ルーマニアとの国境の山岳地帯で救助されたウクライナ人男性。彼を凍死から守ったのは抱いていた子猫でした。ロシア侵攻により戦闘が激化するウクライナでは、徴兵を逃れて隣国に脱出する男性が増えています。
子猫が救った凍死の危機
ロシア侵攻によって戦争に巻き込まれたウクライナ。徴兵をのがれて隣国ルーマニアに向け氷点下の山越えを決行した若者が、このほど山岳救助隊によって保護されました。彼を凍死から守ったのは、腕に抱いた生後数ヵ月の子猫Peachのぬくもりでした。
2024年の真冬。猛吹雪の中、10人以上の救助隊員がVladislav Duda さん(28歳)を助け出しました。彼がマラムレシュ北部の深い渓谷の下で発見されたとき、服はすっかり濡れて体は凍え、重度の低体温状態になっていました。
「抱いていた茶トラ猫が彼の体を暖めていたため、命が助かったのです」というのは、山岳救助隊長のDan Bengaさんです。上着のファスナーを開けると、服の下にいたのはPeachでした。
救助隊が声をかけると彼は「猫が生きているので幸せです。神様のおかげです。猫が一緒にいてうれしい」と話したのです。
「彼は猫のことをとても気にしていました。自分のことより心配だったようです」とDan隊長。
悪天候で捜索が難航
すでに4日前に食べ物が尽きていたため栄養失調状態だったPeachは、それでも雪を溶かした水を飲んで命をつないでいました。
「夢のようです。絶望的な状態でしたが、なんとか発見されて生き延びることだけを願っていました。Peachがわたしの心を温め、生きようとする意志を保ってくれたのです」
のちにマスコミの取材に応じてこう語ったVladislavさん。彼はウクライナではジャーナリストとして働いていました。
救助は悪天候のため難航をきわめました。ヘリコプターが使えずに氷点下10度の気温のもと、救助隊は徒歩で捜索を続けたのです。やっと助け出されて5時間以上かけて病院へ運ばれる際も、彼はずっと子猫を胸に抱きしめていました。
Vladislavさんは現在、抗炎症薬の投与と血液循環療法を受けていて、Peachも獣医の治療のおかげでまもなく回復する見込みです。
徴兵を恐れて脱出するウクライナ男性たち
Vladislavさんは、戦争で荒廃したウクライナのハルキウを1週間以上前に出発したものの、ルーマニア北部とウクライナ南西部にまたがるカルパティア山脈で遭難してしまいました。
実はこの山岳地帯では、徴兵を逃れて山越えをするウクライナ男性が数多く救助されています。2022年2月の侵攻以来、ルーマニアのマラムレシュ地方で160人以上のウクライナ人男性が救出されており、現在もその数はどんどん増え続けています。これまでに16人の死亡も確認されています。
ウクライナは徴兵対象者を広げているものの、はるかに規模の大きいロシア軍に対してはかなり劣勢です。2024年4月にウクライナ議会は男性の徴兵対象年齢を27歳から25歳に引き下げる法律を可決しています。同国を支援している米国は、この年齢を18歳に引き下げるよう求めています。
「自分の国が始めたわけでもない戦争に送り出されるのではないかという恐怖が、脱走を決意させました。遭難したときは、生きて夜を越せないかもしれないという怖さで絶望しました。でもPeachがわたしを救ってくれたのです」と話すVladislavさんです。
出典:Ukrainian man fleeing war rescued with his kitten on a perilous journey through Romanian mountains
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