3D-CADとAIが変え始めた大学の建築教育 実務に近づく学びの現場
大学の建築の授業と聞くと、図面や理論中心の学びを思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし近年、その前提が少しずつ変わり始めています。
福岡の大学で行われたある授業では、実際の建築現場で使われている3D設計ツールやAIを取り入れ、学生たちが住宅プランを形にする取り組みが行われました。
特徴的なのは、完成度の高い作品をつくること自体が目的ではない点です。限られた期間の中で、チームで考え、試行錯誤し、伝えるところまでを一貫して経験する。そのプロセスを通じて、設計の難しさや面白さ、そして仕事としてのリアルに触れる機会が用意されていました。
学生アンケートからは、技術の新しさ以上に「考え方が変わった」「仕事のイメージが具体的になった」といった声が多く見られます。
デジタル技術は、学びの現場にどのような変化をもたらしているのでしょうか。今回の取り組みから、その一端が見えてきます。
3D-CADとAIを使った「実務に近い」大学授業の中身

今回取り上げる授業は、建築を学ぶ学生が、住宅設計の一連の流れをまとめて体験できる内容になっていました。舞台となったのは九州産業大学の建築系学科で、3人1組のチームに分かれて課題に取り組む形式です。
学生たちが行ったのは、単に図面を描く作業ではありません。住宅のコンセプトを考え、間取りを組み立て、3Dで立体化し、さらにAIを使って表現を整え、最後に発表まで行うという流れです。設計からプレゼンテーションまでを通して体験する点が、この授業の大きな特徴です。
また、見た目のデザインだけでなく、耐震性や省エネ性能といった要素も数値をもとに確認しながら進められていました。暮らしやすさと安全性をどう両立させるかを考えるプロセスは、実際の住宅設計に近い内容と言えます。
こうしたデジタルツールの活用により、経験の差に左右されにくく、短い期間でも「形のある住宅プラン」を完成させられる環境が整っていました。授業全体を通して、学生が建築の仕事を具体的にイメージできる設計体験が重視されていた点が印象的です。
学生アンケートから見えてきた学びの変化

授業後に行われた学生アンケートを見ると、技術そのものよりも「考え方が変わった」という点に多くの反応が集まっているのが分かります。特に目立つのは、短い期間でも住宅プランを完成させられたことによる達成感です。設計経験の有無に関わらず、自分たちのアイデアを形にできたことで、設計への苦手意識が薄れ、自信につながったという声が見られました。

また、3Dで空間を確認しながら進めることで、図面上の数字ではなく、実際の暮らしを想像しながら考える視点が育まれた点も特徴的です。天井の高さや動線、家具の配置などを立体的に捉えることで、住む人の目線に立った設計を意識するようになったことがうかがえます。
AIの活用についても、単なる自動化ツールとしてではなく、発想や表現を整理するための補助として捉えられていました。どんな住宅にしたいのか、何を伝えたいのかを言葉で明確にしなければ、思い通りの結果が得られない。その気づきが、設計意図を言語化する力の重要性につながっています。
こうした変化からは、技術を使うこと自体よりも、その過程で思考や視点がどう深まったかが、この授業の大きな成果だったことが伝わってきます。
大学と実務の距離を縮めるDXという視点

今回の取り組みをDXの視点で見ると、単に新しい技術を授業に取り入れた事例ではないことが分かります。3D-CADやAIは効率化のための道具という印象が強いですが、この授業では「学び方そのもの」を変える役割を担っていました。
学生は、実際の仕事に近い流れで住宅設計を体験することで、建築の仕事がどのように進んでいくのかを具体的に想像できるようになります。設計だけで終わらず、性能の確認や表現、伝え方まで含めて考えるプロセスは、教室内の学習と実務の間にある距離を確実に縮めています。
また、企業で使われているツールや考え方に触れることで、自分に向いている分野や、今後身につけるべき力を客観的に見直すきっかけにもなっていました。DXがもたらしているのは、作業の自動化だけではなく、将来像を具体化するための材料を学生に提供することだと言えそうです。
大学教育と社会の間にあるギャップは、以前から課題として語られてきましたが、こうした実践型の授業は、その差を埋める一つの方法として注目されます。技術をきっかけに、教育と実務が自然につながっていく流れが、静かに進んでいることを感じさせます。
DXが示した、これからの学びの一つの形
今回の授業から見えてくるのは、デジタル技術が教育現場に与えている静かな変化です。3D-CADやAIは、特別な人だけが使いこなす高度な道具ではなく、考える力や伝える力を引き出すための支えとして機能していました。
学生たちは、住宅プランを完成させる過程で、設計の難しさや責任、そして仕事としてのリアルに向き合っています。その体験は、単なるスキル習得にとどまらず、自分の将来を具体的に考えるきっかけにもなっていました。技術を使うことが目的なのではなく、技術を通じて「どう考え、どう形にするか」を学ぶ点に、この取り組みの価値があります。
DXという言葉は、業務効率化や生産性向上の文脈で語られがちですが、学びの現場でもその本質が少しずつ現れ始めています。今回のような実践型の授業は、教育と社会をなめらかにつなぐ一例として、今後さらに注目されていきそうです。