「こんな化け物に負けねえぞ」飯舘村・原発事故から15年 放射能と闘い続けた人々の今【報道特集】

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2026-03-21 06:30
「こんな化け物に負けねえぞ」飯舘村・原発事故から15年 放射能と闘い続けた人々の今【報道特集】

福島第一原発の事故から15年。全村避難を余儀なくされた福島県・飯舘村は今どうなっているのでしょうか。「日本で最も美しい」と言われた村は、放射能との戦いを強いられ続けました。過酷な日々の記録です。

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原発から40キロ離れた「日本で最も美しい村」飯館村 原発事故で一変…

福島県飯舘村に代々伝わる伝統食「凍(し)み餅」作りに精を出す、佐々木千栄子(80)さん。

日下部正樹キャスター
「千栄子さんもう80?」

佐々木千栄子さん
「80だよ。4回目の成人式が来たって言うんだ、皆」

凍み餅は厳しい寒さで一晩凍らせ、乾燥させた保存食。自然と共に生きるこの村の、暮らしの知恵だ。

凍み餅に欠かせないのが地元で「ごんぼっぱ」と呼ばれる野草。かつては山のあちこちで採取できたが、今は違う。

佐々木千栄子さん
「今は放射能で採れないから畑で作ってるの。避難する前は、山から採ってた。今は山のもの使わないから」
(Q:そんなところにも影響出てるんですね?)
「いまだに影響出てるわよ」

村で郷土料理の店を切り盛りしてきた千栄子さんだが、2011年、原発事故で村からの避難を余儀なくされた。避難前には「またみんなで元気に集まれますように」と願っていた。

ようやくお店が再開できたのは、原発事故から8年が過ぎた2019年。


「なんでおれのお母ちゃんはこんな味出ないんだかな?」

だが、15年経った今、村で暮らす人数は1503人と、もとの4分の1に過ぎない。

佐々木千栄子さん
「わけわかんないうちに15年過ぎたね、いろいろありすぎて」

福島県の北東部に位置する飯舘村。「日本で最も美しい村」の一つに数えられ、農業と畜産で栄えてきた。原発からは40キロ近くも離れ、その経済的恩恵とは無縁の場所だった。

だが、原発事故で村は一変した。

当初、国の避難指示は20キロ圏内だけだったが、放射性物質は風に乗って飯舘村まで運ばれていた。

結局、全村避難の方針が出たのは事故後1か月が過ぎてからだった。

その間、IAEA=国際原子力機関は、村で避難基準の倍にあたる数値を観測したと日本政府に伝えていた。しかし、国の対応は後手に回り、村人たちは放射能汚染に晒され続けたのだ。

飯館村 菅野典雄村長(当時)
「本当に断腸の思いと言いますか、腹立たしい思い、これからなんとかしていかないと皆さんの生活や命を守れないなと」

原発事故で「2か月以上原乳を捨てた」放射能と闘い続けた酪農家

そんな飯舘村の過酷な状況を、原発事故の直後から発信し続けてきた人がいる。酪農家の長谷川健一さん(当時58歳)だ。

長谷川健一さん
「畑のいたるところに地割れが発生しています。(線量計の)アラームは鳴りっぱなしです」

事故後、ビデオカメラを購入し、村の記録を撮り続けてきた。自らが監督を務め、ドキュメンタリー映画を製作。海外メディアの取材にも積極的に応じた。

情報をなかなか出さない国の対応についても言及していた。

長谷川健一さん
「もうちょっと早く(情報を)出してもいいんじゃねえのって、なんでIAEA(国際原子力機関)じゃなくて、国で出さないの。国に見捨てられたみたいな感じも受けてます」

酪農を続けて35年。自宅で50頭ほどの牛を育てていた。毎日が牛中心の生活だったと妻の花子さん(72)は振り返る。

長谷川花子さん
「おっぱい張れば鳴くし、お腹が空けば鳴くし、人間と同じ。牛の牛乳で私達は生活していた。家族同様でした」

だが、原発事故から1週間あまり。村の牛の原乳から暫定基準値の17倍にのぼる放射性ヨウ素が検出され、健一さんの牛の原乳も出荷できなくなった。

自宅の目の前にある畑。健一さんはその一角に穴を掘り、搾った原乳を2か月以上、捨て続けた。

長谷川花子さん
「穴掘って、ダンプをバックして、2日に1回くらいは捨ててました。自分の体を削ってまで出すんですよ、牛乳。それを捨てなくちゃならない。だから本当に情けない。酪農家はみんな耐えました。とにかく耐えてくれということで」

そして事故からひと月あまり。日に日に痩せ細っていく牛の姿を見る中で、健一さんは酪農の「休止」を決めた。

「こんな化け物に負けねえぞ」放射能と闘い続けた酪農家

我が子同然に育てた子牛は福島県内の牧場に。親牛の3分の2は何とか買い取ってもらえたが、残りはと畜場に出すしかなかった。

その時も健一さんはカメラを回し続けた。

長谷川花子さん
「なかなか歩かないんです、怖いから。(Q.牛はわかるんだ?)わかりますよ。涙流しますからね」

村に11軒あった酪農家。それぞれが断腸の思いで牛を手放した。

2011年5月7日。まもなく村を出て離ればなれになる子どもや孫たちが一同に集まった。

その時、健一さんは放射能について、こう語っていた。

長谷川健一さん
「ジイジはこんな化け物に負けねえぞ、こんなのに俺は負けてられん」

原発事故から5か月。牛の処分が落ち着いた健一さん夫婦は、年老いた両親を連れ、隣町にある仮設住宅に移り住んだ。

日下部キャスター
「震災前に原発事故を飯舘の人たちは意識したことはありましたか」

長谷川花子さん
「原発はもう遥か遠くのもの。こんな害を受けるなんて思わないので。原発マネーでももらっていれば勉強してるけれど、何もなくて最後に放射能を浴びた」

2019年4月。健一さん夫婦は8年暮らした仮設住宅を出て村に戻った。放射性物質が降り注いだ畑は、表面の土をはぎ取る除染作業をしたうえで返された。そこで選んだのがそば作りだった。

日下部キャスター
「元牛舎だったところは?」

長谷川花子さん
「それを今度、建て替えて、そばの加工施設に。袋詰めまで全部できる。ここは40ヘクタールある。大丈夫というのはそば。自分で思ったみたい」

それから2年後、健一さんに甲状腺ガンが見つかった。すぐに手術したものの病状は改善せず、2021年10月22日、帰らぬ人になってしまった。

長谷川花子さん
「亡くなる朝、電話もらった、珍しく。その時に『会いたいな』って言った。『コロナで会えないね』と言ったら、もう一回『会いたいな』って2回言われたの。『お父さん2回も言われると冗談でも嬉しいもんだぞ』と言ったのが最後の会話なの」

今、健一さんが生きていたら、我々に何を語るだろうか。

長谷川花子さん
「『お前ら原発止められないのか』って言うかも。『こういう目に遭ったんだともっとPRして、こうなったら困るだろうと見せておかないと、みんな忘れてしまうぞ』と言ってるような気もする」

飯舘村で唯一「帰還困難区域」に 故郷消滅の危機に「苦渋の選択」

飯舘村の南部に位置する「長泥地区」。村で最も深刻な放射能被害を受けた場所だ。

原発から吹き上げられた放射性物質は風に乗り、長泥上空で雨や雪となって降り注いだ。

私たちが当時の長泥区長・鴫原良友さん(当時60歳)と知り合ったのは原発事故の1か月後、全村避難が決まった頃だ。

鴫原良友さん
「全然恩恵を受けているわけではないし、電気だって全部東京に送っているんだから、何で40キロとか30キロ以上離れたところまで迷惑かけるのかな」

自宅周辺の放射線量は高い数値を示した。

日下部キャスター
「30振り切れちゃいました。60マイクロシーベルト」

線量がとりわけ高い長泥は、飯舘村で唯一「帰還困難区域」に指定された。地区の入り口にはゲートが築かれ、出入りは厳しく制限された。

本格的な除染が始まっても、長泥だけは放置された。このままでは長泥が消滅してしまう。住民の危機感は募った。

事態が動いたのは事故から7年後のことだった。

日下部キャスター
「長泥地区の復興について話し合う緊急の集会が始まるということで、地区の人たちが集まってきています」

荒れてゆく長泥を放っておくわけにはいかない。鴫原さんは住民との議論を重ね、居住区域の除染と引き替えに国が主導する再生事業を受け入れた。

放射能に汚染された土を詰めた黒いフレコンバッグの山。再生事業では再利用によってその量を減らすことを目指す。村中から大量のフレコンバッグが運び込まれた。

巨大なプラントでは除染土の仕分けが行われた。高濃度の土は福島第一原発近くの中間貯蔵施設へ。

そして長泥では低濃度の土を使った再生実験が行われた。放射能が漏れないよう除染土を一般の土ですっぽりと覆い、栽培した農作物に放射能の影響があるかを調べるのだ。

鴫原良友さん
「苦渋の選択よ。何もしないで荒れた状態で戻されるという考えがあったもんで、出来るだけ広く綺麗にしてもらいたいという苦渋の選択をしたわけ」

「ふるさと」とは何か 福島市内に集まる“長泥”のお墓

細かい文字で埋め尽くされた画用紙。長泥地区の手書きの地図だ。英語と日本語で様々な情報が書き込まれている。作成したのはイギリス人の社会人類学者トム・ギルさんだ。

人類学者として困難な状況下にある人々の様子が知りたかった。ギルさんは事故の1か月後、長泥に入った。

トム・ギルさん
「その音(線量計の音)は一生忘れませんね」

以来、ギルさんと長泥の人々の交流は続いた。避難先を訪ね地区の行事にも顔を出した。そんなギルさんが注目してきたのが共同体と墓地の関係だ。

トム・ギルさん
「集落が最終的に残るか消えるかを考える時、一番大事なのは墓地です。お墓が残っている限り、細々とでも、そのふるさととの関係を保つ」

ところが避難生活が3年を超える頃から変化がおき始めた。墓を他の場所へ移す家が増えたのだ。長泥の人々は別の形で繋がろうとしていた。

長泥区長 高橋正弘さん(65)
「これも長泥の曲田のひと。だから10軒のうえある」

福島市内の墓地に案内してくれたのは、現在の長泥区長、高橋正弘さん。誰が言い出したわけでも無く、長泥の人たちがここに墓を移しだした。いまでは10世帯以上にのぼる。

長泥区長 高橋正弘さん
「これだけみんな長泥の人がいるということは、盆正月お彼岸に来ても、長泥の人が線香上げに来れば、会って話とか出来るよな」

トム・ギルさん
「ふるさとはなんですか。場所なのか人間の共同体なのか。このお墓をみると、長泥から遠いけど長泥の人が集まっている。福島市に長泥である場所がずっと残ることはある意味心強いことではないでしょうか」

除染土の受け入れは正しかったのか…続く自問

日下部レポーター
「長泥地区への入り口です。ちょうどここには頑丈なゲートがありましたが、今は完全に取り払われています」

長泥地区の避難指示が解除されたのは、飯舘村で最も遅く2023年5月1日のこと。

いま長泥はすっかり姿を変えた。商店も家屋もほとんどが解体された。巨大なプラントは完全に撤去された。黒いフレコンバッグの山も消えた。

2024年、鴫原さんは更地になった自宅の土地に小さなプレハブを建てた。「長泥を訪れた人が集まる場所を作りたい」。井戸を掘り、水を確保した。

9畳ほどの部屋に全国から研究者や知人たちを招き、飯舘牛を振る舞う。何より長泥の記憶がほとんどない孫たちが来ることが嬉しい。

鴫原良友さん
「孫が来てここでバーベキューやったり花火をやったり」

鴫原さんは福島市内に自宅を購入していて、長泥に戻ることは現実的ではないと考えている。将来、子や孫たちが別荘感覚で訪れてくれたらと話す。

日下部キャスター
「落ち着きますか?ここは」 

鴫原良友さん
「全然違うよ。60年いたんだもん。ここにくると全然空気も違うし、すごく安らぐっていうの落ち着くっていうか、すっとするもの」

区長として苦渋の選択をした再生事業の受け入れ。ここで栽培された作物は検査の結果、安全性が確認された。2027年にも田植えが再開されるという。

鴫原良友さん
「科学的には安心安全というけれど、これは気持ち次第だからな」

育てた作物で生活を支えることは出来るのか。除染土を受け入れたことは正しかったのか。鴫原さんはいまも自問している。

鴫原良友さん
「放射能を入れるというのは並大抵ではない。良いとか悪いとか言われるのが一番きつい。正直言って、正しいとか悪かったとか判断出来ないもの」

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