リーダー大島勇吾氏を中心にした理化学研究所の国際共同研究グループが、規則的な磁気秩序を持たない特異な量子状態「量子スピン液体」の一つ、1次元的な量子スピン液体の存在を明らかにしました。
量子スピン液体とは
量子スピン液体(QSL)は、スピンが量子もつれによって絡み合い、通常の磁気秩序が成立しない特異な状態です。QSLではスピンが整列せず、動的に揺らぎ続けますが、この性質により、スピンの情報が量子もつれを通じて長距離にわたって伝わる可能性があるため、量子コンピュータやスピントロニクスデバイスへの応用が期待されています。
研究の目的と結果
研究者たちは、三角格子を有する分子磁性体β'-EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2が、フラストレート(競合)した2次元的な磁気ネットワークを持つにもかかわらず、1次元的なスピンダイナミクスを持つことを観測することに成功しました。これは「次元の縮小効果(dimensional reduction)」によるものだと結論付けました。本研究は、米国物理学会の科学雑誌『Physical Review Letters』オンライン版(12月3日付)に掲載されました。
今後の展望
今回の研究は、量子スピン液体の理解に新たな視点を提供し、今後の研究の発展に大きく貢献することが期待されます。特に、幾何学的磁気フラストレーションによるスピンダイナミクスの1次元化現象や、新たな理論と計算手法を用いたその解釈は、他の量子スピン液体候補物質にも適用可能であり、今後の基礎研究において重要な進展をもたらすと考えられます。
関連リンク
論文URL:
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.133.236702