今、「子どもの教育」で起きつつある大転換―エンタメが教育になる時代のビジネスチャンス―「エデュテインメント」とは

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2025-08-07 07:10
今、「子どもの教育」で起きつつある大転換―エンタメが教育になる時代のビジネスチャンス―「エデュテインメント」とは

「教育とエンタメは別もの」──そんな常識が、今や時代遅れになりつつある。

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先月(7月)開催された、日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS KYOTO」のトークセッションの中で、昨今、急増している教育とエンタメの掛け合わせ「エデュテインメント(エデュケーション×エンターテインメント)」の重要性について様々な意見が交わされた。

登壇したのは、ゲーム企業発のエデュテック推進者、知育アプリ開発スタートアップ経営者、そして現役小学校教諭で起業家という異色の顔ぶれだ。
彼らの言葉から浮かび上がってきたのは、今起きている「子どもの教育」の価値観の変革に伴って生まれつつある新たなビジネスチャンスだ。

増え続ける「学校では教えられないこと」

教育の定義は、かつてなく拡張している。立命館小学校の教諭であり、「桃太郎電鉄 教育版」などによるビジネスを展開する起業家でもある正頭英和さんはこう語る。

「時代の流れが加速したときに、教育や学びの定義が大きくなった。従来の学校や塾の守備範囲からこぼれる学びがすごく増えていて、そこに大きなビジネスチャンスがある」

金融教育、防災意識、STEAM領域、課題解決思考など──従来の学校教育では十分にカバーしきれない分野を学んでもらいたい、という保護者のニーズが生まれている。だが、それをどう“子どもたちが自発的に手を伸ばす形”で届けるかが、これからの課題だ。

「楽しいからやる」──子どもの本能を起点にする

金融知識や防災訓練のエンタメ・ゲーム化などを手掛けるSEGA XDの伊藤真人COOは、「教育とエンタメを切り分けること自体が大人の都合」だと語る。

「子どもは“楽しいからやる”。その結果、学びが生まれる。今は、“エンタメが教育につながる”という流れが、受け入れられる時代になってきている」

この発想の転換が、エデュテインメントの根幹にある。かつての“教育を楽しくする”のではなく、“楽しいことが結果的に学びになっている”という従来とは逆のプロセス構造こそが理想形だ。

子どもにとっては「遊び」、でも親からみたら「学び」になっている納得感

知育アプリ「シンクシンク」や「ワンダーボックス」を開発するワンダーファイCEO・中村友香さんは、“子どもにとっては完全に遊び”でありながら、“親にとっては教育的に意味があるもの”としてエデュテインメントが成立しはじめている時代だと強調する。

「子どもたちにとっても完全に遊びなんです。でも、保護者から見たらそれが教育的に意味がある。遊びと学びって、もはや別物じゃないと感じていると思います」

そしてこの「親の納得感」こそが、エデュテインメントにおけるビジネスモデルの強みだ。ゲーム課金には抵抗がある親も、「教育的に価値がある」と感じれば、安心してお金を出せる。単なる子ども向けコンテンツではなく、“家庭内の知的消費”となる新たな商品ジャンルとも言える。

可処分時間よりも、ハックすべきは「可処分精神」

とはいえ、現代の子どもたちは忙しい。彼らの“可処分時間”はすでに塾や習い事、多様化する趣味、YouTubeやSNSなどに占拠されている。だからこそ、正頭さんは“可処分精神をハックする”という考え方を提示する。

「今の子どもたちは“いつの間にか考えてしまっている”ような、“心を掴むもの”でなければ学びに向かってくれない」

つまり、興味を学習に向ける、ではなく、心を惹きつけ、ワクワクしながら自然と考えてしまう“マインドハック設計”がなければ、現代の学びプロダクトは成立しない。

「学び」要素が含まれることで、エンタメはロングテール化する

エンタメ単体のビジネスは、コストとリスクを伴う不確実性の高いものが多い。だがそこに“教育的成果”という要素が加わると、長期的に使われる「ロングテール商品」になり得る。

「面白さだけでなく、“成果”でも評価される。ユーザーにとって明確な便益があるから、長く使ってもらえる」(伊藤さん)

これは単なる“ゲームが学べる風になっている”という話ではなく、楽しむエンタメコンテンツの先に、学習成果や社会的スキル、家庭内の会話の質など、定量的・定性的な成果が出る設計になったエデュテインメント商品である必要がある。

“つらくないと教育じゃない”という感覚が変わり始めた

知育アプリ開発をする中村さんは、エデュテインメントの可能性は社会や親の認識が変わることでさらに広がると見ている。

「何となく“ツラいものでないと勉強じゃない”という感覚は、減ってはきたけど、まだ完全にはなくなってない。でも、楽しく学んだほうが身につくという感覚は、経験的に多くの人が実感しているはず」

そうした“楽しい学びが当たり前”という感覚を社会に定着させるために、エンタメ企業の参入は重要だと強調する。

少子化が進む日本において、子ども向け市場は縮小すると見る向きもある。しかし中村さんはそこにもポテンシャルを見出す。

「子どもの数は確かに減っていくけど、家族で学びを楽しむとか、生涯学んでいくという時代に入ってきているので、そういった軸で見れば、まだまだ可能性は広がっていると思う」

教育とエンタメは、子どもにとっても、親にとっても、そして社会人にとっても、“学び直し”や“知的探究”の場として広がっていく。

求められているのは、教育の在り方を変えることではなく、学校や塾の範疇を越えた外側に、「コンテンツとして楽しみながら、いつのまにか学ぶ」という“新しい学びの領域”を生み出し、人が本来持っている「ワクワクして夢中になれる力」を、未来を生き抜く「学びのエンジン」に転換していくこと――。次の時代に向けた新しい「学び領域」が生まれようとしている。

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