別大マラソン日本人トップの吉田祐也にインタビュー 後輩の“シン・山の神”黒田朝日との差は経験だった

別府大分毎日マラソン(以下別大マラソン)が2月1日、大分市の高崎山・うみたまご前をスタートし、大分県別府市を経由して大分市のジェイリースタジアムにフィニッシュする42.195kmのコースで行われた。G.マスレシャ(25、エチオピア)が2時間06分49秒で優勝し、2位には吉田祐也(28、GMOインターネットグループ)が2時間06分59秒で、青学大の後輩の黒田朝日(21、青学大4年)とのデッドヒートを制して入った。大会翌日に吉田に、レースや世界陸上後の取り組みについてインタビューした。
“シン・山の神”黒田朝日、別大マラソンで日本人2位と敗れるもポテンシャルの高さを改めて示す
マラソンで経験が重要になる理由は?
Q.一日経ってみて、昨日のレースのどんなところがポイントだったと感じていますか。
吉田祐也:パリ五輪も東京世界陸上も30歳代の選手が表彰台に上がっているので、経験が重要なスポーツであることは間違いないと思っています。(昨年9月の)東京世界陸上の経験を経て国内大会は気持ちとしても楽になって、レースは序盤からすごく冷静に走ることができていましたし、練習も抑える余裕が出てきたところが大きかったと思います。落ち着いて走ることができていたので、朝日と競ることになりましたが、勝つタイミングを見計らって勝負を仕掛けることができ、理想としていたレースができたことが挙げられると思います。
Q.33kmでマスレシャ選手がスパートする以前は、どんなことを意識しながら走っていたのですか?
吉田:給水を冷静に取り方や位置取りくらいです、具体的に意識していたことは。イライラして集団の前に行ったりは、絶対にしませんでした。ただ自分のキャパシティを小出しにしていくことは、常にイメージしています。大迫傑(34、リーニン)さんがよくおっしゃっていたのが、自分と上手く対話をして体力的な部分も、心の部分でも、力を小出しにしていくことが大事だということ。2時間の競技なので、ずっと集中力を出し続ける走り方が理想ではありません。33kmでマスレシャ選手にリードされたときも、あそこで追い風に乗って行ってしまうと、35km以降で向かい風に変わったときに脚が止まってしまう感覚があったので、向かい風になったときに徐々に追いつければいいかな、と考えました。最悪追いつかなくても、最後まで自分のリズムを刻んで走り切ることが重要です。追いつけなかったところは自分の力不足でしかありませんが、レース全体を通して力の出し方を最小限に抑えながら走ることができたことは、すごく大きかったと思います。
Q.黒田選手は吉田選手との差を、経験とスタミナだとコメントしていました。吉田選手はご自身でどう感じていますか。
吉田:経験の差は大きいと思います。僕ももう10回目のマラソンで、優勝3回と日本人1位1回を経験してきました。位置取りを見て落ち着きがないとか、後ろから見ていてわかるところもあります。そうした冷静なレース運びは、何回もレースに出ることで得られる部分もある。誰が30km以降残っているのかわかりません。今回の朝日がどうだった、というわけではなく、どんな選手が残っていても対応できるように、常に余力を持ちながらレースを進めることを意識していました。その結果、勝負どころでちょっと生かせたのかな、と思います。
黒田との競り合いと、今後の2人の関係性
Q.別大を走るのは初マラソン(日本人トップの3位。2時間08分秒の初マラソン歴代2位、学生歴代2位)以来ですが、成長を感じられたシーンが他にもありましたか。
吉田:実は1回目から、意外と冷静に走れてはいました。落ち着いて走ることが大切だということは最初から実感できて、その点は変わりませんが、今回はペースメーカーが外れた30kmから、風がある中でもある程度前に出たり、最後も行ききることができたりしました。そこは成長した点なのかな、と思います。
Q.中間点通過が初マラソンは1時間04分05秒でした。今回は1時間03分10秒と1分近く速いのですが?
吉田:タイムは風の影響があるし、レース展開の運という部分が大きいので、タイム設定で目標を立てることはあまりしません。初マラソンでは順位争いもあまり考えていなくて、学生が何人か出ていたので、学生の中で勝てればいいかな、というくらいの目標設定で出場しました。それに対して今回は外国勢も含めて優勝することを考えていましたね。そのためにどこで仕掛けるとか、余裕を持つとか、レースプランを考えられるようになっていました。結果的に勢いで走ったことになる1回目とは、そこが違う点です。
Q.黒田選手だけを意識していたわけではないということですが、どんどん集団が絞られていって最後は黒田選手と2人の2位争いになりました。
吉田:練習も一緒にやっていますし、状態が悪いと言っていましたが、今回も絶対に走るだろうな、と思いながらレースを進めていました。案の定ラストの競り合いになった時もしぶとかったですね。
Q.残り1.4km付近で黒田選手が給水に行ったタイミングでスパートしました。
吉田:途中で引き離せなかったらトラック勝負も考えていましたが、朝日が右に寄って行ったのでおそらく、給水を取るだろうと予測して、意図的に仕掛けました。
Q.4月から黒田選手もGMOインターネットグループに入社します。経験を黒田選手に伝えて、日本のトップ選手になってほしいとコメントされていました。
吉田:練習やレース中の細かい部分は伝えられますが、競技への取り組み方、競技観という部分は人それぞれです。朝日には朝日の特徴があるし、僕にも僕の特徴がある。完全なプロになった太田蒼生(23、GMOインターネットグループ)もまた、独自の競技観を持っています。僕は大迫さんから目標に対する集中力、執着心みたいなところを学び、競技者としてのあり方という部分のほとんどを大迫さんから学びました。朝日はあれだけの能力を持っていますから、アドバイスをしていくことよりも、それぞれの特徴を生かしながら切磋琢磨して、同じロサンゼルス五輪を目指していきたいですね。
東京世界陸上失敗からのトレーニングの流れは?
Q.東京世界陸上の失敗(34位・2時間16分58秒)が今回のマラソンに、どうつながっていますか。
吉田:夏のマラソンとそこに向けてのマラソン練習は、冬とはまったく違うもので、夏は自分の感覚で疲労を残さないようにすることが大事だと原監督からも、マラソンで代表経験のある指導者の方からも言われていました。自分でも確かにそうだと思っていて、練習を抑えたつもりだったんです。それでもスタートラインに立った時は疲れている状態でした。自国開催だから気持ちを盛り上げられるだろうと思っていましたが、(疲れが残ってしまった不安もあって)結局雰囲気に飲まれてしまった。終わった後に高橋尚子さん(シドニー五輪女子マラソン金メダリスト)から、一度国際大会を経験したら、国内大会は気持ちが楽になるとおしゃっていただいたことが参考になりました。
Q.練習がどう変わりましたか。
吉田:大きくは変えていませんが、2~3回行っていた40km走を今回は一度もしませんでした。これはいつもと同じパターンですが、マラソンに向けた大きな部分の練習は1か月前に終えて、1月はニューイヤー駅伝と全国都道府県対抗男子駅伝、短い距離の練習を余裕を持ちながらこなしてきました。10回のマラソンで一番軽い状態でスタートラインに立ったのですが、そういう経験値が新たに増えて、日本人1位を取ることができたことは嬉しく思います。
Q.前シーズンの福岡国際マラソン優勝と今回の日本人1位で、アジア大会代表有力候補になりました。今後のレースプランは?
吉田:海外レース、国際レースの経験を増やしたいと思っています。ハイペースのシカゴやベルリンもいいのですが、どちらかといえばボストンやニューヨークみたいな、ペースメーカーが付かずに順位争いができるところを念頭に置いています。アジア大会も、出られるようなら出たいですね。国際大会で順番を取りたい気持ちはあります。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)