衆議院解散は「総理の専権事項」なのか? 今改めて考える「解散権」と今後の論点とは

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-01-16 13:05
衆議院解散は「総理の専権事項」なのか? 今改めて考える「解散権」と今後の論点とは

高市総理が衆議院の解散を検討しているという報道が各メディアを駆け巡り、維新の会の吉村代表も「通常国会の早期において解散する」との伝達を高市総理から受けたと明かしました。19日(月)には総理自身が会見で考え方を述べる予定とのことです。

なぜこのタイミングでの解散なのか。総理大臣の「専権事項」とされる解散権の行使は適切なのか。物価高対策や景気の下支えが最優先と語っていた総理の方針との整合性は取れるのか。日本の政治が直面する本当の課題とは何なのか。こうした論点を、早稲田大学教授で政治学者の高安健将さんとTBS報道局の岩田夏弥政治部長と掘り下げました。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2026年1月14日放送「急転直下の衆議院解散報道。報道の背景と総理の権力、今後の論点とは」より)

解散報道の経緯と背景

解散報道は1月上旬に始まりました。岩田部長によれば、「選挙は準備に1か月くらいの時間がかかる。2月8日選挙を実現するためには1月には総務省が準備を始めなければならない。そのタイミングで情報が一部に流れ、総務省が全国に準備を促す文書を送った」といいます。

読売新聞の報道を皮切りに各社が追随しましたが、高市総理自身はこれまで明言を避けてきました。その間、「総理自身がごく数人で話をしていて、自民党幹部ですらちゃんと伝わるのが遅かった」(岩田部長)という状況が続いていました。

早稲田大学の高安教授は、今回の解散検討について「組織として検討したというよりもかなりパーソナルな決断だった」と分析します。「12月にしないということを、説得力のある理由をつけて話していたのに、急転直下。そのパーソナル感が余計際立った」と指摘しました。

解散の理由は「自民維新政権の枠組み」

会談後、維新の吉村代表は「通常国会の早期において解散する」との伝達を受けたことを明らかにしました。解散の理由は、「自民党と公明党が与党だった連立の枠組みが自民党と日本維新の会に変わり、まだ国民の審判を仰いでいない」(岩田部長)という点です。新しい政権の枠組みで国民の信任を問うというわけです。

しかし高安教授はこの理由に疑問を呈します。「説明になっていない。新しい政権構成が変わったので解散するというのは一つの理由ではあるが、なぜ政権の構成が変わったのかは自民党の中の都合で変わったこと。新しい政権の構成は自民と維新だが、何かパッケージが出てきているわけでもない」と指摘します。

さらに「大阪など競合する選挙区の有権者はどこに投票したらいいのか。考え抜かれた提案という感じが全くしない。取ってつけた感がある」と批判しました。

総理の「専権事項」という言説の問題

解散をめぐっては「総理の専権事項」という言葉がしばしば使われます。しかし、この表現自体に大きな問題があると高安教授は指摘します。

「憲法上は解散権は7条解散(天皇の国事行為としての解散)と69条の不信任案可決・信任案否決に合わせて行われるもので、主体は内閣なのです」と説明します。つまり、「首相が判断して良いというのは、内閣の中でそういう慣行が確立しているのであればそういう言い方もできるかもしれないが、それが出来上がっているとは思えない」(高安教授)

岩田部長も「政治関係者も含めて『解散は総理の専権事項だから』という言葉が頻用され、総理の一存でやればいいという認識になりすぎているきらいがあるのではないか」と懸念を示します。憲法7条には「天皇は、内閣の助言と承認により」衆議院を解散するとあり、内閣の助言と承認が必要なのです。

小選挙区制度の導入により公認権を持つ総理・総裁の力が強くなり、内閣の一員や自民党幹部が総理の意向に異論を唱えることは非常に困難になっています。「次の選挙で自分がその党から出られなくなる可能性がある」(岩田部長)からです。野党側からは「与党が有利な時に解散する仕組みがいいのかどうか、そろそろ考えないといけない」という意見も出ています。

選挙日程の短さと国民生活への影響

仮に通常国会の冒頭解散をした場合、解散から投票日までの期間は最短で16日と、戦後でも極めて短い日程になる見込みです。

こうした短期間での選挙には大きな問題があるともこれまでも指摘されてきました。「急に選挙が来る上に考える時間、準備をする時間を与えないという形の選挙。相手に準備をさせない、選ぶ側に準備をさせないということ」(高安教授)なのです。

さらに冬の厳寒期の選挙には様々な懸念の声が上がっています。ラジオのリスナーからは「雪の多い地域での投票率が低くなることも狙っている可能性はないか」「2月上旬に受験を控えた方々に不利益しか生み出さない」といった意見が寄せられました。

岩田部長も「選挙活動自体、候補者も大変だが、有権者も大変。街頭演説を聞きに行くにも寒い中でやらなければならない。受験生がいる家庭では対応も大変だし、18歳の受験生自身も選挙権を有しており、野党側は批判している」と指摘します。

予算審議への影響と政治空白

解散・総選挙が行われれば、国会での予算案審議は後ろ倒しとなります。これは「物価高対策や賃上げ、景気の下支えこそが最優先」と総理自身が繰り返してきた発言と矛盾するとの批判も上がっています。

国民民主党の玉木代表は、年度内に予算を早期成立させることで自民党と合意していたことから、解散報道への強い憤りを示し「予算案への賛成を確約できなくなる」とまで言及していると言います。

リスナーからも「一市民としては物価高や円安対策を行うため通年で国会を開いて与野党で議論してもらいたいぐらいだが、現実は自民党の都合で総裁選そして今回の総選挙と、去年6月から臨時国会を除いてほぼ半年何も動いていない」「自民党の方々は政治的空白を作らないことが大事とよく言うが、政局を優先して何も動いていない今の状況こそ政治的空白と言うべき」との声が届いています。

これからの論点と有権者に問われるもの

今回の解散・総選挙で問われるべきことは何でしょうか。

高安教授は「政権としては高市さんを信任するかしないかというところにフォーカスさせたいのだろう。相手が見えない、選択肢が見えない中では、まだ就任したばかりなので、『やってもらったらいいじゃないか』という流れに持っていきたいのでは」と分析します。

しかし「連立パートナーにも言わないどころか、自分の党の幹事長、選対委員長にも相談していない。勝てばいいと思っているからこのスタイルでやっている」と指摘し、「有権者からすると、そういう政治のやり方を受け入れますかということが問われている」と述べました。

岩田部長も「本来衆議院選挙は政権選択の選挙で、各党が何をしたいか政策を戦わせる場。だけどこんな短期間だったら政策論争にならない」という自民党内の懸念の声を紹介しました。

リスナーからも「選挙のたびに耳にする『信を問う』という言葉が、解散と選挙という既成事実を先におき、『都合の悪いニュースはもう気にしない』という暗黙の了解を促す言い回しとして、半ば当然のように扱われているのだとしたら、とても危ういと想像してしまう」という意見が届いています。

今回の解散報道をめぐる議論は、単に選挙のタイミングという問題にとどまりません。総理大臣の権限とは何か、解散は何のために行われるべきなのか、そして日本政治が直面する本当の課題は何なのかという本質的な問題を投げかけています。

高安教授は「短い選挙運動期間だけれども、どういう政権構成がいいのだろうかということも有権者は考えなければいけない。これは本当に難しいことだ」と述べています。

今後、19日の総理会見を経て、選挙戦へと進んでいく可能性が高まっていますが、国民一人ひとりが冷静に政治を見つめ、判断を下すことが求められています。

(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2026年1月14日放送「急転直下の衆議院解散報道。報道の背景と総理の権力、今後の論点とは」より)

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