衆院解散『消費減税』競う展開に、食料品ゼロは物価高対策なのか、市場からは強い警告【播摩卓士の経済コラム】

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2026-01-24 14:00
衆院解散『消費減税』競う展開に、食料品ゼロは物価高対策なのか、市場からは強い警告【播摩卓士の経済コラム】

衆議院解散となりました。経済政策では、これまで消費税の減税に抑制的だった自民党が、高市総理の意向を受けて「食料品への消費税2年間ゼロの実現に向け検討を加速する」と踏み込みました。選挙戦は与野党がそろって消費税減税を競う展開になり、財政悪化懸念を深める市場からは、日本国債売り、円売りという強い警告サインが出ています。

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「中道」発足の開店セールか

自民党の変身の前に、まず野党側の変身劇を取り上げなければ、不公平というものでしょう。支持率低迷から抜け出せない立憲民主党と、連立離脱で野党になった公明党が、急遽、合流することになった「中道改革連合」。総選挙の公約の目玉が消費税減税で、食料品に対する消費税を恒久的にゼロにするとし、なんと今年秋から実施すると公約に掲げました。

2024年の参議院選挙で立憲民主党は、消費税が社会保障の財源になっていることから、あくまで「時限的な」引き下げを求めていました。それが半年後の今回は、いきなり恒久的な「食料品ゼロ」になったのです。年5兆円もの財源が必要な減税を、時限にするか恒久にするかは大違い、まるで新党「中道」の開店セールのように、私は感じました。

しかも野田共同代表は、民主党政権当時、総理として消費税引き上げを決めた「張本人」です。その方が、年率2、3%程度のインフレで、食料品消費税ゼロにしろと言うのは、税や財政へのいかなる信念によるものなのか、問うてみたいところです。

食料品ゼロなら年5兆円

食料品に対する消費税の軽減税率を今の8%からゼロにするには、年間5兆円の財源が必要です。恒久措置であれば、恒久的に5兆円を集めなければなりません。

「中道」は政府系のファンドを作り、その運用益などで対処するとしていますが、ファンドの運用は、利益が出る年もあれば、損失が出る年もあるものです。損が出る可能性が高いものを恒久財源の当てにするなど、およそ現実的とは言えません。数百億円の規模ならまだしも、なにせ5兆円なのです。

日本の基幹税は、消費税、所得税、法人税の3つです。普通に考えれば、恒久的な5兆円減税を続けるには、基幹税を兆円単位で増税しないと不可能でしょう。法人税だけに5兆円増税を課すのも難しいでしょう。

だとすると、食料品の税率をゼロにするということは、そのために所得税の増税や、食料品以外の消費税の増税を求めることになりかねません。本当にそんな覚悟まであって、恒久的な食料品ゼロを掲げているのでしょうか。

高市総理も食料品ゼロは「悲願」

こうした野党側の攻勢に引きずられたのでしょうか。これまで消費税減税を封印してきた高市総理が前のめりに変わりました。

もともと「食料品の消費税2年間ゼロ」は連立相手の日本維新の会の公約でした。自民党は、その実現に向け「検討を進める」ことが合意されていたのですが、高市総理は「実現に向けた動きを加速させる」と表明し、同時に、自分の「悲願」とまで踏み込みました。選挙戦では、消費税減税に慎重だった、これまでの自民党の主張との整合性が問われると共に、党内の不協和音が表面化するリスクもありそうです。

2年間の時限措置であれば、年5兆の倍の10兆円を用意すれば良いということになります。もちろん10兆円は巨額ですが、恒久減税と比べれば財源の議論は可能かもしれません。ただ、2年後に本当にゼロから再び8%に戻せるのか、という点が最大の課題です。

いったんゼロになった食料品への消費税を再び8%に戻すなんて、私には、政治の現実論としては限りなく不可能なように思えます。

日本国債売り、円売りの「市場の警告」

金融市場は、政治の世界から発信される、こうした消費税減税論を、「現実的」「持続的」なものではないと判断し、日本の財政が一段と悪化すると見て、日本国債が売られ、20日、長期金利は一時2.380%と27年ぶりの高い水準に達しました。円相場も14日には一時159円台半ばまで円が売り込まれています。

明らかに金融市場は、危うい消費税減税論に「警告」を発しています。物価高対策として消費税減税を議論して、さらなる物価高につながる円安を促進しているのですから、馬鹿馬鹿しい話です。

取り返しがつかなくなる、「市場の崖」は、どこにあるかわかりません。「警告」を甘く見ない方が良いのではないでしょうか。

消費税減税は物価高対策にならない

そもそも消費税減税が物価高対策と言えるのでしょうか。確かに、物価が大きく動いた時に機動的に税率を上げ下げできれば、物価変動の影響を平準化するという意味で、物価高対策になり得るかもしれません。

しかし、現実には消費税率変更の検討、決定には時間がかかる上、街中のレジのシステム変更にも時間とコストがかかることから、素早く、しかも小刻みに動かすことは、なかなかできません。

日本がインフレに見舞われてからすでに4年近くが経ちました。原油価格の落ち着きや政府の物価高対策の効果もあって、いよいよインフレ率が少し落ち着くことが視野に入っている今になって、これから消費税減税を検討するのは、かなりタイミングがずれています。

また、物価の押し下げ効果と言う点でも、消費税減税が行われた年は、確かに前年比のインフレ率は下がりますが、その効果は一度きりで、2年目以降にインフレ率を押し下げる効果はありません。それどころか、消費税減税自体が需要刺激につながるので、むしろインフレを加速させる影響さえ出かねません。

物価高対策で兆円単位のお金を使う気があるのならば、食品価格高騰の影響が大きな層に、現金給付する方が、よほど理にかなっています。それ以前に、まずコメ価格を下げることが先決でしょう。

消費税減税は「負担のあり方」として議論を

もちろん、食料品に対する消費税引き下げの議論の必要がないと言っているわけではありません。毎日の必需的な食料品を買うのに、消費税の負担を少しでも軽くしてほしい、という切実な声が現に高まっています。中低所得者を中心に食料品への8%の消費税は重すぎないか、という観点から、国民の負担のあり方として議論すべきテーマだと思います。

消費税率が20%を超えるヨーロッパでも、食料品はせいぜい4〜5%です。イギリスやカナダはゼロで、日本の8%は国際的にみても突出しています。消費税の逆進性の強さを考えると、低所得者に厳しすぎないかという問題提起に、政治は正面から向き合って欲しいものです。

一時的な物価高対策ではなく、税制改革の1つとして、食料品の8%が適切なのか、5%や3%に引き下げることも含め、財源とあわせ、冷静に議論を深めるべきです。逆進性緩和のための「給付付き税額控除」の制度設計を進めることも、解決策の一つになり得るものです。

所得が多いほど食料品への消費税も大きい

何かと悪者扱いされる消費税ですが、消費税には長所もあります。消費した段階でかかるので捕捉率が極めて高い税です。すべての人が同じ税率で支払うので、ある意味、公平です。

第一生命経済研究所の試算によれば、食料品に対する消費税は、標準世帯の平均で年間6.4万円です。しかし所得階層別に見ると、年収300万から350万円の層では、年3.9万円なのに対し、年収1500万円以上の層では、年8.2万円も納めています。所得が高ければ少量品でも消費額が大きくなるので、より多く消費税を納めているわけです。逆に言えば、ゼロにすれば、高所得者ほど減税額は大きくなるということです。

消費税率の変更が、国民の負担のあり方を議論するものである以上、財源も含めた「現実的」かつ「持続的」な案を、落ち着いた場でしっかり検討することが大切ではないでしょうか。

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