世界に広がる「エプスタインファイル」の衝撃 性加害の現場か アメリカ現地取材「ゾロ牧場」で何が?【報道特集】

世界を揺るがしているエプスタイン事件。1000人を超える女性が性被害を受けたとされながらなぜエプスタイン元被告は長年、司法の手を逃れることができたのか。現場となったニューメキシコ州を現地取材しました。
【写真で見る】「好き放題できる彼だけの『遊び場』」捜査が行われていなかった“ゾロ牧場”を現地取材
女性を追いかける動画も… 世界を大きく揺るがす「エプスタインファイル」
ーー貴方の金は汚いですか?
ジェフリー・エプスタイン 元被告
「いいえ。私が心を込めて稼いだ金です」
ーー自分が悪魔だと思いますか?
ジェフリー・エプスタイン 元被告
「いいえ。私は良い心を持っています」
これは、今回公開された捜査資料に含まれている映像。
投資会社の経営で巨万の富を築いたジェフリー・エプスタイン元被告。
2019年、未成年者の性的人身売買などの罪で起訴された後、拘置所で死亡。自殺とされている。
司法省が公開した捜査資料は300万ページを超え「エプスタインファイル」と呼ばれている。
そこから政財界の有力者との繋がりの深さが次々と明らかになり、世界を大きく揺るがしている。
女性の上に覆いかぶさるのは、イギリスのアンドリュー元王子。同じく、イギリスのピーター・マンデルソン前駐米大使。いずれも逮捕され、エプスタイン元被告に機密情報を漏洩した可能性がある。
膨大なファイルには、エプスタイン元被告が女性を追いかける動画や、女性と一緒の映像や写真が多数含まれていた。
カリブ海に浮かぶ元被告が所有していた島。こうした豪邸で少女を含む、多くの女性に対する性加害があったとみられている。
捜査が行われていなかった“ゾロ牧場”を現地取材 「好き放題できる彼だけの『遊び場』」
エプスタインファイルの公開をきっかけに、真相解明に動き出した場所がある。現地へ向かった。
アメリカ西部・ニューメキシコ州、荒野を貫く道路を進むと…
村瀬健介キャスター
「ここが事件現場となっていた牧場の入口ですね」
通称「ゾロ牧場」。エプスタイン元被告が1993年に州知事から購入した広大な土地だ。
東京ドーム約700個分とも言われている敷地には、専用の滑走路などもあったという。
村瀬健介キャスター
「丘の上にあるのが、性加害の現場となった邸宅です。あの邸宅の中で何人もの少女たちが性加害を受けたとされています」
FBIなどは、エプスタイン元被告による被害者は1000人を超えるとみている。
ゾロ牧場で被害に遭った1人が、アニー・ファーマーさんだ。
アニー・ファーマーさん
「これは私と姉のマリアの写真です。私が16歳、姉が25歳で、エプスタインらから虐待を受けたころのものです。被害者たちは、正義の追及は党派を超えた問題だと繰り返し訴えています。犯罪が適切に捜査されず、多くの少女らが被害に遭ったのです」
被害者の訴えの一方で、ほとんど捜査が行われてこなかったのが「ゾロ牧場」だ。
現場には、被害者の救済を求める市民団体によって、モニュメントが設置されていた。
そこには「私たちにはあなたたちが見える。聞こえる。信じている」と書かれている。
市民団体のメンバー、リッキー・ドレイクさんは…
被害者救済を求める団体 リッキー・ドレイクさん
「何年もの間、被害者たちは気づかれもせず、声も聞いてもらえず、誰も行動を起こしませんでした。好き放題できる彼だけの『遊び場』だったのです」
村瀬健介キャスター
「ここに立って何を感じる?」
被害者救済を求める団体 リッキー・ドレイクさん
「胸が張り裂けそうです。怒りを感じ、そして、勇気をもらい…。ここに立つと被害者たちがどれほど孤独だったのか。私たちがもっと激しく戦わないといけないと感じます」
荘厳なシャンデリアにプール…元従業員が提供した“ゾロ牧場”の邸宅写真 「牧場に遺体が埋められている」と告発するメールも
牧場は現在、エプスタイン元被告とは別の所有者になっている。
地元のラジオ局にもゾロ牧場の疑惑を伝える証言が寄せられていた。
エディ・アラゴンさんの番組には、2019年頃からゾロ牧場の元従業員らによる内部情報が寄せられるようになった。
地元ラジオ局 エディ・アラゴンさん
「これがゾロ牧場の間取りです。情報をくれたのは(ゾロ牧場の)従業員でした。従業員数はそれほど多くなく、12人~15人程度だったとみられています」
アラゴンさんが元従業員から提供を受けた邸宅の内部とされる写真。
書斎にはアンティークの机が置かれ、荘厳なシャンデリアが吊るされていた。また、屋内プールもあるという。
地元ラジオ局 エディ・アラゴンさん
「私たちは、ゾロ牧場に捜査の手が入ると期待していましたが、そうはなりませんでした。なぜなのかは説明がつきません。当局による“隠ぺい”があったのだと思っています。捜査したくなかったんですよ」
さらに、アラゴンさんは「『牧場に遺体が埋められている』と告発するメールが送られてきた」と話す。
地元ラジオ局 エディ・アラゴンさん
「メールは丘に遺体が埋まっているという内容でした。『エプスタインの牧場に外国人少女2人の遺体がある』と。私はFBIに情報提供しました」
そして今、エプスタインファイルが公開されたことで、ゾロ牧場の実態が徐々に明らかになってきている。
ファイルには、アラゴンさんが元従業員から提供された「あの書斎」と同じ部屋とみられる写真も含まれていた。
一連のデータにあった司法省が顔を黒く塗った人物が、牧場に連れてこられた女性とみられる。
射撃をする女性の姿も…。
女性がベッドでくつろぐ様子やストレッチをしているような写真もあった。
「『何かが起きている』とは感じていた」 ファイル公開で動き出した調査
2026年2月、ついにニューメキシコ州の司法当局が動いた。
国の司法省に対し、事件に関する資料の提供を求めていくとする声明を発表した。
また、ロイター通信によると「遺体が埋められている」とするメールの開示も要求したという。
調査の中心になるのは、2月16日、州議会に設置されることが決まった民主・共和両党の議員による委員会だ。その名も「真実委員会」。
委員の1人、マリアナ・アナヤ議員が取材に応じた。
「真実委員会」マリアナ・アナヤ 州下院議員
「私たちは、ゾロ牧場に対して十分な捜査が行われていなかったという事実を最近になって知ったのです」
村瀬健介キャスター
「なぜ彼女たちの声が当局に聞き入れられなかったのか?」
「真実委員会」マリアナ・アナヤ 州下院議員
「裕福で権力があり、人を操ることに長けた人たちが関わっていたため、多くの被害者が声を上げるのを恐れていました。脅迫を受けたり、家族が危険に晒されたりした人も大勢います。地元では、かつてあの場所を『プレイボーイマンション』と呼ぶ人もいました。『何かが起きている』と感じてはいたのです」
今後、真実委員会は、牧場の立ち入り調査をする方針だ。
「真実委員会」マリアナ・アナヤ 州下院議員
「この問題の『責任』は加害者や共犯者だけではなく、被害者を守れなかった『社会の仕組み』にも及んでいる。捜査が行われてこなかった仕組み全体を問い直す必要があります」
「汚いマットレスの上で…」36年前の性被害 エプスタインファイルに男の名前が
エプスタインファイルの公開がきっかけで、事態が動き出した人もいる。
スウェーデン出身で元モデルのエバ・カールソンさん(56)だ。
エバ・カールソンさん
「エプスタインファイルが公開された後の去年12月、あの男の正体がわかったのです」
カールソンさんは20歳だった36年前(1990年)、スウェーデンで出会った男にモデルとしてスカウトされ、フランスに渡ったという。しかし…
エバ・カールソンさん
「あの男の顔はよく覚えています。カンヌに連れて行かれて、プールにある小屋の汚いマットレスの上でレイプされたんです」
カールソンさんを暴行したという男は、偽名を使っていたため、これまで特定できなかったという。
しかし、フランスのジャーナリストの協力で、エプスタインファイルに登場する「A」という人物だと確信したという。
エプスタインファイルで、Aの名前を検索すると1800件以上ヒットする。その中に、Aがエプスタイン元被告に女性の写真を送った際のやり取りがあった。
Aのメッセージ
「かわいいフランス人の女の子、22歳。彼女は喜んであなたに会いたいと言っている」
エプスタイン元被告
「かわいいね」
エバ・カールソンさん
「メールを見れば、あの男がエプスタインにとても気に入られていたことがわかります。常に女の子を探し、他の男のところにも送り込もうとしていましたが、その筆頭はもちろんエプスタインに違いありません」
エプスタインファイルの中にある捜査資料で、Aはエプスタイン元被告に女性を手配する「リクルーターの疑い」と記されているが、逮捕などはされていない。
カールソンさんは2026年2月、Aをフランスで刑事告訴したが、地元テレビ番組に出演したAの弁護士は「違法な性的行為は一切していない」などと主張した。
エバ・カールソンさん
「告訴するのは大きな決断でした。でも、これは私だけの問題ではない。何千人もの女性たちの問題なのだから、重要だと思いました。エプスタイン一人にとどまらない、世界規模の小児性愛者ネットワークなのです。彼らは裁きを受けるべきです」
2006年の逮捕は“週6日の外出許可”“13か月で保釈” 「正義の歪曲」を動かした報道
エプスタイン元被告が、2019年に逮捕されたきっかけは、マイアミの地元紙の調査報道だった。
実は、エプスタイン元被告は、2006年に一度逮捕されているのだ。
多くの性的暴行の証言があったが、未成年者への性的虐待などの罪では起訴されず、売春勧誘1件のみの軽い罪で刑が確定した。
禁錮18か月だが、週の6日は外出が許可されたうえ、13か月で釈放された。
このときのマイアミの連邦検事がアコスタ氏。
エプスタイン元被告が軽い罪を認める代わりに、司法取引を行い、将来にわたって起訴しない免責も与えたという。
このアコスタ氏は約10年後、トランプ政権の労働長官に就任した。
これに疑問を抱いたのが、地元紙「マイアミ・ヘラルド(調査報道部門)」のジュリー・ブラウン記者だった。
マイアミ・ヘラルド(調査報道部門)ジュリー・ブラウン 記者
「加害者を逃した男が人身売買を取り締まる機関の長官になることを、被害女性たちはどう思うだろうか。それが(調査報道の)始まりでした」
2018年11月、マイアミ・ヘラルドは「正義の歪曲」というタイトルで調査報道キャンペーンを展開した。
当時、調査報道部門の編集長を務めていた、ケイシー・フランク氏が取材に応じた。
山本恵里伽キャスター
「エプスタイン問題は長年、闇の中にありました。どうしてだとお考えですか?」
マイアミ・ヘラルド(調査報道部門)ケイシー・フランク 元編集長
「エプスタイン元被告の弁護団が巧妙に事件を葬り去ったためだと思います。司法取引の内容を、被害女性たちに知らせないよう(検察側に)要求したのです。ジュリー・ブラウンが掘り起こすまで事件は終わったことになっていた」
捜査が一旦終了してしまった中で、改めて、被害者に協力を求めるのは困難を極めたという。
マイアミ・ヘラルド(調査報道部門)ケイシー・フランク 元編集長
「エプスタイン事件の膨大な記録を調べて、被害者につながる小さな手がかりを探さなければなりませんでした。
ジュリー・ブラウンは60人を探し出しました。8人が取材に応じ、最終的に4人が実名で証言しました。被害者が声を上げるきっかけになったことを誇りに思います」
マイアミ・ヘラルドの報道から半年余り後の2019年7月6日、エプスタイン元被告は、未成年者の性的人身売買容疑で逮捕された。
起訴したジェフリー・バーマン連邦検事は…
ジェフリー・バーマン連邦検事(当時)
「素晴らしい報道が捜査の助けになりました」
逮捕から6日、司法取引をしたアコスタ労働長官の辞任が発表された。
“エプスタインファイル”の欠けた50ページ トランプ氏の関与は?
エプスタイン元被告とトランプ氏。
エプスタインファイルにも2人の関係を示す資料がある。
プライベートジェットの搭乗者記録には、トランプ氏の名前が少なくとも8回記されていた。
だが、トランプ氏は「約20年前に仲たがいをして関係を断った」元被告の犯罪行為については「知らなかった」と説明している。
2024年の大統領選で、トランプ氏はファイルを公開すると強調していた。
トランプ氏(2024年9月3日公開 Lex Fridman氏のPodcastより)
「エプスタインの件は公開しよう。私は問題ない」
しかし、大統領就任後は一転、公開に消極的な姿勢を見せた。
これに熱烈なトランプ支持層のMAGA派の一部が反発した。
アメリカ在住のジャーナリストの津山恵子氏は、これが公開の流れに大きな影響を与えたと話す。
米ジャーナリスト 津山恵子氏
「特にトランプ支持者の方から『いやそれはおかしい』と」
日下部正樹キャスター
「MAGA派の人たちの支持を失うのではないか。それを見て、一転、公開すると判断をしたということでよろしいのでしょうか?」
米ジャーナリスト 津山恵子氏
「一番にトランプ支持者からの反応というのを気にしている」
結果、全文を公開する法律が共和党議員も賛成して成立した。
公開されたエプスタインファイルには、トランプ氏の名前を含む資料が1000以上あるが、アメリカ政治が専門のラリー・サバト教授はこう見る。
バージニア大学政治センター ラリー・サバト 所長
「トランプ大統領は逃げ切ってしまうのではないかと思います。どのような形であれ、訴追するのは非常に難しいでしょう。上下両院とも共和党が支配していますし、パズルの重要なピースは全てトランプ氏の味方なのです」
ファイル開示の責任者である司法省の長官も、トランプ氏を擁護する姿勢を隠さない。
パム・ボンディ 司法長官
「トランプ大統領がファイル全てを公開する法律に署名した。彼こそがアメリカ史上、最も透明性の高い大統領です」
だが、アメリカメディアからは「隠された資料がある」との報道が相次いでいる。
ファイルに振られた通し番号と、元の捜査資料の通し番号を比較して、約50ページが欠落していることを突き止めた。
報道によると、トランプ氏から性加害を受けたという少女の訴えに関するメモが含まれているという。
バージニア大学政治センター ラリー・サバト 所長
「司法省が隠そうとしたファイルに何が入っているのか、私も知りたいです。ほぼ全会一致で可決した法律によって、全ての公開が義務付けられているにもかかわらず、なぜそんな大きなリスクを冒してまで隠したのか。そこが非常に疑問です」