「おかずは5品から3品、2品に」家計簿から見える物価高騰 8.9兆円の対策に専門家が警告「100%違う」【報道特集】

特集は年の瀬も止まらない、物価高騰についてです。影響は商店街から年金生活の人まで広く及んでいます。20年以上つけている家計簿からは、生活への圧迫感が見えてきます。
【グラフを見る】名目実効為替レート 日本だけ大きく価値を下げる
「物価ここで止まって」年の瀬迎える商店街に深刻な影響
止まらない物価高。
年の瀬を迎える東京・下町の商店街では、深刻な影響が出ている。
山本恵里伽キャスター
「どういったものが(仕入れ値)上がっていますか」
惣菜店 店主
「全体的じゃないですか。分け隔てなく。嫌だ。サバが上がった。一番上がったんじゃないかな」
じゃがいもも市場価格がこの半年で急激に高騰し、煮物は1割値上げしたという。
惣菜店 店主
「お客さんの反応がすごく気になっている、(値段を)上げた日は。とりあえず物価ここで止まってほしい、この水準で」
仕入れ値は上がったが、商品の値上げはできない精肉店もある。
精肉店 店主
「値上げするとお客さん来てくれなくなっちゃうので、うちの利益を削って何とかする。10円20円上げただけでもガクッと人が減るのは長年やってきて体感しているので、怖さはあります」
団子が人気の和菓子店は、原料のもち米の価格高騰に苦しんでいた。
和菓子店 従業員
「数か月ごとに、米農家から『少し上げたい』という相談を受けている状態です。ちょっと商売としては難しいかな」
16日、コロナ禍後、最大規模となる18兆3000億円の補正予算が成立した。子ども1人あたり2万円給付など、物価高対策に8兆9000億円が充てられる。
高市総理(17日)
「国民の皆様が直面している物価高への対応、これを最優先に働いてきたつもりでございます。補正予算の成立という形で、国民の皆様への約束を一定程度果たすことができたことについては嬉しく思っております」
だが、物価高による倒産は過去最多を更新。50年続いた老舗和食店も閉店に追い込まれた。
物価高で老舗も閉店 倒産件数も過去最多を更新
鹿児島市内で50年間営業を続けてきた老舗の和食店「広活」。毎朝、市場直送の新鮮な魚を仕入れている。
長く地元で愛されてきたが、12月20日の営業をもって閉店する。入口の扉には、50年間の感謝を伝える張り紙が。
閉店の理由は「物価高」だ。
「広活」2代目店主 仮屋崎博之さん(49)
「卵とか(1箱約10キロ)2000円台だったのが、今もう4000円近くなっています。これがじわじわ来る。年の初めに2400円ぐらいだったのが、ひと月経って2500円になって。3000円になったと思ったらじわじわとのってくるから、だんだん『あれ、おかしいな』とのしかかってくる感じ」
人気メニューは、卵をたっぷり使ったかつ丼。2024年から100円値上げし、950円に。
――どれも値段が上から貼られていますね。これは値上げしたという?
「広活」2代目店主 仮屋崎博之さん
「コストの分を上げさせてもらって、卵を使うやつは全部(値上げした)」
これ以上の値上げはできないと、11月に閉店を決断したという。
帝国データバンクによると、2025年4月~9月までで、物価高による倒産は488件と集計開始の2018年度以降過去最多を更新した。業種別で見ると、飲食店を含む小売業が全体の2割以上を占める。
――閉店すると聞いてどう思った?
お客さん
「寂しくなるな。残念ですね。まだ続けてほしいんですけどね」
「すごい素敵なお店がなくなるのは、思い出が一つなくなったような感じがします」
――お客さんから「どうにか続けられなかったのかな」という声も
「広活」2代目店主 仮屋崎博之さん
「同じ金額売り上げても利益がどんどん削られていっている。それが自分の商売の売り上げとか関係ないところでどんどん削られていく。気持ち的にもだいぶきついですよね」
高市総理のインフレ対策「完全に間違っている」さらなる物価高の懸念
今回の補正予算をめぐっては、立憲民主党などから規模の大きさを批判する声が相次いだ。
立憲民主党 安住淳 幹事長
「物価高への対応は必要だとしても、なぜこれだけの規模に膨らませる必要があったのか極めて疑問です」
立憲民主党 今井雅人 議員
「財政は抑制的にやらないと危ない。危機感が足らないのではないか」
だが16日、2024年を4兆円以上上回る18兆円を超える補正予算が自民・維新・国民・公明などの賛成多数で成立した。財源の6割は国債の追加発行で賄われることになるが、高市総理はこう強調した。
高市総理(17日)
「日本に今必要なことは、行き過ぎた緊縮財政により国力を衰退させることではなく、責任ある積極財政は先を見据えた戦略的財政出動であり、決して規模ありきで、いたずらに歳出を拡張していくことを意味するものではありません」
異次元の金融緩和と機動的な財政出動を掲げていたアベノミクス。高市総理はこれまでその基本路線を継承する方針を示してきた。
こうした高市総理の経済政策に警鐘を鳴らすのは、アベノミクスの“生みの親”と言われるイェール大学の浜田宏一名誉教授(89)だ。
イェール大学 浜田宏一 名誉教授
「アベノミクスが始まった時代と現在とは全部違っているので、『金融政策をアベノミクスと同じにせよ』と言うことは間違いであると思います」
アベノミクスは物価が下がり続けるデフレからの脱却を掲げ、安定的な2%の物価上昇を目標にしてきた。
物価高対策を柱とする今回の補正予算が、逆にさらなる物価高を招く恐れがあると浜田氏は言う。
村瀬健介キャスター
「(高市総理は)今回の補正予算も財政拡大路線を鮮明にしています」
イェール大学 浜田宏一 名誉教授
「(高市総理の)インフレ対策については完全に間違っていると思います。現在の補正予算に関する限り、僕は正反対で100%違っていると言ってもいい。需要があるから物価が上がるので、ガソリンの特別税(暫定税率)廃止とか2万円給付とか、国民全体が使う。そうするとインフレは治らない。(インフレが)促進されるようなことになってしまう」
家計簿からも見える物価高 「一時的なものでは解決にならない」
物価高は、家計にも大きく影響している。
横浜市に住む松岡育子さん(57)は、3年前に大学生の息子が一人暮らしを始め、会社員の夫と2人暮らし。
結婚当初からつけているという家計簿を見せてくれた。
横浜市在住 松岡育子さん
「2002年から2020年まで紙でつけていて、2021年からはパソコンのクラウド家計簿につけています」
23年間つけ続けている家計簿。物価が上がり始める前の2020年と11月を比較してみると…
松岡育子さん
「お米だと2462円」
村瀬キャスター
「これ見ると安いという感じがします?」
松岡育子さん
「やっぱりしますね」
松岡育子さん
「先月11月で検索すると、買ってますね、お米。5キロで5377円」
村瀬キャスター
「これすごい、倍以上になっている」
松岡育子さん
「おコメは買わないといけないので、高いのは困りますよね」
2020年には531円で購入していたレギュラーコーヒーが、2025年11月は645円と100円以上値上がりしていた。
村瀬キャスター
「やっぱり上がってますか」
松岡育子さん
「上がってます、(量が)まず減ってますね。でもコーヒー好きだから買っちゃうんだけど、高いなと」
パンも大好きで、以前は月に5000~6000円分買っていたというが、今は節約のために手作りしている。
松岡育子さん
「2020年は食パン171円で買ってますけど、今絶対買えないですから。毎日食べるから買っていると高いので、作ることにしてます」
円安などの影響で物価高は止まらず、11月の全国消費者物価指数は前の年の同じ月より3.0%アップ。上昇は51か月連続だ。
松岡育子さん
「今こうやって昔の家計簿を見返したりすると、生活に使えるお金が圧迫されているなという気はします」
村瀬キャスター
「物価高に追いつくぐらいの収入増は実感されていますか?」
松岡育子さん
「されてません」
松岡さんは出費を切り詰めているほか、11月からは週2~3回、パート勤務も始めた。
村瀬キャスター
「補正予算が成立して、いろんな物価高対策ということで政策が打たれていますが」
松岡育子さん
「どれだけ我が家の家計に恩恵があるのかなと思うと、ちょっと疑問は残ります。それでは追いつかないぐらい物価高進行してしまっている気がするので、一時的なことでは何の解決にもならないだろうという気がします」
「生活が苦しい」世帯は約6割に 影響は年金生活者にも
物価高の影響は、年金生活者にも。
名古屋市に住む松江さん夫婦。夫の譲さん(79)は、6年前からシルバー人材センターの仕事を始め、小銭を貯めている。
妻・洋美さん
「なるべく使わないように。お正月だよね、孫たちに小遣いあげないかん」
――お年玉?
妻・洋美さん
「お年玉と誕生日がばーっとある。そういうお金も考えておかないといけないもんで」
ひと月に使える年金は18万円ほど。妻の洋美さん(79)がつけている家計簿には…
妻・洋美さん
「休みにした、生協の配達を休みに。月に1回。ちょっと節約しないかん。お米もなんでもここで買ってるんです、猫のエサまで」
毎週、食料品や日用品などを配達でまとめ買いすることを、約50年間欠かさず続けてきたという。しかし節約のため、2025年10月から配達の回数を減らした。
妻・洋美さん
「まとめ買いを月1回休みにするとちょっと浮いて、1万円ぐらい違ってくる」
「食べることを何しろ少なく。前は5品ぐらい作っとったんですけど、3品にするとか、2品にするとか」
洋美さんは配達の明細書を保管している。10年前は188円だった2人前の味噌煮込みうどんが、2025年は238円に値上がりしていた。
夫婦の長年の習慣にも変化が。
――シルビアって?
妻・洋美さん
「喫茶店。もう今行ってないんです、高くなってから。8月ぐらいからやめました、喫茶店行くの」
その喫茶店には毎週日曜日、夫婦で通っていたという。
家計簿には、いつも頼むサンドイッチ代がメモされていて、10年前は620円だったが、2025年は800円と記録されている。
急に店に行くのをやめたことが心残りだ。
――お店の人はどう思ってる?
夫・譲さん
「わからん、『どうしたんだろう』と言ってるんじゃない」
妻・洋美さん
「来なくなって『亡くなったかな』と思われてると思う」
厚労省による調査では2024年、生活が「苦しい」と答えた世帯は全体の58.9%にのぼった。さらに、「大変苦しい」と答えた世帯は5年前と比べ、6ポイント以上増えている。
松江さん夫婦が求める物価高対策は。
妻・洋美さん
「おこめ券じゃなくて、消費税を減らしてもらった方がいい」
夫・譲さん
「食料品だよね、本当はゼロまで減らしてほしいけど、5%ぐらいまで(下げてほしい)」
エコノミストが指摘 8.9兆円の物価高対策「本質的な解決にはならない」
ガス・電気代の補助や、おこめ券など8兆9000億円に上る“物価高対策”。
エコノミストの熊野英生さんは、「本質的な解決にはなっていない」と疑問を呈す。
第一生命経済研究所 熊野英生 首席エコノミスト
「1回やったら物価高対策としての支援効果は終わってしまう。火元をそのままにしながら家計に寄り添うような支援というのは、一見ありがたい『やってる感』はあるが、何度も何度も繰り返さないといけない。物価高に対する家計の苦しみというのは、今後ずっと続いてしまう。本質的な解決ではないというところが問題」
熊野さんは、「物価高の一番の原因は円安にある」と指摘している。
主要先進国などの通貨価値の推移を示したグラフを見たときに、コロナ禍前の2020年初めを基準にすると、日本円だけが大きく価値を下げている。そのため、輸入コストが上昇しつづけている。
「物価の番人」である日本銀行は、19日に政策金利を0.25%引き上げ、30年ぶりに0.75%とする決定をした。行き過ぎた円安を是正するためなどとしているが…
第一生命経済研究所 熊野英生 首席エコノミスト
「アメリカと日本の金利差が縮小するので、ドル安円高になっても全くおかしくない状況だが、為替レートはむしろ円安方向にいっている」
熊野さんは、高市政権による「国債頼みの積極財政は円安を助長しかねない」と話す。
第一生命経済研究所 熊野英生 首席エコノミスト
「高市政権がもしかすると、本予算=来年度の予算でもかなり大盤振る舞いをするのではないかと。それが再び補正予算の次の『円安圧力』として控えているので、日銀は0.25%の利上げを行っただけでは、焼石に水だと。財政不安の部分を背景にしながら円安が進み、物価が上昇してしまうという、悪循環の図式もあるのではないかと私は見ている」