冬は血流トラブルが増える季節? 管理栄養士が教えるフィッシュオイル活用術を紹介

冬になると、毎年決まったように体調の波を感じる人がいる。気温が下がり、外に出るのがおっくうになると運動量は自然と減り、気づかないうちに血行が悪くなっている。さらに、冬の乾燥は私たちの呼吸器系や皮膚のバリア機能を弱め、風邪や感染症リスクを押し上げる。日照時間も短くなり、ホルモンバランスが乱れやすくなることで、気分が落ち込みやすくなる人も少なくない。こうした複数の変化が重なる冬は、「なんとなく不調」が積み重なりやすい季節といえるだろう。
では、冬の不調に立ち向かうにはどうすればよいのか。生活習慣の見直しはもちろんだが、毎日の食事に少し工夫を加えるだけで、リスクを減らす手助けになる場合もある。なかでも近年注目を集めているのが、青魚に多く含まれるフィッシュオイル(EPA・DHA)だ。血中の中性脂肪を低下させる機能が報告されているほか、血管のやわらかさを保ち、寒暖差による負担をサポートする可能性も指摘されている。
本記事では、管理栄養士の知見を踏まえながら、冬に起こりやすい体調変化のメカニズムと、フィッシュオイルを中心とした食習慣の工夫について整理する。今日から実践できる小さな「冬対策」こそ、季節に負けない健やかな毎日を支える鍵となるはずだ。
寒さ・乾燥・日照不足…冬に体調を崩しやすい3つの要因とは

冬は体のさまざまな機能に負担がかかりやすい季節である。まず大きな理由として挙げられるのが、気温低下による血管収縮だ。気温が下がると体温を保つために血管が細くなり、血圧が上昇しやすくなる。とくに寒暖差が大きい朝晩は、血圧の変化が急激に起こりやすく、心血管に負担がかかりやすい。
さらに、冬は空気が乾燥しやすいため、鼻や喉、皮膚のバリア機能が弱くなり、ウイルスに感染しやすい状態が続く。これが風邪やインフルエンザといった感染症の増加につながる。不調は身体だけでなく、心にも現れる。日照時間が短くなることでセロトニンやビタミンDの生成が低下し、気分の落ち込みや疲労感、集中力の低下など、メンタル面の不調も表れやすくなる。
運動不足も見逃せない。寒さから外出できる機会が減り、筋肉量の低下や代謝低下、免疫力低下といった悪循環を生みやすい。こうした複合的な要因が重なり、冬は体力・免疫・気分のトリプルバランスが崩れやすい季節だといえる。
寒暖差・ヒートショック対策と日常のセルフケア

冬の健康リスクの中でも特に注意したいのが「ヒートショック」である。暖かい部屋から寒い浴室へ移動したり、熱い湯船から急に立ち上がったりすると、血圧が急変し、めまい・失神・事故につながる場合がある。高齢者は特に注意が必要だ。
日常でできる予防策はシンプルで脱衣所や浴室を事前に暖め、急激な温度差を作らないこと。お湯の設定温度はぬるめを心がけ、入浴中の急な立ち上がりを避けるのも重要である。さらに、朝晩の冷え込みを避け、外出時には手袋や帽子、首元を温めることで体温を安定させられる。また、寒さが原因で関節のこわばりや痛みが出やすくなることもある。これは血流が悪くなることで起こるため、ウォーキングや軽いストレッチ、温かい入浴で血流を改善することが有効だ。冬の健康維持は、温度管理と血流ケアが大きな柱と言える。
冬の血圧変動に寄り添う栄養素、フィッシュオイルの魅力

近年、冬の健康維持において特に注目されるのが、青魚に含まれるフィッシュオイル(EPA・DHA)。EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は体内で作ることができない必須脂肪酸で、食事から摂取する必要がある。
EPA・DHAは、血中の中性脂肪を低下させる機能が報告されており、健康診断で中性脂肪が高めと指摘された人には特に心強い成分だ。また、血管を柔らかく保つ働きがあり、血流のスムーズな巡りをサポートする。寒さによって血圧が上がりやすい冬には、この働きがより注目される。
摂取量についても目安がある。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、n-3系脂肪酸の1日の目安量はおよそ1.7~2.3gとされている。青魚を1日1〜2切れ程度食べることで、この基準を満たせるとされている。過剰摂取に気をつけながら、食生活に適度に取り入れることが望ましい。
青魚+ビタミンE=最強タッグ? 冬におすすめの食べ合わせ
フィッシュオイルは酸化しやすいため、より効果的に摂取するには食べ合わせにもポイントがある。管理栄養士の推奨として挙げられるのが「ビタミンE」との組み合わせだ。ビタミンEには抗酸化作用があるため、EPA・DHAの酸化を防ぎやすくなる。
例えば、サーモンのサラダにオリーブオイルやアーモンドを加えると、EPA・DHAとビタミンEを同時に摂れる。また、ブロッコリー、ほうれん草、パプリカなどのカラフルな野菜と合わせることで、カロテノイドなどの抗酸化物質も同時に取り入れられる。焼き魚に温野菜を添える、サバ缶を野菜スープに加えるといった工夫も、冬の食卓に取り入れやすい。
現代の食生活ではn-6系脂肪酸(揚げ物や加工食品に多い)を摂りすぎる傾向があるため、n-3系脂肪酸とのバランスを意識することも大切である。極端にどちらかを制限する必要はないが、青魚を日常的に取り入れることで、より理想的な比率に近づけられる。
冬の乾燥にもアプローチ? EPA・DHAの潜在的なサポート効果
フィッシュオイルは心血管の健康だけでなく、脳の働きとの関係でも注目されている。特にDHAは脳の海馬や前頭前野に多く含まれる脂肪酸であり、記憶や判断に関わる情報伝達をサポートする可能性が示唆されている。過剰な期待は禁物だが、日常の食事に取り入れやすい点から見ても、継続的に摂る価値はあるだろう。
また、冬特有の体調変化——乾燥や冷え、暖房による湿度低下などにも、EPA・DHAの抗炎症作用が寄り添う可能性がある。肌や体調がゆらぎやすい季節に、食生活で内側から整えるアプローチは、多くの世代にとって実用的な選択肢となる。

監修:管理栄養士 村瀬由真さん
大学にて管理栄養学を専攻し、卒業後は精神科病院にて管理栄養士として勤務。病院給食の献立作成、食材の発注・調理、患者の栄養管理など、医療現場での食のサポートに従事。
冬を快適に過ごす鍵は“毎日の小さな選択”にある
冬は、血管・免疫・気分といった健康の複数領域に負担がかかる季節である。しかし、対策は決して難しいものばかりではない。温度差を意識し、適度に体を温め、睡眠を整える。そして、魚中心の食事を少しだけ意識することで、冬の不調リスクは大きく減らせる。
とくにフィッシュオイル(EPA・DHA)は中性脂肪の低下や血管の健康維持をサポートし、冬の健康づくりに適した成分である。焼き魚、サバ缶、サーモンサラダなど、日常に取り入れやすい形で習慣化できる点も魅力だ。
“冬は仕方ない”と諦める前に、毎日の食事や生活に小さな工夫を加えてみたい。その積み重ねが、寒さに負けない健やかな冬の過ごし方につながるのである。