命をつなぐ“ドナー休暇”企業も支援「会社休んでも社会に貢献」一方で4人に1人“仕事で断念”普及に課題も【news23】
白血病などの患者の命をつなぐ、骨髄バンク。実は、ドナーに選ばれても4人に1人が仕事と両立できず、提供を断念しています。「ドナー休暇」を活用し、実際に協力した人を取材しました。
【写真を見る】血液をつくるもとになる細胞を腕から取り出す様子
「仕事を休めないこと」を理由に多くが辞退
骨髄バンクにドナー登録をしている當銘梨夏さん。
當銘梨夏さん
「命を救うってすごい大変なことなんだなって。家族だったり職場だったりの支えがあってできること」
白血病など、血液の病気がある患者を救う骨髄バンク。ドナーは自分の「健康な血を作る細胞」を第三者に提供します。
大手損保会社で働く當銘さん。2017年に入社し、現在は広報を担当しています。
當銘梨夏さん
「(Q.仕事楽しいですか?)楽しいです!広報の仕事って会社と社会の接点になるような部署だと思っていて」
なぜ、登録を決めたのか。きっかけは家族の病気でした。
當銘梨夏さん
「祖母が再生不良貧血にかかって、骨髄移植ではないが、別の形で医療の皆様のお力をお借りしたことがあった」
血液を作る細胞の機能が低下する難病にかかった祖母。その経験から、ドナー登録に強い関心が芽生えました。
ドナーになることを聞いた同僚は...
同僚
「いやびっくりしました。何回か聞き直したかも。登録をしていたっていうのも全然知らなかった」
ドナーの適合率は、血のつながりがない場合、なんと数百〜数万分の一と、奇跡ともいえる確率。
にもかかわらず、日本骨髄バンクによると、実は4人に1人が「仕事を休めないこと」などを理由に提供を辞退しています。
その理由となっているのが「休む日数」。
細胞を採取するまでに、面談や検査など複数のステップがあり、平日に10日以上仕事を休まなければならないのです。
“ドナー休暇”の利用「無事に帰ってくるまで全力でフォロー」
當銘梨夏さん
「ドナー休暇ということで、お休みをいただくことにしております」
そこで當銘さんが利用したのが、“ドナー休暇”です。
こちらの企業では、ドナーやボランティアなど社会貢献活動を理由に年間12日間までの休暇が取れる制度を導入しています。
同僚
「でもちょっと怖い…怖いなって。血がこうなっているのが見えるっていうか」
上司
「体に一定負荷がかかるというのは間違いないでしょうから、無事に帰ってきてくれることを楽しみにしてますし、それまで全力でフォローしましょう」
そして迎えたドナー休暇。この日は病院で移植に必要な細胞を増やすための注射をうち、採取日に向けた準備を進めていました。
日ごろの食生活でも…
當銘梨夏さん
「(検査の結果)ヘモグロビンの値がちょっと低めということだったので、そこもなるべく意識はしたいなと思って」
作っていたのは、ほうれん草のおひたしやレバニラなど、鉄分の多い料理。ドナーになることが決まってから、食生活にも一層気を遣っています。
夫・祐輔さん
「(ドナー側にも)体の負荷は当然出てくるものはあるから、パートナーとしてちゃんと理解する必要があるなって思いながら、懸念はしながらも、前向きに話をちゃんと聞きたいというふうに思っていました」
“ドナー休暇”検討企業4.5% 制度の普及が課題
そして、採取当日。今回は、腰の骨から骨髄を採取するのではなく、血液をつくるもとになる細胞を腕から取り出すことに。
ただ、全身麻酔をかけていないため…
當銘梨夏さん
「あ、結構痛いですね」
腕の血管にうまく針が入らないという予想外の事態にみまわれ、何度かやり直すことに。
そして、試行錯誤すること1時間。
病院スタッフ
「よさそうです!」
當銘梨夏さん
「あーーよかったーーー」
医師
「今までで一番よさそう」
採取は無事完了。その後、患者さんへの移植も成功したということです。
命を救うドナー休暇。導入している企業側の狙いは…
あいおいニッセイ同和損保 人事部 中冨正人さん
「損害保険会社というのは、“ともに助け合う”という思想のもとでビジネスモデルを展開している。社会貢献活動を尊ぶ企業風土の醸成に繋げていきたい」
現在、ドナー休暇を導入している、または検討している企業はわずか4.5%。専門家は、企業の理解が進んでいないことが課題だと指摘します。
早稲田大学 下野僚子准教授
「(1つ目は)今ある有給休暇で対応すればいいとか、ドナーの休暇制度までしなくても個別に相談してもらえれば対応するよといったスタンス。2つ目としては人手不足の中で働き手がいなくなるのは困るといった現実的な(問題)」
制度の普及はまだまだですが、命のバトンをつないだ當銘さんは...
當銘梨夏さん
「この1回で、どなたかの命やその後の人生にお役立てできるっていうことを考えると、会社を数日間休んだとしても、充分社会に対しては立派な貢献になるだろうなと」
「いってらっしゃい」と送り出せる環境へ
藤森祥平キャスター:
正直ドナー休暇の存在を知りませんでした。しかもまだ導入したり検討している企業は4.5%で少ないですね。當銘さんご自身も会社にこういう制度があることを知らずに、実際に自分で有給を取ろうと最初考え相談をして、会社側が前向きにどうぞいってらっしゃいと。周りの理解はやはり不可欠ですね。
小川彩佳キャスター:
當銘さんのように、つぶさにドナーとしてのプロセスを取材させてくださって、この映像というのは貴重だなと感じましたし、ドナーになった方が、「休んでごめんなさい」ではなく、「行ってきます」と、そして周りの方も「いってらっしゃい」というふうに送り出せるような温かい空気が広がっていったらいいなと思います。
藤森キャスター:
そもそもドナーが少ないことや、どれだけ貴重なのか、負荷がかかることも含めてまず理解を広めた上で、みんなが言いやすく、名乗り出やすい環境を作らないといけませんね。