日常の中から生まれる表現に触れる 大島藤倉学園アール・ブリュット展が笠間で開催
障がいのある方が日々向き合っている創作の時間は、完成した作品だけでなく、その過程にも多くの気づきを含んでいます。身近な紙や使い終えた素材に手を伸ばし、自分なりの方法で形にしていく。その行為そのものが、ひとつの表現として静かに積み重ねられています。
2026年1月、茨城県笠間市の笠間日動美術館では、藤倉学園の利用者による作品を集めた「大島藤倉学園 アール・ブリュット展」が開催されます。専門的な美術教育を受けていない作り手が、決められた型にとらわれず、自身の感覚に従って生み出した作品が紹介される展覧会です。
今回の展示では、リサイクルをテーマに、古新聞やカレンダーの裏紙、流木やペットボトルなど、本来は役目を終えた素材が作品へと姿を変えています。素材の選び方や使い方に正解はなく、一人ひとりの発想がそのまま形になっている点が特徴です。
作品を通して見えてくるのは、アートとしての面白さだけではありません。表現することが日常の一部として根付き、生活の充実や社会とのつながりへと広がっていく、その背景にある取り組みです。本記事では、作品そのものだけでなく、そこに至るまでの時間や想いにも目を向けながら、この展覧会の魅力を紹介していきます。
型に縛られない表現「アール・ブリュット」と、リサイクルを軸にした展示テーマ

今回の展覧会の中心にあるのが、「アール・ブリュット」と呼ばれる表現です。
専門的な美術教育を受けていない人が、自身の感覚や衝動に従って制作する芸術を指し、評価や流行に左右されない点が特徴とされています。
アール・ブリュットは、上手に描くことや完成度の高さを競うものではありません。むしろ、思いついたままに手を動かし、その人なりの方法で形にしていく過程そのものが大切にされます。何を表現するか、どのように仕上げるかに明確な正解はなく、作り手一人ひとりのリズムや感覚が、そのまま作品に反映されていきます。
大島藤倉学園でも、創作活動は特別な時間として切り離されているわけではなく、日常の流れの中に自然に組み込まれています。制作に取り組む際も、細かな指示や完成形があらかじめ決められているわけではありません。素材選びや表現方法は利用者に委ねられ、それぞれが自分のペースで制作に向き合っています。

今回の展示では、そうした創作活動の中から生まれた作品を、「リサイクル」というテーマで紹介します。
古新聞やカレンダーの裏紙、宅配便の梱包材、流木、ペットボトルなど、本来であれば役目を終えた素材が、作品の一部として使われています。捨てられるはずだったものが、別の視点で見つめ直され、新たな表現へと変わっていく点も、本展の大きな特徴です。 素材の選び方や組み合わせ方に決まりはなく、その時々の発想がそのまま形になっています。アール・ブリュットという表現と、リサイクルというテーマは、無理に結び付けられているわけではなく、日常の延長として自然に重なり合っています。今回の展示は、そうした創作の積み重ねをまとめて見ることができる機会とも言えそうです。
制作の現場から見えてくるもの

今回の展示に並ぶ作品は、特別なアトリエや限られた制作時間の中で生まれたものではありません。
大島藤倉学園では、利用者が日常の延長として制作に向き合い、それぞれのペースで手を動かしています。創作の時間は、決められた作業として切り分けられるのではなく、生活の流れの中に自然に組み込まれています。

制作に使われているのは、古新聞や紙素材、流木、ペットボトルなど、身の回りにあるものばかりです。
新聞紙を小さく切り取り、紙の上に一枚ずつ重ねていく人もいれば、流木や廃材を組み合わせ、立体的な作品へと発展させていく人もいます。素材の扱い方や組み合わせに決まりはなく、それぞれが思い思いの方法で制作を進めています。
制作に向き合う時間の長さや関わり方も、人によってさまざまです。
集中して一気に手を動かす人もいれば、少しずつ時間をかけて素材と向き合う人もいます。大きな作品に取り組むことが難しい場合でも、小さな紙を重ねることで表現を広げていくなど、一人ひとりに合った形が大切にされています。
その過程では、完成を急かされたり、一定の形に合わせることを求められたりすることはありません。うまくいかない時間や立ち止まる時間も含めて、表現の一部として受け止められています。そうした環境があるからこそ、利用者それぞれのやり方が尊重され、無理のない形で作品づくりが続けられているようです。

完成した作品からは、素材の面白さや表現の個性だけでなく、制作に向き合ってきた時間の積み重ねも感じ取ることができます。
今回の展覧会では、作品そのものとあわせて、こうした制作の背景に目を向けることで、アール・ブリュットという表現の奥行きをより身近に感じることができそうです。
アール・ブリュット展が目指すものと、理事長の思い

今回の展覧会について、藤倉学園 理事長の小田康之氏は、まずアール・ブリュットという表現そのものに興味を持ってもらいたいと語っています。専門的な美術教育を受けていない作り手による作品には、既存の評価軸とは異なる魅力があり、そこに知的障がいのある方々が活躍できる場が広がっているといいます。
作品は、決められた枠に収まることなく、自由に、そして無心に描かれています。そうした表現の中には、技術や完成度とは別の価値があり、作り手一人ひとりが持つ感性や想像力の豊かさが、そのまま形となって表れています。小田氏は、そうした作品の持つユニークさや可能性を、来場者に素直に楽しんでほしいと考えています。
また、この展覧会は一度きりの発表の場として位置づけられているわけではありません。各地で知的障がい者施設による作品展が行われている中で、藤倉学園としても、アール・ブリュットという芸術の一分野に継続的に向き合っていく姿勢を大切にしています。表現活動に挑戦し続けること自体が、利用者にとって新たな経験や広がりにつながると考えられています。 作品制作は、単に展示のために行われているものではなく、利用者一人ひとりの生活の充実にも結びついています。自由に表現する時間を持つことで、日々の暮らしに張り合いや楽しさが生まれ、それが積み重なっていくことが重要だと小田氏は捉えています。
本展覧会は、作品を見るだけでなく、そうした取り組みの継続そのものに目を向ける機会でもあると言えそうです。
展覧会としての見どころと開催情報

「大島藤倉学園 アール・ブリュット展」は、2026年1月2日から笠間日動美術館で開催されます。展示は前期・後期に分かれており、それぞれ異なる構成で作品が紹介される予定です。 会場となる企画展示館では、利用者による平面作品や立体作品を中心に、日常の中で生まれた多様な表現に触れることができます。制作に使われている素材や表現方法もさまざまで、作品一つひとつから異なる背景や個性が感じられます。

現在、美術館では開催に向けた展示準備が進められており、作品が並ぶ空間づくりも丁寧に行われています。展示作品だけでなく、会場全体の構成を通して、作品と向き合う時間を落ち着いて過ごせるよう配慮されている点も特徴です。
また、会期中は他の企画展も同時開催されており、美術館全体として幅広い鑑賞体験ができる点も魅力のひとつです。アール・ブリュットという表現に初めて触れる人にとっても、身近な素材や素直な表現を通じて、構えずに作品と向き合える展示となっています。
完成された作品を見るだけでなく、その背景にある制作の時間や考え方を知ることで、展覧会はより身近なものとして感じられます。
表現が日常の延長にあることを感じながら、ゆっくりと作品に向き合う時間を過ごしに、会場を訪れてみてはいかがでしょうか。
社会福祉法人藤倉学園 概要
社会福祉法人 藤倉学園は、1907年に日本で四番目の知的障がい児童施設として創立された福祉法人です。現在は、障がいのある方を対象とした支援施設やグループホーム事業を中心に運営しています。1958年には東京都八王子市に多摩藤倉学園を設置し、入所支援や生活介護など幅広い福祉事業を展開しています。
URL:https://www.fujikuragakuen.or.jp