年末年始に急増する“胃疲れ”の正体とは? 専門家が教える胃活プログラム

年末年始が近づくと、街には華やかなムードが広がり、食卓にはごちそうが並ぶ。しかしその一方で、「胃が重い」「食べたいのに入らない」といった不調を訴える声が静かに増えていく。忘年会、クリスマス、正月料理――楽しいイベントが続くこの季節は、私たちが思う以上に胃へ負担をかけている。気温の低下で体が縮こまり姿勢が崩れることや、睡眠不足・ストレスによる自律神経の乱れも重なり、胃の働きが低下しやすくなるのだ。2025年の調査でも、年末年始は「胃の不調を感じる季節」と答える人が多く、なかには仕事に支障が出るほど慢性化した例も報告されている。
こうした状態は“胃疲れ”と呼ばれ、一時的な不快感に留まらず、気力や集中力の低下まで引き起こすことがあるという。放置すれば重大な疾患が潜んでいる可能性もあるため、軽視はできない。では、この“お疲れ胃”にどう向き合えばよいのか。本記事では専門家の知見をもとに、胃疲れの仕組みとセルフチェック、そして日常に取り入れやすい「胃活プログラム」を紹介する。年末年始をより心地よく過ごすために、まずは自分の胃の声を聞くところから始めたい。
年末年始に“胃の不調”が増える理由とは

年末年始は、一年の中でも食事量と飲酒量が最も増えやすい時期である。忘年会やクリスマスのごちそう、実家での団らん、正月料理——イベントが続けば、自然と食生活は乱れがちになる。さらに仕事の繁忙期でもあり、不規則な睡眠、ストレスの蓄積、冷えなど複数の負担が胃へ同時に押し寄せることで、“胃疲れ”が引き起こされやすい。
実際、胃の不調に関する調査でも、年末年始は胃もたれや食欲不振を訴える人が増える傾向が示されている。単純な「食べすぎの季節」と片づけてしまうのは危険であり、胃に関するトラブルが多発する“注意シーズン”だと捉えるべきである。
放置できない“胃疲れ”とは何か
胃疲れとは、胃の動きが一時的に弱まり、食べ物をうまく消化できない状態を指す。胃もたれ、膨満感、食欲不振、胸やけ、吐き気などさまざまな症状が現れ、日常生活の質を大きく低下させる。
その背景には、自律神経の乱れがある。ストレスや睡眠不足によって交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、胃の働きが鈍くなり、胃酸分泌も過剰になりやすい。また冬は寒さによって体が縮こまり姿勢が悪くなり、胃を圧迫することで不調が助長される。こうした症状を放置すれば、慢性的な胃の不快感だけでなく、気力の低下、不安感、集中力の低下といった心身への影響も広がるとされる。
さらに重要なのは、胃の不調のなかには胃潰瘍や胃がんといった重篤な疾患が潜んでいる可能性がある点だ。長引く痛みや吐き気が続く場合は、安易に自己判断をせず、医療機関を受診することが不可欠である。
自分の“胃疲れ”を知るセルフチェック
胃の状態を把握するには、日常の兆候を丁寧に拾うことが大切だ。
以下のチェック項目のうち、1つでも当てはまれば、胃疲れのリスクが高いとされる。
・朝から胃が重く、空腹にならない
・胸やけ、げっぷがよくでる
・食後にお腹のはりがある(膨満感)
・すぐにお腹がいっぱいになる(満腹感)
・胃がキリキリと痛む
・吐き気がする

調査では、10人に1人が慢性的な胃の不調に悩まされ、ときには「仕事に行けない」ほど深刻化しているケースも確認されている。無理を積み重ねるよりも、一度立ち止まり自分の胃の状態を見つめ直すことが、改善への第一歩となる。
専門家がすすめる「胃活プログラム」
胃の不調の多くは、自律神経の乱れや生活習慣によって引き起こされるため、薬だけで根本的に整えることは難しい。そこで専門家が提案するのが、日常の行動を少し変えるだけで始められる「胃活プログラム」である。
1. 超手抜き朝ごはん
朝食は、乱れた生活リズムを整える“スイッチ”の役割を果たす。起床後なるべく早いタイミングで、バナナやヨーグルトなどの軽い食品を口にするだけでも胃が動き始め、消化機能が整う。朝に食欲がない人こそ、一口からのスタートが効果的だ。
2. 乳酸菌などの“菌活”
善玉菌の多くは胃酸で死滅してしまうが、中には胃で働く力を持つ乳酸菌もある。特に胃痛や胃もたれへの作用が期待できる菌(LG21乳酸菌)も報告されており、ヨーグルトや発酵食品を日常に取り入れることで、胃の環境のサポートが可能になる。
3. 胃の“温活”
寒さによる冷えは消化機能に影響を与える。腹巻きや温かい食事を意識し、体の中心を温めることで、胃の動きがスムーズになりやすい。夏場も冷房で冷えるため、季節問わず意識したいポイントだ。
4. 姿勢改善「威風堂々」
座り姿勢や猫背は胃を圧迫し、逆流症状を悪化させる。背筋を伸ばし、背もたれに頼らず座るだけでも胃の負担は軽減される。寝る姿勢にも工夫があり、逆流を感じるなら左側、消化を促したいなら右側向きが推奨される。
こうした習慣はどれも難しいことではなく、日々の意識を変えるだけで始められる点が魅力である。

監修:三輪洋人(みわ・ひろと)
消化器内科医、川西市立総合医療センター総長。
日本消化器病学会前理事・財団評議員・専門医・指導医、日本内科学会前理事・評議員・指導医・認定内科医、日本内視鏡学会社団評議員・指導医・専門医、日本消化管学会功労会員・代議員・専門医・指導医・胃腸科認定医、日本神経消化器病学会前理事長、Asian Neurogastroenterology & Motility Association ANMA 前理事長。1982年鹿児島大学医学部卒業。順天堂大学、米国ミシガン大学を経て、2004年兵庫医科大学 消化器内科主任教授に就任。その後、同大副学長、理事なども歴任し、2022年より現職。著書やメディア出演も多く、2022 年9月からは YouTube「Dr.三輪洋人の健康チャンネル」を開設。幅広い世代に健康情報を発信している。2025年7月14日に「胃の不調の原因と対策 胃活の教科書」(毎日新聞出版)を出版。
“お疲れ胃”を癒やすレシピ3選
胃活は生活習慣だけでなく、日々の食事からもサポートできる。管理栄養士が提案する3つのレシピは、いずれも胃にやさしい食材を組み合わせた工夫が光る。
湯豆腐ヨーグルトみそだれ

豆腐の植物性たんぱく質、ヨーグルトの乳酸菌、味噌の発酵パワーが一体となり、負担の少ない一品に仕上がる。
<材料名/2名分>
木綿豆腐 1/2丁
春菊 1/2袋
しめじ 1/2パック
A水 500ml
A昆布 10cm
Bプレーンヨーグルト 100g
B味噌 大さじ2
B白すりごま 大さじ1
B砂糖 小さじ1
Bしょうゆ 小さじ1/2
<作り方>
・豆腐は食べやすい大きさに切る。春菊は固い部分を切り落とし、4cm幅のざく切りにする。しめじは軸を切り落とし、ほぐす。
・鍋にAと水を入れて熱し、豆腐を加える。煮立ったら春菊としめじを加え、具材に火を通す。Bは混ぜ合わせる。
・器に2を盛り、Bをかける。
とん平焼きヨーグルトソース

卵とキャベツの胃にやさしい組み合わせに加え、マヨネーズを使わずヨーグルトでコクを出し、ヘルシーにできる点が特徴だ。
<材料名/2名分>
豚こま切れ肉 120g
千切りキャベツ 50g
もやし 50g
卵 2個
サラダ油 大さじ1
塩・こしょう 各少々
プレーンヨーグルト 大さじ3
お好み焼きソース 適量
削り節 適量
小ねぎ 小さじ2
<作り方>
・フライパンに油を熱し、豚肉を炒める。肉に火が通ったらキャベツ、もやし、塩、こしょうを加えてさっと炒め、取り出す。
・卵を割りほぐす。1のフライパンを再び熱し、溶き卵を流し入れ、全体に広げる。火が通ったら1を片側にのせる。反対側の卵をかぶせるように半分に折りたたむ。
・器に2を盛り、ヨーグルトを表面全体に塗り、ソースをかけて削り節、小ねぎをのせる。
ホットバナナヨーグルトドリンク

消化のよいバナナとはちみつと、胃腸の働きを助ける乳酸菌が合わさり、心身を温める一杯として役立つ。どれも手軽に作れるため、胃に負担を感じた日の食事として取り入れやすい。
<材料名/2名分>
バナナ 1本
プレーンヨーグルト 200g
はちみつ 大さじ1
シナモンパウダー 少々
<作り方>
・バナナは皮をむき、ミキサーにシナモンパウダー以外の材料と入れて滑らかになるまで撹拌する。
・耐熱カップに1を注ぎ、1つずつ電子レンジ600wで1分30秒加熱する。お好みでシナモンパウダーをふる。
(カコミ)
レシピ監修:渥美 まゆ美(渥美・まゆ美)
株式会社Smile meal 代表取締役。管理栄養士、フードコーディネーター、料理研究家、健康運動指導士。現在は出版、メディア出演、レシピ開発など体にプラスな料理の提案をすると共に、企業向け健康セミナーの講師も担当。健康寿命を伸ばすために必要な栄養の知識と調理力、食事選択力の普及を目指して幅広い分野で食と健康に関わる活動をしている。
年末年始こそ“胃の声”に耳を傾けたい
忙しさのなかで見落とされがちな胃の不調だが、改善への道は決して難しくない。生活のリズムを整え、姿勢を意識し、胃にやさしい食事を選ぶ——小さな積み重ねが胃疲れの軽減につながる。もし症状が長引くなら、自己判断ではなく医療機関に相談することが重要だ。イベントが続くこの季節こそ、自分の身体と向き合う好機でもある。
胃が健やかであれば、食事も会話も時間もより豊かに感じられるはず。年末年始を気持ちよく過ごすために、今日からできる“胃活”を始めてみたいものである。