「踏み外すと土台から崩れる」“極秘”外交文書からひもとく対中国外交の核心 台湾・北朝鮮・人権・・・細川元総理が明かす日中首脳会談の舞台裏

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-12-30 07:32
「踏み外すと土台から崩れる」“極秘”外交文書からひもとく対中国外交の核心 台湾・北朝鮮・人権・・・細川元総理が明かす日中首脳会談の舞台裏

12月24日、極秘指定が解除された1994年の外交文書。その中には、当時の細川護熙総理の訪中をめぐる約500ページに及ぶ詳細な記録が含まれていた。台湾問題で神経を尖らせる中国と、対応に細心の注意を払っていた日本。資料を読み解くと、冷戦後の国際情勢を背景に、日中外交の舞台裏が浮かび上がった。

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「日中関係は新たな段階に」中国が“異例の時期”に日本の総理を迎えた理由

1994年3月、北京に降り立った細川氏。
自民党が初めて野党に転落し、非自民連立政権として誕生した政権トップの訪中に、中国側の注目は高かった。

現在、都内のアトリエで創作活動を行う細川氏は、当時の訪中についてこう振り返る。

細川護熙元総理
「この時は中国の全人代(全国人民代表大会)の最中で、外国の首脳を招聘するというほとんど前例のない形で呼ばれたわけです。日本では38年ぶりに政権交代で、こちらとしてもこの時の訪中は大変意味があったし、中国側にとっても日本がどういうことを考えてるのか知りたかったんでしょうね」

全人代は日本の国会にあたる重要な政治日程だ。その最中に日本の総理を迎えたこと自体、異例のことだったという。

実際、訪中に際して当時の外務省中国課が用意した資料には「国交正常化20周年、日中平和友好条約締結15周年という節目を経て、日中関係は新たな段階に入った」と記されている。

しかし、日本側には楽観できない事情もあった。

台湾問題で神経を尖らせた中国 細川総理が語る「対中外交で気をつけた2つのこと」

外務省が作成した訪中資料には、「台湾」という言葉が何度も登場する。

「台湾問題は、一歩対処を誤れば日中関係の根幹を揺るがしかねないデリケートな問題であり、慎重な対応が必要」
「我が国閣僚の訪台、李登輝総統の訪日が実現されれば、はるかに強い反発を示すのは必至」

李登輝氏は台湾出身で初めて総統となり、京都大学農学部に留学した経験を持つ、日本と縁の深い人物だ。当時、中国は李氏が「休暇」と称して東南アジアを訪問したことに強く反発しており、日本訪問への警戒を強めていた。

外交文書には、中国側が日本の事務方に「もし万一リトウキが京都大学の同そう会に出席するため訪日するというようなことがあれば大変なことになる」と発言した記録も残されている。

首脳会談を前に、台湾問題で摩擦が生じないよう神経をとがらせていた日本。そして迎えた李鵬首相との会談について、細川氏はこう語る。

細川護熙元総理
「台湾について特に問題になったっていうことはないですね。中国との外交で気をつけないといけないことって2つだけなんですよ。1つは日中平和条約を遵守しますということ。もう1つは日台関係は、あくまでも非政府間の実務的な関係として維持していきますよということ。この2点は日中の根幹的な関係に関わることなので、そこを間違えて一歩踏み外すようなことがあると日中関係は土台から崩れてしまう」

結果として、台湾問題をめぐる中国側の反発はなく、会談は無事に終了した。そして最も多くの時間が割かれた議題は、意外にも別の問題だった。

北朝鮮情勢で日本が求めたブレーキ 中国の答えは「北風より太陽」

訪中の約1か月前、細川総理はワシントンでクリントン大統領と会談。
帰国直後、アメリカの情報機関から「数か月以内に北朝鮮が軍事行動を起こす可能性がある」との情報がもたらされた。

細川氏は当時の石原信雄官房副長官に、万一に備えた対応の整理を指示したという。

そして北京での日中首脳会談。緊迫化する北朝鮮情勢について、李鵬首相とも長時間にわたり協議が行われた。

細川護熙元総理
「北朝鮮が何か起こすようなことが万一にもないように、中国にブレーキをかけてくれと言ったわけです。李鵬さんからは中国から北朝鮮に対してはいろいろ物が言いやすい立場ということもあり、出来るだけのことはしたいと返事がありました。ただ、北朝鮮は誇りの高い国だから、『北風より太陽』のように、上から押し付けていろいろ言うよりも温かく話してやった方が良いと」

当時の報道では「中国を説得できなかった」との評価もあったが、実際の会談では踏み込んだやり取りがあったという。

「伝えない選択肢はなかった」中国が最も敏感な“人権問題”への向き合い方

中国が特に敏感になっていたのが、人権問題だ。
ウイグル問題や天安門事件後の民主活動家の扱いをめぐり、当時アメリカと中国は激しく対立していた。

外交文書には、中国側から「今この問題をとりあげると首脳会談の雰囲気が気まずいものとなる恐れがあるため、取り上げてほしくない」と事前に伝えられていたことも記されている。

細川氏が選んだのは、公式の会談ではなく晩餐会で伝えるという方法だった。中国側が反発するとしても、人権問題は「当時、世界中が関心を持っていた話題であり、中国に伝えないという選択肢はなかった」と語る。

細川護熙元総理
「一概に西側の民主主義を押し付けることに、私もあまり良い感情を持ってないと。中国も参加したウィーン人権会議宣言にもあるように、人権は人類の普遍的な価値であって、その改善のために各国が努力すべきだと伝えました。アメリカとアジアの言い分の間を取って、ブリッジ役を果たした訳です」

会談後、中国側は「細川総理は人権問題について、李鵬総理の観点と立場を十分理解した」と発表。これに対し、帰国の政府専用機内で記者から真意を問われたという記録も残っている。

当時、中国の人権問題に寄り添う意図があったのか尋ねると、細川氏は「どの国も自分たちに都合よく解釈するんです。そんなことをしないのは、日本くらいです」と苦笑いして答えた。

「中国とどう向き合うのか」元総理が語る、いま日本に必要な外交姿勢

総理を退任した後、当時の小泉純一郎総理の靖国参拝をめぐり日中関係が悪化したときは、北京に飛んで中国との仲を取り持ったこともあるという細川氏。

高市総理の台湾有事をめぐる発言をきっかけに、再び冷え込む日中関係をどう見るのか。細川氏は「改善には時間を要するだろう」と述べた上で、こうした発言があったこと自体に苦言を呈した。

細川護熙元総理
「外交の話は安全ラインだけ踏まえて話をすれば収まるわけですよ。だけどそれを踏み外していろいろ言うと、本当に取り返しのつかない話になる。日中平和条約の遵守と日台関係が非政府間の実務的な関係っていうのは、日中関係を考える人は誰でも承知していなければならない一番の基本ですね」

習近平国家主席との間で「戦略的互恵関係」を推進すると確認している以上、関係改善のためには、その姿勢を高市総理自身の言葉で、繰り返し発信していくしかないと指摘する。

そして、SNSなどで見られる「中国と無理に付き合う必要はない」といった声についても、細川氏は厳しくこう語る。

細川護熙元総理
「日本は島国で海洋国家ですから、国を開いてどこの国とも温かく穏やかに付き合うっていうことをしていかないと成り立っていけませんよ。あいつら駄目だとかね、けしからんとかってばかり言ってたら、どうしようもないと思いますね」

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