで見られないぶん、葛藤があるんじゃないかと思うんです。だから私にも、余計なことは言うまいという気持ちがあって。比較的距離を置いて接しています。それがいまのところ功を奏してはいるみたいで、自分の仕事を「これ見て」と長女から言ってくるような関係ではいられていますね。19歳の次女は私にベッタリで育ってきたので、そろそろ親離れ・子離れしなきゃいけないな、
なんて思ってます。腕を組んでくっついてきたりしたら、「もうそういうのは卒業」って言ってみたり。長男とは、アプリで「へんな勧誘に引っかかっちゃだめだよ」「そんなにバカじゃないよ」なんて連絡を取り合う感じのスタンスです(笑)。

──母親目線でこのドラマに思うところはありますか。

いまはとても閉塞的な世の中で、自分を破れない人がいっぱいいると思うんです。だけど主人公は、ケガしようがなんだろうが練習を続けていきます。ボクシングを始めたキッカケは自分をフッた男性を殴ってやりたいという動機でしたけど、それが最終的には彼女自身を奮い立たせる原動力になっている。自分で自分を変える、その思いで進んでいく娘の姿は母親としても注目したいと思います。

主人公をはじめ、若い登場人物たちが悩みながらも人生を切り開く中、彼らを見守りながら自身も楽しく生きる母親。そんな役を務める斉藤さんは、さまざまな経験を重ねながら、時代に上手に反応しながら生きてきた。だからこそ、つねに第一線で活躍しているのだろう。その一方、自分なりの美学や信念があって、時代が変わってもブレることなく “斉藤由貴”でいられるのだとも感じる。そんな斉藤さんが演じるから、明美ママはその自由奔放さや懐の広さが視聴者にウケているのかもしれない。

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