「不相当、却下を!」“日本国籍取得訴訟”で弁護団が反論 国籍取得厳格化の中で、国が見せた対応と“黒塗りの解答用紙”【“知られざる法廷”からの報告】

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2026-04-05 06:38
「不相当、却下を!」“日本国籍取得訴訟”で弁護団が反論 国籍取得厳格化の中で、国が見せた対応と“黒塗りの解答用紙”【“知られざる法廷”からの報告】

日本で難民と認定されたアフリカ出身の男性が、日本国籍の取得を不許可とした国の処分取り消しと国籍付与を求めた裁判で、最終盤に国側が提出した文書に弁護団が強く反論した。法務省が外国人の国籍取得を厳格化する中で、何があったのか。東京地裁の「知られざる法廷」から報告する。(元TBSテレビ社会部長 神田和則)

結審目前で国側が文書を提出

「この(最終)段階で、(新たな証拠を)出すのは不相当。一方的に出されて、原告が事実でないことを述べているかのように主張している。却下していただきたい」

3月12日、東京地裁の法廷で、原告代理人の鈴木雅子弁護士が岡田幸人裁判長に求めた。裁判は、この日、原告の男性側と被告国側の双方がとりまとめの主張(最終準備書面)をして結審する予定だった。ところが、国側は新たに3点の文書を提出した。

いったいどんな内容だったのか。その前にまず、裁判の経緯をたどっておきたい。

難民のために国連で働きたい

男性はアフリカ出身で現在40代。母国で迫害を受けたことから、2013年に来日し、2年後に難民認定された。

早稲田大大学院の博士後期課程に進み、国際関係学を専攻、昨秋、学位が授与された。

ずっと胸に抱いてきたのは、国連の仕事に就いて、自らの経験を生かし難民を助けることだ。ところが、難民という無国籍状態ではパスポートを持てない。過去にも国外での国際会議に出席するビザが得られなかったり、出国先で拘束されたりと、つらい思いを余儀なくされてきた。

「自分らしく生きたい。そのためにも…」

日本国籍を取得しようと決心して過去2回、申請した。2回目は国籍法が定める5年以上の居住要件を満たしていたが、いずれも不許可に終わった。

国籍取得を申請すると、各法務局、地方法務局が小学校低学年の教科書などを参考に作成する日本語能力試験(ひらがな、カタカナの読み書きや文章の理解力、表現力)が実施されるという。ただし問題や結果は明らかにされない。不許可になっても理由は告げられない。いわばブラックボックスになっているが、国は「法務大臣には、国籍取得を許可するかどうかに関して極めて広範な裁量権がある」と、その正当性を主張してきた。

弁護団は裁判で争うにあたって日本も加入する難民条約の、ある条文に着目し、2023年4月、訴えを起こした。

難民条約は「国籍取得をできる限り容易に」

弁護団が焦点を当てたのは難民条約34条の規定だ。

「締約国は、難民の当該締約国の社会への適応及び帰化(国籍取得)をできる限り容易なものとする。締約国は、特に、帰化の手続が迅速に行われるようにするため並びにこの手続にかかる手数料及び費用をできる限り軽減するため、あらゆる努力を払う」

つまり34条は条約加入国に対し、難民が社会に定着し、国籍を取得するために、できるだけ“ハードルを下げる”ことを求めているのだ。

裁判で弁護団は、こう主張した。

「国籍取得を申請した人が難民の場合、受け入れた国が国籍を与えなければ、生涯、実効性のある国籍を持てなくなってしまう。だからこそ難民条約は34条で、一般の外国人に比べて難民の国籍取得を“できる限り容易なものとする”という規定を設けた。国はこの義務を誠実に順守しなければならない。ところが男性の場合、“できる限り容易”にした形跡が認められない。条約の要請に実質的に応えておらず、法務大臣の裁量権を逸脱、乱用したことは明らかだ」

国側は「法務大臣には、国籍取得を許可するかどうかに関して極めて広範な裁量権がある。国籍法が定めた条件が備わっていても許可を義務付けられているわけではない」「難民認定されたことは判断する際の一つの事情」などと反論した。

(国側の反論などの詳細は、2024年5月29日「国連で働き難民を助けて、自分らしく生きるために、日本国籍を…“無国籍状態”の難民の訴えで初めて争点になったこと【“知られざる法廷”からの報告】」参照)

日本語能力に裁判官が関心

裁判で国側は、日本語能力試験の解答用紙や点数を証拠提出しなかったものの、国籍取得を不許可にした理由は明らかにした。

「日常生活に支障がない程度の日本語能力を審査するために、複数回の日本語試験をしたが、男性は基本的なひらがな、カタカナの読み書きが十分にできなかった。日本語能力を含む諸事情を考慮した結果、日本社会への融和上問題があると認めて不許可とした」

その後、裁判官の関心は、男性の日本語能力に向けられていく。岡田裁判長はかなり明確に考えを示した。

「どの程度のレベルかはともかく、裁判所としては(国籍取得には)何らかの日本語能力は必要だという心証がある。特に2回目の(不許可)処分時にどれぐらいあったのか」
「仮に要求されている日本語能力があるのに、(国籍取得を)不許可としたなら、(処分)取り消しの違法事由があると思っている」

日常生活に支障あるレベルとは?

2026年1月、男性は日本語で本人尋問に臨んだ。

弁護士の質問に対し、アルバイトや大学院、近所付き合い、買い物など日々の暮らしで日本語を使う状況を語った。私は傍聴席で聞いていて、日常生活に支障がある日本語のレベルとはまったく感じなかった。

一方、反対尋問に立った国の指定代理人・川勝庸史氏は、会話に比べて読み書きの面で弱点があることを突いた。

自分の経験を振り返ると、私は記者になってからロシア語を学び、モスクワに4年近く赴任した。読み書きより会話が先に身に付いた。だが、仕事にも普段の生活にも支障はなかった。母国が漢字文化圏ではない男性にとっては、なおさら会話の方が早く上達するのは自然だろう。それで日常生活に支障はない。

さらに尋問で違和感を覚えたのは、日本語能力試験で「採点の際に点数を見た」という男性の証言に対して川勝氏が執拗に質問していたことだ。一部を抜粋する。 

川勝氏「日本語テストの点数を覚えているというふうに主張されるが、法務局の担当者が点数を付けているところを実際に見たんですか」
男性「見ました」
川勝氏「テストが終わった後に、担当者は席を外しませんでしたか」
男性「ないです」
川勝氏「数字を書くところを見たんですか?」
男性「見ました」
岡田裁判長「数字は見たということですね」
男性「そう」

弁護団は、それまでに提出した書面で「試験は男性の目の前で採点されて点数が書き込まれ、82、83点~91点と評価されたと記憶している」と主張してきた。実は国側も書面で「原告が主張するとおり、当該試験は原告の面前で採点が行われており」と認めていた。

なのにどうして、こだわるのか。実はこのやりとりが、“土壇場”での新たな文書提出の伏線になっていた。

文書に弁護団が異議…裁判官は?

冒頭でふれたように3月12日の法廷では、それまでに提出された証拠と本人の尋問を踏まえて、双方が最後の主張をして結審することになっていた。ところが、国側は3点の文書を新たに提出した。その中身とは…。

1つ目は、東京法務局での日本語能力試験の一般的な運用として、採点は当事者のいない別室で行われ、結果は開示しないという報告書。2、3点目は、これまで再三、提出を求められながら国側が応じなかった男性の解答用紙だ。最終段階でようやく出されたが、ほぼ全面黒塗りだった。

これによって国側は「試験の採点が面前で行われ点数を見た」という男性の法廷証言の信用性を崩そうとした。だが、国側は当初、書面で「原告の面前で採点が行われており」と認めていた。にもかかわらず理由を示さず、ただ「上記主張は誤りであった」と翻した。

弁護団は、この3点を証拠として取り調べることに異議を唱え、応酬が続いた。

川勝氏「前回の尋問結果を踏まえて、原告が述べたことを弾劾する

「弾劾」とは証言の信用性を低下させることを意味する。

岡田裁判長「今の段階で出てくるのは、やや相当性に欠ける。(弁護団から)異議が出るとなると、そのまますんなり証拠調べは難しい。被告で(提出を)撤回されては?」
川勝氏「撤回は致しかねる」
岡田裁判長「立証趣旨は?」
川勝氏「原告が点数を見たというのは事実に反する」
関聡介弁護士「(解答用紙が)これほど全面的に黒塗りでは、必要最小限の証明力すらないと言わざるを得ず、取り調べに値しない」
川勝氏「代理人の感想に過ぎない」

審理が終結するはずの局面で突然、出された新たな文書…。弁護団があらためて反論や反証をするには一定の時間が必要で、そうなると、判決は遅れる。

民事訴訟法では、証拠は進行状況に応じて適切な時期に応じて提出しなければならないことになっている。タイミングが遅れた場合、裁判所が「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」として「これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたとき」は、却下して提出させないことができる。

最後に岡田裁判長が告げた。

「却下、弁論終結」

3点の文書が証拠とされることはなかった。

国の代理人は裁判官

関弁護士は「尋問前に書証は出し終えておくべきであり、例外は反対尋問の際に弾劾証拠として提出するというやり方だ。今回、国は反対尋問の時点で出し惜しみし、証拠調べの終了を前提とした最終準備書面の段階で、いきなり“後出しジャンケン”的に出してきた。原告側の反論、反証の機会が不当に奪われかねない禁じ手的なやり方でアンフェアだ」と指摘した。

そのうえで「国の代理人は公益を代表する立場。より一層の公平さ、公正さが求められる。手段を選ばず、何が何でも国を勝たせればいいというものではない。しかも川勝氏は裁判官からの一時的な出向者であり、このように不公正な証拠の出し方をするのは、二重の意味で許しがたい」と批判した。

補足すると、川勝氏は「判検交流」と呼ばれる最高裁と法務省の交流人事で裁判官から出向しているこの人事では、法務省で国の代理人を務め、通常は数年後に再び裁判所に戻る。「審判(裁判官)が相手チームの監督(国の代理人)になる」とかねてから批判されてきた。刑事事件では「裁判の公正さをゆがめかねない」として2012年度に廃止されたが、民事の分野では今も続いている。

外国人の人権を巡る裁判を取材していると、国側の姿勢はアンフェアだと感じることがしばしばある。

ミャンマーの少数民族ロヒンギャの男性が国に難民認定を求めた裁判では、2024年1月、名古屋高裁が男性の逆転勝訴を言い渡した判決の中で、国の姿勢を「世界人権宣言の趣旨にも反し人道上看過できない不相当な主張」「難民申請者の実情を無視」「まったく意味のない的外れな主張」と痛烈に批判した。

弱い立場にある個人が、国という強大な存在を相手に最後の頼みの綱として起こす裁判で、アンフェアな対応があってはならない。  

「私だけの裁判ではない」

法務省は2026年4月から、外国人が日本国籍を取得する際の運用を厳格化した。かつて私の取材に男性は「この裁判は私だけのためではなく、同じ問題を持つみんなのためでもある」と語っていたことを思い出す。

男性が、日常生活に支障のない日本語を使えることは法廷で実証された。加えて難民条約には国籍取得を“できる限り容易なものとする”という規定がある。一連の法廷を傍聴してきたが、もはや日本国籍を認めるべきだと思う。

とはいえ、男性が難民申請をした時から支えてきた鈴木弁護士の言葉は重く響く。

「国籍の取得を日本政府から拒絶されている間に、彼は年齢を重ねた。世界は激変し、資金難となった国連は従来のような採用が難しくなり、夢を実現させるのはほとんど不可能になってしまった。人生にとって、最も重要とも言うべき自己実現を妨げられ、幸福追求権が侵害されたことを忘れてはならない」

裁判官は、どう判断するのか。5月12日の判決に注目したい。

<“知られざる法廷”からの報告>
裁判所では連日、数多くの法廷が開かれている。その中には、これからの社会のあり方を問う裁判があるが、報じられないまま終結してしまうことも少なくない。“知られざる法廷”を取材して報告する。

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