伊勢ケ浜親方の弟子・伯乃富士への暴力案件は賛否両論も 批判こそ本場所の充実への“良薬”に

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-05-08 12:04
伊勢ケ浜親方の弟子・伯乃富士への暴力案件は賛否両論も 批判こそ本場所の充実への“良薬”に

元横綱照ノ富士の伊勢ケ浜親方が弟子に暴力を振るった問題で、大相撲ファンの賛否が分かれている。2階級の降格と3か月の報酬減額の処分は重い。部屋は集団指導体制で日本相撲協会と一門の監視下に置かれることにはなった。だが、師匠本人の不祥事ながらその立場は継続され、部屋の閉鎖等もなかった。過去の事例との比較で見解が割れている。

相撲協会の発表によると、事実関係はこうだ。問題が起きたのは3月の春場所(エディオンアリーナ大阪)前の2月21日。この日伊勢ケ浜親方は弟子を従え、午前3時頃から東京都港区西麻布の会員制ラウンジで後援者らと会合を開いていた。

その席で酔った幕内伯乃富士が、後援者の知人女性の太ももを触るなどの不適切な行為を行ったという。親方は後援者の怒鳴り声で気付いたようだ。いったん店の外に出て行った伯乃富士を席に連れ戻させて、「飲み過ぎて、覚えていないじゃあすまされないんだぞ。分かっているのか」と注意するとともに、拳で左頬を一発、平手で顔面を一発叩いたという。
春場所でまだ顔の腫れていた伯乃富士は、その場で後援者に謝罪した。

2日後、親方は自ら相撲協会の当時のコンプライアンス部長である勝ノ浦親方(元幕内起利錦)に事実関係を報告。「同席していた(幕内)錦富士にもその時のことを聞いて欲しい」と申し出て、翌24日、本人、伯乃富士、錦富士の3人が国技館で事情を聞かれた。

その後、協会は調査中として、結論を先延ばしに。春場所、新しい役員改選(任期2年)等を全て終えて、新年度になった4月9日の臨時理事会でようやく処分を出す。親方には理事長を筆頭に七つある年寄の序列で5番目の委員から最下位の平年寄への降格と、3か月間10%の報酬減額。今後は先代師匠(元横綱旭富士)ら部屋付の4人の親方とともに集団で指導する形を取るようにすることも決めて、部屋は無期限で協会、一門の指導・監督下に置くとした。以前にも同様のトラブルで外出を禁止されたことのある伯乃富士には厳重注意処分が下された。

臨時理事会ではコンプライアンス委員会から出された意見答申がそのまま処分となり、異論は出なかったという。藤島広報部長(元大関武双山)は、「今までの事例と合わせて処分は妥当。特に反対はなかった。

伊勢ケ浜親方には八角理事長(元横綱北勝海)から『師匠の自覚を持ってしっかりするように』と伝えた」と話した。処分が甘いとする意見に代表されるのは2020年7月、当時師匠だった中川親方(元幕内旭里)の例があることだ。弟子に日常的に暴力を振るい、極めて威圧的な暴言を吐いていたことが明らかになった時に、2階級降格と部屋の閉鎖処分が取られた。

また、記憶に新しいのが24年2月に弟子の幕内北青鵬が同じく日常的に部屋の力士に暴力を振るっていたことが判明した問題だ。師匠の宮城野親方(当時=元横綱白鵬)が、2階級降格と3か月20%の報酬減額の処分を受けた。それに伴い部屋は一門の伊勢ケ浜部屋の預かりとなることとなり、現在に至る。北青鵬は直後に引退。部屋の再開が認められずに宮城野親方自身も2年後には自ら退職した。

暴力問題が後を絶たない相撲協会は2018年に「暴力禁止規定」を発表している。その中で、「親方本人が暴力を振るった場合、力士以上に厳しい処分となる」と定めた。もろにこれに当たる中川親方との比較について、藤島広報部長は「中川親方の場合は長期的に暴力、暴言が続いていた。しかも、被害者側からの報告で分かった。今回は本人からの申告の上、一過性のものと判断した」と答え、明らかに違うと説明した。

一方の元宮城野親方の方は自らの暴力ではなかったが、部屋は事実上の閉鎖に追い込まれた。この事案と比べた場合には、「(宮城野親方は弟子の行為を)見過ごしていた期間が長期に続いた。自ら報告もしなかったし、第三者が介入して、事実関係の解明を妨害する恐れもあった」と話した。

角界では不祥事に対し、1度目は寛大に扱う傾向が昔から続く。そこが元宮城野親方との違いとみられる。しかも今回は立場上、酒席で許されざる行為に及んだ弟子への「指導」の意味合いもあったとされる。確かに自ら申し出たことも、これまでの問題行動の事案とは違う気がする。それでも、「暴力」で対処に至った結果は許されるべきではない。力士を導く親方、部屋を預かる師匠として、厳しく処分されるべきだと思う。

問題発覚後、協会は同親方に春場所での休場の処置は取ったが、大阪の宿舎での指導は続けさせていた。世間一般なら、せめて処分が出るまでは謹慎処分等にし、稽古場での指導等は控えさせるべきではなかったか。これでは始めから「情状酌量」が約束されていたようにも見えてしまう。

また、今の時代はセクハラ問題への視点も厳しい。不祥事のきっかけを作った伯乃富士の行為は、見方によっては犯罪行為にも取られる可能性がある。泥酔していたとはいえ、酒席のトラブルは初めてではない、と聞く。厳重注意だけで済ませてよいものなのか。新入幕場所でいきなり千秋楽まで優勝争いに加わり、敢闘、技能の両賞を受賞。「令和の怪物」の異名も持つ有望力士だけに、きちんと厳しい処分を与え、再出発させた方が本人の将来のためにも良かったような気はしている。

伯乃富士が元々は「伯桜鵬」のしこ名で土俵に上がっており、宮城野部屋所属の白鵬の弟子だったことも、この問題の見方を複雑にしている。モンゴル出身の2横綱はかたや史上最多の45回優勝。一方はけがや病気で序二段まで転落してから大関に復活、そして横綱まで上り詰めた。2人はこれも暴力で引退した同じモンゴル出身の横綱日馬富士を交え、現役時代から様々な因縁がある。今回の協会の言い分は理解できる部分が多いとは言え、それならば白鵬の時の処分が厳しすぎたのではないか、との思いは残る。

3月の役員改選で再選され、実質の6期目を迎えた八角理事長体制は10年を越えた。連日、大入りが続く「令和の大相撲人気」はとどまる気配をみせない。だが、華やかな勝負を期待するファンにとって、力士、親方の土俵外の振る舞いは「優しく、誠実で、応援出来るものを」と願っている。特に不祥事には素早く、多くのファンが納得できる対応を求めたい。耳の痛い批判や忠告こそ、本場所の取組をより楽しんでもらえる「良薬」と捉えて、協会幹部はかじ取りに当たって欲しい。

(竹園隆浩/スポーツライター)

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