ホルムズ海峡「封鎖」長期化の様相、備蓄放出決定でも止まらぬ原油高【播摩卓士の経済コラム】

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2026-03-14 14:00
ホルムズ海峡「封鎖」長期化の様相、備蓄放出決定でも止まらぬ原油高【播摩卓士の経済コラム】

予想以上に素早い決定でした。国際エネルギー機関(IEA)の加盟国32か国が、11日、4億バレルという過去最大規模の石油備蓄の協調放出で合意しました。しかし、ホルムズ海峡の封鎖状態が長期化する懸念から、市場の原油価格は、再び100ドル近くへと、むしろ上昇しています。店頭のガソリン価格も跳ね上がっており、原油価格の高騰は、消費者のマインドにも大きな影響を及ぼしつつあります。

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国際的な石油備蓄放出で合意

11日の国際エネルギー機関(IEA)の合意は、日米欧など加盟32か国の全会一致でした。世界の原油の2割が通過するというホルムズ海峡の事実上の封鎖による影響を緩和するため、合計4億バレルの石油備蓄を協調して放出します。石油備蓄の協調放出は2022年のロシアによるウクライナ侵攻時以来のことで、当時の放出量は1億8000万バレルでした。今回はその倍以上、文字通り過去最大規模です。

日本は先駆けて備蓄放出表明

中でも日本は、IEAの合意に先立って、高市総理大臣が、日本としての備蓄放出を公に発表、IEAの議論を先導する役割を果たしました。ある政府関係者は「日本が単独でも放出するという姿勢を示したことが、欧州諸国の背中を押した」と説明しています。

日本の放出量は、国家備蓄が1か月分、民間備蓄が15日分のあわせて45日分です。官民合わせた日本の石油備蓄は254日分あったので、この放出を経ても、なお200日以上分の備蓄があるという計算になります。

現時点で、日本国内で全体として石油供給が足りないという事態には至っていませんが、ホルムズ海峡から日本までの航海におよそ3週間要することを考えると、間もなく「来るべき原油が来ない」状態になります。そうなると先行きの欠乏感から、国際市場価格以上に、国内での石油関連製品価格が高騰する恐れもあり、先んじて備蓄放出を決めた意味は大きいと思います。このあたりの高市政権のスピード感は、評価して然るべきです。

周辺海域で続くイランからの攻撃

こうした政策努力にもかかわらず、市場での原油価格が落ち着きを見せないのは、「いつになったらホルムズ海峡が通れるのか」という問いに、未だ全く答えがないからです。周辺海域で民間船舶が今も攻撃にさらされ、タンカーが燃え上がる映像が流れています。米CBSやCNNによれば、イランはホルムズ海峡に機雷を設置しようとしており、そうした企てを行おうとするイランの小型船舶を、米軍が攻撃する映像まで公開されています。

トランプ大統領は、いったん「海峡を通る船舶を米軍の艦船が護衛する」と表明したものの、ウォール・ストリート・ジャーナルなどによれば、当のアメリカ軍自身が、攻撃される危険性が高いとして、「現時点では護衛は不可能」と、拒んでいるということです。

イランは「封鎖継続」を宣言

イランの革命防衛隊は「1リットルたりとも通さない」、「1バレル200ドルも覚悟しろ」と脅しに余念がありません。新たに最高指導者に選ばれたモジタバ・ハメネイ氏は、12日の声明で、ホルムズ海峡の封鎖を継続すると明言しました。

ホルムズ海峡を通る原油は、世界の2割で、日量2000万バレルに及ぶと言われています。過去最大の備蓄協調放出が実現しても、完全途絶なら単純計算で20日ほどしか凌げません。そもそも備蓄の取り崩しは、技術的に1日数百万バレル程度が限界だと、専門家は指摘します。結局のところ、ホルムズ海峡が安全に航行できるようにならなければ、問題は解決しないという、当たり前の事実に直面するのです。

ガソリンは一気に値上がり、政府補助へ

こうした原油高騰を受けて、エネオスは12日から、系列スタンドへの卸値を1リットル当たり26円値上げしました。多くのスタンドでほぼ同額の値上げが実施され、都内のスタンドではガソリンは1リットル185円前後に達しました。

実は、値上げを知って前日の夜にガソリンスタンドに行ったところ、同じように満タンにしようとする車が続々とやってきていました。ガソリンだけでなく、石油関連製品はその範囲が広いだけに、原油高騰の影響は甚大です。

高市総理は、石油備蓄の放出を発表した11日、同時に、ガソリン価格の激変緩和策として、小売価格が170円を超える分を全額補助する意向を表明しました。差額が大きくなれば財政負担も相当なものになりますが、物価高への波及と消費者マインドへの悪影響を最小限に抑えるために、先手を打った形です。

実質賃金ようやくプラス

9日発表された1月の毎月勤労統計では、1月の実質賃金は、前年同月比で1.4%の増加と、13か月ぶりにようやくプラスになりました。消費者物価の指数が、1.7%の上昇と、過去2年は見られなかった1%台にまで低下したことが、実質賃金押上げの最大の要因です。

こうした物価の落ち着きと、春闘での賃上げ、つまり名目賃金の上昇によって、今年前半は実質賃金プラス化が実現するという見通しが、高まってきていました。しかし、原油高騰が再びインフレを加速させれば、実質賃金プラス化は蜃気楼のように逃げてしまいかねません。突然のイラン危機は、「物価と賃金が共に上がる世の中の実現」というシナリオを根底から崩しかねません。

見えないトランプ政権の出口戦略

ホルムズ海峡の封鎖は、これまでもずっと、「最悪のシナリオ」とされてきました。ただ、「封鎖」はイランにとっても原油輸出が止まるので、「そう簡単にはあり得ない」と見られていました。それが史上初めて、現実に起きたのです。世界は、イランによる「捨て身」「道連れ」の戦いに、大きな衝撃を受けているというのが実情です。

こうなることがわかっていながら、なぜトランプ政権が、これだけ大規模なイラン攻撃を始めたのか、理由も明確ではありません。まして、海峡に向かって発射されるイランの無人機(ドローン)攻撃に対して、未だ有効な手立てがないと聞けば、驚くばかりです。

トランプ大統領は当初、対イラン戦争は「4~5週間続く」と語っていました。1991年のイラクを相手にした湾岸戦争が6週間だったことも、念頭にあったのでしょう。しかし、湾岸戦争には、イラクが侵略した「クウェートの解放」という、具体的で明確な目的がありました。

今回の戦争は、一体、何を目的にしているのか、そして、いつまで続けるのか、当のトランプ氏自身にも見えていないように、私には思えます。「出口」がはっきりしないのですから、「海峡封鎖」長期化への懸念は強まるばかりです。世界経済の先行きに立ち込める暗雲は一段と分厚くなってきました。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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