思春期の「居場所」を考える 認定NPO法人3keys(スリーキーズ)が問いかける“ひとりでいられる安心”とは

2026-03-23 08:00

学校やSNS、アルバイトや部活。思春期の頃を振り返ると、人とのつながりに囲まれながら過ごしていた記憶があるという人も多いのではないでしょうか。けれど今の若い世代の中には、「誰かとつながること」が必ずしも安心につながるとは限らないと感じている人も少なくないようです。むしろ、無理に会話をしなくてもよく、ただ静かに過ごせる場所を求める声も広がっています。

そんな思春期世代のリアルな気持ちや居場所のあり方について考えるセミナーが、東京・日比谷図書文化館で開かれました。子どもや若者の支援活動を続けてきた認定NPO法人3keysが主催したもので、専門家による講演や調査結果の発表、行政関係者を交えた議論などを通じて、これからの「居場所づくり」について多角的な視点から語られました。

いま、若者が求めている居場所とはどのようなものなのでしょうか。そして、その背景にはどんな社会の変化があるのでしょうか。セミナーで示されたデータや議論をもとに、思春期世代の居場所について考えてみます。

思春期世代に起きている「変化」とは

思春期の子どもたちを取り巻く環境は、この10〜20年ほどで大きく変化してきていると言われています。今回のセミナーでは、筑波大学人文社会系教授の土井隆義氏が登壇し、青少年をめぐる社会の変化についてさまざまなデータをもとに解説しました。

近年、不登校の増加や子どもの自殺の問題など、若い世代の「生きづらさ」に関するニュースを目にする機会が増えています。こうした状況について土井氏は、単に子どもたち個人の問題として捉えるのではなく、社会や大人の側の変化とも深く関係している可能性があると指摘します。経済環境の変化や価値観の多様化、そして人間関係のあり方の変化など、さまざまな要素が複雑に絡み合いながら、思春期世代の感覚や行動にも影響を与えているという見方です。

とくに印象的なのは、今の子どもたちの人間関係の感覚が、10〜20年前とは大きく異なってきているという指摘でした。人と関わることが当たり前とされてきた社会の中で、つながりの多さが時に負担となる場面も生まれています。周囲と同じように振る舞うことや、常に誰かと関係を保ち続けることが求められる環境の中で、心の余裕を持つことが難しくなっているケースもあるのかもしれません。

そうした背景を踏まえ、思春期世代の「居場所」をどのように考えるべきかというテーマが、今回のセミナー全体を通して大きな軸となっていました。子どもたちが安心して過ごせる場所とはどのようなものなのか。大人がこれまで当たり前だと思ってきた価値観を見直すことも、これからの社会には必要なのかもしれません。

約4,000人の調査で見えてきた「ひとりでいられる居場所」のニーズ

セミナーでは、思春期世代がどのような「居場所」を求めているのかを探るために行われた大規模なアンケート調査の結果も紹介されました。調査の対象となったのは全国の10代およそ4,000人。北海道大学大学院教育学研究院の加藤弘通氏と、早稲田大学の白田好彦氏によって、その結果が発表されました。

一般的に「若者の居場所」と聞くと、同年代の仲間と交流できる場所や、何かの活動やプログラムに参加できる場所を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし今回の調査では、それとは少し異なるニーズが浮かび上がってきました。

調査結果によると、思春期世代の約3分の1が「非交流型重視グループ」に分類されるという結果が示されたのです。これは、誰かと積極的に交流することよりも、「一人で過ごせること」や「自分の時間を大切にできること」を重視する傾向を持つグループを指します。

友達と話すことや、誰かと一緒に活動することが楽しいと感じる一方で、常に人と関わり続けることに疲れてしまうという声も、若い世代の中には少なくありません。そうした人たちにとっては、会話をしなくてもよく、ただ同じ空間にいながら自分のペースで過ごせる場所が安心につながることもあるようです。

こうした「ひとり志向」や「秘匿性」を重視するニーズは、これまでの居場所づくりのイメージとは少し違うものかもしれません。しかし今回の調査は、思春期世代の多様な感覚を理解するうえで大きなヒントを与えてくれるものとなりました。若者が安心できる場所を考えるとき、「交流すること」だけを前提にしない視点も、これからはますます大切になっていくのかもしれません。

「ただそこにいられる場所」をつくる――3keys(スリーキーズ)ユースセンターの5年間

セミナーの後半では、主催団体である認定NPO法人3keys(スリーキーズ)の代表理事・森山誉恵氏が登壇し、これまで取り組んできた若者の居場所づくりについて紹介しました。

3keysでは2021年から、思春期世代が安心して過ごせる場所として「ユースセンター」を運営してきました。この場所の特徴は、特定のプログラムや活動への参加を前提としていないことです。誰かと交流しなければいけないというルールはなく、ただ静かに過ごすことができる。そんな「非交流型・非プログラム型」の居場所として運営されてきました。

一般的な居場所づくりでは、交流イベントや学習支援など何らかの活動が用意されていることが多いですが、3keysのユースセンターでは「何もしなくてもよい場所」であることが大切にされてきました。
人と話したいときには話せる一方で、ひとりで過ごしたいときには無理に関わる必要はなく、家庭や学校での人間関係から離れてひとりで過ごしたいときにも、子どもたちが何かを強制されることなく、ほっと息をつける場所となっています。
こうした自由な距離感が、思春期世代にとっての安心感につながっているといえそうです。

このユースセンターは約5年間にわたって運営され、コロナ禍の中でも継続して開かれてきました。その間、大きな事故やトラブルもなく、静かに若者たちの居場所として機能してきたそうです。

しかし今回のセミナーでは、このユースセンターが2026年3月17日をもって閉館することも発表されました。立ち上げのための資金集めから始まり、多くの試行錯誤を重ねながら続けてきた活動だけに、森山氏が思いを語る場面では胸に迫るものがありました。

今後は、この取り組みで積み重ねられてきた経験や考え方を、国や行政、民間団体などに向けて、広く伝えるための活動に力を入れていくそうです。
若者が安心して過ごせる場所とはどのようなものなのか。その問いに向き合い続けてきた5年間の実践は、これからの居場所づくりを考えるうえでも大きな意味を持つ取り組みと言えるでしょう。

民間の取り組みが社会へ広がる――港区で始まる新しい居場所づくり

セミナーでは、3keysがこれまで取り組んできた「非交流型・非プログラム型」の居場所づくりが、社会の仕組みとして広がり始めていることも紹介されました。

登壇した東京都港区の子ども若者支援部・矢ノ目真展氏からは、港区で計画されている新しい居場所づくり事業について説明がありました。この事業では、高校生世代の若者が一人でも安心して過ごせる場所を整備することを目指しており、2027年1月の開設が予定されています。

これまで3keysは、この計画の初期段階から情報提供や提言などを行い、行政と連携しながら取り組みに関わってきたといいます。民間の団体が実践してきた居場所づくりの経験が、自治体の事業として活かされていく流れは、社会的にも大きな意味を持つ動きと言えるかもしれません。

当日は、こども家庭庁の担当者や元港区子ども家庭支援センター所長なども参加し、トークセッションが行われました。そこでは、「非交流型」の居場所がどのような役割を持つのか、そして今後どのような形で社会に広げていくべきなのかについて、それぞれの立場から意見が交わされました。

若者の居場所をめぐる課題は、ひとつの団体だけで解決できるものではありません。民間の活動、行政の制度、そして社会全体の理解が重なり合うことで、新しい仕組みが少しずつ生まれていくのかもしれません。今回のセミナーは、その可能性を感じさせる場にもなっていました。

「ひとりでいられる安心」を社会の中に――これからの居場所づくり

セミナーに参加した人たちからは、「非交流型」という居場所の考え方について新しい気づきを得たという声も寄せられていました。誰かと関わることが前提になっている社会の中で、ひとりでいられる安心を大切にする場所があることは、多くの若者にとって意味のある選択肢になるのかもしれません。

思春期の頃は、人との関係の中で悩んだり迷ったりすることも多い時期です。友達との距離感に戸惑ったり、周囲の期待に応えようとして疲れてしまったりすることもあるでしょう。そんなとき、無理に誰かと話さなくてもよく、ただ静かに過ごせる場所があるだけで心が少し軽くなる人もいるのではないでしょうか。

今回のセミナーで示された調査結果や議論は、これまでの居場所づくりのイメージを少し広げてくれるものだったように感じます。「交流すること」だけが居場所の形ではなく、「安心してひとりでいられること」もまた、大切な要素のひとつなのかもしれません。

思春期世代の声に耳を傾けながら、社会全体で居場所のあり方を考えていくこと。そうした取り組みが、これからの若者支援の新しい一歩につながっていくのではないでしょうか。


認定NPO法人3keys(スリーキーズ)  概要

認定NPO法人3keysは、すべての子どもたちが家庭環境や社会状況に左右されることなく、安心して暮らしていける社会を目指して活動している団体です。
2011年から関東を拠点に、児童養護施設で暮らす子どもたちへの学習支援や、10代向けの情報サイト「Mex(ミークス)」の運営、思春期世代の居場所づくりに関する取り組みなどを行っています。

公式サイト:https://3keys.jp/

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