悪口を言うと颯爽と走る乗り物登場!「探偵さん、リュック開いてますよ」~2026年1月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

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2026-04-18 09:03
悪口を言うと颯爽と走る乗り物登場!「探偵さん、リュック開いてますよ」~2026年1月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

2026年1月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が熱く語る。はたしてこれはドラマなのか?と思わせる奇妙な作品も登場。

「考察」なんかさせない「探偵さん、リュック開いてますよ」

影山 僕のイチオシは「探偵さん、リュック開いてますよ」(テレ朝)です。

あらすじをかいつまんで言うと、主人公の松田龍平さんは才能ある発明家で、アメリカでいいところまで行ったんですけれど、今は廃業した温泉旅館に住んでいる。

お父さんは行方不明でお母さんは原田美枝子さんです。お母さんはお父さんを探しているらしく、海外を飛び回っていて、時々明るい能天気な絵葉書が届く。一度だけ登場しますが、基本的には声だけの原田さんがはまり役です。「リブート」(TBS)のシリアスな原田さんもいいですが、こういう原田さんもいいですね。

主人公は探偵もしていて、そこに癖のある依頼者がやって来る。温泉街にも癖のある人々がいる。無愛想なよろず屋の女の子がいたり。やがてその廃業した旅館に住みついてしまう人がだんだん増えていったりするわけです。

主人公が発明した乗り物が出てくるんですが、その乗り物のエネルギー源は“負の感情”なんです。だからその乗り物に向かって悪口を言うと、それがエネルギーになってどんどん走る。第1話でその乗り物に乗って、のどかな温泉街を主人公が颯爽と走るシーンがあって、これがドラマのコンセプトだと思いました。

今は一部の考察系とか、入れなくてもいいような要素をうだうだ入れるドラマが多い中、そんな考察とかさせへんでみたいな。もう潔くこの楽しさと緩い感じを味わって下さいという姿勢が好きでしたね。

最初の方は、行方不明の父親について語るところもあったので、松田優作に対するオマージュかな、とも思ったんです。松田優作の代表作に「探偵物語」がありますし。でも最終回まで見ると、本当にばかばかしい終わり方なんですよ(笑)。だから、松田優作オマージュですよと真顔で語るのも違うかなと思ったり。

今の令和のドラマ群たちよ、こういうドラマがあるぞというのを「どうや」と見せつけた作品で、圧倒的にこれがイチオシです。

倉田 大好きでした。多分、この期の私は疲れていたんだと思うんです。ほのぼの系のドラマが恋しくて恋しくてという状態で、そこにはまったんです。松田さんが発明家でありながら探偵という変わったキャラクターを自然に演じていて引き込まれました。

発明したものが、悪口で動く移動手段とか、ロケットがリュックから出てきて空を飛んだりとか、それで墜落して地面に埋まっている主人公とか、一つ一つの笑いの要素が私にドンピシャで、スタッフの知恵が炸裂したドラマでした。

田幸 松田さんご自身が企画段階から、台本打ち合わせにも入っていて、俳優が企画者、共同制作者になるという新しい座組みだなと感じました。

あと、各話が独立して、全然違うテンションの話が重なっていくという、連ドラのつくり方としては今までの常識を外す構造になっています。そういう非常に考えて作られた作品でありながら、見るとただただ緩くて笑える。かなり練られているのに、それを感じさせずに楽しめるように見せているのがうまいと思いました。

新しいことをやりつつ、新しいことをやっているドヤ感でなく、楽しくエンタメしてくれる作品。こういうタイプの作品がどんどんつくられるといいなと思います。

岡山天音がすごかった「片想い」

影山 僕が好きだったもう一本は、芦田愛菜、岡山天音の「片想い」(NHK)です。岡山天音がすごかった。

小栗旬さんが、インタビューでどんな役をやりたいか聞かれたときに、「ひらやすみ」(NHK・2025)の岡山天音のような役がやりたいけど、僕には絶対来ませんというオチまで言ったんですけれど、日常の何でもなさを演じさせたら、岡山天音はピカイチですね。「ひらやすみ」のときも皆さん絶賛されてましたが。

「冬のなんかさ、春のなんかね」(日テレ・2026)も、成田凌さんもよかったけれど、岡山天音ですよ。最終回の締めもいいところを持っていったのは彼でしたからね。あれはすごい。小栗旬も悔しがるわけです。

舞台は盛岡で、岡山天音と芦田愛菜が幼なじみ。彼の実家は豆腐屋なんですが、絵がうまいので、夢を抱いて上京してデザイン会社で働いている。彼女は地元で就職したけれど、仕事に思い悩んでやめてしまう。そこで彼の父と祖母から「豆腐屋が大好きで、小さい頃から見てきたんだからやれば?」と温かい声をかけてもらって働く。

彼は親戚の葬儀で帰ってくるんですが、いろんなメンタルを抱えていたので、そのまま会社をやめ、幼なじみ同士で豆腐屋で働くことになる。

基本的には、彼女の片想いから来ているタイトルの「片想い」ですが、それだけでなく、いろんな仕事に対する片想いだったり、生き方の片想いだったりを全部インクルードしているように思います。

脚本の岡田惠和さんが、片想いというその「想う」ことの大切さを描きたかったんだろうということが存分に感じとれました。人によっては、甘過ぎるやんかというところもあるかもしれませんが、彼女の彼に対する思いがチャーミングに表現されていました。

芦田さんも岡山さんを絶賛していましたし、先ほどの小栗さんも含めて岡山さんは同業者にえらく好かれている気がします。やはり自然体の演技ですね。優しさで包まれているようで、実は深いところまで表現している岡山さんが、岡田ワールドにしっかりはまっていました。

【訂正】記事初出時、ドラマのタイトルが「片想い」ではなく「片思い」となっていたので、関係箇所を訂正しました。お詫び申し上げます。

荒唐無稽だけどなぜか最後まで見てしまう「リブート」

影山 「リブート」(TBS)はいかがでした。

田幸 話題性では抜けていましたね。

影山 視聴率的にもそうでした。

田幸 設定はかなり荒唐無稽ですよね。みんな最初は荒唐無稽だと言っていたんですが、それでも見てしまう。次がどうなるか全然読めないんです。「そんなバカな」と言いながらも、多くの人が離脱せずに夢中になって最後まで見続けた。

設定の荒唐無稽さを払拭するには、やっぱりいい役者を置くことが一番だと痛感しました。無理のある設定やファンタジーや、いろいろなことを打ち消すには、もう鈴木亮平を置いておけばいいみたいな感じがありますね(笑)。鈴木さんのつくり込みの説得力、肉体表現はすばらしいと思います。

鈴木さんは体の使い方に長けていて、今回も松山ケンイチさんの立ち姿、歩き姿、ちょっとどんくさい走り姿を徹底的に分解して研究したそうです。(設定上、松山ケンイチ演じる人物が顔を変えて<リブートして>鈴木亮平演じる人物に成り代わる)

実は顔を変える前の松山さんのちょっと変な走り方も松山さん本来の走り方ではないんです。彼自身は陸上経験者なので、走り方はきれいなはずで、あの役柄だからあの動きをしていた。役づくりを徹底するいい役者が、多少無理のある設定を埋めてくれる。これはもう本当に鈴木さん、松山さんがいてこそでした。

倉田 盛り上がりではナンバーワンで、ハラハラドキドキがとまらない中毒性がある作品でした。

これは元の人物なのか、顔を変えた後の人物なのか見破ってやろうとするんですけれど見破れない。まんまとだまされてしまいましたが、実はこうだったとわかったときに、すごく気持ちがいい。

戸田恵梨香さん演じる人物も、実は別人が顔を変えた姿だったみたいに、次から次に本当に飽きさせない展開でした。エンターテインメントとはまさにこういう作品を言うんだなと。

影山 今のテレビドラマの傾向を一番ビビッドにつかんでいた作品でしたね。もう見ざるを得ないというか(笑)。

「ばけばけ」と「虎に翼」スピンオフ作品

田幸 ぜひセットで見たいと思ったのが、「ばけばけ」(NHK)と単発の「虎に翼」スピンオフ「山田轟法律事務所」(NHK)です。どちらも評価の高い作品ですが、スタンスは真逆にあったと思います。

「虎に翼」は、ちゃんと正論を言う。女性だけでなく闘う人たちを描く中で、社会の理不尽に声を上げる。さらに、声を上げられない、闘えない人も肯定していく。

そうした差別と闘う人を描いた「虎に翼」に対して「ばけばけ」は、闘えない、声を上げられない人たちの、どうにもならない日常の「うらめしさ」を抱きつつ、うらめしい日常の中でたわいのないやりとりや、日常のすばらしさを描くという点で立ち位置は反対にあると思っていたんですね。

「ばけばけ」はそんな中、うらめしいものを描いても、それを今の価値観で断ずることはしないと、制作の方がおっしゃっていたんですが、蓋をあけてみるとかなり現代に通じる社会問題が描かれていました。

一つは、今すごく高まっているようにも感じられる外国人差別、排斥問題。そして、お友達のサワちゃんが教員で、同じ仕事をしているのに非正規雇用だと賃金がとても低いという、正規・非正規の問題。さらにやっぱり男女格差があったりする。そうした、現代に通じるいろいろな問題を描いている。

主人公の二人、いっときは日本人より日本人らしい偉人としてもてはやされたヘブン先生と、その先生と一緒になって幸せになったおトキさん、憧れの存在として見られていたのに、ラシャメン、外国人の妾だと言われた途端に、世間の目がてのひら返しで冷たくなる。今のSNSに重なる描き方ですね。実は誹謗中傷をした人たちは大した悪意がなくて、ワーッと感情をぶつけるけれど、別の問題が持ち上がったら、すぐにそっちに関心が移って去っていく。その描き方が本当に今に近いものがあります。

影山 まさにその通りですね。

田幸 さらに、差別して傷つけてきた人たちが去った後の描き方にも感じるところがありました。一件落着になるかと思いきや、そうならない。

世間の関心が自分たちから離れた後も、人が話をしていると自分のうわさ話ではないかと思ってしまったり、ショールで顔を覆わないと町を歩けなくなる。世間の関心は移ろいやすいけれど、傷つけられた方の心の傷は簡単に解決するものではないということです。実はラシャメン騒動のさなかより、過ぎ去ってからのPTSDを思わせる心理的なトラウマの描き方が丁寧で、この作品がすごいなと思ったのはそのあたりです。

個人的には、最大のうらめしさは、ヘブン先生のモチーフである小泉八雲はよく知られた文学者ですが、共同制作者に近かった妻のセツさんの名前は残っていない。自伝的なものが一冊ありますが、世間的には知られていない。

これは八雲の話だけでなく、文学、芸術、あらゆるジャンルで、日本だけでなく海外でも、創作にかかわってきた、創作の源になった女性の名前がみんな消されて残っていかない。これこそが最大のうらめしさではないかと思っていました。このあたりを制作の方に聞いたんですが、その答えが最終週を見ると見えてくる。

最終週でヘブン先生が亡くなってから、トキさんは「何であんな幼稚な怪談なんてものを書かせたんだ」となじられ、自分たち夫婦の日々と、自身の存在を否定されたような思いになります。でもそこから今までの夫婦のことを思い出していくと、ずっとずっと楽しかった何げない日々があった。たわいなくてすばらしい日々だったと思い出させてもらって、そこから語り始める。

それが第一話の冒頭につながって、ああそうだ、女性の名前が消されたのではなく、これこそがトキさんであり、セツさんの物語なんだと。消されたのではなく、何か歴史に残る偉業を成したわけでもない。でも、このたわいない日々の物語を描くのが、まさにそこにつながるんだというその構図がすばらしいと思いました。

何も起こらない日々の代表例としてこの座談会でもとりあげた、ただひたすら登場人物がスキップをする回とか、ハトのまねをしていた回とか、そういうどうでもよく見えたことに意味があったということが、最終週につながる。よくできた脚本でした。

影山 脚本のふじきみつ彦さんが放送前から、何でもない日常を描くことを宣言していましたが、本当に何でもないものを何でもないまま描いたわけではない。スキップだけで一本やったのは見事だなと思いましたが、それもスキップという道具を使って夫婦愛、家族愛を描こうとしたわけですね。

田幸 「山田轟法律事務所」が「正しく怒る」ことを描いたのはいいなと思いました。日本人は怒ることをよしとしない人が多い。怒るにしても、感情的にならないようにとか「もっと言い方を」となどと求められる中で、このスピンオフ作品では、本編の中で一番笑わない、いつも怒った顔のよねさんを主人公に据えている。そのよねさんによって正しく怒ることを描いた。

本来言っている内容こそが大事なのに、言い方や態度を批判されるトーンポリシング、日本ではこれがすごく多い。正しい主張なのに、態度や口調ばかり批判される。日本人が一番理解しづらいこのトーンポリシングをスピンオフに持ってきて、正々堂々正しく怒ろうと主張する。脚本の吉田恵里香さんはすごいことをやったなと思いました。

影山 社会における怒りの大切さ、怒るべきときには怒るというメッセージがしっかりと視聴者に伝わったと思います。

失ったものを取り戻す「ラムネモンキー」

影山 「ラムネモンキー」(フジ)です。

田幸 主人公は51歳の三人組のおっさんです。私は同世代なので、作品に登場するサブカルネタとかが、どれもこれもわかるものだらけで、同世代物としての期待度が見る前から高かったのです。

さらに実際に見てみると、この三人を描いて、単なるノスタルジー、懐古物にしていないところが脚本の古沢良太さんのうまいところです。

彼ら三人は中学生のとき映画研究部だったのですが、顧問の先生が突然失踪してしまう。その後あるきっかけで再会した51歳の彼らが、それぞれの中で消えていた先生についての記憶をたどっていくミステリーでもありつつ、青春物でもある。

古沢さんは、豊かさと引きかえに失ってしまった忘れ物を取り戻す話を書きたかったとおっしゃっていました。50歳すぎの人のノスタルジーの甘酸っぱい話で終わりそうなのに、決してそれでは済まさない。その世代の人たちが向き合ってこなかった問題や、自分の記憶の中で何となく曖昧に眠らせていたものと向き合う、割とシビアな問題がたくさんでてくる話です。

それぞれにうまくいっていない人生迷子の三人組が、過去をたどり、見ずに蓋をしてきたことに向き合う。三人のたわいのない会話も魅力で、近年注目されつつある男性のケア物だとも感じました。男性同士の会話が、自分の傷と向き合い再生していくきっかけになっている。その男性のケアものとしての意義もあります。

いいなと思ったのが、津田健次郎さん演じるいじめられっ子が、後にいじめっ子に再会する。そのいじめっ子が、いい人になって介護施設を経営している。自分の親もお世話になるので、それは感謝するけれど、いじめられたことは許さないとしっかり言うんですね。今いい人だから過去は洗い流してという着地にしない。過去の傷は正面から受けとめて、その上で許さないという。この描き方はいいと思いました。

倉田 過去は変えられないですよね。先生の失踪という事実を、一旦は自分たちの中で曖昧な、なかったことにしてしまった過去は変えられない。でも向き合わなければいけない時が来たときにはしっかり向き合う。だから未来は変えられる。未来が変えられるタイミングが来たときにちゃんと向き合ってこそ大人だと三人の姿勢から強く感じました。

「終のひと」がぶつけてきたもの

田幸 「終のひと」(TBS)がよかったです。知っているようで知らない死の実務を容赦なくぶつけてくる作品で、いいと思いました。

身近な人の死の準備はなかなかできなくて、いざとなると心が追いつかないうちに、知らないうちにスピーディーに物事が進んでいってしまう。それを30分の体感で描いているのが、まさに葬儀とは、人を送るとはこういうことなんだと感じました。

葬儀社でバディになる二人のスタンスが、遺族の気持ちに寄り過ぎてしまう新人と、仕事はきっちりやるけれど破天荒で寄り添わない、一見クールな元刑事で対照的です。

元刑事は自身が余命半年の宣告を受けていて、平気な顔をしていますが、死がすごく怖い。あんなに人をたくさん送ってきた人でも、いろんな準備、経験をしても、やっぱり死って怖いんだとしっかり描いている。バディとしての師弟関係と、成長物語、死の実務の容赦なさとか、いろんなものを30分の中でみっちり描いていて、完成度の高い作品です。

倉田 私で言うと、将来両親が亡くなるということもあろうかと思いますが、そのときに、どうしたらいいのか、どういう気持ちになるのか、このドラマを見て、そういう不安が少し減ったように感じます。身近な人が亡くなった時に、その死とどうやって向き合うかを教えてくれる作品でした。

あの志田未来が…「未来のムスコ」

倉田 「未来のムスコ」(TBS)。志田未来さん演じる主人公、売れない劇団の俳優です。その彼女のもとにある日突然、彼女をママと呼ぶ見ず知らずの男の子が現われて、10年後の未来からきた彼女の息子だと言いはるんです。もう完全にファンタジーの世界で「どういうこと?」という感じで見始めたんです。

彼女も当然そんなこと信じられませんし、産んだこともない子どもの面倒なんてどうやって見ればいいんだとパニックになります。

ここで「警察に通報したら」といった野暮なSNSもあったのですが、そこはドラマなのでそうはならないだろうと思いつつ、彼女の戸惑いにも共感できましたし、その子が本当に未来から来た自分の息子だと信じていく過程を一緒にたどれたので、ファンタジーの世界だけれど、すんなり入り込めて、その段階的な描き方がよかったなと感じました。

主人公は結婚もしておらず、劇団員として稼がなきゃいけなくて忙しいし、子育てももちろんしたことがない。それでどんどん周囲を巻き込んでいくんです。そのことで、劇団をそろそろやめなさいと言っている故郷の親との関係性が変わっていったり、親友が手助けをしてくれたり、劇団の仲間や幼なじみの保育園の先生とか、いろんな人を巻き込みながら、みんなで一人の男の子を幸せにしていく過程が描かれていて、心が温かくなりました。

現代は子育てで孤立している母親の叫びがSNSにあふれていたり、育児ノイローゼの結果、虐待のような悲しい事件があったりしますが、子どもは一人で育てるんじゃない、みんなで育てるんだという世界観がもっと当たり前になったらいいなと思いました。

その子が未来から来た理由は、ママと「まーくん」と呼ばれているパパを仲直りさせたいということのようなんです。でもその「まーくん」が誰か、主人公にはわからなくて「誰がまーくんなの?」という展開も、すごく気になって引き込まれました。

田幸 ファンタジーですが、心理をうまく描いていて、あとやっぱり志田さんはとても上手ですね。ちゃんと共感できるように丁寧に丁寧に演じていました。彼女の演技力あってのところがかなりあるなと思って見ていました。

影山 「14才の母」(日テレ・2006)の志田未来が「未来のムスコ」をやる。そういうドラマ的な歴史をひもとくというか、志田さんの俳優としての成長ぶりを再確認できる、そういうおもしろさもありました。

それから、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ファンとして言いますが、タイムスリップで登場するのが電子レンジと稲妻なんです。ああ、と思いましたね。

さらに、ネタバレになってはいけませんが、まーくんは誰かというのがメインかと思いきや、もう一ひねり二ひねりしている。これは原作のうまさですが、それをちゃんとドラマに反映していて、僕も好きなドラマでした。

みんながざわざわしていた「冬のなんかさ、春のなんかね」

田幸 始まったときのざわざわ感がすごかったのが、今泉力哉さんが監督をつとめた「冬のなんかさ、春のなんかね」(日テレ)でした。視聴率が高くはないんですが、みんな盛大にざわざわしていました。私も今泉監督の映画は好きでよく見るんですけど。

影山 僕もそうです。

田幸 それをテレビの連ドラで見られるのはいいなと思いましたし、やっぱり連ドラでは見たことのない間であり、音量であり、質感であり、これを見られるのはうれしかったです。

杉咲花さんが上手なので、ドキュメンタリーを見ているような生々しい人間像、人物像の魅力があって、岡山天音さん、成田凌さんも含めて、役者さんの力を存分に楽しむドラマだったと思います。

影山 うーん、あえて申し上げると、これで2時間の映画として見たかったですね。

田幸・倉田 本当にそうです。

影山 それに尽きるんです。連ドラの難しさですね。

「再会」の江口のりこに殊勲賞

倉田 「再会」(テレ朝)を楽しく見ました。ある事件の謎を解いていくドラマですけれど、謎解きも楽しみでしたが、4人の登場人物が子ども時代に、トラウマ級の衝撃的な事件に遭遇する設定なんです。その体験を抱えた4人が大人になって再会したときに、抱えていたものの重さを互いに感じ合う。私はその人間関係の描き方のほうに魅かれました。

4人の中には、結婚して離婚した2人がいたり、思いを寄せていたけれど、その事件がきっかけで離れてしまったり、複雑な心理が描かれていて、もう少しそっちに比重があってもよかったと思いましたが、考察系としても楽しめました。

田幸 私も、考察系じゃない人間模様のほうをもう少し軸に描いてくれると深みがあっておもしろかったかなと思う一方、この作品はかなり配信で回ったんですよね。ふだんテレビドラマをあまり見ない若者の中で考察を楽しんだ方が多かったようで、その意味では、うまくいった作品だろうと思います。

影山 付け加えて言うならば、江口のりこさんに殊勲賞をあげたいです。彼女の芝居がなければ、最後まで完走して見られなかったかもしれません。すばらしい俳優さんだと思います。  

これはドラマか?「神木隆之介」

田幸 ドラマというくくりでいいのかなと思ったんですが「TXQ FICTION神木隆之介」(テレ東)が印象に残りました。テレ東はフェイクドキュメンタリー、モキュメンタリーと称する作品を何本か作っています。テレ東が着々とつくってきたとっても変な枠なんです。

これまで「イシナガキクエを探しています」という作品とか、何の告知もなく突然始まるんです。これは何なんだ、ドキュメンタリーなのか何なのかと思って見ると、知らない人物を追っていく恐怖みたいなものを感じさせられる。テレ東はこれを深夜に突然やるんです。

かなり奇妙で怖い作品が続いた流れで、今回はなぜか神木隆之介さん。神木さんの芸能活動30周年の節目に「てるちゃん」という消えた元子役を追うというフェイクドキュメンタリーで、もちろんご本人が出演しています。

フェイクドキュメンタリーは、つくり物とリアルの境界線がわからない曖昧さがおもしろいんですけれど、この作品では神木さんの演技力もあって、実際に何を見ているのかわからなくなってきます。

「僕は大人になりません」と明るく言って消えてしまったというか死んでしまった子役の話を、有名な元子役の一人である神木さんが、子役と親と事務所の闇みたいなところも追っかけるというブラックさも含めて、何てことをテレ東はやるんだろうと。

日本中の誰もが知っている神木さんを真ん中に置きながら、これまで見てきた、みんなが知っていて、みんなが好きな神木さんという人物の輪郭がゆがんでいく怖さがあります。今まで育ててきたテレ東のフェイクドキュメンタリー作品に、神木さんが共犯者として踏み込んだ形です。本当にテレ東でしか生まれない作品なのでぜひ見てほしいです。

「生きづらさ」に光を当てた「テミスの不確かな法廷」

影山 「テミスの不確かな法廷」(NHK)を語りませんか。

倉田 松山ケンイチさんがすばらしいドラマでした。特例判事補という役ですが、子どもの頃にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)であると診断されています。父親からは「普通」であることを求められて努力しますが、なかなかうまくいかない。そういった生きづらさを抱えながら、様々な裁判に立ち会っていくわけです。

いろいろな裁判が登場します。例えば運送会社のドライバーが事故で亡くなる話を、長時間労働の問題に光を当てながら描く。エンタメとして楽しいものを描くのもドラマの役割ですが、現代社会の問題を取り上げながら、エンタメとして昇華していく役割も大切だと思っているので、その意味でも優れたドラマだと思いました。

田幸 丁寧に作られたドラマでした。松山さんの演技が、デフォルメされておらず記号的でない。非常にしっかり役づくりをされている。そのすばらしさがありつつ、ラストで職場の人たちに自分のかかえている症状を打ち明ける。するとそれに対して、まわりは「特性」と言うんです。はたから見れば「それも一つの特性だよ」と。多分私自身も、特性とか個性とかと言ってしまう気がします。

でも当事者にとっては、特性と割り切れないところがやっぱりある。割り切れないけれど、そう言えるようになりたいし、そうありたいみたいなことを松山さんが長ぜりふでおっしゃる。いくら当事者の気持ちに寄り添おうとしても、非当事者とは違うところはあるので、このラストの締めもすばらしいなと思いました。

影山 おっしゃるとおり丁寧なドラマでした。最近は大量生産で丁寧とは言えない作品も割と出てきてはいますけれど、本当に丁寧な作品でした。

内容以外では編成的な問題がありました。この期はオリンピックがあって、この作品も放送が二週あきました。ドラマ関係者は忸怩たる思いがあったでしょう。回数についても松山さんの長ぜりふは心に響いたのですが、僕はもう一週欲しかったですね。

出演者では鳴海唯さんがよかったですね。喜怒哀楽の感情をグッと抑えて、でも内面からジワッとにじみ出る表現がうまいと思いました。ゴールデンプライムで主役を張るような俳優になるんじゃないでしょうか。

遠藤憲一さんが、ギターを弾きながら忌野清志郎を絶唱していたところもありました。そういうところも含めて、いいドラマに共通していることですが、主役クラスだけでなく脇の皆さんにもちゃんと命が宿っている。それができていたドラマだったと思います。出番は多くなかったですが、和久井映見さんも、市川実日子さんもよかったし、挙げれば切りがないですが、ドラマの王道と言える作品だったと思います。

<この座談会は2026年3月31日に行われたものです>

<座談会参加者>
影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授 コラムニスト。
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。
朝日放送ラジオ番組審議会委員長。
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員。
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など。

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。

倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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