笑わない女の子、スタッフは「死んだ方が楽かも」と…ガザに入った日本人が見たもの

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-10-07 20:00
笑わない女の子、スタッフは「死んだ方が楽かも」と…ガザに入った日本人が見たもの

イスラエルがガザに対して空前の規模で攻撃をしかけるきっかけとなった、ハマスによる越境攻撃から丸2年が経った。ガザを封鎖するイスラエルは外国メディアのガザ入りを厳しく制限していて、日本人記者たちも現地から状況を伝えられていない。その中で、現地で医療支援を行ってきた国境なき医師団の日本人スタッフたちは、日本語でガザの現況を語れる数少ない人たちだ。
今月3日、「2年」の節目を前に、スタッフ2人が会見で語った。

【写真で見る】「頑張れ、と言えない…」ガザに入った日本人が見たもの

「全く違う場所に来てしまった」
今年7月、「国境なき医師団」スタッフとしてガザに入ったロジスティシャンの松田隆行さんはそう感じたという。今回の紛争が始まる前の2023年2月~7月にも現地で支援にあたっていたが、2年ぶりのガザは大きく姿を変えていた。

これまでとは比較にならないほどの破壊。空爆は毎日のように行われ、事務所にいても宿泊先にいても、その度に窓が振動した。イスラエルの支援物資搬入制限のため食糧は不足し、2年ぶりに再会したスタッフは「非常にやせ細っていた」。8月半ばまでは松田さん自身も一日に一食、多くても二食、という状況だったという。乳児に飲ませる粉ミルクや液体ミルクも足りず、子どもと妊婦の栄養失調が深刻化していた。物価は高騰し、砂糖1キロが85ドル(約12,780円)で売られていた。

「誰もが疲れ切ってしまっている、という印象でした」

ガザでは物資調達や仮設病院の建設に携わった。活動した南部のマワシ地区では、もともと住んでいた住民に北部などから避難してきた人が加わったことで、「避難テントがひしめき、人で溢れかえっていた」。担当していた診療所の一日の診察のキャパは300人。そこに800人近い患者が押し寄せる。

「ハマスが支援物資を横取りしている」と主張するアメリカとイスラエルの主導で作られた「ガザ人道財団」(GHF)の配給所で撃たれたと見られる人たちも運ばれてきた。中には子どももいたという。国連によれば、8月上旬の時点で少なくとも850人あまりがGHF配給所のそばで、イスラエル兵に銃撃されるなどして命を落としている。

「支援を受けに行って、けがをして帰ってくる。これは全く人道支援ではない」

これまで南スーダン、リビア、ウクライナ、イエメンなどの紛争地で支援に当たってきた松田さんは淡々と語るが、言葉には静かな怒りを感じた。

「静かな死」も

国連機関によればこの2年で、ガザでは6万6000人以上が死亡している。空爆などの攻撃による死のイメージが強いが、静かに消えていく命もある。

ガザではできない高度な医療が必要な患者については国外搬送が必要となるが、国境なき医師団日本の村田慎二郎事務局長によれば、今年初めまでの段階で、搬送申請の9割がイスラエル側によって遅延あるいは拒否されていた。

待機リスト上の200人のうち19人が国外に出ることなく亡くなっていったという。うち12人は子どもだった。先天性の心疾患、呼吸不良、腎疾患、がん、などを患っていた。封鎖がもたらした死だと言える。

この日会見したもう一人のスタッフ、看護師の中池ともみさんは今年1月から3月の8週間、ガザ南部ハンユニスにあるナセル病院で活動した。外傷・熱傷の病棟で看護師150人あまりを統括するマネジャー役だった。

現地入りした時は停戦中だったが、それまでの爆撃で負傷したりやけどをしたりした患者たちが多数入院、あるいは通ってきた。骨の固定のために使う器具(創外固定器)は金属製なので「武器転用の可能性がある」との理由でガザへの搬入が制限され、不足していたと話す。

頑張れ、と言えない

全く笑わない女の子が印象に残っているという。火傷が酷くて何度も皮膚移植を繰り返し、もはや皮膚を取ってくる場所がないくらいだった。負傷による心理的ダメージに加えて「繰り返される手術とか医療行為にも恐怖感と不信感があったのでは」と中池さんは感じている。

イスラエルは常に「我々は民間人被害を最小限にするよう努力している」「しかしハマスが民間人に紛れているのだ」と主張する。カッツ国防相は今月、ガザ市への攻勢を強める中で市民に退去を迫り「留まる者はテロリストだ」とSNSに投稿した。

これについてどう思うか問うと、中池さんは「こんなにたくさんの人を巻き添えにしてはダメです」「自分たちが元々いた地域にいる人たちを勝手に”テロリスト”って呼ぶのはおかしいと思います」と、短く、鋭く答えた。

ガザで活動する国境なき医師団のスタッフはおよそ1100人。そのうち松田さんや中池さんのような国際スタッフは40人で、あとは現地のパレスチナ人が担っている(8月20日時点)。

現地スタッフの中にも、家を失い、あるいは追われ、家族を失い、疲弊している人たちが多かった。「何度も何度も移動させられ、もう疲れた。大きな爆弾が落ちて、一瞬で死んだ方が楽になるんじゃないか」とこぼすスタッフに、中池さんは返す言葉が見つからなかった。

日本に帰ってきた今も現地スタッフとはメッセージのやりとりが続いている。答えが返ってくるかどうかを心配しながら「元気?」と聞く。返信が来ると安心するが、その内容を見て、どう返せばいいかわからないことも多いという。

「もう、生きているだけで頑張っているので、それ以上に頑張れ、とは言えないです。生きててほしい、という言葉も言えないです。多分彼らにとっては生き地獄みたいな感じで生きている状況だと思うので…」

国境なき医師団は会見の最後に「医師にジェノサイドは止められない」という言葉を掲げた。「できることは全部している。でも人道援助で紛争は止まらない」。

これを書いている時点で、ハマスとイスラエルの交渉の行方は見通せない。仮に第一段階で合意できたとしても、その後はさらに視界が悪い。ただ現状を変えることができるのは政治でしかない。

中池さんは、自分だけ安全な場所に戻ってきたことに罪悪感も感じる。一方で、外国人が支援に入ることの重要性もある、と信じる。

「ガザの人に、世界から見捨てられてない、という希望を、少しでも、一つでも、与えられるのではないかと思います」

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