「日本人」として生きた台湾の少年が戦後に味わった希望と絶望【前編】

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2025-10-25 07:00
「日本人」として生きた台湾の少年が戦後に味わった希望と絶望【前編】

10月25日は台湾の「光復節」だ。

【写真を見る】「国語の家」の認定書(国立台湾歴史博物館 所蔵)

80年前のこの日、台湾は日本の植民地支配から解放されたため、今では祝日になっている。

半世紀に及ぶ日本の支配から解放されたのもつかの間、入れ替わるように始まった国民党による支配、戒厳令、そして民主化。

台湾の人たちは、あの時代を今どのように振り返るのか。当時、日本人として生きた91歳の周さんに台湾で話を聞いた。

「台湾人は二等国民」日本統治時代、少年が感じた「見えない壁」

日本統治時代の台湾・新竹市で生まれ育った周賢農さん(91)。当時の思い出を流暢な日本語でゆっくりと語り始めた。

「これが村本先生、これが海野先生。私は『ゆりわか』役よ、とても有名な軍人」

モノクロ写真を指差しながら、兜をかぶった凛々しい少年時代の写真を見て懐かしむ周さん。

「ゆりわか」とは室町時代から伝説の武人として伝わる百合若大臣のこと。戦時中は子どもにも軍人意識を植え付けるため、武人の英雄伝が演劇の題材として使われたのだという。

時は太平洋戦争真っただ中。覚えているのは、アメリカ軍の空襲があるたび鳴り響いていた「空襲警報」のサイレン音、そして日本人と台湾人の間にあった「差別」だった。

「日本人と台湾人の間には本当に差別的で不公平な待遇の差がありました。日本人は台湾でたくさん得をしている。なのに、なぜここに住んでいる住民たちをもっと大切にしないのか。不公平・不平等、これはおかしいと思った」

「同じ学校に入るにも、日本人と台湾人で差別がありました。例えば学校を受験するとき、日本人なら70点で合格なのに、台湾人なら90点。こういうはっきりとした差別がある」

子どもながらに台湾人が「日本人」になることを強いられた不公平さが心に刻まれているという。

「子供だったけれども私が印象に残っているのは『改姓名』して『国語の家』にならないと、という雰囲気があった。そうすれば日本人とほぼ同じような待遇を受けられる」

1930年代後半から、台湾人が日本式の姓名に変える「改姓名」や、家庭内でも日本語を話す「国語の家」が奨励され、「日本人らしい台湾人」か否かによってあらゆる場面で待遇の差別があった。

「役所の人が家にきて、家族1人1人に日本語をどれくらい話せるか、資格があるかないか決めるわけ。『改姓名』あるいは『国語の家』だったら、物資が欠乏する中でも米がちょっと安くなるなど、日本人とほぼ同じような待遇を受けることができた。うちは『国語の家』だったから、ちょっといい暮らしができた」

日本人は「一等国民」、台湾人は「二等国民」。

台湾人は、日本的に振る舞うことで「日本人」に近づこうと、必死に言葉や風習を学んだ。しかし、日本統治が始まる前から台湾で暮らしていた周さんのお爺さんは日本語を話すのは嫌だと頑なに拒んだ。そのため、周さんの家では古くから台湾に住む中華系の人々が使う閩南語(びんなんご)と日本語を混ぜて話すのが日常だったという。

迎えた終戦、嬉しさもつかの間「犬が去って、豚が来た」

1945年8月15日、戦争に負けた日本は台湾を手放すことになった。入れ替わるように台湾を統治したのは、大陸から来た国民党だった。

「終戦はやっぱり嬉しかったね。あの時、アメリカのB29が台湾の空の上からビラをまいているわけ。『あなた方の負けだよ、日本人の負け』というビラを覚えている」

「今度は大陸から兵隊が来て『接収』といって台湾の土地を中国に戻すと言った。なぜこれを嬉しいと感じたのかよくわからないけれど、国民党の旗を見ると、なぜか子どもながらに『祖国に帰れた』と感じた」

当時12歳だった周さん。自分が日本人なのか、中国人なのかという考えは定まっていなかったというが、何よりも「戦争から逃れられること」が嬉しかったと話す。

「疎開地では米は食べられない。ほとんどは芋、それからおかゆ。ちょっとした野菜をめぐって親戚みんなで争って食べる時代。だから、戦争が終わったのはやっぱり嬉しかったね。決して思想の問題とは関係なく、この苦しい時代から別れを告げることが嬉しかったのだと思う」

しかし「祖国に帰れた」という喜びは、あっという間に深い絶望に変わる。

「(国民党統治が始まって)初めは嬉しかったよ。ところが汚職問題が発生した。私が覚えているのは、交通がとても乱れていた。今みたいに規則通り赤信号とか青信号とか全然無いからね。あの時『嫌だな、こんなのは』という感情が出てきた」

国民党の統治が始まると戦後の混乱もあいまって、インフレが進み物価が高騰。また、国民党は市民に対して公然と賄賂を要求するなど腐敗しきっていた。

当時台湾では、こんな言葉が流行ったという。

「犬が去って、豚が来た」

番犬としては「どう猛でうるさい犬(日本)」が去り、今度は「貪り食うだけの豚(国民党)」がやって来た。それは台湾市民の新たな支配者に対する痛烈な皮肉であり、深い絶望の声だった。

日本統治下の不平等から解放された少年が見た国民党の腐敗。希望から絶望へ。

そんな中、少年は当時タブーとされた「共産主義」に希望を見出していく。しかし、それは新たな苦難の始まりでもあった。

後編へつづく)

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