【特集】天皇はなぜ男性だけ? “皇族数確保”議論のゆくえは… 2つの案が通ったその先

5月15日、「皇族数確保をめぐる与野党全体会議」が開かれた。各党・会派の見解が出揃い、議長らがめざす「今国会中の皇室典範改正」に一歩進んだ。近日中に、“歴史的な変更”は起きるのか。そもそも、いま何を話し合っているのか?前提には、皇室のどんな状況があるのだろうか?
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皇室の現在地 “2つの案”が通ったその先
皇室を構成する人数は、少しずつ減っている。1995年には26人いたのが、現在は16人に。うち9人は60歳以上だ。女性は結婚をしたら必ず皇室を離れるため、子が多く生まれない限り必然ともいえる(たとえば、直近では小室眞子さんが結婚により一般国民に)。つまり、人数を増やすには「今いる男性皇族が結婚して子を持つ」しか道はない。いま唯一の未婚男性である悠仁さまが結婚しなかった場合、事実上、皇室は途絶える。では、それを防ぐためにどうルールを変えればいいのか?ここまで議論されてきた中心的な2つの案が以下だ。
(1)女性皇族 結婚後も身分を保持
女性皇族が結婚しても皇族の立場を保てるようにする案。短期的には、結婚による離脱というマイナス1を防ぐ効果がある。多くの党・会派は容認しているが、「夫や子どもを皇族とするのか」「夫や子どもが一般国民の場合、政治活動なども自由に行えるがそれで良いのか」など検討課題は多い。
(2)旧宮家の男系男子を養子に
1947年、皇室のスリム化を図る趣旨で離脱することになった「旧宮家」とよばれる家がある。久邇家、賀陽家、竹田家、東久邇家など。その子孫のうち、“父方をたどれば天皇の血を引く男子”(=男系男子)について「養子として皇室に迎える」という案がこれだ。いまの皇室典範は養子をとることを禁じているので、そのルールを変更することで皇族数を確保しようという改正案である。
上記2案に対し、自民党は「どちらも容認」「優先は(2)男系男子養子案の方」というスタンス。中道改革連合は、(2)案については「制度化することも考えられる」と曖昧な表現に留まりつつも容認の方向でとりまとめた。15日の会議では、多くの主要政党が「(1)(2)ともに容認」で意見がまとまり、会議後、中道改革連合の笠議員は「今回の取りまとめは一つの区切りではありますが、決して議論の終わりではありません。むしろスタートです」とコメント。森衆院議長は「今国会中に成立にまでこぎつけたい」と改めて語った。
それぞれの案が通った場合、具体的に何が起きるだろうか。皇室制度を研究する専門家に話を聞いた。
<(1)案「女性皇族が結婚後も身分を保持」が通った、その先>
名古屋大学 河西秀哉 准教授
「具体的には、皇室典範12条が書き換えられます。『皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と結婚したときは、皇族の身分を離れる』という条文ですね。また、結婚後も残るとなっても、『その夫と子どもは皇族になるの?』というところは決まっていません。ここは将来の天皇に関わるので大事なところなのですが、大事ゆえに慎重です。今回まず大枠だけ決めて先のことは追ってなのか、そのあたりは不透明です」
さらに、(1)案が通った場合、以前から言われている「お金の男女差」が問題として浮き彫りになるという。
秋篠宮家など「宮家」の皇族には、生活費として「皇族費」が定められている。もし女性皇族が結婚後に新たな「宮家」の当主となり、独立して生計を営む場合、内親王(女性)に支給される金額は、親王(男性)の半分だ。2026年度の計算だと、内親王の1525万円に対し、親王は3050万円となっている。
「女性皇族のお金が少ない背景には、ルールが作られた当時の活動量の違いのほか、『女性皇族は結婚によりいずれ一般国民になるから』という背景があったとみられます。結婚しても女性が皇室に残るとなれば、もはやこの制度は合理的ではありません。まして、今の内親王おふたり(愛子さま、佳子さま)が多くの公務で負担が大きいのを見ると、時代と合ってないこの男女差は改めて問題になるでしょう」
<(2)案「旧宮家の男系男子を養子に」が通った、その先>
名古屋大学 河西秀哉 准教授
「皇室典範9条が変わるか削除でしょう。『天皇及び皇族は、養子をすることができない』というところですね。その上で、『旧宮家男系男子』という存在を、どう条文に落とし込むか。憲法14条(法の下の平等)に反するのではないかという声も出ているからです。内閣法制局は『違憲ではない』と過去に言ってますが、それでも余計なつっこみどころを作ってしまうのは避けたい。よって、条文には『1947年に皇室を離れた・・・』みたいなことは書かずに運用する可能性はあると思います」
具体的な養子対象者について、宮内庁長官は「対象となる方を把握していません」(5月14日会見)としたが、日本国内に現在10人ほどいるとされる。この案の運用に向けた壁は高い。一般国民として育ってきた本人たちが「今の生活を捨てて皇族の養子になる」必要があるが、そんな人がまずいるのか。さらに、今の天皇家との共通の祖先は、室町時代の「後花園天皇の弟」(約600年前)にまで遡るという遠さで、国民感情的にも受け入れられるか不明だ。
前回の会議時には、この案の賛否が中道内でまとまっていなかった。党内の反対層に配慮した「制度化することも考えられる」という微妙な表現からも分かるように、一枚岩ではない。
国民のあいだでも意見が大きく分かれている。
▼賛成41% ▼反対35% ▼答えない・分からない25%
※端数の関係で合計は100にならない
名古屋大学・河西秀哉 准教授
「(2)案は、賛否が分かれる上、施行後のイメージがつかず“分からない”人も多い。対象者は誰なのか?養子にとるって具体的にどの家で?その人はどんな生活を送るのか?・・・など、見えない話が多すぎて賛否を示すのが難しい。今後ステップを踏む中で、“案が通ったらどうなるか”を丁寧に説明する必要があるでしょう」
そもそも、天皇はなぜ男性だけ?
「数をどう確保するか」の話は、いずれ「誰が天皇になれるのか?」という問いに突き当たる。現在、その資格があるのは「男系」の血を引く「男子」のみ(皇室典範1条)。
長い歴史の中で、推古天皇や持統天皇など女性の天皇は8人いたが、例外なく「男系」だ。なお、最後の女性天皇である後桜町天皇(江戸時代)は、父の後を継いだ弟が亡くなったため、皇位を継いだが、その次は弟の息子に継承されたことで、男系の血筋が途切れていないとされる。このように「男系の女性天皇」は過去にもいたが、1889年に制定された「皇室典範」によって、たとえ男系であっても女性は天皇になれないことが決まった。
名古屋大学・河西秀哉 准教授
「実は1889年の皇室典範を制定するときの検討でも、『女性・女系天皇も認めてよいのではないか』という案が出ていました。ただ結局『初代の神武天皇から一つの血統でずっと続いてきたこと=万世一系を大事にするんだ』ということで、男系のみのルールに落ち着きました。近代国家の形成にあたり、外国に誇れるものとして“ずっと変わらない”仕組みを守りたかったという事情もあります」
――(『男系』に限りたいという趣旨は分かりました。一方、なぜ『男系の女性』までも対象から外したのでしょうか?)
名古屋大学・河西秀哉 准教授
「ひとつは、女性が一度天皇になると、その子ども以降が『女系』になっていくことへの警戒感があったとみられます。それだけ『男系』維持へのこだわりが強かった。平成の時代でいっても、愛子さまが将来天皇になることに反対する多くはそれが理由でした。もうひとつは、当時の時代背景です。“家制度”や女性に参政権がなかったことなどを思うと、国家元首たる天皇が女性というのは国家観と大きく異なっていて採用できなかったというのもあるでしょう」
1800年代といえば、まだ女性解放運動なども行われる前。今と大きく異なる国家観が背景にあったようだ。その後、戦後に施行された現・皇室典範でも「女性も女系もどちらも認めない」規定は変わらなかった。ただ、時が流れ、一般国民の考え方も少しずつ変化してきた。とくに平成に入り、皇室にも“少子高齢化”の波が来ていることや、男女同権意識が浸透。「そのルールは前時代的かつ、続かないのでは」という声が強まってきたのだ。近年の動きを振り返る。
小泉総理「女性・女系天皇も認めるべき」その後事態が…
2001年、愛子さまが誕生。天皇陛下の妹・紀宮さま誕生以降、女子が9人連続で続いた状況もあり、小泉総理(当時)が設置した有識者会議は「女性・女系天皇を容認する」という報告書をとりまとめた。
総理も国会で明確に「女性天皇・女系天皇も認めるべきだと思います」と発言。保守層から大きな反発を受ける中、2006年1月にはそれを国会に提出すると表明。歴史が動くかに見えたが、その翌年、事態は大きく変わった。
2006年9月、皇室で41年ぶりの男子・悠仁さまが誕生。そうした事情も相まって、総理は法案提出を断念した。以降、この議論は事実上ストップ。
変化が訪れたのが、2017年。上皇さま(当時天皇陛下)の退位を可能とした「退位特例法」が成立した。この時の付帯決議では、「安定的な皇位継承に向けて議論を進めること」が求められた。ただその後「まずは皇族の数自体を確保すべき」と「皇位継承」については棚上げに。そうした状況下で、議論が進まないまま時間が経過していたというのが、ここまでの流れだ。
もし今国会で皇室典範が改正されるとしても、あくまで前述の2つの案が中心になるとみられる。皇室典範1条(「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」)については、議論のテーブルにも上がっていない。
国民の考えはどうか。「女性が天皇になること」について4月、JNNが実施した世論調査がある。
▼賛成61% ▼反対8% ▼どちらとも言えない30%
「賛成」が「反対」の8倍近くあることや、国民の6割以上が女性天皇に賛成していることが分かる。一方、この世論調査は、個別の皇族を指すわけではないことも留意したい。例えば、賛成派の中には「悠仁さままでは決まりで、それ以降の女性について一般論で賛成」という考えの人もいるだろう。また、「女性天皇には賛成するが、女系天皇には反対」という枝分かれもある。よって、賛成の中にも様々な考え方があるのもたしかだ。
なぜ天皇は男性だけか。端的にいえば「現行法でそう決まっているから」。一方、その賛否はさておき、社会の変化にともなって「ルールを変更するか・しないか」国民的な熟慮が必要なのは間違いない。皇位継承問題は、いまの“皇族数確保”の議論が進んでいくほど、そして皇族方が年齢を重ねるほど、より重い問題として立ち現れる。
次のステップとして、衆参両院の議長らによって「立法府の総意」とりまとめが行われる。そして数回の会議を経たあと、政府が皇室典範改正案を国会に提出し、審議という流れになる。いずれにせよ、改正されれば近年例がない“歴史的変更”。政府や国会が今後どう動くか、改正のさらに先のフェーズでは何の議論に移るのか。緊張感をもって注目している。
(TBS社会部・宮内庁担当 岩永優樹)