マウスピース矯正(アライナー矯正)治療患者が2023年に集団訴訟を起こしたのをはじめ、突然の閉院によって治療中止を余儀なくされたり、不適切な治療による健康被害といった問題が次々と明るみに出るなか、日本臨床矯正歯科医会は、「マウスピース矯正(アライナー型矯正装置による)治療は、日本矯正歯科学会認定医に相談を」と伝え、治療の流れやトラブルを未然に防ぐポイントなどを公式サイトで公開している。
マウスピース矯正を安心安全に受けるための key Point
矯正歯科専門開業医の全国組織、公益社団法人日本臨床矯正歯科医会(https://www.jpao.jp/)は11月28日、「マウスピース矯正を安心安全に受けるためのkey Point」なる説明会を都内で開き、同会 佐藤國彦 副会長(矯正歯科医)、同会 常盤肇 学術理事(矯正歯科医)が登壇。
マウスピース矯正治療の現状や、矯正歯科治療の目的、治療開始までの正しい順序、マウスピース矯正のトラブルを防ぐために必要なことなどを教えてくれた。
しっかりとした医療機関を選んで
日本臨床矯正歯科医会 常盤肇 学術理事(矯正歯科医)は、国内のマウスピース型矯正の実情について、こう伝えた。
「コンシューマーダイレクトと呼ばれる、歯科医がほとんど関与しないマウスピース型矯正が増加しています。
また、SNSやネットを通して、医療広告ガイドラインを無視したマーケティング戦略により、若年層を中心に広まってきています。
『最新のデジタル技術』をうたい、安価で、かんたん、楽ちんなど、安易な広告やコンサルが横行しています。
しかし、これらは取り扱いを間違えれば大きな問題につながりかねません」
―――こうした実情から、いい治療を受けるためにも年間研修時間1320時間、2年間で2640時間、臨床研修年間1320時間、3年間で3960時間以上を要した上で、客観的試験に合格して認められる日本矯正歯科学会認定医にできれば相談してほしいと伝え、こう結んだ。
◆アライナーは、『矯正装置のひとつ』であり、万能な装置ではない。
◆アライナー型矯正装置を用いた矯正治療は、患者にとっても、術者にとっても有効な治療手段であるいっぽうで、知識と技術の習得および経験を持った術者を受診する必要がある。
◆ネットやSNSの広告に惑わされずに、しっかりとした医療機関を選ぶ必要がある。
矯正歯科治療の基本的な流れ
日本臨床矯正歯科医会 佐藤國彦 副会長(矯正歯科医)はまず、矯正歯科治療の基本的な流れを教えてくれた。
◆1)初診(相談):治療リスク、ご協力いただくことなどを含めた矯正歯科治療の説明。ご自身が治療を受け入れ、取り組む決心をできるのか考えて頂く。
◆2)精密検査:セファログラムなどX線撮影で顎の骨格や歯軸のデーター、歯と歯周組織の状態を把握し、咬み合わせの検査などを行う。
◆3)コンサルテーション:検査結果から治療方針、治療計画を立案し、理解と同意を得る。
◆4)治療契約の締結:治療についてご自身で理解し納得されたら、治療契約を書面上で結ぶ。
◆5)治療前準備:抜歯や虫歯治療の依頼、装置のための型どりや歯ブラシ練習。
◆6)各種矯正歯科装置での治療開始。マルチブラケット治療/マウスピース型矯正装置による治療/その他の装置による治療
マウスピース矯正(アライナー型矯正装置による治療)安心安全に受けるための KEY POINT
◆1)ワイヤーでの治療(マルチブラケット装置での治療)も可能な診療所を選びましょう! 日本矯正歯科学会の認定医以上の資格を持っている担当医が常勤していると安心です。
◆2)口約束でも治療契約は成り立ちます。必ず契約書を交わすまで装置の発注費など治療費が生じないことを確認しましょう!
◆3)治療に入ることをせかす診療所には気を付けましょう! 初診(相談)、精密検査、コンサルテーション(治療目標と治療計画の立案)を行う中で、自分が治療を理解し治療に取り組める決心がつくまで考える時間をとることが可能であり、それから治療契約を行うという順序のある診療所を選択してください。
◆4)転医や治療中止に備えて、治療の進行に合わせた治療費精算をどのような基準で行うのか、転医先の紹介などについても確認しましょう!
◆5)契約時には、万が一の治療費精算のために装置作製費用と治療の進行にもとづき発生する料金など治療費の内訳などの説明を求め、支払い方法も検討しましょう!
安心して治療を受けるための6つのポイント
日本臨床矯正歯科医会は、安心して治療を受けるための6つのポイント、つまり矯正歯科診療所が備えるべき6つのポイントについても公表している。
「適切な矯正歯科治療を受けていただくために、2015年、本会では患者自身が信頼できる矯正歯科を見極めるための”受診時の目安”として、6つの指針を提言として掲げました」(日本臨床矯正歯科医会)
◆1)頭部X線規格写真(セファログラム)検査をしている
◆2)精密検査を実施し、それを分析・診断した上で治療をしている
◆3)治療計画、治療費用について詳細に説明をしている
◆4)長い期間を要する治療中の転医、その際の治療費精算まで説明をしている
◆5)常勤の矯正歯科医がいる
◆6)専門知識がある衛生士、スタッフがいる
―――今回の説明会で日本臨床矯正歯科医会はこう強調した。
「いま矯正歯科治療中の人で、悩みや不安を抱えている人は、日本臨床矯正歯科医会 公式サイトで公開している会員診療所でセカンドオピニオンをお受けになり相談されることをお勧めします。
また、これから矯正歯科治療を始めようとする人なども、まずは日本矯正歯科学会 公式サイト(https://www.jos.gr.jp/)で認定医を探したり、日本臨床矯正歯科医会サイト内の『矯正歯科何でも相談』(https://www.jpao.jp/nandemo)に気軽に相談してみてください。
より多くの皆様に矯正歯科治療についての正しい知識を身につけいただくための情報発信を行うとともに、歯科全体における矯正歯科医療の向上と自己研鑽に努め、質の高い治療と安心を提供していきます」