街の傾斜、競技の多様性――日曜劇場『GIFT』制作現場で平野俊一監督が直面した「車いす目線」というリアル 【ドラマTopics】

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2026-05-23 08:00
街の傾斜、競技の多様性――日曜劇場『GIFT』制作現場で平野俊一監督が直面した「車いす目線」というリアル 【ドラマTopics】

2024年パリパラリンピックでの日本の金メダル獲得も記憶に新しい「車いすラグビー」の世界を舞台に、迫力の試合シーンや、再起のため奮起する選手たちが描かれているTBS日曜劇場『GIFT』。企画・演出を手がける平野俊一監督は、本作の制作にあたり徹底したリサーチを重ねてきた。

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その過程で見えてきたのは、普段見過ごされがちな社会の構造や、車いすラグビーという競技が持つ「多様性」の神髄だった。

かつて「マーダーボール」と呼ばれた競技との出会い

車いすラグビーは1977年、四肢に障がいのあるカナダの選手たち自身が考案。パラ競技の中で唯一、車いす同士の「タックル」が認められていることもあり、当初はその激しさから「マーダーボール(殺人球技)」とも呼ばれ、1996年に日本へと紹介されて以降、日本代表は近年パラリンピックで3大会連続メダルを獲得。現在世界ランク1位と、世界屈指のレベルを誇る。

これまで平野監督が手がけてきた作品は、『日本沈没ー希望のひとー』(2021年)、『マイファミリー』(2022年)、『ラストマン-全盲の捜査官-』(2023年、以上TBS日曜劇場)など、人間ドラマからファミリーエンターテインメント、バディ物までそのジャンルも多岐にわたる。

そんな平野監督と車いすラグビーとの出会いは約10年前。パラスポーツを題材にしたドラマを作りたいと思い立ちリサーチを始め、「初めて車いすラグビーという競技があることを知った」と話す。自身も学生時代にラグビーに没頭していた経験から、「スポーツとして非常に面白そうだ」とも感じたと言う。

当時、関連する資料や本もあまり見当たらなかった中、ある車いすラグビーチームのホームページにあった「練習・見学自由」という一文を見つけ、すぐに見学を申し込む。実際に見学に訪れ、選手たちが車いすを走らせる「スピード感」にも目を奪われた一方で、その競技特性に宿る「多様性」にも着目した。

車いすラグビーは、障がいの重さに応じて持ち点が割り振られ、1チーム各4人の合計値の中でチームを編成する。同じチーム内に性別や国籍も問わない選手がいることもあり、その面白さにも魅了され、時間を忘れ半日近く見学した。

「本作の第1話でも少し触れましたが、障がいの程度の違う人たちが、男女一緒になってプレーしていて、年齢や国籍も幅広くて、『こんなにもみんな違うんだ』ということにそこで気づきました」

なお、平野監督が最初に見学に訪れたこのチームは、本作で車いすラグビーの監修を務める峰島靖さんも所属するチーム「AXE(アックス)」だ。

道路のわずかな傾斜が「壁」になる――ロケハンにも持ち込んだ“ラグ車”

映像化にあたり、平野監督をはじめとするスタッフが最も重視しているのが、「車いす目線」の徹底だ。ロケハン(撮影場所の下見)の際、スタッフは必ず車いすとラグ車(競技用の車いす)の両方に乗るようにしているという。そこには、歩いているだけでは決して気づけない「道路構造」の現実がある。

「真っすぐに漕(こ)ごうとしても、次第に進行方向がずれていくんです。それを峰島さんに言ったら、『結構最初は苦労するんですよね』という話をされて。だからどこに行ってもまず自分たちが車いすに乗り、段差や車いすが回れる広さがあるかなどの確認をします。立っているといい景色だなと思う場所でも、車いすの目線ではこれは無理ということが分かるんです」

水はけのために設計された道路のわずかな傾斜が、車いすで通ろうとすると大きな障壁になる。ドラマのリアリティを追求する中で、道路の構造一つ取っても、これまでには見えなかった現実を目の当たりにすることになる。

峰島さんとは、ロケハンだけでなく劇中に登場する車いすラグビーの本格的な「チーム作り」でも手を取り合った。

平野監督は、選手役キャストの練習時間に制約がある中で、峰島さんに練習シーンや試合シーンの「型」を作ってもらいそれをトレースする方法を、当初相談した。しかし峰島さんからの回答はそれとは全く違ったものだった。

峰島さんは「それは一見近道のようで遠回りになってしまう」と「基礎から」練習。「結果、そこから徐々に全員がスキルアップしていきました。基礎から始めたことで上達が速く、撮影でも峰島さんが『もうちょっとこっちにポジション取って』と言ったらすぐに理解して対応できるようになっていて、本当に感謝です」と語る。

天文学者も作品に協力――フィクションを超えていく「真摯さ」

本作では、かつての輝きを失った車いすラグビーチーム「ブレイズブルズ」が“天才”宇宙物理学者である主人公・伍鉄文人(堤真一)との出会いから、チーム、選手、そして人として成長を遂げていくストーリーが描かれる。

主人公・伍鉄のキャラクター設定について、平野監督はその変遷をこう語る。

「最初は左遷されたサラリーマンでしたが、既存作品の主人公の設定と似ていたので変えて、他にも出所した詐欺師や再生医療に取り組む医師などの設定もあった」と振り返る。

「宇宙物理学者」という異色とも言える肩書を選んだきっかけは、本作の脚本を手がけた金沢知樹さんからのふとした提案。

「その話をぼんやりと思い返しながら車いすラグビーの試合を見ていた時、選手の方々がラグ車でコート上をくるくると走り回る姿を見ていたら、まるで惑星みたいだなと思って『これはいけるかもしれない』とハッとしました」

自身の根底にある「人間を描くこと」への真摯(しんし)な向き合いも忘れない。「リアルとフィクション、ギリギリのラインを調べた上で、見極めることを徹底しました」と言い、個々のキャラクターのリアリティーも重視する中で、国立天文台教授で天文学者の本間希樹さんにも宇宙物理学の監修を依頼した。

「士気が高い」選手役キャストの熱演ぶり――競技シーンは2年かけてピックアップ

本作の大きな見どころの一つとなっているのが、選手役のキャストたちがラグ車で激しくぶつかり合う白熱した試合シーンだ。平野監督は、本作の映像に落とし込むために「実際の試合の過去映像をとにかく徹底的に見ました」と話す。

「面白い」と思ったプレーや、「そこからキャラクター同士の心情も描ける可能性があるかもしれない」といった視点で、2年ほどかけて一つ一つピックアップしていったという。

選び取っていったシーンは、そこから監修の峰島さんたちが実際の撮影に向けて肉付けしていくことに。選手役のキャストをどのように動かしていくのかなど、具体的なプランを立てる工程を挟み、映像に落とし込んでいる。

撮影現場では「今のレベルはできないかもしれない」という場面でも、選手役のキャストたちの士気が高く、「まずはやってみよう! ともなります」と笑顔を見せる。

ストーリーが“後半戦”へと向かう中、スタッフやキャストが一丸となり、チーム『GIFT』としての熱量も高まっている。

ドラマというエンターテインメントの枠を超え、緻密なリサーチにも基づいて描かれる本作。平野監督の真摯なまなざしが作品にさらなるリアリティーを与え、息を吹き込まれたキャストたちが躍動する――。共生社会のあり方にも、改めて目を向けていきたい。

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