なぜこんなにリアル?『未来のムスコ』劇団稽古場に隠された美術の工夫【ドラマTopics】

小劇場を拠点に活動する劇団の多くは、潤沢な資金や十分な設備を持っているわけではない。限られた予算と空間の中で稽古場を確保し、小道具をそろえ、舞台を立ち上げていく。その過程そのものが、劇団の個性や空気感を形作っていく。
【写真で見る】ドラマ『未来のムスコ』美術セットから見る劇団稽古場の雰囲気とは…
TBS系火曜ドラマ『未来のムスコ』で主人公・汐川未来(演:志田未来)が所属する劇団「アルバトロス」もまた、そうした現実と向き合いながら活動を続ける劇団の一つである。現実の劇団に見られる環境や営みを踏まえ、その在り方が美術という側面から丁寧に落とし込まれている。
下北沢らしさを宿す、天井の高い「倉庫型」稽古場
劇団「アルバトロス」の稽古場の美術セットは、物語の舞台である東京・下北沢の空気感と、舞台人たちの現実を映し出す象徴的な空間だ。
稽古場外観のロケ地選定にあたり、美術デザイナーチーフの渡邉由利さんが重視したのは空間の高さと質感だった。「もともと、天井が高い室内の稽古場にしたいという思いがあり、倉庫のような場所を希望していました」。教会など複数の候補を検討した上で、室内セットのプランとの整合性を踏まえ、現在のロケ地に決定したという。
外観のシャッターに描かれたアートは監督の発案だが、実際の下北沢に多く見られるシャッターアートを意識し、街との地続き感も演出した。「下北沢っぽさも加味され、アイコニックな外観になっています」と渡邉さんは話す。
シェア倉庫設定が生む、混在する生活の痕跡
稽古場内部の装飾には、細かな設定が張り巡らされている。
「この倉庫は、劇団だけでなく古着屋などがシェアして使っている、という設定です」。倉庫の一角を劇団が稽古場として借りており、他業種が混在している状況を表現している。
映像では目立たない部分にも、チョークアート教室の看板や介護用品店の段ボールなどが置かれている。たまに映り込む表の看板には、シェアしている店舗名が連なり、空間にリアリティを与えている。
限られた空間を生かす、稽古場ならではの工夫
稽古場は決して広くはない。その制約の中で、空間の使い方にも工夫が凝らされた。階段下は、演劇の参考資料となる本や雑多な物を置く収納スペースとして活用されている。「スペースを有効に使うための配置です」と渡邉さんは説明する。
また、劇団員の私物については、「更衣室的なスペースが別にある設定なので、稽古場の見えるところに私物はありませんが、みんながくつろぐ場所として装飾しています」と語り、稽古場が単なる作業場ではないことを示している。
紙の小道具に込めた、舞台人たちの試行錯誤
稽古場に散りばめられた紙アイテムは、装飾チーフの上原一晃さんが物語を意識して作り込んだものだ。
「制作スタッフ(AD)が行った劇団取材の資料を原案にしました」。脚本を手がける吉沢将生(演:塩野瑛久)が構想を立ち上げ、台本を作り、劇団員が集まってミーティングを重ねながら舞台セットを練り上げていく。その過程で生まれる小道具のイメージ資料として位置づけられている。
上原さんは「最初は手の届かない高価な小道具を妄想しますが、準備が進むにつれてお金がない現実に打ちのめされる。それでも、イメージに近づけるために工夫を重ねていく」と制作の過程を説明する。その道程そのものに、舞台作りにのめり込んでいく劇団員たちの姿を重ねた。
原体験と対話が支える、温度のある美術表現
稽古場のセットには、渡邉さん自身の原体験も反映されている。
「この世界を志した当初は舞台美術を目指していました。『舞台人は夢を追えるけれど、活躍するのは狭き門で、それだけで生計を立てていくのは厳しい』と言われ、一度はその道を諦めましたが、当時は多くの劇団や舞台公演でアルバイトをしていました」。その記憶を手繰り寄せながら、稽古場のたたずまいを形にしていったという。
撮影に向けては、撮影部や照明部とも密に対話を重ねた。「稽古場をできるだけ広く見せつつ、稽古エリア以外の要素も入れ込むため、階段の向きや有無などを皆さんと検証しながら決めました」。美術部内の記憶と現場での検証を重ねることで、稽古場は物語に寄り添うかたちで組み立てられていった。
稽古場のたたずまいに舞台人たちの時間や現実を重ねている本作の美術部。制作現場での検証や対話を積み重ねることで、空間は物語に寄り添う形へと整えられた。そうした対話の積み重ねが、リアリティのある劇団空間を支えている。