3年で20本が切断…台湾「海底ケーブル」が直面する脅威と中国の影 最前線・沿岸警備隊パトロールに日本メディア初密着【後編】

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2025-12-31 07:30
3年で20本が切断…台湾「海底ケーブル」が直面する脅威と中国の影 最前線・沿岸警備隊パトロールに日本メディア初密着【後編】

台湾周辺で通信の要である“海底ケーブルの切断”が相次いでいる。一体、台湾周辺の海で何が起きているのか。その実態を知るため、12月はじめ、JNNは日本メディアとして初めて台湾沿岸警備隊(海巡署)の沿岸パトロールに同行した。
前編・後編のうち後編)

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突如姿を現したのは・・・ボロボロの不審船

台湾南部・台南の港から沿岸警備隊の巡視艇が出航し、沖合へ向かう。ここは「台湾海峡」―中国と台湾が向き合う、まさに“最前線”。

台湾海峡は波が荒いことで知られ、この日も強風で船は大きく揺れた。1時間ほど撮影を続けていると、船酔いで立っているのもつらくなるほどだ。

パトロールを終え港に戻ると、港では不自然なほどボロボロな船が目の前に現れた。船の外壁は錆びついていて、とても現役の船には見えない。

船体をよく見ると船の前方には「HONG TAI」と表記されている一方、後方には「SHAN MEI」の文字が。カモフラージュのためなのか、船名を掛け替えられるような枠があるようにも見える。
実は、この謎の不審船が台湾に大きな衝撃をもたらした。

不審船の目的は・・・「海底ケーブルの切断」 有罪判決も

暗闇の中サーチライトで照らされる不審船。

2025年2月、台南沖で海底ケーブルが敷設されている海域に“不審船がいる”と通報が入り、台湾沿岸警備隊が午前4時に現場へ急行。
船籍は西アフリカ「トーゴ」。船員たちは呼びかけても乗船検査に応じない。

並走すること6時間。夜も明け、台湾沿岸警備隊はようやく不審船に乗り込んだ。

不審船に乗っていたのは8名の中国人。

その後、中国人船長は海底ケーブルを示す地図を保有していたことなどから、「海底ケーブルを故意に切断するために禁止海域で錨を下ろした」として懲役3年の判決を受けた。

これが台湾で初めて「海底ケーブル切断」の有罪判決となった。

台湾周辺で相次ぐ海底ケーブル破損 困難極める“故意の証明”

実はこうした不審船の故意による海底ケーブルの切断は台湾周辺で相次いで起きている。台湾沿岸警備隊によると、ここ3年間で少なくとも20本の海底ケーブルが破損した。

そもそも、海底ケーブルの破損は約66%が漁業や、船の錨など「人の活動」によるものだ。ただ、錨によってケーブルを引きずるなど故意に切断しようとした場合、防ぐ術はほとんど無いという。

台湾海巡署 阮仲慶 船長
「海上でできることはケーブルの周辺に近づいた不審船に警告を出すことだけです」

海の中で行われる海底ケーブル切断は海上からは見えない。通報を受けて駆けつけても、不審船は既に現場を離れていたり、またそれが「故意」であることを裏付ける証拠を突き止めるのは非常に難しい。

では、なぜ今回の事件では“有罪判決”まで踏み込めたのか?

台湾当局が進める不審船対策 探知システム構築も

台湾当局が進める対策について、台湾沿岸警備隊ナンバー2に話を聞いた。

台湾海巡署 謝慶欽 副署長
「海底ケーブル切断は、国家安全の問題として考えています。台湾政府は台湾の通信事業者に対して、危険海域の探知システムを義務づけています」

台湾当局は一連のケーブル破損を受け、ここ数年で様々な対策に乗り出した。

海底ケーブルが敷設される海域で、低速で長く滞留する不審船を探知すると通信事業者の探知システムが作動し、すぐに沿岸警備隊へ通報するシステムを構築した。このシステムによって、沿岸警備隊はすぐに現場に駆けつけることができたため、今回の不審船の拿捕に至ったのだ。

さらに、現在台湾の国会では台湾近海で義務付けられている自分の位置を公開するAIS(船舶自動識別装置)の作動を怠った船に対する厳罰化の議論を進めるなど、さらなる対策を打ち出している。

中国政府の関与は? 台湾が警戒する「グレーゾーン作戦」

判決を受けた中国人船長は中国政府の関与を否定している。

これについて中国・山東省威海市の公安当局は12月24日、貨物船は長期間にわたって中国大陸に冷凍食品を密輸しており、密輸の首謀者は台湾人の男性2人であると発表。公安当局は2人を指名手配し、有力な情報には最大日本円で約550万円の懸賞金を支払うとしている。

これらは中国当局がこの船に乗っていた中国人船員と海底ケーブル切断との関与を否定する狙いがあると見られる。

しかし、台湾当局の見方は違う。

台湾海巡署 謝慶欽 副署長
「背後に中国政府がいるかどうか、いまも詳細に調査をしているところです。しかし、政治的な関与の可能性を排除するわけにはいきません」
「台湾海峡で緊張が高まったとき、中国がケーブルを切断する可能性があります。台湾の“グレーゾーン”への脅威は高まっています」

「グレーゾーン作戦」とは中国政府が台湾に対し、武力攻撃ではなくサイバー攻撃や経済的圧力などで、現状変更を試みる行為。海底ケーブルの切断も、この作戦の一環との見方がある。

日本はどうする? 国家安全保障の要衝「海底ケーブル」を守るには

日本も例外ではない。台湾と同じく海に囲まれ、海底ケーブル切断で海外との通信が遮断されるリスクをはらむ。

高市内閣は海底ケーブルを経済安全保障の重要分野に指定。総務省も11月「海底ケーブルの防護等に関する検討会」を立ち上げた。

専門家は、日本は海底ケーブルの拠点として重要な場所に位置していると指摘する。

慶応義塾大学 総合政策学部  土屋大洋教授
「アメリカの西海岸から繋がっているケーブルは直接、日本の千葉県や茨城県に繋がります。さらにそこから台湾、香港、東南アジアに海底ケーブルが繋がっていく。日本はある意味、アジアの“ゲートウェイ・玄関口”になってるわけです」

地理的に重要な場所に位置するアジアの“玄関口”である日本にはさらなる課題が。

世界の主要企業(米・仏・中国)は政府支援を受けて海底ケーブルに関する事業を強化している一方、日本はケーブルの製造〜敷設〜修理までの全てを民間企業に依存している。

海底ケーブルの分野を研究する土屋教授は「本来、海底ケーブル事業はビジネスの世界の話であって、政府が関与すべきではない」としながらも、「日本政府がこれは市場の問題だと言って放置しておくと必ずしも競争に勝てないかもしれない」との懸念を示した。

取材後記

台湾で相次いだ海底ケーブルの切断事件をきっかけに「海底ケーブル」という言葉を耳にする機会が増えた。しかし、その実物を見たことがある人は、ほとんどいないのではないだろうか。

取材は「そもそも海底ケーブルとは何なのか」「なぜ重要なのか」という素朴な疑問から始まった。

製造、敷設、修理ー
現場を取材して分かったのは、最先端の通信を支えているのが、驚くほど人の手に頼った“アナログな作業”だという現実だ。

一方で、そうした現場の多大な努力によって支えられている通信の生命線が、いま「故意による切断」という新たな脅威にさらされている。

歴史を振り返れば、国際情勢が緊迫したとき、最初に狙われてきたのは常に通信インフラだった。それは、相手を直接攻撃せずとも大きな混乱をもたらすからだ。

日本は、地理的にも技術的にも、アジアの通信を支える重要な位置にある。その“優位性”を維持できるのか。あるいは、気づかぬうちに失ってしまうのか。

海の底で起きている変化を、私たちの日常に直結する問題として、どう受け止め、どう備えるのかー 日本にその問いが突きつけられている。

TBSテレビ報道局経済部 室谷陽太

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