東広島市が描く“未来の里山” 147年の学校が人と地域をつなぐ場所へ
147年続いた学校が、静かに役目を終える。
それだけ聞くと、少し寂しいニュースのようにも感じます。
けれど広島県東広島市では、その“役目を終えた学校”に、もう一度新しい役割を与えようとする動きが始まっています。
東広島市福富町にある旧竹仁小学校を再生し、「福富みらいベース」という新たな活動拠点として整備するプロジェクトです。自然に囲まれた里山の中で、働く、学ぶ、つながる、つくる――。そんな新しい暮らし方や働き方の可能性を広げようとしています。
この取り組みを進めているのは、東広島市、マツダ株式会社、株式会社博報堂による「生活デザイン・工学研究所」。単なる廃校活用ではなく、“未来の里山”をテーマに、地域と人をゆるやかにつなぐ場所づくりを目指している点が印象的でした。
子どもたちが森で学び、大人たちが地域で働き、外から来た人とも自然につながっていく。
昔は「学校」だった場所が、これからは地域の未来を育てる場所になっていくのかもしれません。
なぜ今「廃校」を未来の拠点に変えるのか

広島県東広島市福富町にある旧竹仁小学校は、令和3年3月に閉校しました。147年という長い歴史を持つ学校だったこともあり、地域にとっても大きな節目だったことが伝わってきます。
全国では少子化の影響などから、学校の統廃合が進んでいます。長く親しまれてきた校舎が使われなくなり、そのまま静かに役目を終えるケースも少なくありません。
そんな中、東広島市では旧竹仁小学校を「福富みらいベース」として再生するプロジェクトが進められています。
この取り組みを進めているのが、東広島市、マツダ株式会社、株式会社博報堂による「生活デザイン・工学研究所」です。
印象に残ったのは、単なる“廃校活用”では終わっていないことです。
福富みらいベースでは、コワーキングやものづくり、交流など、人が集まり、新しいつながりや価値を生み出す場所を目指しています。
自然の中で働くこと。
地域と関わりながら暮らすこと。
子どもたちが里山で学ぶこと。
こうした“これからの里山のあり方”を考えながら、地域の未来をつくろうとしている点に、このプロジェクトの大きな特徴を感じました。
学校という場所は、本来、人が集まり、学び、地域の記憶を積み重ねていく場所でもあります。
だからこそ今回の取り組みは、古い校舎を残すだけではなく、「地域の未来をどう残していくか」を考える挑戦にも見えてきます。
森の中で学ぶ子どもたち “みらいの里山”で生まれる新しい体験

「みらいの里山プロジェクト」では、旧竹仁小学校の再生だけでなく、里山そのものを学びの場として活用する取り組みも進められています。
その拠点となっているのが、「福富みらいの森」を活用した“里山チャレンジプラットフォーム”です。
ここでは、子どもたちが実際に森へ入り、自然の中で遊んだり、調査をしたりしながら学ぶ活動が行われています。これまでに延べ400人以上が参加しているそうです。

そこでは、子どもたちが森の中を歩いたり、自然に触れたりする様子が印象的で、“教室の外で学ぶ時間”の大切さを改めて感じさせられます。
さらに興味深いのが、自然体験だけでは終わっていないところです。

森の調査ではデジタルを活用した学びも取り入れられており、「自然」と「テクノロジー」を掛け合わせた体験が行われています。
また、近畿大学工学部と連携して設置されたツリーハウスや、OECDによる視察など、外部とのつながりも広がっています。
こうした体験は、子どもたちにとって“勉強”だけではない、大切な学びになっていくのかもしれません。
今はオンラインで何でも学べる時代ですが、実際に森へ入り、自分の目で見て、体を動かしながら得る体験には、また違った価値があるように感じました。
「福富みらいベース」は“働く場所”だけではない

旧竹仁小学校を再生して整備が進められている「福富みらいベース」には、さまざまな機能が用意されています。
1階には、コワーキング&ワーケーションスペース、ものづくりスペース「みんなの工房」、交流スペースなどを設置。さらに2階にはテナントオフィス、3階には図工室や理科室、音楽室など、学校時代の面影を感じる空間も残されています。
ただ、今回の取り組みで面白いのは、“仕事をする場所”だけを作ろうとしているわけではない点です。
コワーキングスペースと聞くと、パソコンを開いて仕事をする場所をイメージする人も多いかもしれません。ですが福富みらいベースでは、「働く」「つくる」「交流する」がひとつの場所につながっているのが特徴です。
例えば、自然豊かな場所で仕事をしたい人やものづくりに挑戦したい人、地域の人と交流したい人。
そんなさまざまな人たちが交わることで、新しいアイデアや関係性が生まれていくことを目指しているように感じました。
また、“学校だった場所”という空気感も、この施設ならではの魅力かもしれません。
昔は子どもたちの声が響いていた場所に、今度は地域の人や外から訪れる人たちが集まり、新しい活動が生まれていく。そんな未来を想像すると、単なるリノベーション施設とは少し違った温かさも感じられます。
自然と人、地域と外の世界。
その間をゆるやかにつなぐ場所として、「福富みらいベース」はこれから少しずつ形になっていくのかもしれません。
「関心がある」からでも参加できる 地域とつながる新しい入り口

現在、「福富みらいベース」では、施設利用に関する意向調査が行われています。
対象となるのは、テナント利用を検討している法人や個人だけではありません。コワーキングスペースやものづくりスペースに興味がある人、地域との関わり方を模索している人など、“まだ検討段階”の人でも参加できる形になっています。
この“関心があるだけでも歓迎”というスタンスは、今回のプロジェクトらしさのひとつにも感じました。地域づくりや地方創生という言葉を聞くと、どこか大きな話に感じたり、「特別な人が関わるもの」というイメージを持つ人もいるかもしれません。
ですが福富みらいベースでは、もっとゆるやかに、人との接点を作ろうとしているようにも見えます。
働き方や暮らし方が大きく変わり続ける今、「どこで働くか」だけではなく、「どんな場所で、どんな人と関わりながら暮らしたいか」を重視する人も増えています。
だからこそ今回の取り組みは、単なる施設整備ではなく、“地域との新しいつながり方”を提案するプロジェクトとしても注目されそうです。
学校だった場所に、これからの地域の景色が重なっていく
かつて子どもたちの声が響いていた学校が、今度は新しい働き方や学び、交流が生まれる場所へ変わろうとしている――。
「福富みらいベース」の取り組みには、そんな“地域の次の時間”をつくろうとしている空気を感じました。
地方では、人口減少や学校の統廃合など、どうしても“失われていくもの”に目が向きがちです。
けれど今回のプロジェクトでは、閉校を終わりとして捉えるのではなく、「ここから何を生み出せるか」に目を向けている点が心に残りました。
自然の中で学ぶ子どもたち。
地域と関わりながら働く人たち。
里山に新しく訪れる人たち。
そうしたさまざまな人の流れが重なっていくことで、福富という地域に、これまでとは違う景色が少しずつ生まれていくのかもしれません。
昔の学校を残すだけではなく、“未来につながる場所”として活かしていく。
「みらいの里山プロジェクト」は、これからの地域との関わり方や暮らし方を考える上でも、多くのヒントを与えてくれる取り組みになりそうです。
東広島市 概要
東広島市は、広島県のほぼ中央に位置するまちです。学園都市として知られる一方で、自然豊かな里山エリアも広がっており、都市と自然が共存する地域として注目されています。
酒どころ「西条」の街並みでも知られ、教育・産業・文化がバランスよく発展しているのも特徴です。