白熱した世界陸上入賞者対決 男子走高跳の真野友博vs.赤松諒一、ライバルの2人が世界陸上日本勢初メダルに挑む【日本選手権レビュー】

9月開催の東京2025世界陸上の最重要選考競技会である日本選手権が、7月4~6日に東京・国立競技場で開催された。オレゴン世界陸上8位入賞の真野友博(28、九電工)と、ブダペスト世界陸上8位入賞の赤松諒一(30、SEIBU PRINCE)の対決が注目された男子走高跳は、真野がただ1人2m29に成功し、3年ぶり3回目の優勝を飾った。
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赤松が2m25で2位。参加標準記録の2m33はクリアしていないが、Road to Tokyo 2025(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)の順位が、赤松10位、真野11位と安全圏につけている。2人のライバル関係が日本勢3大会連続入賞を実現する。
序盤のピンチを克服した真野
23年のオレゴン世界陸上で真野が8位に入り、この種目世界陸上初の入賞をして以降、23年ブダペスト世界陸上では赤松が8位、昨年のパリ五輪も赤松が5位と、日本勢は世界大会で3年連続入賞している。五輪入賞も日本勢88年ぶりの快挙で、1学年違いの2人が日本の走高跳を世界にアピールしている。
2人の直接対決は学年が近いこともあって、膨大な試合数になる。世界陸連サイトによれば真野の29勝、赤松の24勝となっている。日本選手権に限れば以下の対戦成績だ。
16年●真野16位(2m05)○赤松4位(2m20)
17年●真野7位(2m15)○赤松5位(2m15)
18年●真野7位(2m15)○赤松6位(2m20)
19年●真野 記録なし ○赤松7位(2m20)
20年○真野1位(2m30)●赤松6位(2m20)
21年○真野2位(2m27)●赤松7位(2m15)
22年○真野1位(2m30)●赤松3位(2m20)
23年●真野3位(2m25)○赤松1位(2m29)
24年●真野3位(2m20)○赤松1位(2m25)
25年○真野1位(2m29) ●赤松2位(2m25)
2人の自己ベストはともに2m31だが、真野は20年に、赤松は24年にその高さを跳んでいる。真野の方が2m30の大台に達し、赤松は23年に初めて2m30を跳んだ。その差が近年の日本選手権戦績にも現れていた。
今年は2人とも2m05と2m10をパスし、2m15から跳び始めた。その高さを赤松は1回目でクリアしたが、真野は2回失敗した。「暑さの影響もあって体が火照ったような状態で、思うような動きができませんでした」。
バーを越える高さを競う走高跳と棒高跳は、最終的に同記録になることも多い。そのときは最後の高さを先に跳んだ選手が上になるが、そこも同じ場合は全ての試技における失敗試技数が多い方の負けとなる。つまり2m15を3回目に成功した真野だが、かなり不利な状況に立っていた。「もう開き直って、自分の跳躍1本1本に集中してそれ以降の試技に臨みました」。
ここで真野の真価が発揮された。助走を修正し、2m20を1回目、2m25を2回目にクリアしたのだ。助走前半のバウンディング的に走る局面で、上方向への弾み方が大きく助走後半のスピードにつながらなかった。それを「前に前に、という感じで進む助走」に変更することができた。赤松が2m25まで失敗試技ゼロで跳んでいたため、赤松優位は続いていたが、真野は2m29を1回目に成功。それに対し赤松は2m29を1回失敗した。この日初めて真野が優位に立った。
「悔しすぎたので」予定外の高さを跳び続けた赤松
赤松は踏み切り脚の左足小指を昨年3月に手術した。23年から痛みがあり、今もボルトが入った状態だ。それでも昨年のパリ五輪は2m31の自己新で5位に入賞した。痛みが出ない工夫が必要な状態で競技を続け、メダルを目標としている。
日本選手権は試合当日の練習から、2m25までは跳べる感触があった。「2m25を跳んで3位以内を確保したら、29はやめるつもり」だった。しかし「真野君に2m29を跳ばれて、悔しくて跳び続けてしまいました」と笑いながら説明した。その2m29を2回失敗すると3回目をパス。「2m29を跳んでも優勝できませんでしたし、足はちょっと痛かったのですが、あまりにも悔しすぎたので2m33に挑戦してしまいました」と、これも笑いながらコメント。
Road to Tokyo 2025の順位で世界陸上代表入りはほぼ間違いなく、日本選手権の勝敗にこだわる必要はない。だが真野には負けたくない。その気持ちが勝負どころで表れ、2m33の高さに真野とともに挑んだ。真野の2回目は惜しい跳躍だったが、1回しかトライする権利のなかった赤松は、良い形の跳躍にもっていけずに終了となった。「今の状態では無理な高さで、もう1段階、2段階ステップアップしないと届かない。やるべきことが改めてわかりました」。
赤松が“やるべきこと”は技術的なことよりも、「スプリントとウエイトトレーニング」を中心に、フィジカル面を整えていくことだ。赤松のレベルと経験があるからできることだが、昨年は6月の日本選手権から8月のパリ五輪まで、跳躍練習とジャンプトレーニングはまったく行わなかった。
今年の日本選手権前も、跳躍練習は試合の2週前に一度、低い高さで行っただけだった。「だいたい前回試合の記憶が感覚として残っていて、スプリントとウエイトトレーニングができていればあとは、当日の跳躍練習でタータン(全天候舗装)の状況や、コンディション的なところをつかめればイケます。そこが僕の中では確立されています」
現時点では、足に負担をかけないために「世界陸上まで試合には出場しない予定」だ。つまり今回の国立競技場で真野とともに跳んだ感覚を、世界陸上本番で思い出しながら微調整をしていく。
真野はオレゴン世界陸上の22年シーズン以上の手応え
一方の真野は試合にも出場していく。「標準記録の有効期限(8月24日)まで、2m33を意識しながら取り組んでいきます」。その高さを跳べる手応えを、日本選手権でつかんだ。
「去年、一昨年と納得のいく跳躍がなかなかできなかったのですが、今シーズンは良い状態で来ています。今日は最初の2m15で苦戦しましたが徐々に状態が上がってきて、2m29の1回目で一番良い跳躍ができました。2m33も2回目は僅かに当たって落としてしまいましたが、良い感触がありました。その跳躍がコンスタントにできれば跳べない高さではありません」
真野は20年に初めて大台となる2m31に成功し、21年、22年も2m30を跳び続けた。22年にはオレゴン世界陸上で8位入賞も果たした。だが23年は2m29、24年は2m27がシーズンベストで、ブダペスト世界陸上とパリ五輪は予選落ち。赤松との対決も、23年杭州アジア大会を最後に負け続けていた。
「世界で結果を出している赤松さんに勝てたことは自信になりますし、どんな試合展開でも自分の跳躍ができれば勝ちきることができたことも自信につながります。オレゴンは絶対にやってやるぞ、という気持ちにはなれませんでしたが、今回の東京世界陸上は入賞争いはもちろんのこと、メダルも狙える位置にいる。そういう気持ちで戦えると思います」
近年の五輪&世界陸上を見るとメダル獲得ラインは2m35前後の高さで、真野、赤松とも可能性はある。日本の跳躍種目でメダルを狙う選手が複数現れたのは、世界陸上では初めての状況だ。9月16日の夜10時頃だろうか。男子走高跳初のメダルに挑戦している2人の姿を、国立競技場で見ることができる。
※写真:真野選手(左)、赤松選手(右)
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)