石破氏「選択的夫婦別姓は『絶対ダメ』と言う人がいた。話がそこから先に進まない」いま振り返る在任1年と現政権の動き【インタビュー前編】

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2025-11-15 15:00
石破氏「選択的夫婦別姓は『絶対ダメ』と言う人がいた。話がそこから先に進まない」いま振り返る在任1年と現政権の動き【インタビュー前編】

昨年10月からおよそ1年間、内閣総理大臣を務めた石破茂氏の退任から1ヶ月。物価高対策、選択的夫婦別姓、戦後80年談話など在任中の取り組みと残された課題、そして退任後に急浮上した「議員定数削減」の議論や高市総理の「台湾有事」をめぐる発言など、石破前総理に在任1年と現政権の動きついて聞きました。(全2回の前編)

【写真を見る】スタジオ生出演を終えた石破茂前総理大臣

聞き手:荻上チキ(評論家・ラジオパーソナリティー)、南部広美(フリーランスアナウンサー)、澤田大樹(TBSラジオ国会担当記者)

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年11月13日放送「石破茂前総理がスタジオ生出演 政治とカネ、戦後80年所感…在任1年を問う」より)

在任1年の総括「集大成が戦後80年所感」

――総理を務めたこの1年間をどのように振り返り、何ができて何ができなかったと総括されていますか?

1年で全部できれば誰も苦労しません。まして少数与党でもありました。しかし、できたこともあります。例えば防災庁はまだできていませんが、その設立の流れはもう止まらないでしょう。関税交渉は、赤沢さん(経済再生相)をはじめ、みんなよくやってくれた。多くの国の中で一番いい条件で交渉できたんじゃないですかね。

それから、後戻りしそうで怖いですが、米の増産にかじを切ったのは大きかったと思っています。(大阪・関西)万博も、私が総理になった時は「絶対失敗するぜ」「赤字どうするんだ」「誰が責任取るんだ」という話でしたが、終わってみればみんなの努力で、お客様のおかげで大成功と言っていいでしょう。最低賃金の引き上げや地方創生もそうです。

結局、1年間、それぞれの大臣、それぞれの官庁、地方の方々と共に、もちろん私の能力不足はあるが、これ以上のことはできなかったよねという思いはあります。その集大成が(戦後)80年所感ということかな。

高市総理の「働いて、働いて…」発言への受け止め

――発足当初から株価が大きく変動する一方で、最低賃金の引き上げに尽力されました。日本経済にとって石破政権とはどうだったと振り返りますか?

日本経済のピークは1994年だったと思っています。GDPで18%を占めていましたが、今は4%を切ってしまっている。ドルベースで換算すると30%マイナスです。これはコストカット型の経済で、賃金が上がらず、関連会社に十分にお金が払われず、設備投資もできないからです。これではGDPが上がるはずはありません。

やはり、きちんと賃金が上がり、関連会社にお金を払い、投資にお金を使う、そういう付加価値創造型の経済に変えないと、一時期うまくいっても経済そのものは強くならない。それは華やかではないし、バーンと株価が上がったりはしません。だけども、そういう着実なものをやっていかないと、日本経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は変わらない。それは着実にやれたと思っています。

――賃上げが実質賃金に追いついていくか、今が要のタイミングです。賃上げ上昇の流れを作るために、石破政権はどのような役割を果たしたとお考えですか?

2010年代だけ見ると、企業の売上は7%上がりましたが、配当や経営者の報酬は2倍以上になっているのに、賃金は3%しか上がっていません。企業は経営者と株主だけのものじゃない。そこに働く労働者、家族、地域のためのものであり、労働分配率を上げていくことは大事なことだったと思います。

ただ、防御的賃上げしかできない企業さんもたくさんあるので、そういうところにどう手当てを行うかを組み合わせる必要がありました。最低賃金の近く(の賃金)で暮らす人が700万人もいるというのはおかしいでしょう。そういう人たちは結婚に踏み切れない方も多く、お子さんもできないということが起こる。これを放置していいのかと問いたかった。最低賃金をあれだけ引き上げ、もちろん実質賃金の上昇と物価上昇の時間的ズレがあるが、着実に上がっていくことは不可逆的になったと思っています。

――高市総理は、労働規制の緩和の方向に指示を出しました。新政権のスタートをどう見ていますか?

馬車馬のように働いて、働いて、働いて、働いて、働きまくるんだと総理が決意を述べる。それはそれでいいことなのでしょう。しかし、過労死が問題になったのはついこの間の話だったじゃないですか。いわゆるブラック企業のように労働者の人権を無視するようなことが復活するということがあっちゃいけない。

また、ワークライフバランスというのは美辞麗句を言ってるわけじゃなく、きちんと確保しないと、女性の負担が過度なものになってしまう。男性の育児参加は大事なことで、ワークライフバランスを無視するようなことがあると、この少子化の構造、婚姻率が低いという構造は変わりません。最低賃金の問題も、ワークライフバランスの問題も、一体のものとして我々は進めてきました。総理の心意気と、国民全体の暮らしのあり方は、必ずしも一致するものではないと思います。

参政党「侮るべからずだと思っています」

――石破政権下で衆参の選挙があり、少数与党となりました。選挙の総括はどのようにされていますか?

保守だけれども、よりエッジの効いた政策を訴える、例えば参政党さんのような、今までであれば自民党を支持していた人が、カギカッコつきで「保守的な」ところへいきますよね。自民党に飽き足らない人たちが。そうするとそれだけ自民党の議席は減っていきます。

今までも保守色を強く出した政党というのはあったわけですよね。「たちあがれ日本」とか「次世代の党」とかね。ただ、参政党さんのやり方はちょっと違いますよね。

参政党のやり方は、地方議員を確保し、首長選挙に影響力を持って勢力を拡大していくというもので、かつての自民党のやり方に似ている。それにSNSを駆使するのが乗っかっている。これは侮るべからずだと思っています。

――なぜ自民党は保守のなかでもエクストリームな層(極右)を手放すということになったとお考えですか?

どうでしょう。「保守」と言われるものに偏った時に、「リベラルな」と仮にいうとすれば、そういう層は自民党から離れていくのではないでしょうか。自民党は本当に中道を目指すべきであって、右に偏っても左に偏ってもいけない。

ただ、そういう中道的な政策はなかなかエッジが効かないので、かなり先鋭的な考え方をする政党にある程度は行ってしまう。これはなかなか止めにくいところはあります。「もっと自民党が保守に偏ればいいんだ」という意見もありますが、それが国家のあり方として正しいのかという検証は別途やらないといけません。

自民党派閥の裏金事件「国民が得心するに至っていない」

――選挙で厳しい声が出た要因の一つに「政治とカネ」の問題があります。まず、裏金・不記載問題への対応について、石破政権時代をどう振り返りますか?

不記載だったものをきちんと記載し、収支報告書を訂正するということを、関わった議員たちはみんなやりました。修正もしたし、選挙の洗礼も受けた。不記載が実際にミスだったのか、故意に基づくものだったのかはそれぞれの事情が違うでしょうが、それを明らかにした上で選挙の洗礼を受け、主権者たる国民から議席を頂いたということは、評価されてしかるべきだと思っています。

ただ、なぜ不記載に至ったのか、一体誰が指示をしたんだということに、まだ得心がいっていない国民の方々がおられるのでしょう。司法がきちんと判断を示しているので、我々としてそれ以上のことができるかというと、本当に粘り強く丁寧に国民の皆様にご説明していくことに尽きるのではないでしょうか。

――自民党でしか説明できない部分、例えば旧安倍派の中で還流の仕組みがいつ始まり、誰の指示だったのかという点が宙吊りのまま、個々の議員の選挙の当落という話に矮小化された印象もあります。

国民が得心するに至っていないということです。「誰の指示だったの」ということが未だによく分からない。ただ、そこで「私が指示しました」という人が出てこないのですから。自民党としても可能な限りの調査はしましたが、強制的な捜査権限を持っているわけではありません。

(裏金問題に)関わった方々が公認されない。私も無所属で2回選挙をやったことがあるけど、公認されないって本当にものすごくつらいですよ。そのなかでも、有権者の支持を得てきたということは、一つの評価だと思ってきました。ただ、有権者の方々が得心しておられないということは率直に認めなければいけません。

――各議員や各地方に調査やアンケートへの協力を求めるなど、協力性を担保することは可能だったのではないでしょうか?

そこもできる限りやったつもりですが、「つもり」じゃしょうがない。「全然納得していない」という方が多いので、じゃあどうしますかね、ということはあったと思います。もっとやるべきことはあったのかもしれません。

官房機密費「公開は国益にかなうとも限らない」

――官房機密費について、総理になられてみて、どういった役割を果たし、どういった実態だったのか、語れる範囲でいかがでしょうか?

表に出せない色々なものってあるんですよね。海外の情報とか。それを明らかにしたら、もう二度とそういうことはできなくなります。その使い方は、情報収集やコミュニケーションの作り方であって、明らかにできないから「機密費」なのです。使い方はある程度許容されてしかるべきものだと思います。

――機密費はいずれ公開されるべきだ、検証できる仕組みが欲しいという声についてはどうお考えですか?

何年か経つと明らかになるとなれば、その国との関係はずっと続くわけですから、本当に国益にかなうかというと、必ずしもそうでもないのではないでしょうか。

(国会対策については)言えることと言えないことがあります。世の中はきれいごとだけで動いているわけじゃないですから。ただ、そのお金によって政治の公正性が歪められることがないように、常に使い方には気をつけてきました。

米の増産「消費量を増やす方法はもっとあるはず」

――米の増産について「後戻りしそう」というお話がありました。新しい鈴木農水大臣が増産に後ろ向きな発言をするなど、石破内閣の方針を変えようという動きが出ています。政府の対応をどうみていますか?

米に限らず、穀物という商品は、多少の需給の変動で価格がものすごく乱高下するという特性を持っています。それは保存がきかないっていうことがあるんだけれども。「令和の米騒動」という人もいたが、今年なぜ価格が4000円以上になったのかを考えた時に、供給がギリギリでやっていることが底流にあるはずです。

世界ではどの国も農地を増やし、農業生産を増やしているのに、日本だけが耕作放棄地が増え、農業従事者が減っていく。日本だけがそういう政策をとり、カロリーベースの自給率が38%というのを、かなり異様だと思わない方がおかしいのではないでしょうか。

「作り過ぎたら価格が落ちるじゃないか」という反論は必ず出ますが、パリやニューヨークではおにぎり屋さんが長蛇の列です。プロダクトアウトではなく、マーケットインの形で米の需要ってもっとあるでしょう。国内でも、グルテンフリーのラーメンやパンなど、お米の消費量を増やす方法はもっとあるはずです。ご飯をもう一杯おかわりしましょうって話じゃなくて。

クマがたくさん出るようになったのは、あちこち耕作放棄地が増えたからだからね。だから、水源涵養とか、中山間地の保全やコストダウンなど、国の利益に資する形でお米を作った人が、価格が下がったことで継続できなくならないようにするのは、また別の政策です。それを直接所得補償っていう形にひとくくりにするから変なことになるんであって、どういう努力をした人に対して税金を使って所得を維持するのか、そういう細かい政策の集大成が農政なんです。

同性婚「ひとりひとりの権利の実現のために政府は努力すべき」

――選択的夫婦別姓の実現に向けて、自民党のなかで何が一番大きな障害になっているのでしょうか?(リスナーからの質問)

「絶対ダメ」という人がいるからです。「選択的であろうと何であろうと、夫婦別姓にすると家族が壊れる、家庭が壊れる」と。本当にそうですかね、というところはあるのですが、絶対そうだと言われちゃうと、話がそこから先に進まない。「選択的じゃないですか」と言っても「それはダメ」という方が一定数いらっしゃいました。

「親と子の名前が違うと郵便配達の人が困るのでは」という意見もありますが、外国ではちゃんと届いていますよね。とにかく「絶対ダメ」という理屈を展開される方が大勢いらっしゃって、党議拘束を外すかという議論もありましたが、自由民主党の一体性を保つために努力しようということで、結局まとまらなかったということです。

――同性婚についてはいかがですか? 来年にも最高裁で判断がなされそうです。

これは(同性婚に対して)好きとか嫌いとかいう話ではなく、私も当事者の方とある程度お話しさせていただいて、「それでないと自分は生きていけないんだ」というのはその人の権利なのでしょう。

「いや、自分はそういうの苦手だよね」っていう話とは別で、男性と男性が、女性と女性が、その人を配偶者として生きていかなければいけないという状況。あるいは、相続の問題など法的な問題と、その人の権利というものを両方勘案した時に、私は、好き嫌いの問題は別として、冷静に考えたときにひとりひとりの権利の実現のために政府は努力すべきじゃないかなと思っています。しかし、これまた「絶対ダメだ」という方は一定数いらっしゃいました。

――また議会でも、性的マイノリティへの理解増進や権利の拡充に対して、参政党のようにより批判的な議席も増えてますね。

一定数そういう方がいらっしゃるわけですから、そこにフォーカスして政策を訴えれば、そういう支持は得られるわけです。だけど、じゃあそういうことで全て決めていいですかと。

それによって個人の人権というものが妨げられてる人たちはどうするんですかという話も合わせてしないと、バランスは取れないでしょう。人権を単に多数決で決めていいのかと思いますね。

(後編に続く:石破前総理「保守はイデオロギーではない。保守の本質は寛容」いま振り返る在任1年と現政権の動き【インタビュー後編】)

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年11月13日放送「石破茂前総理がスタジオ生出演 政治とカネ、戦後80年所感…在任1年を問う」より)

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