「若者の力で未来を変える」大学生が開発し、国連が採用したSDGsカードゲーム <シリーズ SDGsの実践者たち> 【調査情報デジタル】

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2026-04-04 08:30
「若者の力で未来を変える」大学生が開発し、国連が採用したSDGsカードゲーム <シリーズ SDGsの実践者たち> 【調査情報デジタル】

SDGsをテーマに、大学生が開発したカードゲームが世界に広がっている。カードに書かれた課題に対して、解決策を提案し、イノベーションを生み出していく。「シリーズ SDGsの実践者たち」の 第53回。

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学生の声から誕生したSDGsカードゲーム

大学生が開発したカードゲームが世界に広がっている。ゲームのテーマは「SDGs」。まずはどんなゲームか、説明しよう。

ゲームは2種類のカードによって行われる。1つは「トレードオフカード」。表面に「トレードオフ」と書かれ、裏面にはSDGsのために解決しなくてはならない「課題」が示されている。

画像のカードの場合は「環境のためにエアコンを使わないようにしたら、熱中症になりかけた」とある。トレードオフとは、一方を得るために他方の犠牲が必要な関係のことで、この場合「エアコンを使わない」と「熱中症を防ぐ」がトレードオフの関係になっている。このトレードオフ関係をどううまく解消するかが「課題」なのである。

そこで使われるのが、もう1種類のカードである「リソースカード」だ。リソースカードには課題を達成するための「もの」が書かれている。「微生物」「リサイクル技術」「人工衛星」「建築」「アニメ」など多岐にわたる。

では、実際にゲームを始めよう。ゲームは、進行を担当する「ファシリテーター」1人と、3〜4人の「プレイヤー」で行う。まずファシリテーターが、様々な「課題」が書かれているトレードオフカードの山から1枚めくる。ここでは先ほどの「環境のためにエアコンを使わないようにしたら、熱中症になりかけた」という「課題」が出たとしよう。

一方、プレイヤーはランダムに配られた「リソースカード」を3枚持っている。

プレイヤーは手持ちのリソースカードから1枚出して、解決につながるアイデアを披露する。この場合、最初のプレイヤーが出したカードは「建築」。アイデアは「高断熱、高気密な建物の構造にした涼しい家を作る」というもの。

2人目のプレイヤーは「微生物」のカードを出した。「高断熱、高気密な建物の構造にするとともに、微生物の力を活用した断熱シートを窓ガラスに貼る」というアイデア。最初のプレイヤーのアイデアを活かしながら、自分のアイデアを重ねていく。

3人目、最後のプレイヤーの手元には「リサイクル技術」「お笑い」「アニメ」のカードがあり、その中から「アニメ」のカードを出した。「アニメ」のカードが「建築」「微生物」とつながるようには思えないが、アイデアをまとめるためには「こじつける」ことも必要になってくる。

そこで出したアイデアは、「高断熱、高気密な構造を持ち、窓ガラスに微生物の力を活用した断熱シートを貼った家の中で涼しさを体感するとともに、怖いアニメを鑑賞して、気持ちの上でも涼しくなる」というもの。

プレイヤー全員がトレードオフを解消するアイデアを出せたら、1回目はクリアとなる。2回目、3回目に進むのだが、いったん出した手持ちのカードは使えない。手持ちのカードが減るなかで、新たなトレードオフカードに対するアイデアを出さねばならず、カードを途中で追加することもできないため、より「こじつけ」が難しくなっていく。

ファシリテーターはトレードオフカードの読み上げをはじめ、ゲームの進行役を務めながら解決策の創出をサポートする。参加したプレイヤーからトレードオフを解消するアイデアのプレゼンテーションを受けるのも、ファシリテーターの役割だ。

学生団体がSDGsカードゲームを製品化

このゲームの名前は「THE SDGsアクションカードゲームX(クロス)」。金沢工業大学の学生が中心になって開発した。SDGs達成を目指す際に生じるトレードオフを解消し、環境・社会・経済がバランスよく成長するアイデアを創出するもので、小学生以上であれば楽しめる。

クロスが生まれたのは2018年9月。当時の日本ではSDGsに対する認知度が低く、電通が同年2月に実施した調査では「内容まで含めて知っている」人と「聞いたことがある」人を合わせても14.8%しかいなかった。同大学Beyond SDGs推進センター所長の平本督太郎教授は、誕生のきっかけは学生の声だったと明かす。

「学科の学生全員と面談する中で、何をしている時が一番楽しいか、苦労もなくできることは何かを聞いていました。すると、多くの学生がゲームであれば苦もなくできるし、時間もいくらでも費やせると答えたんです。それなら、ゲームで社会を変えようという話になり、学生と一緒に開発を始めたのがクロスです。

低かったSDGsの認知度を広げることに加え、いろいろな人がアクションを考えられるゲームを目指しました。SDGsの本質をゲームの内容に盛り込むと同時に、革新的なアイデアを考えられるよう、経営学の考え方を基盤にして設計しています」

クロスの考案は学生団体である「SDGs Global Youth Innovators」が担った。最初にインターネット上に公開したのは無料版で、ダウンロードしたデータをプリントして、自分で1枚1枚カードを切り分ける形式だった。

すると、企業や教育機関などから購入したいという要望が数多く寄せられた。そこで、2019年にクラウドファンディングで約330万円を集め、カードを切り離してパッケージにする形で製品化した。英語版も製作している。

開発メンバーの一部は株式会社LODUを2021年に起業し、SDGsゲームの開発や販売のほか、企業や自治体などに対し、独自に開発したゲームを活用した研修などを行っている。LODUとは「LOVE」と「EDUCATE」を合わせた造語だ。大学との共同研究も続けている。

国連食糧農業機関との契約でブータン版を開発

以来、クロスは国内外に広がってきた。国内では約3000の小・中・高校で教材として活用されている。海外での評価も高く、ドイツのボンで開催された国連の会議に招待されてのプレゼンや、学生と平本教授がヨーロッパ各国を訪問して紹介したことで急速に広がった。現在では世界71か国で約70万人が体験するまでになっている。

さらに、国連食糧農業機関(FAO)から声がかかり、2023年12月から随意契約によって数種類の海外版を製作している。日本の組織が国連の機関から指名されて直接契約するケースは極めて稀だ。

海外版のひとつであるブータン版の開発で中心的な役割を担ったのが「SDGs Global Youth Innovators」代表で、取材時に生命・応用バイオ学科4年だった島田颯稀さんと、副代表で経営情報学科4年だった直江海翔さん。他のメンバーとともに半年かけて開発し、完成した際には2人が国連の費用で日本代表としてブータンを訪れた。 

クロスの長所は、対象国や自治体、企業などに合わせてカードをカスタマイズできる点にある。ブータン版ではブータンの若者で構成されるワールド・ユース・フォーラムのユースメンバーと開発に取り組み、オリジナル版ではそれぞれ34枚ずつだったトレードオフカードとリソースカードに、ブータンの食料や農業の魅力と課題を反映させたカードを9枚ずつ加えた。

島田さんは開発の過程で、ブータンの人々の自然に対する考え方に感銘を受けたと話す。

「ブータンは世界でも稀なカーボンネガティブの国です。カーボンネガティブとは、二酸化炭素を吸収できる量が、排出量を上回っている状態を指します。森が多く、自然豊かな環境を守り続けていて、開発の際に自然を切り開く手法を取ることはあり得ないと考えていることに驚きました」

直江さんがブータンの課題で深刻だと感じたのは、農業の衰退につながりかねない若者の海外流出だった。

「農業で働いてもそんなに稼ぐことができないので、若者がどんどん海外に留学し、農業を担う若者が減っていると聞きました。どうすれば若者がもっと農業に携わることができるのかを考えられるように、カードにもその要素を盛り込みました」

トレードオフを解消するアイデアを考え抜く

ブータン版を島田さんと直江さんにプレイしてもらった。

トレードオフカードの山から出た「課題」は、象などの野生動物が畑を荒らすのを防ぎたいが、ブータンには野生動物を大切にする伝統文化がある。どうすれば畑に来る野生動物を傷つけずに農業ができるかというブータンならではのトレードオフだ。

島田さんは手持ちの中から、農産物の生産地を示したブータンのリソースカードを出して、アイデアを披露した。

「ブータンは丘陵が多い地形なので、農作物に害をもたらすような野生動物が絶対にいない丘陵地に畑を開墾します」

これに続いて、直江さんは「家具」のカードを出した。アイデアをつなげるのが難しい場合は、カードを具体化もしくは抽象化して考えるのが、このゲームでアイデアを出すコツだ。そこで直江さんは「野生動物がいないような丘陵地でも農業の生産性が上がるように、座ったまま収穫ができる設備や椅子などを配置する」アイデアを出した。

本来は次に3人目のプレイヤーがカードを出しながらアイデアのまとめに入るのだが、今回は、島田さんが3人目を演じて「観光」のカードを出した。一見してどのようにつながるのかわからない。島田さんは即興でアイデアを語った。

「ここまで出たアイデアは、象のいない場所で土地を開発して、家具などを使って生産性の高い農場を作ることでした。ただ、このままだと景観が悪くなるなど、また違うトレードオフが起きるかもしれません。そこで、観光客が寄りたくなるような農場のデザインにする。観光地にもなる農場を作るアイデアで課題を解決します」

ゲームの主なルールは「人のアイデアを否定しない」「前の人のアイデアに掛け合わせたアイデアを出す」「全員が協力してトレードオフの解消に挑む」こと。手持ちのリソースカードが少なくなることで、より革新的なアイデアが必要になる。トレードオフを解決するアイデアを考え抜くことが、クロスの面白さであり、醍醐味でもある。

クロスの魅力はブータンでも受け入れられた。島田さんと直江さんがブータンを訪れたのは2024年8月。体験会は100人以上が参加するなど盛況で、予定時間を大幅に延長した。ブータンの農業大臣も訪れて実際に体験し、現地のテレビ局でも取り上げられるなど、大きな注目を集めた。島田さんはブータン国内にも広げることができると手応えを感じている。

「ゲームを開発して終わり、みたいになるのは嫌だと思っていました。そこで、ブータンの方がファシリテーターとなって、イベントや教育現場でクロスを活用して多くの方に届けられるように、ファシリテーターをつとめるためのレクチャーや実践練習などの研修を、ブータンのメンバーに対して行いました。研修によって活用につなげられたと思っています」

直江さんは、このプロジェクトに関わった若者代表として、最後に参加者の前で挨拶した時が最も印象に残っていると振り返った。

「僕が最初に『若者には未来を変える力がある』と言った瞬間に、100人以上が詰めかけた会場からすごい拍手が起こりました。これは嬉しかったですね。本当に自分たちの力で未来を変えてやろうと思っている人が集まっていると感じました。開発の過程も含めて、熱量の高さを肌で感じました」

学生や若者の声を「Beyond SDGs」に

ブータン版が完成すると、FAOからのオーダーですぐにネパール版の製作に取りかかり、完成した2025年9月にネパールを訪れた。ところが、思いもよらないことが起きる。その日に10代、20代の若者の反政府デモによって政権が倒れたのだ。

外資系のホテルが放火されるなどの混乱の中、国連と連携して身の安全を図ることが最優先だった。予定されていたワークショップは実施できなかったものの、帰国直前には約半年かけてともにプロジェクトを進めてきたネパールの若者たちと、ネパール版のクロスをプレイすることができた。

今後はブータンとネパールの開発メンバーとともに、クロスを国際的に広げていく方針だ。目下の目標は、FAOの本部があるイタリア・ローマで毎年開催されている「World Food Forum」に3か国の共同でブースを出すこと。高い倍率を突破することが必要になる。

すでにタイ版の製作も打診されている。島田さんと直江さんは2026年4月から大学院に進学。引き続きクロスを世界に展開していく役割を担う。平本教授はクロスを普及させながら、SDGsの次の目標を考えるBeyond SDGsの取り組みに、日本の若者が関わる環境を作っていきたいと考えている。

「SDGsの策定プロセスに関わった人の中で、若者が占める割合は世界では7割から8割です。ところが、日本ではごくわずかで、若者はほとんどいませんでした。Boyond SDGsではクロスを活用することで、日本の若者たちの声を国際社会に届けていきたいですね」

若い世代がゲームを通じて未来を変える取り組みは、これからも加速していく。

「調査情報デジタル」編集部

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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