【全日本実業団ハーフマラソン】実業団に新たな力 男子は筑波大卒2年目の平山大雅が優勝 女子は2~4位に中地こころ、山﨑りさ、不破聖衣来の新人トリオ

第54回全日本実業団ハーフマラソンが2月9日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで、2026海外ハーフマラソン派遣選考競技会を兼ねて行われた。男子はトラック勝負にまでもつれ、実業団2年目の平山大雅(24、コニカミノルタ)が、最後の直線で抜け出し1時間00分44秒で優勝した。平山は筑波大時代に箱根駅伝出場経験がなく、10000mの自己記録も28分44秒65と低い。しかしニューイヤー駅伝1区(12.3km)区間5位、1月25日の大阪ハーフマラソン優勝(1時間00分50秒)、そして今大会と26年に入って快進撃を続け、長距離界のニューフェイスとして注目を集め始めた。女子では優勝した樺沢和佳奈(26、三井住友海上)に続き、中地こころ(23、シスメックス)、山﨑りさ(23、積水化学)、不破聖衣来(22、三井住友海上)と、ルーキートリオが2~4位に入った。3人全員がマラソンに意欲を示している。
ラストの強さを発揮しハーフ2大会連続V
2週間前の大阪ハーフマラソンを再現しているようだった。今回はラスト100mまで勝負はもつれたが、大阪と同様に最後の競り合いを制した平山が1時間00分44秒と、大阪で出した自己記録を6秒縮めて優勝した。
「ラスト勝負になれば勝てる自信はあったので、最後は自分を信じて全力を振り絞りました。それまではとにかく付ききることを第一に考えて、最後の競技場に入るまで先頭集団から後れなかったことが勝因だと思います」
余力が大きくて競り勝ったケースではない。3位の市山翼(29、サンベルクス)と2位のB.ムルア(25、NDソフト)に、前に出られる場面もあった。
「ラスト1kmで行くことを考えていましたが、想定よりも余裕がなかったのでトラック勝負に切り替えました。(トラックに入って500m走ってフィニッシュだが)残り1周でスパートを考えましたが、ラストの直線で行こうと、レース状況を見て残り200mあたりで決めました」
自身の余力が想定と違ったが、その都度判断をして対応した。ラストスパート自体も以前は「苦しくなると動きが崩れて、ラストが効かないタイプだった」とコニカミノルタの宇賀地強監督は言う。「フィジカルトレーニングに1年かけて取り組み、動きが崩れないようになりました」。
平山自身も好調の要因に、25年から本格的に行い始めたフィジカルトレーニングや、120分ジョグを月に1~2回、通年で取り入れたことなどを挙げている。
競技人生を切り拓いた「最後の絞り出し」
大学時代に目立った成績のなかった平山が、コニカミノルタに入社できたのも、ラストの強さがあったからだ。「学生時代もスピードには結構自信がありました」と平山。今のように“崩れない動き”で出すスピードとは違ったかもしれないが、ラストの動きが宇賀地監督の目に留まった。3年時12月の日体大長距離競技会10000mで28分50秒65と、平山が自身初の28分台を出したレースだった。
「もともと同郷(栃木県)の選手で気にかけていましたが、日体大では流れとしては良くなかったのに、最後の叩き合いで28分台を出したんです。今回のハーフもそうですが、コニカミノルタが信条としている“気持ちを前面に出す走り”で、最後の絞り出しをしていました」
その時点でスカウトしたわけではなく、コニカミノルタの合宿参加を打診した。大学2年時に5000mで13分台(13分59秒81)を出したときから、平山は実業団入りを考え始めていた。平山の方が入社を「懇願した」というが、宇賀地監督も平山の練習姿勢に将来性を感じた。
「荒削りで鍛える余地がたくさんありました。当時の彼にとってはやったことのないトレーニングばかりで、毎日がレースのようにキツかったと思います。それでもあきらめることなく、先輩選手たちに食らいつく走りをすることは、強みになると思いました。もう1つは上手くいかなかった時に他責にせず、自責として受け止めていたこと。そこは成長する要素です」
それでも入社2年目の25年前半までは、28分台すら出せなかった。自身2度目の28分台が昨年11月の八王子ロングディスタンスだが、タイムは28分44秒65とまったく目立たないレベル。だがそこから上昇に転じ、前述のようにニューイヤー駅伝、ハーフマラソン2連勝と好成績を続けている。平山自身は好調の要因を次のように話す。「環境に慣れて主体的に考えられるようになり、監督と意見のすり合わせを密にできるようになりました。今10000mを走れば27分台は出る手応えがあります」。
当面はトラックで記録を伸ばし、以前から「競技人生の最大目標」と位置付けていたニューイヤー駅伝での活躍を目指す。その過程で記録が上昇すれば「自然と目線が上がって行く」(宇賀地監督)ことが期待されている。
不破が初ハーフでマラソンへ手応え
女子では若手期待の不破聖衣来が、レースを引っ張った。集団の中で力を貯めることも考えていたが、いざ走り始めたら自然と体が動いた。「自分のリズムを崩したくないと思いが一番あるので、そこはもう流れで、下がるよりこのまま行った方がいい、と判断しました」。
先輩の樺沢和佳奈も余裕はあったが、不破が前に出たがっていると感じ、ペースメイクを後輩に任せた。樺沢は3月の初マラソンに向けて、「マラソンのレースペースでどれだけ余裕を持てるか」を確認することが狙いだった。不破は「10km以上のレースは初めてで、特徴のスピード持久力を10km以降でどこまで維持できるか」を試したかった。目的は違ったが、2人は同じ「(1km平均)3分20秒」を目安にしていたのだ。
残り2kmで山﨑りさがペースを上げるまで、不破が体1つ前で走り続けたが、フィニッシュでは1時間09分39秒の4位。樺沢、中地こころ、山﨑に競り負けたことは「自分の課題」と認めるが、初のハーフマラソンの走りには合格点を出すことができた。
「70分を切ることができたのはちょっと驚きで、嬉しいです。15kmまでは(10km地点の)流れで行くことができると思っていたので、10kmでは落ち着いて走ることができていました。15km以降でちょっとキツくなってしまったので、そこからが私の課題ですが、ハーフを3分20秒くらいで押して行くことができたので、そこは収穫です。今年中のフルマラソン・チャレンジも考えてはいるので、今後の練習次第なんですが、今回のハーフを1つのきっかけにして、今後マラソンにチャレンジしていきます」
不破が自身の走りに良い感触を得たレースで、同じルーキーの中地と山﨑が2、3位と不破に先着した。中地は自身2度目のハーフマラソンで、1時間09分24秒と自己記録を30秒以上更新した。「調子はそこまで上がっていなかったので、1時間9分台が出るとは思っていませんでした。結構ビックリしています」。昨年の大学女子駅伝2冠の立命大で、長めの区間を任されていた選手。全日本大学女子駅伝では5区(9.2km)で区間2位、富士山女子駅伝ではアンカーの7区(8.3km)で区間賞を獲得した。シスメックスに入社してからのトレーニングも、自分の力とすることができているのだろう。プリンセス駅伝でも5区(10.4km)区間3位と好走していた。
「不破さんが良いペースでずっと引っ張ってくれたので、15kmくらいまでは淡々と、ペース走(の練習)をしているイメージ走ることができました。不破さんも山﨑さんも大学から競い合ってきたライバルですけど、仲間なので一緒に走ることが楽しかったです。(2人に勝てたことは)すごく嬉しいですし、2人もマラソンを考えていると思うので、マラソンで私も一緒に強くなっていきたい」
五輪代表だった樺沢には及ばなかったが、2度目のハーフマラソンの中地と、初ハーフマラソンの山﨑&不破が好結果を出した。男子に比べて選手層の薄さが指摘されている日本の女子マラソン。数年後に今回の全日本実業団ハーフマラソンが、女子マラソン盛況のスタートだったと言われるかもしれない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)