明日から使える撮影テクニックからドラマ撮影の裏側まで 撮影監督が語る『地獄の果てまで連れていく』の世界観

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-01-27 07:00
明日から使える撮影テクニックからドラマ撮影の裏側まで 撮影監督が語る『地獄の果てまで連れていく』の世界観

国内外の映画やドラマ、CM、ミュージックビデオと多岐にわたるジャンルで活躍するカメラマン・加藤十大氏。代表作の映画『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/松井大悟監督)やドラマ『トリリオンゲーム』(2023年/TBS)に共通するのは、映像美への妥協なき追求だ。現場では監督の意図を汲みつつも、独自の視点から最適な構図を提案し、シーンの持つ魅力を最大限に引き出すことに徹している。

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加藤氏が常に重視するのは、「何をどう見せるか」というシンプルで本質的な問い。その哲学は、誰もが手軽に使えるスマートフォンでの撮影にも応用できる。目線や奥行きを意識したわずかな工夫が、驚くほど印象的な映像に変える鍵になる。さらにプロならではの視点を通じて、一味違う映像を撮るための心得を教えてくれた。

技術だけでなく、映像を通して伝えたい想いを形にする。その奥深さを支える哲学は、佐々木希主演の『地獄の果てまで連れていく』(TBS)の映像美にも色濃く反映されている。天宮沙恵子プロデューサーは「復讐劇ながら美しい映像で魅せたい」との想いから加藤氏を起用。過去作で感じた世界観づくりの巧みさが決め手となった。加藤氏の独自の感性が、本作に新たな深みを与えている。

カギは、相手の目線に寄り添うこと

スマホひとつで、誰もが簡単に写真や動画を撮れる時代になった。ペットの可愛い寝姿、子供がTVから流れてきた音楽に合わせて踊り出す姿、急な面白ハプニングなどシャッターチャンスは突然やってくる。だが、その瞬間をただ「撮る」だけではなく、記憶にも心にも残る映像に変えるにはどうすればいいのか?

「被写体と同じ目線に立つ。それだけで写真や動画の印象は大きく変わります」。

加藤氏が語る撮影の基本は、意外にもシンプルなものだ。子供を撮るなら、つい立ったまま上から見下ろしてしまいがちだが、しゃがんで目線を合わせるだけで、新しい世界が広がる。

「動画なら、ずっとお子さんの目線で一緒に動いてみる。大人と子供では見えているものが全然違うので、視線を低くするだけで、面白いものがたくさん撮れます」。

プロとして映画やドラマで数々の世界を切り取ってきた加藤氏は、視線の重要性をこう語る。

「人の目はどうしても画面の真ん中に引き寄せられる。話している人を真ん中に置くと、視線をあちこち動かさなくても済むので、観ている人が疲れないし、内容に集中できる」。

ただし、映像作品ではあえて真ん中を外すこともある。これには明確な意図があると続ける。

「話している人を画面の左側に配置する場合、その視線の先には右側に対象物を置きます。これだけで、視線の向きが自然に伝わり、画面全体の流れがスムーズになります」。

視線誘導のテクニックは、プロの現場で当たり前のように使われているルールだという。「撮影は難しいものだと思わなくていい。対象をどう見せたいかを考えるだけで、撮れるものが変わる」と続ける。記録にとどまらず、物語を感じさせる一枚を撮りたい人に、このテクニックはぜひ試してほしい。

ポイントは、画面の奥行きを引き出す工夫

撮影テクニックがネットで手軽に学べる時代になり、誰もがそれなりの写真や動画を撮れる時代。それでも、多くの人々を魅了する作品を生み出せるプロのカメラマンは、何が違うのだろうか? 撮影哲学を掘り下げると、その核心が見えてくる。

映像作品では、バストショット(上半身から上)やロングショット(全身を含めた引きの画)といったカット割が決められた中で、カメラマンがどう世界を切り取り、構図や動きをどう組み立てるかが問われる。加藤氏は「“何のシーンか、何がテーマか、誰のシーンか”が伝わる画を撮ることを大事にしている。細かい部分は後からついてくる」と語る。監督の意図を汲みつつ、自ら新しいアングルを提案し、シーンの魅力を引き出す姿勢が、プロならではの特徴だ。

『地獄の果てまで連れていく』では、俳優たちによってキャラクターの気持ち悪さや人間の恐ろしさが見事に表現されていたので、いかにも復讐劇というようなおどろおどろしい雰囲気の画作りでこわさを見せるのではなく、あえて綺麗な映像で美しい復讐劇として映し出すための撮り方を意識した。「軸をしっかりと決めて画作りをすれば、他の多くの作品と差別化できる」と話す。

この考え方はスマホ撮影にも応用できる。

「まず何を撮りたいかを明確にすること。たとえば、テレビとスピーカーを撮るのであれば、どちらを撮るのか、それとも両方なのか。さらに、どう見せたいかを考える。例えば液晶テレビなら、正面から撮るか、下から煽るか、形の面白さを引き出す角度を探る。対象物の見せたいポイントが決まったら、アングルは自ずと決まってきます」。

加藤氏が強調するのは、「画面がフラットにならないように奥行きを出す」こと。手前に対象物、奥に背景を配置するだけで、写真や動画に深みが生まれる。少しの工夫で日常の一コマがドラマティックに変わる。センスを磨きたいなら、このプロのポイントを試してみる価値は十分にある。

必要なのは、自分の「好き」を深めること

映像作品では、監督の演出や俳優の芝居を最大限に引き立てるため、事前に構図を考えることが重要だ。では、構図を決める際にどのようなことを意識しているのだろうか。

「映画の撮影現場で身についたクセかもしれませんが、構図は全体を見渡して、自分の感覚で決めたいんです」と語る。映画の現場では、俳優が芝居や動きを確認する段取り(リハーサル)の後でカット割を決めることが多い。その際に全体を俯瞰し、「どの位置から撮るべきか」をじっくりと考えるという。この方法はドラマ撮影にも反映されており、「自分だったらどう撮るか」を常に考えながら撮影位置を選んでいるそうだ。

「1つのシーンの流れをどの位置からなら最初から最後までスムーズに撮れるかも考えます。それをすることで、どれだけ色々な角度から撮影しても、全体の統一感を損なわない場所を見つけることができるんです」。

全体のバランスを保ちつつ、感覚を活かした構図の決定。このアプローチには、映像作品における独自の視点と丁寧なこだわりが垣間見える。

加藤氏は、「構図や配置は最終的に自分の感覚が頼り。でもその感覚を磨くには、日々の積み重ねが必要」と語る。その積み重ねとは、驚くほど基本的なものだ。

「たくさんの映画やドラマを観ることですね。好きな役者や監督、撮影監督を基準に選ぶこともあれば、予告編の色味や照明が気になって観ることもある。結局、自分の“好き”を掘り下げることが感覚を鍛える近道なんです」。

この哲学が反映されたのが、加藤氏が撮影監督として手掛けた『地獄の果てまで連れていく』だ。

「佐々木希さんと渋谷凪咲さんという美しい二人が織りなすドロドロした復讐劇ですが、そこにスポ根的な要素も加わっています(笑)。紗智子(佐々木)は復讐に燃えながらも、何度も麗奈(渋谷)に挑んでは敗れる。そして根性で立ち上がる。その重さを強調しすぎると暗くなりすぎるし、スポ根感が強すぎると安っぽくなる。そのバランスを取ることを意識しました」。

美しさと緊張感を両立させる映像表現は、加藤氏の独自の感覚が支えるものだ。

「まず、自分が本当に好きなものを撮ること。それをどう見せたいかを考えるだけで、写真や動画の印象は大きく変わる」。

この視点は日常のスマホ撮影にも応用できる。自分の「好き」を追求することが、日常の何気ない風景を特別な作品へと変える一歩となるかもしれない。

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