パリ五輪を逃した廣中璃梨佳が2年ぶり4回目の優勝、再びスタートした“世界への挑戦”【日本選手権10000m】

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2025-04-15 17:00
パリ五輪を逃した廣中璃梨佳が2年ぶり4回目の優勝、再びスタートした“世界への挑戦”【日本選手権10000m】

廣中璃梨佳(24、JP日本郵政グループ)が東京2025世界陸上代表入りに一歩近づいた。日本選手権10000mは4月12日、熊本県のえがお健康スタジアムで、9月に国立競技場で開催される東京2025世界陸上と、5月に韓国クミで行われるアジア選手権の選考競技会を兼ねて行われた。女子は廣中が31分13秒78で優勝し、アジア選手権代表入りを確実にした。昨年はケガの影響でパリ五輪を断念したが、昨年11月のクイーンズ駅伝(3区区間2位)以降は順調に回復。東京2025世界陸上代表有力候補に躍り出た。

「ラスト2周までまったく息が上がらなかった」

廣中が狙い通りの展開で勝ちきった。それが1000m毎の、通過&スプリットタイム表に表れている。

下記の表は左から距離、廣中の通過(スプリット)、Wavelightの通過設定(スプリット)。

1000m 3.08.2(3.08.2) 3.08.(3.08.)
2000m 6.14.2(3.06.0) 6.16.(3.08.)
3000m 9.22.5(3.08.3) 9.24.(3.08.)
4000m 12.30.5(3.08.0) 12.32.(3.08.)
5000m 15.38.8(3.08.3) 15.40.(3.08.)
6000m 18.48.3(3.09.5) 18.50.(3.10.)
7000m 21.58.8(3.10.5) 22.00.(3.10.)
8000m 25.08.0(3.09.2) 25.10.(3.10.)
9000m 28.16.8(3.08.8) 28.16.(3.06.)
10000m 31.13.78(2.57.0) 31.20.(3.04.)
※廣中のタイムは日本郵政グループ提供

今大会はトラックの縁石に沿ってWavelightが設置され、主催者の決めたペースでライトの点滅が選手を先導した。ペースメーカーの選手が設定タイムを守りやすくなるため、ペースが上下動することがない。

前半で1〜2秒Wavelightより先を走ったのは、1000〜2000mが設定より2秒速くなったためだ。しかし7000〜8000mで1秒速くなっているのは、「廣中の調子が良かった証拠」だと日本郵政グループの髙橋昌彦監督は指摘する。調子が良い時は同じペースで走っているつもりでも、微妙にスピードが上がり、前の選手の脚に接触したりする。「それが嫌で前の選手の右横に出るんです」。ペースメーカーを煽る形になって、ペースが上がることがある。

廣中自身も「ラスト2周までまったく息が上がらず、余裕を持って行けていました。スタミナとスピード持久力がついたことがわかりました」と、自身の状態の良さを感じていた。

8000mでペースメーカーのマーガレット・アキドル(コモディイイダ)が外れると、廣中が先頭に立った。だが「行ききれない」と判断すると、8400m(残り4周)で、ただ1人廣中に食い下がっていた矢田みくに(25、エディオン)に先頭を譲った。

レースが動いたのは9200m(残り2周)過ぎ。廣中がスパートし、矢田を引き離した。「いったん後ろに下がって様子を見ながら、自分を落ち着かせる時間を持ちました。ラストスパートをどこかからかけるか、レースプランをもう1回練り直す時間にしたかったんです」

廣中が8400mで下がるシーンを見た高橋尚子さんは、「優勝を確信した」と翌朝のテレビ番組でコメントした。廣中の余力や自信が現れたシーンだった。

かつてない距離を走った冬期練習

廣中は21、22、23年と日本選手権10000mに3連勝し、東京五輪、オレゴン世界陸上、ブダペスト世界陸上と3年連続日本代表入り。東京五輪とブダペストでは7位に入賞し、オレゴンでは30分39秒71の日本歴代2位をマークした。

しかし昨年は1~6月までが右ヒザの痛みで、7~8月は仙骨の疲労骨折で走れなかった。

11月のクイーンズ駅伝が24年初レースで、3区で区間2位。昨年の日本選手権10000m優勝者の五島莉乃(27、資生堂)に16秒差をつけられた。12月のエディオン・ディスタンスチャレンジ10000mは32分29秒74の6位、今年1月の全国都道府県対抗女子駅伝9区は区間4位と、状態は上がらなかった。

今大会は3カ月ぶりの試合出場だったが、故障明けの3レースとは明らかに違った。
「冬場の寒い時期になると足首の動きが悪くなったりして、昨年はヒザでしたが、足首回りを故障することが多かったんです。今年はホットジェルを使うなど足首回りが冷えない対策をしっかり行い、順調に練習ができました。2月はしっかり距離を踏み、3月にかけては距離も踏みながらスピードへの移行も練習できました」

髙橋監督によれば2月も3月も800km弱を走ったという(2月は30日換算)。以前よりも200km弱多かった。

世界への課題は「スピードのギアをスムーズに上げる」こと

世界陸上の出場資格は「標準記録(30分20秒00)を切って得たい気持ちはある」と廣中は言う。だが10000mは出場レースが限られることもあり、世界ランキングで資格を得ることも考える必要がある。世界ランキングのポイントが高いのがアジア選手権だ。その選考競技会である日本選手権優勝者は、選考基準の最上位項目。廣中がアジア選手権の代表に選ばれることは確実だ。

「アジア選手権でも自分らしい走りをしっかりして、ポイントを確実に取るためにも必ず優勝したい」

東京2025世界陸上代表に入る確率も高くなったが、日本選手権の走りでは、まだまだ世界に通用しないと言う。

「スタミナとスピード持久力は確認できたのですが、スピードのギアを上げることがスムーズにできませんでした。世界では全然戦えないとわかっています。でもそれがわかるのは、以前の経験があるからこそ。その経験と現状を照らし合わせ、どこが改善できるかを監督とも話していきます」

今回ラスト1000mは2分57秒で、東京五輪とオレゴン世界陸上よりは速いが、ブダペスト世界陸上の2分53秒26とは差があった。

それでも髙橋監督は、「今の状態で2分57秒ならまあまあです」と評価している。スピード練習自体が、ブダペストの頃のタイムではできていないからだ。「東京五輪やブダペストを“10”とするなら、まだ“7”くらいですね」と髙橋監督。裏を返せば十二分にノビシロがある。

廣中にとって世界陸上が東京で開催されることも、重要なポイントになる。東京五輪は無観客で行われ「自国開催で嬉しい面と、本当にオリンピックなんだろうか、という感じ方もして、さまざまな思いがありました」という印象だった。

廣中は今回の日本選手権のように、家族や友人の応援があると気持ちの面が充実する。トレーニング面でもメンタル面でも、9月の東京で廣中が快走する要素が増え始めた。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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