「親が元気なうち」に考える”親亡き後” 家族だけで抱え込まないという選択

2026-05-20 21:00

「親が高齢になったとき、この子はどうなるのか」――障がいのある家族を支える家庭では、こうした問いが日常のなかに静かに積み重なっていく。親の高齢化や地域のつながりの希薄化を背景に、いわゆる”親亡き後問題”は、もはや特定の家庭の悩みではなく、地域福祉全体に関わる課題として広がりつつある。

家族はどんな不安を抱え、現場はそれをどう受け止めているのか。愛媛県西条市で障がい者の住まい・生活支援・就労支援に取り組む株式会社リビングサポート研究所 代表取締役・浦田義隆氏に、現場から見える家族の姿について聞いた。

入居前、家族が抱えやすいのは「生活」「安全」「将来」への複合的な不安

入居前に家族が抱える悩みは一つではないと、浦田氏は話す。「一人暮らしは難しそうだが、このまま自宅で支え続けられるのか」という限界感、夜間の見守りや服薬・金銭管理など日常生活の抜け漏れへの心配、対人関係のトラブルや孤立、就労や社会参加が進まないことへの将来不安――こうした課題が同時に重なっているケースが多いという。

加えて、「本人が新しい環境に馴染めるか」「他の利用者とうまくやれるか」といった共同生活への懸念も少なくない。だからこそ、入居後の生活イメージを家族と具体的に共有し、漠然とした不安を”見える化”していくことが、最初の重要なステップになる。

※共同生活援助施設スミレ 外観の様子
※共同生活援助施設スミレ 内観の様子

暮らしが整うと、本人の表情も家族の空気も変わる

支援につながった後、本人と家族の双方に変化が生まれる事例は多い。生活リズムが整って表情が明るくなる人や、服薬・金銭管理が安定し対人トラブルが減ることで自信を取り戻す人もいるという。
印象に残っているのは、昼夜逆転と引きこもり状態だった人が、スタッフの伴走を経て生活を立て直し、半年後には就労に挑戦できるようになった事例だと浦田氏は振り返る。家族から「別人のように前向きになった」という声が寄せられたという。
家族側も、見守られている安心感から気持ちに余裕が生まれ、本人との会話が増えていく。本人と家族の双方に”良い循環”が生まれることが、地域で支える仕組みの大きな価値だ。

「自分が支えなければ」――抱え込む家族ほど限界に追い込まれる

障がいのある家族を支える人のなかには、「自分がやらなければ」と責任を一人で抱え込み、限界まで頑張ってしまう人が少なくない。長年の不安や責任感から、他者に頼ることに罪悪感を覚える場合もある。

現場ではまず、その思いを否定せずに受け止めることが大切にされている。そのうえで、「家族だけで抱えなくていい」「一緒に支える体制がある」というメッセージを丁寧に伝えていく。実際、支援につながった後に「初めて安心して眠れた」と話す家族もいる。

鍵は”生活の主導権を本人に戻す”こと

近年の障がい者支援で重視されているのが、”生活の主導権を本人に戻す”という考え方だ。
「親が決めてあげないと生活できない」と考えていた家族も、本人が自分で選び、失敗し、また挑戦する姿を見ることで、少しずつ「任せる安心」へと意識が変わっていく。買い物や通院を自分でこなせるようになり、「こんなにできるとは思わなかった」と本人の力に驚く家族も多い。
過度に手をかけることが愛情だと思われがちな場面でも、必要なのは”支えすぎない勇気”だと浦田氏は語る。本人の選択を尊重することが、自立だけでなく、親子関係をより穏やかで対等なものへと変えていく。

“親亡き後問題”に必要なのは、家族に代わる「長期的な伴走者」

“親亡き後問題”の難しさは、親の高齢化が進む一方で、支援につながるタイミングが遅れ、地域とのつながりの弱さから生活困難が長期化しやすい点にある。
この問題に対しては、住まい・生活・就労・地域交流を一体で支える仕組みを整え、家族に代わる”長期的な伴走者”として関わる視点が必要だ。行政との連携や、医療・企業・地域団体を巻き込んだ横断的なネットワークなど、”社会全体で支える”発想が求められている。
過度なサービスを提供するのではなく、必要な社会資源や機会を適切につなぎ、本人が地域で役割を持ち、社会参加できる環境を整える――そうした地道な積み重ねが、現場には求められている。
「問題が深刻化してから慌てるのではなく、親が元気なうちから”地域でどう暮らしていくか”を一緒に考えることが、将来の安心につながる」と浦田氏は語る。

「一人で抱えなくていい」

最後に、今、不安や限界を感じている家族に向けて、浦田氏はこう語った。
「一人で抱えなくていい、ということを伝えたいです。支える役割を少し手放すことは、諦めではありません。本人の自立を後押しし、家族関係を穏やかにし、将来への備えを始めるための一歩です」
家族だけで抱え込まない選択肢を、もっと早い段階から持つこと。それが、これからの地域福祉に欠かせない視点になりつつある。

【取材協力】
株式会社リビングサポート研究所
代表取締役 浦田 義隆
https://living-support-inc.com/

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