思惑は“高いうち解散”でも日本の進路決める重要な選挙に~政権選択へ国民の審判は~【調査情報デジタル】

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2026-01-24 09:30
思惑は“高いうち解散”でも日本の進路決める重要な選挙に~政権選択へ国民の審判は~【調査情報デジタル】

解散総選挙の号砲が鳴った。史上初の女性総理の決断の背景、そして野党側の大胆な動き、今回の選挙の持つ意味や争点などを、永年にわたって日本政治をウォッチしてきた星浩氏(TBSスペシャルコメンテーター)が読み解く。

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高市早苗総理は1月23日召集の通常国会冒頭で衆院を解散。総選挙は27日公示、2月8日投開票となった。

高市総理が自民党の勢力回復で政権の安定をめざすのに対して、野党側は立憲民主党が公明党と新党「中道改革連合」を結成、政権交代を狙う。二大勢力が激突する総選挙となった。

物価高対策や外交・安全保障をめぐって、国民はどう判断するのか。日本の将来を決める重い選択の時が迫る。

高支持率で解散強行

高市総理は19日の記者会見で23日の解散を正式に表明。「総理大臣を選ぶ選挙だ」と述べ、自民党と日本維新の会による与党が過半数を得て、総理を続投したい考えを強調した。

解散に至る経緯を振り返ってみよう。

高市政権は昨年12月中旬、通常国会の召集を1月23日と決めた。高市総理の施政方針演説から衆参両院での代表質問、衆院予算委員会での予算案審議と続くことが想定された。

衆院で2月末に予算案を可決した後、参院でも3月下旬には可決、成立する運びを描いていた。衆院の解散・総選挙はその後にタイミングを探るとみられていた。

野党の国民民主党とも「年収の壁」を160万円から178万円に引き上げることなどで合意し、予算の年度内成立に向けた協力を確認していた。

ところが、1月上旬になって高市総理は通常国会冒頭での解散を示唆するようになった。この間に何があったのか。

台湾有事をめぐって高市氏が「(自衛隊の出動につながる)存立危機事態になり得る」と答弁した問題では、中国の反発が続き、日本への渡航自粛に加えレアアース(希土類)の対日輸出規制も取りざたされている。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党政治家との関係を示す新たな内部文書が韓国で報道され、真相解明を求める動きも出てきた。

安全保障担当の官邸幹部が「核保有が必要だ」と発言し、与野党から批判を受けた。

連立の一角を占める日本維新の会では、所属する地方議員が組織的に国民健康保険の保険料の納付を逃れ、一般社団法人の理事として社会保険に加入していたことが発覚。悪質な脱法行為だと指摘されている。

これらの問題が国会で追及されることは必至だ。特に衆院予算委員会は、委員長ポストを立憲民主党の枝野幸男元代表が務めており、野党主導の運営となっている。高市総理の答弁次第では審議が紛糾する可能性が大きい。

高市内閣の支持率が高い(JNNの1月調査では「支持」が78.1%、「不支持」が18.6%)中で衆院を解散して勝利すれば、予算委でも委員長ポストも自民党が占めることができる。さまざまな疑惑追及もしのげるのではないか――冒頭解散の狙いについてそんな解説が広がっている。

それでも高市総理は解散の方針を貫き、1月19日の記者会見で23日に解散する考えを表明。解散の理由については「積極財政などの政策転換について国民の信を問う」「政治の安定を実現する」などと述べたが、高市政権の主要政策を盛り込んだ新年度予算の成立を先送りしてまで早期の解散に打って出た理由は明確にされていない。「支持率の高いうち解散」というのが、政権内から聞こえてくる本音である。

立憲・公明の新党「中道」で広がる衝撃

政治の世界では、政権側が強引な手法をとると、対立する野党が強い対抗措置に出る場合がある。政界の「作用vs反作用」である。

高市氏の攻勢に押され気味だった野党側が、反撃に出た。高市氏が自民党総裁に選ばれた直後に、公明党は自民党派閥の裏金問題への取り組みなどを不満として自民党との連立を離脱、立憲民主党との連携を模索していた。

背景には、公明党の支持母体である創価学会内で強まっていた高市氏のタカ派体質への反発があった。

当初は総選挙で互いの候補者を支援し合う選挙協力が話し合われたが、解散時期が迫る中で、立憲と公明との「新党」結成が望ましいとの考えが急浮上。1月15日に野田佳彦代表と斉藤鉄夫代表が会談し、新党結成で合意した。 

公明党票が自民から「中道」へ

両党は(1)公明党は総選挙の小選挙区では候補者を擁立しない(2)公明党の現職は比例区の統一候補となる(3)小選挙区では新党の候補者の当選に向けて全力を挙げる(4)参院や地方議会で両党の議員が所属するための立憲民主党、公明党は当面存続する――などを確認した。

新党は「中道改革連合」(略称「中道」)とされた。共同代表となった野田、斉藤両氏は「日本政治の右傾化が進む中で中道・リベラル勢力の結集を旗印にする」と強調している。

「中道政治」は、2023年11月に死去した池田大作・創価学会名誉会長が唱えていた考え方でもある。創価学会員にとっては、総選挙で新党「中道」を支援することは池田氏の理念を実践することにもなり、熱量が高まるだろう。

26年前に始まった自公連立によって、選挙活動で公明党・創価学会に依存してきた自民党にとっては衝撃的な出来事である。公明党は衆院の全国289の小選挙区で5千~2万の基礎票を維持しているといわれる。その基礎票は、ほとんどの選挙区で自民党候補に投じられ、自民党の一部の票が公明党の比例区に流れてきた。さらに、地域の創価学会員が自民党候補を支援してきたことも、自民党にとっては大きなメリットだった。

その公明党・創価学会が自民党を去り、新党「中道」の支援に回る。選挙区の事情によるが、例えば、自民党候補に投じられてきた1万票の公明党票が対抗馬の中道候補(大半は前回選挙で立憲の公認候補)に投じられることになれば、自民党分が1万票減って中道分が1万票増えるので、計2万票の増減となる。

様々なシミュレーションが進められているが、場合によっては、50人ほどの自民党候補の当落に影響を与えるとみられている。総選挙全体の帰趨に直結する動きである。

冒頭解散など政治手法が争点

この総選挙の争点は3つだ。

まず、政治手法。いま、多くの国民が望んでいるのは物価高対策であることは各種世論調査の結果によって明らかだ。高市政権は2025年末に編成された予算案に電気代・ガス代への補助や年収の壁引き上げなど、物価高対策を盛り込んだ。

だが、高市総理はこの予算の早期成立よりも衆院の解散・総選挙を優先。自民党内の議論も経ずに、首相官邸の一部のスタッフで極秘裏に衆院解散のシナリオを練ったという。支持率の高いうちに解散に踏み切ることで、高市氏の基盤を強めたいという狙いがあることは明らかだ。

そうした「電撃解散」に対抗する形で結成されたのが、立憲・公明の「電撃新党」である。立憲、公明両党は「強権か熟議か」という手法の違いを争点として打ち出す構えだ。

自民党と維新との合意では、衆院の議員定数を削減する(選挙区25、比例区20)ことになっている。維新側の要望を受けた形だが、定数削減は議会の枠組みを定める重要なテーマであり、与野党が話し合う場である衆院の議会制度協議会でも議論が続いている。そうした経緯を飛び越えて定数削減を強行すべきなのか。自民党派閥の裏金問題を機に見直しが議論されてきた企業・団体献金の在り方とあわせて、大きな争点となるだろう。

対米・対中外交の本格論戦を

外交・安全保障も問われなければならない。台湾有事をめぐる高市総理の国会答弁は、日本の対中外交の難しさを示している。

第2次安倍晋三政権時に成立した安全保障法制は、米軍が他国から攻撃を受けて、日本の存立が危ぶまれる事態となったときに自衛隊が出動して他国軍に武力行使を認めたものだ。集団的自衛権行使の一部容認である。その法制自体が海外での武力行使を禁じた憲法に違反すると多くの憲法学者が指摘していた。

さらに安保法制に基づいて、台湾有事を想定した自衛隊と米軍との共同訓練が続けられてきたが、第2次安倍政権以降の歴代政権は台湾有事が存立危機事態に直結するという見解を表明することはなかった。国会では「具体的な言及は控える」との答弁が繰り返されてきた。いわゆる「曖昧戦術」である。

ところが、高市総理は「台湾有事が存立危機事態になり得る」と答弁。これが、「台湾は中国の一部」とする中国政府の激しい反発を生み、日本への渡航自粛など様々な規制措置が打ち出された。日本経済への影響も懸念されている。高市氏自身の発言で生じた問題なのだから、本人の責任で収拾しなければならない。

高市総理はトランプ米大統領が訪日した際には、米海軍の原子力空母に同乗し、「親密さ」をアピール。米側が求める防衛費の増額についても、補正予算に盛り込むなど日米同盟の強化を進めた。

自民党は安保法制に基づく日米同盟の強化と防衛費の拡大を唱える。これに対して、中道は基本政策の中で安保法制について「存立危機事態における自国防衛のための自衛権行使は合憲」と明記した。

総選挙では一連の対米、対中外交をめぐる議論を交わさなければならない。日本は安全保障では米国との緊密な連携が欠かせない。一方で、経済面で大きく依存する中国とも良好な関係を維持することが大切だ。米国とは民主主義、人権などの価値観を共有するが、言論の自由などが制限されている中国との付き合い方は一筋縄ではいかない。そうした中での日本外交のあるべき姿を議論し、国民に理解を求めることは政治家の役目である。

どうなる物価高対策

経済政策は最大の争点だ。高市総理は「責任ある積極財政」を掲げて、史上最大の122兆円の2026年度予算案を編成した。新規国債発行は30兆円規模となり、国債依存が続いている。

インフレが進行する中での大規模な財政出動は、物価高を助長する恐れもある。物価高対策としては、電力・ガス料金の負担軽減のための補助金や「年収の壁」の178万円への引き上げなどが計上されているが、消費税の減税は見送られた。

高市総理は19日の記者会見で、食料品の消費税率(現行8%)を2年間ゼロにするという自民、維新の連立合意を踏まえて「消費税減税の検討を加速する」と述べた。具体的な減税時期には言及していない。これに対して中道は食料品の消費税率を恒久的にゼロにすることを公約の柱に位置づけており、消費減税は大きな争点となる。

政界大再編の序章か

1990年代の政治改革で衆院に小選挙区制が導入されて以降、日本の政治は大きく揺れ動いてきた。93年には非自民の細川護熙連立政権が誕生。その後、自民党は社会党(当時)の村山富市委員長を総理に担いで政権に復帰するという奇策にも打って出た。

09年には民主党が政権を奪取したが、混乱が続いて12年には自民党が政権に戻り、第2次安倍政権が誕生した。その後、旧安倍派を中心とした裏金問題が発覚。物価高対策への批判も高まり、自民党政治は行き詰まりを見せてきた。

初の女性総理・高市氏の下で自民党は再生をめざすが、果たして実現できるのか。この総選挙はまさに、自民党政治を問うものとなる。

自民、維新の与党が勝利し、新党「中道改革連合」が伸び悩むようだと、野党側の分裂・再編は必至だ。逆に自民、維新が敗れて、中道が勝利すれば、自民党が分裂する可能性も出てくる。国民民主党、参政党、れいわ新選組、共産党、保守党、社民党、チームみらいの各党の動向も含めて政界再編が動き出すだろう。

米中両国のはざまで翻弄される外交、1000兆円を超える財政赤字、歯止めがかからない少子化……。政策課題は山積している。

いずれも「100対ゼロ」の議論は意味をなさなくなっている。具体的な妥協点を見出す「60対40」のような建設的な論争を踏まえた国民の選択が求められる。そのうえで、長く政権を担ってきた自民党に委ねるのか、中道改革連合を中心とする政権への交代を選ぶのか。久しぶりの本格的な政権選択選挙で試されるのは日本の民主主義の成熟度である。

〈執筆者略歴〉
星 浩(ほし・ひろし)
政治ジャーナリスト・TBSスペシャルコメンテーター
1955年、福島県生まれ。
79年に朝日新聞入社、85年から政治部。総理官邸、自民党、外務省などを担当。ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。
2004-06年、東京大学大学院特任教授。
16年に退社し、TBSへ。「NEWS23」キャスターやコメンテーターを務める。
著書に『自民党幹事長』(筑摩書房)、『官房長官 側近の政治学』『永田町政治の興亡』(いずれも朝日選書)など。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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