ナフサ由来の一部石油製品が供給不足、身近な現場に広がる切実な声【報道特集】

アメリカとイランとの協議では封鎖状態が続くホルムズ海峡の扱いも焦点の1つとなります。一部で供給不足が起きているのが、ナフサ由来の製品。生活に身近な現場に影響が広がっています。その切実な声を取材しました。
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ナフサは…物流展示会で聞く
4月10日まで大阪で開かれていた、物流業界向けの展示会。420社が出展し、生産性向上などに繋がる製品が並んだ。
荷物をフォークリフトなどで運ぶためのパレット。発泡スチロール製だ。
トーホー工業 担当者
「非常に軽い。飛行機で送る場合、パレットの重量も運賃に加算される。樹脂パレットだと15〜20キロあるものが2キロで済む。かなりのコストメリット」
Q.発泡スチロールは何でできている?
トーホー工業 担当者
「ポリスチレン樹脂ですね」
Q.原油から?
トーホー工業 担当者
「原油からです。ナフサから。蒸気で熱を与えると大きくなる」
今、原料の調達はできているというが…
トーホー工業 担当者
「ボイラーを稼働させる重油の価格が高騰している。原料もそういう話はある」
ナフサは原油から精製され、プラスチックなど幅広い製品に使われている。
日本は国内消費量の約4割を中東から輸入していたが、イラン情勢を受けて供給の不安定化が懸念されている。
パレットに載せた荷物が、崩れないよう透明のフィルムで包装する機械にも影響が…
Q.フィルムは何でできている?
成光産業 担当者
「これはナフサですね。どこも値上げと出荷制限が入っている」
Q.1本いくら?
成光産業 担当者
「大まかに言うと1万円しなかったものが、1万円台前半、さらにもうちょっといきそう」
人の力ではなく機械を使って巻くことで、こんなメリットがあるという。
成光産業 担当者
「フィルムを物理的に伸ばして包装します。最大6倍まで伸ばせるので、フィルムコストが落とせる。石油製品は社会生活全体のものなので、それが崩壊するので、安定してもらわないとどうしようもない」
会場には一風変わったブースもあった。
物流専門メディア「LOGISTICS TODAY」の赤澤裕介編集長。出展者や来訪者をブースに招いて、インタビューする様子をYouTubeなどで配信していた。
「LOGISTICS TODAY」赤澤裕介 編集長
「近況も聞きたいなと思っているんですけど」
運送会社 取締役
「燃料調達とか、トランプ政権の戦争によってどれだけ影響出てるか。メーカーさん、ものすごい金額の値上げしています」
さらにこんなアンケートも…
「LOGISTICS TODAY」赤澤裕介 編集長
「物流のメディアとして、ホルムズ危機について報じていますが、自社のBCP(事業継続計画)の見直しに着手したか聞いています」
石油やナフサなどの供給不足への不安が高まる中、物流専門メディアとして3つの情報を重視しているという。
「LOGISTICS TODAY」赤澤裕介 編集長
「量の問題・価格の問題・見通しに関する情報。この3つがセットで必ず経営者は押さえなきゃいけない情報。逆に言うとこの3点セットがちゃんと押さえられれば、それなりに作戦の立てようは出てくる」
川の流れに例えられるナフサ
業界では、ナフサから作られる石油化学製品の多様さを、川の流れにたとえてこう言う。
「LOGISTICS TODAY」赤澤裕介 編集長
「ナフサというのは、原油を蒸留して作る。このナフサを頂点に、『川上』→『川中』→『川下』、幅広い製品の広がりがある」
ナフサを高温で分解すると、エチレンやトルエンなどの基礎化学品が生まれる。これが「川上」と呼ばれる。
次の「川中」は、基礎化学品を加工して生み出される製品。プラスチックやゴム、繊維などの製品の原料になる物質だ。
中東からのナフサの輸入がストップする中、「川上」の部分に影響が出はじめている。ナフサを分解するプラントが、ナフサ不足などを理由に減産しているのだ。
番組が大手石油化学メーカーを取材したところ、修理中をのぞく国内10基のプラントのうち、少なくとも6基で減産や稼働調整していることがわかった。
政府はこう強調する。
赤沢亮正 経済産業大臣
「ナフサについては、川中製品の在庫活用、国内外での精製と合わせて、少なくとも化学品全体の国内需要4か月分を確保できており、原油や石油製品全体のみならず、化学品としても日本全体として必要となる量は確保できている」
ホルムズ海峡封鎖後、政府は、中東から入らなくなったナフサの分については、中東以外からの輸入を倍増させ、さらに川中製品の在庫を活用することで賄っていくとしている。在庫は約2か月分あるという。
今後、川中製品の輸入をすすめることで、在庫を取り崩す量は減り、川中製品の在庫は半年以上に伸びるとの見通しを示している。
シンナー不足 現場の切実な声
政府は、全体として必要となる量は確保できているとしているが、生活に身近な現場からは「製品が足りない」との声も上がる。
都内で住宅などの塗装業を営む、横山直樹さん。外壁塗装には、主にナフサ由来の「シンナー」を使っている。
塗装業 横山直樹さん
「これ今ぐちゃぐちゃになってて硬い。これにシンナーを入れる(混ぜる量は)適量10%」
このシンナーは、硬い塗料を柔らかくして、塗りやすくするための役割を担っている。また、刷毛やローラーの洗浄用としても欠かせない。
しかし、3月、仕入れ先の塗料販売店に大手メーカーから、シンナー製品の出荷調整についての通知が届いた。
大手メーカーからの通知
「原料の入荷見通しが極めて不安定な状況となっており、従来どおりの供給体制を維持することが困難となってきております」
「75%の値上げ」とする知らせだった。
塗装業 横山直樹さん
「2~3か月前に取った見積もりが、着工になっちゃうと、その金額でやらなきゃいけなくなってくる。お客さんに今更『シンナー高いから金額上げてください』なんて言えないです」
今は価格以前に、製品そのものが入手できなくなっている。
塗装業 横山直樹さん
「2週間ぐらい前から頼んでも『ない』とか、欠品中で未定になっている、制限かかってるっていう状況」
シンナーの在庫は、夏を越えられるだろうかと心配している。
塗装業 横山直樹さん
「(シンナーが)切れたら仕事になんないですよね。できないから探すしかないんです。問屋で『ない』と言われ、建材屋に行っても『ない』と言われ、試しにホームセンターを見に行ったら、それも欠品中。一日一日がゆとりがないんですよね。仕事を受けられない。物がないと」
繁忙期に原料不足「苦しい」
シンナーと同じように、原料が不足している現場がある。
アステックペイント福岡工場 品川光工場長
「ドラム缶がありますが、ナフサからできている。1か月分しかないという状況」
福岡県内の塗料メーカー。主力商品は遮熱性の高い塗料だ。遮熱塗料を屋根などに塗ると、太陽光の近赤外線を反射するという。
記者
「熱くないですね」
屋内温度の上昇を防ぐことにも繋がり、冷房などの消費電力の抑制や、熱中症防止などの効果が期待できるとしている。
一般的に塗料はシンナーと同様、ナフサ由来の溶剤が原料となっているものが多い。このメーカーでは一部の原料の確保の見通しが5月以降、立っていないという。
アステックペイント福岡工場 品川光工場長
「いろんなものを混ぜ合わせて、初めて塗料ができる。その一部(の原料)が入らなければ、この塗料もそもそも作れない状況になる。今繁忙期中で、4〜5月の涼しいシーズンは、一番塗料が塗りやすい時期。『苦しいですよ』としか言えない」
原料メーカーからは、値上げの通知が連日、届いているという。
アステックペイント福岡工場 品川光工場長
「30〜50%以上、値上げする可能性がありますよと。あり得ない数字です、今までだったら。ナフサが上がると価格が上がります」
政府が示している、供給を確保する対策の効果については…
アステックペイント福岡工場 品川光工場長
「実感はないですね、正直。一般の塗料メーカーは、この影響が続けば、物が作れないんじゃないかというところまで来ていると思う。早急に確保してほしいとしか言えない」
原料「確保できない」7割…供給不足のワケは「目詰まり」か
塗料や、その希釈剤として使われるシンナーの不足は一部の現場だけで起きているのだろうか。
関東にある塗料やシンナーを製造する46のメーカーが加盟する「関東塗料工業組合」。
4月、緊急アンケートをとったところ原料となるナフサ由来の溶剤、トルエンやキシレンなどの「確保ができていない」という声が多く寄せられた。
関東塗料工業組合 篠原幸治理事長
「原料として溶剤の確保ができていないということ。4月に調達しなければいけない原料がありますよね。それがまず『確保できていますか・できていませんか』ということに対して、7割が『できていない』と答えています。一部の溶剤も3月上旬からストップしているような状態で、極めて厳しい状況に置かれています」
塗料は建物だけでなく、車や家電、金属の塗装など生活にかかわる幅広い分野に欠かせない。生産が止まれば、影響は少なくない。
なぜ原料の溶剤は行き渡らないのか。8日、赤沢大臣は…
赤沢亮正 経済産業大臣
「シンナーの原料となる川中製品については、供給が継続されている一方で、足元では供給の偏りや流通の目詰まりが、かなりひどくなっていると認識する」
政府の説明では、川上の石油化学メーカーは減産しているものの、川中への原料の供給量は、輸出を減らすなどして維持できているという。その川中にあたるメーカーや卸売・小売業者の間で流通が滞り、目詰まりが起きている可能性があるとしているのだ。
高市総理は10日…
高市総理
「住宅建設や自動車整備などで使われる、塗料用シンナーに対する供給不安の声も伺います。赤沢大臣と金子大臣は、川中のどこで目詰まりが発生しているのか特定のうえ、一刻も早く総力を挙げて目詰まりを解消してください」
目詰まりの可能性を指摘された、川中のメーカーや業者。全国1200の卸売業者が加盟する日本塗料商業組合に聞くと…
日本塗料商業組合
「塗料が入ってこないという報告が来ています。私たちが大量に在庫を抱えているわけではなく、目詰まりを起こしているわけでもありません」
では、メーカー側はどうなのか。
関東塗料工業組合 篠原幸治理事長
「塗料業界に入ってきている溶剤というのは、アンケートの結果、これは事実。 実際に買おうと思っている、100%の数量を買えない状態。何が原因で目詰まりみたいなものが起きているのかというのは、実際のところはわからない」
シンナーの製造メーカーにも取材すると…
シンナーメーカーA社
「シンナーの原料が、通常の半分ぐらいしか入ってきません。値段が高かろうが、世界中から原料をかき集めて、なんとか製造は続けています」
「原料が『100』あるとしたら、4月は『50』、5月は『50』と分けて使って、延命するのが企業というものです」
シンナーメーカーB社
「3月中旬まで原料は従来の半分も入ってきませんでした。『目詰まり』という言葉には、『全部出せばあるけど、じゃあ今全部出しますか?』と思いました。それも『目詰まり』と言われてしまうのでしょうか。3月下旬以降は、原料が一切入ってきません。シンナーを作れないので売ることもできません。原料が入ってくるめども立っていません」
シンナーメーカーC社
「3月は在庫を削ってなんとか出荷量を維持しましたが、4月に原料が尽きました。一時的に休業するかどうか考えないといけなくなっています」
塗料やシンナーのメーカーを取材すると「原料が入ってこない」という声が相次いだ。
原料となる“トルエン”と“キシレン”の供給について、経済産業省に取材すると、「生産量は確かに落ちているかもしれないが、供給量は維持しているとの報告を受けている」とした。
ナフサ「確保」でも不足の背景
高市総理
「原油の安定供給に万全を期すため、5月上旬以降、第2弾の国家備蓄の放出として約20日分を放出します」
10日、高市総理は石油の国家備蓄を新たに約20日分放出すると表明した。
ナフサについては、在庫が懸念される医療器具や食品トレーなどの流通状況を把握する仕組みを立ち上げ、相談窓口を設置した。
政府は、ナフサについて、全体で「少なくとも国内需要の4か月分を確保」と説明している。資源エネルギー問題に詳しい岩間剛一教授は、こう指摘する。
和光大学 岩間剛一教授
「マクロで見れば全体としてはある。でも、個々の製品について4か月分あるかどうかっていうのは、また別問題だってことです」
ナフサを分解すると、およそ一定の割合でさまざまな基礎化学品が「同時に」生まれる。不足するものだけをピンポイントで作ることが難しい。
さらに、一口に川中製品といっても多種多様で、それぞれ用途が異なる。
和光大学 岩間剛一教授
「原油からいろんな複雑なプロセスを経て、多様な製品が作られていく。多様な製品からさらにまた別の製品が作られていく。そういうかなり複雑なサプライチェーンの中で、穴が開いてしまって足りなくなるものが、部分的に出てくることはあり得る」
政府は、川中製品について、海外からの調達も進めるとしている。
ホルムズ海峡の封鎖により、世界の石油の流通の約2割が止まった。
Q.海外の調達に関しても、どれくらい現実味があるのかっていうのを伺いたい。世界の今の需給バランスの中で現実的に可能なのか?
和光大学 岩間剛一教授
「だからもう、かき集めるしかないですよ。米国だけじゃなくてカナダとかですね、アフリカ諸国とかですね、そういったところからかき集めなければいけないということになるわけですよね。世界全体として、(日量)1億バレル使っていたものが、2000万バレル消えてるわけですから。そういった意味で言うと、そんなに簡単な話ではない」
アメリカとイランの「停戦合意」により、ホルムズ海峡の通行再開が期待される一方で、影響が長期化する可能性もあるとみている。
和光大学 岩間剛一教授
「中東の石油精製設備とか油田とかが破壊されてます。そういったことがあると、実際にたとえホルムズ海峡を通過できるようになっても、少なくとも2か月〜半年は元の状態には戻らないということになるので。日本としても、いくら当面は大丈夫だとしても、できるだけ早い段階で省エネルギーとか、石油化学製品の無駄遣いをしないとか、そういったようなことをしていく必要があるんじゃないかなというふうに思います」