生成AIでテレビ局はこう変わる~一歩先行く韓国で最前線の制作現場を取材~【調査情報デジタル】

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2025-09-27 07:30
生成AIでテレビ局はこう変わる~一歩先行く韓国で最前線の制作現場を取材~【調査情報デジタル】

映像制作に革命的な変化をもたらしつつある生成AI。この最先端技術を放送業界の現場に貪欲に取り込もうとしているのが、ITやエンタメに強い韓国だ。実際にどのようにして生成AIを活用しているのか、JNNソウル支局の渡辺秀雄支局長がソウルにあるテレビ局を取材した。

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韓国のテレビ放送を目にしてよぎった危機感

「使えるようにしておかないと取り残される」――。韓国のテレビ番組で放送された生成AIの映像を目にした瞬間、そんな危機感が脳裏をよぎった。

猛烈なスピードで進化を続ける生成AI。その恩恵にあずかろうと、韓国のテレビ局ではこの技術を活用した映像制作が急速に広がっている。

選挙報道では候補者のキャラクターをCG動画にして視覚的に紹介し、AIアナウンサーが落ち着いた声で原稿を読み上げる。かつては未来の話と思われた技術が、すでに日常的な放送の現場に組み込まれているのだ。

韓国放送通信電波振興院によれば、国内のテレビ番組全体のうちすでに約1割が何らかの形で生成AIを導入済みだという。この割合は今後さらに拡大するとみられる。

背景には、YouTubeやOTT(オンライン動画配信サービス)の台頭による広告収入の減少や人件費の上昇など、放送局が直面する厳しい経営環境がある。制作コストの削減や制作期間の短縮の切り札として、生成AIは「救世主」とも「切り札」とも位置付けられている。

中でも、公共放送MBCの取り組みは注目に値する。6月に韓国の人気番組「神秘的なTVサプライズ」の中で放送されたVTRはこの技術の可能性を世に広く知らしめるものだった。

画家パブロ・ピカソが誤認逮捕された「名画モナリザ盗難事件」(1911年)を生成AIで再現した10分ほどの映像で、若き日の画家パブロ・ピカソが警察に連行されるシーンや荘厳なルーブル美術館の内部、当時のパリの街並みに至るまでそのクオリティーは非常に高く、多くの視聴者が驚かされた。そしてSNSには「すごい発展」「びっくりした」といった声が相次いだ。

生成AI最前線の制作現場に潜入取材

「あの映像は一体どうやって作られたのか」。その答えを探るため、私たちは制作したMBCに特別取材を敢行した。

案内されたのは「AIコンテンツラボ」。わずか1年前に立ち上げられたばかりの部署だ。

12人のメンバーが働く部屋は、これまでのテレビ制作の現場とは全く異なるものだった。スタッフたちは画面を囲み、生成AIを使ってその場で映像を生成しながら活発に意見を交わしている。すべての工程をこの部屋で完結させるという。

私がこれまで見てきたテレビ制作は、カメラや照明が並ぶ広いスタジオでの撮影や、大勢のスタッフが関わるロケが一般的で、AIチームのコンパクトな制作現場に新鮮さを感じた。

ちなみに、話題となった「モナリザ盗難事件」の映像制作を担当したのは、わずか監督2人とAIアーティスト3人のみ。約2カ月の時間を費やしたという。

その制作方法はこうだ。

使うのは複数の生成AIモデル。まず、パソコン上でラフな絵コンテを生成AIの「ChatGPT」に読み込ませ、別の生成AI「Midjourney」に対する指示文を生成させる。

あらかじめ用意したキャラクターと先ほどの指示文を使って「Midjourney」で画像を作り、さらに別の生成AI「runway」で動きをつける。
そして仕上げで使うのが実際の役者による映像。役者がセリフを話す映像を合成させることで筋肉の微細な動きや表情を補い、より自然な仕上がりになるという。

MBC C&Iチーム長のイ・サンウク氏は、「放送終了直後から、制作会社や配信プラットフォームから協業の打診が殺到しました」と語る。

AI導入の効果は明らかだ。MBC C&Iのチョン・ソンヒPDは、「人材だけで数百倍は削減できる」と、AI導入の大きなメリットを強調する。これまで予算や時間の都合で諦めていた映像表現が可能になり、「AIによって時間的、費用的な限界を突破できるようになった」と胸を張った。

筆者を主人公にした“冒険活劇”映像をわずか1時間で制作

生成AIがもたらす映像表現の限界突破を体験すべく、試しに私を主人公にした15秒ほどの映像を作ってもらった。

使用したのはスマートフォンで撮影したわずか数枚の私の顔写真のみ。にもかかわらず完成したのは、私の顔をしたキャラクターが中世ヨーロッパの街並みを歩き、宇宙旅行を体験し、ジャングルでワニに襲われ、最後は自宅にワープして避難するという、かなり手の込んだ映像だった。

AI独特の質感はあったものの、ハリウッドの大作映画でしか実現できないような場面が映像化されていて、その出来栄えは言葉を失うほどだった。さらに驚いたのはこの映像制作にかけた時間はわずか1時間ということだった。

想像力さえ働かせればどんな場面でも描けるその可能性に改めて大きな衝撃を受けた。

しかし、生成AIは決して「魔法の杖」ではない。JNNソウル支局ではMBCから教わった方法で映像制作を試みた。しかし出来上がった映像は不自然でぎこちないものだった。AIに的確な指示を出すための「指示文」を作る作業は想像以上に難しく、イメージ通りの映像を作ることはできなかった。

MBC C&IのAIアーティストであるキム・ヒョンア氏にアドバイスを求めたところ、「キャラクターの顔はフォトショップで修正し、動作は何度も指示文を入れ直す必要がある」と教えてくれた。

生成AIをめぐる課題~コストや法整備、著作権など~

AIは可能性を大きく広げる道具ではあるものの、使いこなせなければ成果は乏しい。MBCのAIチームも、放送レベルの映像を制作できるようになるまでに1年を要したという。

また猛烈な速度で進化する技術にキャッチアップするのにはコストもかかる。技術のモニタリングをし、新たなモデルは登場するたびに試す必要があり、MBCのチームは各サービスの利用料だけで月に数十万円を費やしているという。

ほかにも課題も多い。MBCの「モナリザ盗難事件」放送後には映像について「抵抗感がある」「ぎこちない」といった視聴者の声もSNS上に相次いだ。特に生成AIによる感情表現は、人間の役者の繊細さには遠く及ばず、視聴者に違和感を与えたようだ。

生成AIの活用拡大は、役者やカメラマン、編集スタッフといった人たちの仕事が奪われるのではないかという懸念も生んでいる。

しかし、MBCのキム・マンジン部長は、「特定の分野での活用は増えるものの、AI映像が主流になることはない」と分析する。実写ドラマやドキュメンタリーなど、生身の人間にしかできない表現に対する視聴者の欲求は根強く、人の役割がなくなることはないとの見方だ。

制作現場においても、人の役割は不可欠だ。AIアーティストのキム・ヒョンア氏は、AIを駆使して人を引き付ける映像を作るには、ドラマやアニメ制作の経験や「絵心」が重要だと強調する。AIはあくまで創作を助ける「道具」にすぎないというわけだ。

AIが産業に与える影響について研究する光云大学のチェ・ジェウン教授は「AIの活用が広がれば取って代わられる仕事もある」とする一方で、「AIに関する仕事が増えるので、全体の働き口は変わらない」と見ている。

AI映像を巡っては著作権の問題もある。AIが学習過程で無断利用した画像や映像が著作権侵害に当たるのではないかとの指摘は根強い。しかし韓国ではAI産業の規制より育成を優先すべきとの声が強い。

セジョン法律事務所のイム・サンヒョク弁護士は「韓国の場合は技術開発を通じた富の増大がより重大だという社会的認識がより高い」と語る。

韓国の国家戦略と日本への示唆

韓国には大きな野望がある。李在明政権はAIを国家戦略の中心に据え、2030年までに「AI三大強国」入りを目指す。政府と民間を合わせ、総額100兆ウォン(約10兆円)を投じる構想を進めており、その中には生成AIによるコンテンツ制作支援も含まれている。

Kコンテンツの世界的な流行で示したドラマ制作力とAI技術の相乗効果で、次の時代にも業界で幅を利かせるため、韓国らしいスピード感で技術革新に取り組んでいる。

実は今回取材させてもらったMBCのAIチームも政府補助金を受けて発足したもの。今年は70分規模の長編VTRを2本制作する計画を立てているという。

一方で日本はどうか?

テレビ制作の現場では活用に向けた動きはあるものの、韓国でみられるような目立った動きにはつながっておらず、映像制作の分野では遅れをとっているようにも見える。

この背景には、法的・倫理的なリスクを嫌い、新しい技術領域への挑戦をためらう日本特有の組織文化があるのかもしれない。実は私も原稿作成やVTR制作で生成AIを活用したことはなかった。

韓国がリスクよりもチャンスを優先する姿勢を鮮明とする中、日本が来るべきパラダイムシフトへの対応で決定的な遅れをとる危険性があるとも感じた。

韓国では放送業界をめぐる厳しい経営環境が背中を押し、リスクを承知の上でAIの活用を大胆に進めている。その挑戦は日本の放送業界に示唆を与える可能性がある。

今回の取材を通じて、生成AIがテレビ制作の概念そのものを塗り替える力を秘めていることを感じた。韓国の挑戦は「テレビ革命」を起こすのか、それとも「実験」に終わるのか。その動向に注目していきたい。

〈執筆者略歴〉
渡辺 秀雄(わたなべ・ひでお)
2003年TBSテレビ入社。 
経済部記者、報道番組ディレクターを経て経済部デスクや外信部デスクを歴任。
2021年10月からJNNソウル支局長(現職)。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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