3歳児死亡の左折巻き込み事故 「歩車分離式信号」で事故7割減も…わずか5%の普及率と導入阻む“壁”【Nスタ解説】
青信号で横断歩道を渡っていた3歳の女の子が、左折してきた車にひかれて亡くなるという痛ましい事故の判決が水戸地裁でありました。
いわゆる左折巻き込み事故の防止に、ある信号が有効だと遺族は訴えています。
【写真で見る】ドライブレコーダーに映った“左折巻き込み事故”の瞬間
どちらも青信号なのに… 絶えない「左折巻き込み事故」
高柳光希キャスター:
2025年、青信号で横断歩道を渡っていた原田恵理香ちゃん(当時3歳)が、同じく青信号で左折してきた車の前輪に巻き込まれるようにしてひかれました。
この事故のように、車が左折するときの巻き込み事故は、今も変わらず多発しています。
TBS報道局社会部 塩田アダム 記者:
事故が起こった瞬間を捉えているドライブレコーダーの映像を見てみますと、車が横断歩道を渡る歩行者を十分に待って左折をしようとした瞬間に、出てきた自転車と接触してしまいます。
歩行者、車のどちらも青信号に従って通行していても接触をしてしまう、いわゆる“左折巻き込み事故”というのは少なくありません。
事故が約7割減る「歩車分離式信号」とは?
高柳キャスター:
目視で確認しなければいけない場所で確認を怠ったり、確認しても死角に入ってしまったりするなど、様々なパターンがあります。
このような事故を防げる可能性が高いのが、「歩車分離式の信号」です。
歩車分離式の信号には、いくつかパターンがあります。
例えば、南北に渡る車側の信号が青の場合、通常、歩行者用信号も同じ方向が青であることが多いです。しかし歩車分離式では、車が通っているときは歩行者用信号が全て赤になります。
逆に、車側の信号が全て赤になると、歩行者側の信号は全て青になり、渡ることができるという信号機です。
警察庁は2002年、全国100か所で歩車分離式の信号を導入するという実証実験を行いました。その結果、人と車の事故の割合が約7割減ったという結果が出ています。
このような一定の効果も得られているようです。
TBS報道局社会部 塩田アダム 記者:
実際に、水戸市内の赤塚2丁目の交差点でも効果が確認されています。
この交差点では、2002年に小学5年生の児童がダンプカーにひかれて亡くなる事故が発生し、その死亡事故をきっかけに歩車分離式の信号が導入されました。記録のある2012年以降、歩行者と車の事故は起こっていません。
しかし導入は2008年で、事故から6年かかりました。
全国の普及率はわずか5% 「歩車分離式」の導入に時間がかかる理由
高柳キャスター:
人が亡くなってから信号を一つ変えるのに6年もかかるのは長いような気がします。何か理由があるのでしょうか。
TBS報道局社会部 塩田アダム 記者:
その点に関して警察に取材をしたところ、歩車分離式信号の導入に際しては、周囲の交通状況の確認や、近くの自治体、小学校、公共交通機関との調整を行う必要があるため、時間がかかってしまうとのことでした。
また、歩車分離式信号の全国での普及率は約5%にとどまっています。
その背景には、歩行者・車どちらも待ち時間が増加することから、▼渋滞発生の懸念や、▼信号無視を誘発してしまうのではないかという点などがあります。
日比麻音子キャスター:
このような導入の流れを見ると、事故が起きてからの検討や導入では遅いですよね。
国際情報誌「フォーサイト」元編集長 堤伸輔さん:
「人の命が失われないと動かない」という言い方は極端かもしれませんが、実際に警察庁は2002年9月に全国の都道府県に対して「歩車分離式信号の積極的設置」を指針として要請しています。それにもかかわらず、24年経っても普及率が約5%。
もちろん普及率100%になるべきだとは思いません。地方によっては、歩行者の数が非常に少ないような信号もあると思いますが、導入のペースをもう少しアップしてほしいと思わずにいられません。
日比キャスター:
普段から生活していて「この道は怖いな」と、危ない思いをした経験の相談窓口や、導入してほしいという要望を出せる場所はあるのでしょうか。
TBS報道局社会部 塩田アダム 記者:
近くの警察署や住んでいる都道府県の県警本部などに電話で気軽に相談や要望を出せば、その要望が警察の中で共有されて、場合によっては新しい信号機の設置や、今回のように歩車分離式の信号の設置に繋がるということです。
遺族「ドライバーも被害者」 警察庁が23年ぶりに指針改定
高柳キャスター:
2025年、警察庁は歩車分離式信号の導入を促そうと、23年ぶりに指針を改定しました。
【警察庁 歩車分離式信号導入の指針】
2002年~
“歩車分離なら防げた”事故が過去2年間で2件以上 など
2025年 改定
▼“歩車分離なら防げた”事故が過去5年間で2件以上
▼死亡事故が1件でも発生 など
また、事故が発生する可能性が高いということが見込まれた段階でも導入することを検討しているということです。
TBS報道局社会部 塩田アダム 記者:
実際に指針の改定を受けて、茨城県警は恵理香ちゃんの死亡事故が起こった水戸市内の交差点についても、早速、歩車分離式信号の導入の可否の検討に入っているようです。
5月22日に判決があり、ドライバーには拘禁刑2年執行猶予3年の判決が出ました。
遺族への取材で非常に印象的だったのは、恵理香ちゃんの母親が「娘をひいてしまったドライバーも、この交差点の構造の被害者である」ということを語っていた点です。
警察庁も指針の改定をして、導入の推奨を押し進めていますが、事故を未然に防ぐという観点で積極的な導入が求められているのかなと思います。
国際情報誌「フォーサイト」元編集長 堤伸輔さん:
日本の運転マナーは、「歩行者優先」の意識がまだ低いと思います。
アメリカでは、歩行者が横断歩道に差し掛かろうとしているところに車が曲がってきたら、一発で捕まることが非常に多く、目撃したこともあります。
その点、日本はまだ歩行者が半分までしか来ていないから曲がってしまうというのが当たり前になっています。その意識から変えないといけないなと痛感します。
日比キャスター:
改めて今回の判決が、今後の事故を防いでいくことに繋がっていくといいですね。
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<プロフィール>
塩田アダム
TBS報道局社会部
「調査報道」担当
水戸・3歳児死亡事故を取材
堤伸輔さん
国際情報誌「フォーサイト」元編集長
BSーTBS「報道1930」ニュース解説