イスラエルはなぜレバノンへの攻撃を続けるのか?ネタニヤフ首相の汚職事件描く映画から見える戦争との“つながり”【報道特集】

アメリカがイランとの戦闘終結に向けて協議を続ける中、隣国レバノンへの攻撃を続けるイスラエル。一体なぜなのか?イスラエルで上映禁止になっているドキュメンタリー映画からは、その背景にあるとみられるネタニヤフ首相の汚職事件の存在が浮かび上がる。報道特集の取材に応じた映画監督は、戦争と汚職事件との“つながり”について話した。
【写真を見る】上映禁止となったドキュメンタリー映画「ネタニヤフ調書」の一部
「自由なメディアは愛国的ではない」 ネタニヤフ氏の“戦争続ける理由”に広がる疑念
イスラエルにある民間テレビ局「チャンネル13」。イランへの攻撃開始直後の2026年3月、「報道特集」が取材した局内には、戦況の解説のためにイスラエル軍の軍人が常に待機していた。
それから3か月以上続く戦争について、どう感じているのか。「チャンネル13」の戦争特派員であるオル・ヘラー記者に聞いた。
戦争特派員 オル・ヘラー記者
「対峙しているのは、イランだけではない。レバノンのヒズボラとの戦争があり、さらにガザ地区での戦争も続いている。イスラエルの資源は消耗し、社会は疲弊している」
「チャンネル13」はネタニヤフ政権に対し、厳しい批判を辞さない報道姿勢で知られている。
「チャンネル13」6月3日の放送より
「ネタニヤフ氏の無意味な声明をいちいち伝えず、事実を報じます。政権や支持者を恐れないでください」
政権からはたびたび圧力を受けてきた。2026年2月にはネタニヤフ首相の支持者による買収騒動も起きた。
戦争特派員 オル・ヘラー記者
「ネタニヤフ氏の戦略の一つは、イスラエルのメディアを掌握すること。ネタニヤフ氏は大金持ちの友人に『チャンネル13』を買収させようとした。『自由なメディアは愛国的ではない』。『敵のために働く、親ハマス・親テロリズム』だと言う」
ネタニヤフ氏が戦争を続ける理由について、「ある疑念」が広がっているとヘラー記者は指摘する。
戦争特派員 オル・ヘラー記者
「イスラエルの野党は間違いなく、そして多くのイスラエル国民もこう考えている。『ネタニヤフ氏は戦争を長引かせることで国益や安全保障より優先していることがある。それは自分自身の利害関係だ』と」
一体どういうことなのか。
「ネタニヤフ氏は裁判中の身」上映禁止映画で描かれる汚職事件
イスラエルでは、上映禁止となったドキュメンタリー映画がある。タイトルは「ネタニヤフ調書」。
2016年から行われた汚職事件の捜査を記録した警察の尋問映像が流れる。そこには、警察の尋問に対しネタニヤフ氏が「作り話だ」などと声を荒らげ、激しく机を叩く様子が記録されていた。尋問映像は当局から流出したものだという。
ネタニヤフ氏は2019年に収賄、詐欺、背任の罪で起訴された。ロイター通信によると、ネタニヤフ氏は実業家たちから葉巻やシャンパンなど、2200万円相当(当時1シェケル=31円)を不当に受け取ったほか、メディアのオーナーに便宜を図る見返りに好意的な報道を求めたとされる。
映画は、汚職事件をきっかけに退陣に追い込まれたネタニヤフ氏が、どのように権力の座を取り戻していくかを描いている。
映画を制作したアレクシス・ブルーム監督は、南アフリカ出身でユダヤ人の父とドイツ人の母を持つ。権力者の腐敗を追及する調査報道を手がけてきた。
――この映画を通じて伝えたいメッセージは何ですか?
アレクシス・ブルーム監督
「この映画では、ネタニヤフ氏が裁判中の身であり、長い間裁判にかけられているという経緯を描いている。そして実際、今、戦争の指揮を執っている人々は、まさに彼が起訴されたその時期に任命された」
ネタニヤフ氏が政権に返り咲くために選んだのは、極右との連立だった。その相手は、宗教シオニスト党・党首のベザレル・スモトリッチ氏と、ユダヤの力・党首のイタマル・ベングビール氏だ。
重要閣僚である、財務相と国家治安相に起用した。
アレクシス・ブルーム監督
「2人は汚職事件を全く気にしない唯一の存在のため、ネタニヤフ氏と深く結びついている。ネタニヤフ氏は過激で攻撃的、反パレスチナ・反アラブを訴える人たちと共に戦争をしているが、彼らが汚職事件を問題視せず、権力の座に留まらせてくれるからだ。パレスチナ人やレバノン人などに対して、容赦なく攻撃的にもなれる」
2人は「ガザの完全破壊」など、パレスチナ人への非人道的な発言を繰り返し、イギリスやオランダなどから入国禁止の制裁対象となっている。
「戦争を引き起こしているのはネタニヤフ氏」戦争を続ける背景とは
2023年10月7日、ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」が、イスラエルに大規模な奇襲攻撃を行った。
民間人を含む、約1200人が死亡し、250人が人質となった。
これに対し、イスラエルはガザに侵攻。これまでにガザ側の死者は、7万2000人以上と伝えられている。
この間、汚職事件の裁判は繰り返し延期されてきた。
アレクシス・ブルーム監督
「口実がない限り、ネタニヤフ氏は毎日法廷に行かなければならない。彼の言い訳は、『私は戦争をしている。今日は法廷に行けない』というもの。それは繋がっている」
2026年2月にはイランへの攻撃を始めた。その直後の世論調査では、攻撃を支持する人の割合が8割以上だった。
2026年10月までに実施される総選挙を控えたネタニヤフ氏にとって、戦争を続けることが有利に働いているとブルーム監督はいう。
アレクシス・ブルーム監督
「戦時中の首相は選挙で負けにくいとも言える。ネタニヤフ氏は、戦争が自分にとって有益で、安全保障面の不安定さが自分の裁判にとって有利に働くと知っている」
2026年4月には、再開予定だった汚職裁判での証言を延期するよう要請した場面もあった。安全保障情勢を理由としたという。
国家治安相のベングビール氏は、警察組織を管轄している。
ブルーム監督は、映画の中でネタニヤフ氏らを厳しく追及していた警察も、今では別物だと話す。
アレクシス・ブルーム監督
「残念ながら、あの警察官は今全員いません。やめさせられたり、別の部署に異動させられたりした」
ベングビール氏らによる、パレスチナ人らへの差別的な言動は今も続いている。
女性
「パレスチナを解放せよ!」
女性の髪をつかんで引きずり倒す。これはベングビール氏がSNSで公開した動画だ。
ガザ地区に支援物資を届ける活動をしていた人たちを、イスラエル軍が拘束。ベングビール氏が口汚く罵る場面もあった。
ネタニヤフ氏の在任期間は、通算で18年を超え、イスラエル歴代最長の政権となっている。
ネタニヤフ氏は、自らを「ミスター安全保障」と呼ぶ。恐ろしい時代に国民を守れるのは自分だけだというアピールだ。
だが、ブルーム監督は戦争を続けているのは、ネタニヤフ氏自身だと批判する。
アレクシス・ブルーム監督
「皮肉なことに、戦争を引き起こしているのは、ネタニヤフ氏だ。今の不安定な状況にあるのは、ネタニヤフ政権下でのことだ。それが『彼のイスラエル』だ。
『私はミスター安全保障だ。皆さんを守る』と言うのは大きな偽善だ。戦争と不安を作り出した張本人なのだから。しかし、それが現実だ」