「真実かどうかよりも、極端なコンテンツほどたくさん見られる」選挙期間中に拡散される誹謗中傷や虚偽を含む動画 作成に報酬も…背景を取材【報道特集】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-03-15 20:51
「真実かどうかよりも、極端なコンテンツほどたくさん見られる」選挙期間中に拡散される誹謗中傷や虚偽を含む動画 作成に報酬も…背景を取材【報道特集】

兵庫県知事選以降、SNSでは誹謗中傷や虚偽を含む動画が拡散しました。似たような動画が大量に作られ、拡散する背景に何があるのか?取材しました。

【写真で見る】過激な見出しの例も…“切り抜き動画”のマニュアル

「常軌を逸しています」竹内元県議がネット上の広告に懸念

兵庫県知事選を巡っては、立花孝志氏の動画などがネット上に拡散された。

2025年1月、自ら命を絶った竹内英明元県議が生前、ネット上のある広告に、懸念を示していたことがわかった。

竹内さんと親しかった現役の県職員。兵庫県知事選の告示前の10月、こんなLINEが送られてきたという。

竹内さんのLINEメッセージ
「選挙運動の一環として動画をネットで拡散するというやり方。常軌を逸しています」

LINEに示されていたのは、クラウドワークスというサイトの文面だ。

クラウドワークスのサイトの文面
「政治系チャンネル(石丸伸二、斎藤知事など)のライターさんを募集します!」

動画の作成に報酬を支払うという広告だった。

現役県職員
「普通のやり方ではないということで、強い違和感を感じたのかなと思います。こういう番組作りを有料で募集しているということで、誰がお金を出してるのかなという質問ですね」

兵庫県知事選が始まると、このサイトへの竹内さんの不安はさらに増していったという。

竹内さんのLINEメッセージ
「もう気持ち悪いことだらけです。早く選挙終わってほしいです」
「NHK党の立花に巻き込まれ、奥谷の自宅に集まる人たち。これは私のところにも来ます。民主主義の危機です」

現役県職員
「おかしいとやっぱり思ったのは、竹内さんへの攻撃が強くなってから。一体誰があんな動画を作ってばらまいてるのか。確かにどこの誰ということも全くわからない人たちが、一方的な感覚だけで切り抜いた動画が拡散されていたので」

「30分8000円から。Iphoneで撮影するだけ」仕事として依頼したのは

「クラウドワークス」はネット上で仕事を仲介するサービスだ。その中には、動画編集などの仕事がある。

例えばその一つが、大阪府泉大津市長選挙で立花候補の街頭演説を撮影する仕事。

クラウドワークスのサイトの文面
「30分8000円から。Iphoneで撮影するだけ」
「たくさん回れるという方は報酬UP検討します」

その流れはこうだ。仕事を受注したワーカーは、依頼された映像をクライアントに納品。報酬は、クラウドワークスを通して支払われる。

一方、クライアントは、納品された映像を自身のYouTubeなどにアップし、広告収入を稼ぐのだ。

立花氏の街頭演説を撮影したワーカーが取材に応じた。

──もともと、立花氏や政治に関心があった?

撮影したワーカー
「いやどうなんでしょう。そこまで立花さんに会いたいとは思わなかったですけど、まぁありかなという感じで」

男性は、撮影のために1週間出張。

選挙期間中は、ある政治系YouTubeチャンネルの管理権限を与えられ、立花氏の演説動画を配信し続けたという。

仕事を依頼したクライアントとは数回やりとりしたが、その素性はよくわからないままだという。

──経費を差し引いたら損だったのでは?

撮影したワーカー
「それはないですね」

──ビジネスとしては成立している?

撮影したワーカー
「そうですね」

男性が撮影した映像が載っていたチャンネルの登録者数は12万人超え。街頭演説の配信は、最も多いもので23万回再生されている。

動画には、竹内元県議に関するデマを流布する場面も。

ワーカーの撮影映像が配信されたYouTubeチャンネル
「竹内議員はめっちゃやばいね」
「警察は当然、竹内呼んで任意の事情聴取は絶対してると思う」

撮影したワーカー
「僕は別に立花さんを応援したいわけでもなく、第三者として見ているだけなので」

男性の撮影映像が載っていたチャンネルでは、立花氏の公式動画を引用し、兵庫県問題に関する内容をまとめた動画も数多くある。

兵庫県知事選では、立花氏本人が発信した動画だけで再生回数は約1500万回。斎藤知事の公式チャンネルの約119万回の12倍に達していた。
※ネットコミュニケーション研究所調べ

動画編集した大学生「僕にとってはお金を稼ぐための手段」

別のクライアントから動画の編集を請け負ったワーカーもいる。

都内で一人で暮らす大学生。脚本家や動画クリエイターを目指しているという。

動画編集した大学生
「あくまでクラウドワークスは僕にとってはお金を稼ぐための手段かな」

2024年11月、兵庫県知事選直後に、斎藤知事の動画を編集する仕事を受けた。

クライアントから、約7分の動画が送られ、それを1分に“切り抜き編集”したという。

動画編集した大学生
「これが元動画です。素材動画を受け取って、自分でそれを見て、どこが1番魅力あるところかなって切り抜いて、その切り抜いた動画を(クライアントに)渡すって言うお仕事」

クライアントから送られたマニュアルには、レイアウトや字の色などを雛形通りにするよう指示され、過激な見出しの例も書かれていた。

大学生は、発注の意図をくみ、「メディアに打ち勝つ」とキャッチコピーをつけ、納品したという。

動画編集した大学生
「今の風潮・流れとしては、メディアをあんまりよく思ってないんじゃないですか。だから、切り抜き師もそういうことを考慮してメディアを批判するような動画をさらに作っていく」

村瀬健介キャスター
「斎藤知事を支持する気持ちはあったんですか?」

動画編集した大学生
「僕自身はこういうこと思っていないけど、そういうふうにしちゃった。お仕事としてやってるわけで。『真実なんかどうでもいいから、過激なことをやってくれ』というクライアントもいるので」

切り抜き動画には、自身のように、政治に関心がないワーカーが収入のために編集したものが多く、SNSの情報を信じるのは危険だと感じている。

動画編集した大学生
「真実かどうかよりも、極端なコンテンツほどたくさん見られるし伸びるし、それがたくさん見られると伸びるから、それが真実になる。極端なコンテンツほど真実になりやすいという特徴がSNSにはある。

同じようなコンテンツがもう無数にあるので、その数の分だけ本当に罪の意識が薄れていくのかなとは思います。薬物の運び屋って、あくまでも自分は何かを運んでいるだけ。麻薬ルートの一端になっているって気づかないじゃないですか。

自分は(動画を)作っているだけ。でもまさかそれが、大きな仕組みの一つになっていて、それが悪い影響を与えているか想像もできない」

公職選拳法に詳しい専門家が指摘“罪に該当する恐れ”

選挙に関する動画を報酬をもらって作成した場合、法律違反になる可能性はあるのか。公職選拳法に詳しい専門家に聞いた。

日本大学 法学部 安野修右 専任講師
「公職選挙法の221条に定めがあります、買収等の罪に当たるだろうと思います」

山本恵里伽キャスター
「選挙運動という目的ではなく、単純にお金が稼げるという目的であっても、公選法に触れる可能性があるということ?」

日本大学 法学部 安野修右 専任講師
「そうですね。作成された動画の内容が、清き1票を対象者に与えるような効力を持つときには、221条の罪に相当するのではないかなと思う」

公職選挙法の221条に定められている『買収及び利害誘導罪』。

仕事を依頼した側と、受けた側の両方がこの罪に該当する恐れがあるという。

番組は、兵庫県知事選などに関連し、立花氏の動画作成を依頼したクライアントに公選法違反ではないか取材したが、回答は得られなかった。

一方で、この仕事を仲介したクラウドワークス。

選挙活動に関する依頼はガイドラインで禁止している。

番組が選挙の動画作成などを依頼したクライアントが候補者や政治団体と関連はなかったのか、取材すると…

クラウドワークスからの回答
「個人情報を特定できるような回答は控えさせていただきます」

クラウドワークスは仕事の募集文章やメッセージの中で、誹謗中傷を行う指示がある場合は発注を差し止めているとしたが、作成された動画の内容を確認しているかについては明らかにしていない。

今の国会では、公職選挙法の見直しが大きな課題だ。

3月4日、衆議院は、他人を中傷したりする選挙ポスターを禁じた公職選挙法の改正案を可決。

一方、SNSで偽情報が拡散している状況への対応については付則にとどまり、具体策を与野党で検討するとした。

日本大学 法学部 安野修右 専任講師
「(改正案の内容は)何もかも足りないというのが率直な受け止め。例えば当選の無効とか取り消しを争うような裁判所の設置、それに関する迅速な司法の手続きが必要だと思う」

山本キャスター
「(仕事を仲介する)事業者側を禁止する罰則を科すことはできない?」

日本大学 法学部 安野修右 専任講師
「立法技術的には可能ではないかなと思うんですけど、今回のような問題になるのは初めてなんですよね。

そういう意味で言えば、いわゆるオールドメディアといわれるものには色々制限規定があるので、そこと同等の倫理基準をプラットフォーム側とか、事業所側に持たせるような法改正は必要と思います」

山本キャスター:
クラウドワークスは「報道特集」の取材を受け、14日の夜、ガイドラインを改訂しました。

選挙運動や政治活動に関連する依頼、名誉棄損・侮辱にあたる恐れのある依頼、切り抜きなど許諾なく二次利用する依頼、などをさらに禁止するということです。

これが公職選挙法に抵触したり、誹謗中傷を助長したりする仕事の依頼を無くす効果があるのか検証が必要です。

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